第22話 ミルフィーネのお茶会
数日後の午後、ミルフィの主催で、お茶会が開かれた。
天気は快晴で、別邸のテラスにある丸テーブルに、私、レイゼム様、ミルフィが三人で座る。
ミルフィの魂胆は分かっている。私とレイゼム様を少しでも親密にさせたいのだろう。
まったくもう……。
ミルフィがポットから紅茶を淹れる。
赤褐色の茶でティーカップが満たされる。
「ミルフィーネ特製の紅茶です! どうぞー!」
まず私が飲む。
うん、美味しい。ミルフィはホントに多才だ。
レイゼム様も穏やかな表情で飲む。
紅茶を飲む。たったそれだけの所作が整っており美しい。
「美味しいよ、ミルフィーネ」
声まで美しく感じてしまう。
ミルフィはビスケットも焼いてくれた。
やや楕円形になってしまっているが、味は十分美味しい。
レイゼム様もポリポリと何枚も食べている。
お茶会の華といえば、やっぱりおしゃべり。
私の石化訓練の進捗、レイゼム様の魔法について、ミルフィの武術……。話題は尽きない。
罪人の塔でこの二人が出会った時に、実はレイゼム様がミルフィを恐れていたという話を聞いた時は声を出して笑ってしまった。
盛り上がってきたところで、ミルフィが一本のボトルを持ってきた。瓶は茶色く、中身はお酒だろう。どうする気なんだろう。
「ミルフィ、それお酒よね?」
「使用人さんのボトル! お願いして、ちょっとお借りしてきちゃった!」
王国では、飲酒に関してこれを規制するような法律は存在しない。
しかし慣例として、貴族の世界においては、社交デビュー前の人間の飲酒は推奨されていない。
私とレイゼム様は飲めるけど、ミルフィの飲酒はあまりいいこととは言えない。
「まあまあ、ちょっとだけだから……」
ミルフィが紅茶にお酒を入れた。それをスプーンで混ぜる。
「先生は『紅茶はこうして飲むのが一番』なんだって」
紅茶にブランデーを一滴垂らすという飲み方は聞いたことがある。
でも、ミルフィが借りたボトルは度数が高そうだし、しかも今かなりの量が入ってしまった気がする。
「いただきます」
ミルフィが紅茶を飲む。
「どう?」
「う~ん、あんまり合わないかも」
レイゼム様が微笑む。
「まあ、紅茶の味わい方というのは色々あるからね。合わないこともあるさ」
ミルフィには“先生の味”はまだ早かったみたい。
これ以降ミルフィはすっかり大人しくなってしまう。
私は疲れたのかなと思い、無理に声をかけることはせず、レイゼム様とお喋りを楽しんだ。
すると――
「二人とも~」
ミルフィだ。いつもはきはき喋るのに、ずいぶん甘ったるい声を出す。
見ると、顔がだいぶ赤くなってる。
「ミルフィ?」
ミルフィは据わった目で私たちを見てきた。
酔っ払っていると一目で分かった。
やっぱりお酒を入れ過ぎていたんだ……。
「私から話がありまぁす」
「な、なに?」
ミルフィらしからぬ迫力に、私もレイゼム様もつい姿勢を正す。
「お姉様、ヒック」
ミルフィが私を上目遣いでジロリと見る。
「お姉様さぁ、レイゼム様とデートぐらいしたら?」
いきなり爆弾を放り込まれ、私は慌てる。
「デートって……私たちは付き合ってるわけじゃないのよ」
「それは言い訳。付き合ってない男女でもデートぐらいするでしょ、ヒック。今時」
「それはそうかもしれないけど……」
ミルフィはやや呂律が怪しい口調で続ける。
「それにぃ、私はお姉様に幸せになって欲しいのよ。私は色々やったけど、結局お姉様の役には立てなかった……でも、レイゼム様なら……レイゼム様なら……」
ミルフィがレイゼム様を見る。
「レイゼム様っ!」
「……!」
突然自分に矛先を向けられ、レイゼム様の肩が揺れる。
「お姉様と……仲良くしてくださいね。お姉様はずっと苦労してきたから……。どうか幸せにしてあ、げ……て……」
そのままコテンと、テーブルに突っ伏してしまった。
言いたいことを言って、すやすや眠っている。
その寝顔はとても穏やかで微笑ましいのだけど、私は苦笑いする。
「ごめんなさい。せっかくのお茶会が」
「いや、楽しかったよ。ミルフィーネをベッドまで運ぼう」
レイゼム様はミルフィを両腕で抱え上げる。
「魔法で運ばないんですか?」
レイゼム様はうなずく。
「やはり女性を魔法で浮かせるというのはなんだか失礼な気がするからね。もちろん、落としそうになるとか危なくなったら魔法を使うけど」
「……」
私はレイゼム様のこういうところも好きなんだなぁと感じた。
魔法で運んだ方が楽なはずなのに、ミルフィに敬意を払うため、あえてわざわざ腕で運ぶ。
私に対してもそうだった。もし助けてもらった件で私に惚れたのなら、すぐアプローチをすることもできたのに、自分を磨くことを選んだ。
立派な魔法使いとなった後も、私と再会しようとしたけど、頃合いを見ることを優先して、ウォーゲンに先を越されてしまった。
罪人の塔に来た時も、もしも私のことが好きなら「僕と付き合うなら助けてやる」と交換条件を突きつけることもできたのに、そういうことはしなかった。
なんていうか誠実なんだなぁ、と思った。
自分がのし上がるためには手段を選ばないウォーゲンとは真逆だ。
貴族としては甘いのかもしれない。だけど、私はそんなレイゼム様のことが――
レイゼム様はミルフィを優しくベッドに寝かせる。
「レイゼム様、腕力もなかなかのものですね」
「まあね。これでも多少は鍛えてる。せめて女の子の一人ぐらいは運べないと」
レイゼム様が力こぶを作る仕草をする。
私は意を決し、切り出した。
「だったら……私のことも連れ回してもらえませんか?」
「……!」
「デート……しませんか?」
言った。言ってしまった。
レイゼム様を見ると、いつものように穏やかに微笑み、
「喜んで」
と返してくれた。
デートが決まった。決まってしまった。
私は寝ているミルフィを見やる。
なにが“役に立ってない”よ。あなたは私に勇気をくれたわ。あなたは最高の妹よ、ミルフィ。




