第19話 レイチェルとヴァーミリオン
「…………」
「……ま、そうですよね」
ヴァーミリオンはダメ元でレイチェルに協力を求めたが結果は想定通りだった為、離れる。
「確か……案内図が廊下にあったなぁ。それで何とか行けるかな……」
「……」
レイチェルは既に部屋から出る事を考え始めたヴァーミリオンを見る。そして、
「……端末を貸して」
「協力してくれるんですか?」
「ええ。ちゃんと声を出さないといけないから口の拘束を取ってくれない?」
「嫌です。やり方だけ教えてください」
「音声承認で検索できるの。でも、『スカイタワー』に登録された声じゃないとダメ。貴方の声はまだ登録されてないハズだから」
「それが嘘でない証拠は?」
「縛られた上に、凶器を持った人物相手に嘘を付くメリットがあると思う?」
「僕なら黙って、じっとします。どう心変わりして殺されるか分かったモノじゃないですから」
「……貴方は殺さないわ」
「最底辺に『ハイラウンダー』の秩序が適応されるとお思いですか?」
「……それなら部屋に入った時に縛らずに殺すでしょう? 貴方は私と同じ“人”よ」
ヴァーミリオンはじっ、とレイチェルを見る。青い瞳は心の奥底まで見透かす様だった。そして、
「余計な動きはしないでください。僕も余裕は無いので」
口の拘束が解かれ、端末を目の前に出される。
「何を探してるの?」
「【ゼノス】と言う機体があるんでしょう? そこに行きたいんです」
「…………“ここから技術格納庫のルートを表示して”」
レイチェルが端末にそう告げると、1秒と経たずに現在の位置から格納庫までの道筋が表示された。
距離50メートル。到達所要時間10分。セキュリティ3の地点。現在は消灯中。関係者及び、許可のない者の立ち入りは不可――
「これで良いかしら?」
「助かりました。それじゃ」
再び口を塞ごうとしたヴァーミリオンの動きにレイチェルはストップをかける。
「待って、検索情報をよく見て。セキュリティ3の区画よ? 貴方は入れない」
「さて、どうでしょうね」
困った様子のないヴァーミリオンの様子。彼の様子はどこかおかしい。
端末の使い方を知らなかったと思えばセキュリティ3は突破できる手段がある様だ。察しのいいレイチェルは思わず尋ねる。
「内通者が居るのね?」
「ご想像にお任せします」
「道中を一人で行けると思う?」
レイチェルを縛り直そうとするヴァーミリオンの手が止まった。
「貴方は記憶喪失とは言え、立場上は『機械同調計画』の被験者よ。廊下に出た瞬間、あらゆる監視の眼が向くわ。妙な挙動があれば、即座に御父様に連絡が行く」
「…………」
「でも、私と一緒ならそれも誤魔化せる」
「貴女への見返りは?」
一度時計を見るヴァーミリオンはレイチェルの提案に達する要求を尋ねる。
「誰も傷つく事なく、事を終えたいの。貴方もそうじゃなくて?」
ヴァーミリオンは『ハイラウンダー』に対して確執がある様な感じではない。故に血なぐさい荒事は避けたいハズだ。
それに……ヴァーミリオンを手助けしている内通者の存在も無視できない。故に彼の側にいれば何らかの痕跡を見つけられると考えての提案である。
「……わかりました。協力してもらいますがもし、貴女が裏切った場合、血を見ずに済ませる気は無い、と言う事は念頭においててください」
「ええ……私も言うからには自分の言葉を反故にはしないわ」
「今日の警備はジリルなのね」
「レイチェル様? こんな真夜中にどうされました?」
『スカイタワー』から『技術格納庫』へ通じる連絡通路には常に警備兵が駐在している。
警備兵のジリルは、『主席』一族のレイチェルに礼を尽くす為に慌てて立ち上がると帽子を被って駐在所から出てこようとした。
しかし、レイチェルはソレを制する。
「別に座ってても良いわ。ちょっと――」
「こんばんは!」
と、もう一人の人物――ヴァーミリオンが元気に挨拶をする。
「えっと……レイチェル様。彼は?」
「ヴァーミリオンよ。聞いてない? “アークライト”から出す『機械同調計画』への協力者なの」
「僕は……ヴァーミリオン……って名前らしいです!」
「らしい?」
「彼、記憶喪失なの。それで、さっきまで話をしてたんだけど流れで『パースロイド』を見せることになって」
「目が冴えちゃいました!」
純粋な眼差しで目をキラキラさせるヴァーミリオンの様子は、ジリルに家で眠っている幼い息子を思い出させる。
「運が良いな、ヴァーミリオン。レイチェル様は開発の責任者だ。好きな機体を見れるぞ」
「ホント!?」
「ああ。コックピットに座らせてもらえるかもな」
ジリルはヴァーミリオンの頭を撫でる。
「レイチェル様、お通りください。ヴァーミリオンの許可は……」
「要らないわ。私の監視下って事にしてるから」
「わかりました」
「おじさん、ありがとうございます!」
「ああ。楽しんでな」
駐在所から顔と手を振って、ジリルは二人を見送る。ヴァーミリオンはギリギリまで手を振って、先にロックを抜けたレイチェルの後に続いた。
「……ソレ、貴方の得意技なの?」
「あんまり、ツッコまないでください。正直、かなり疲れるんです」
ジリルはスキャニング通路を通る二人が危険物を持ち込んでないかをモニターしながら技術格納庫への扉を抜ける様を見届けた。




