表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥
第四章
80/81

第4章 6話 騒がしい帰還

 九層の通路。

 荷物を背負い直したビルトが、一行を改めて見回した。


「……で、ミリ」

「この方々は?」


 ミリは軽く肩をすくめる。

「助っ人よ」


「それだけで通じる?」


「通じるでしょ」


 ビルトは「なるほど」と頷き、こちらへ向き直る。


 レンが一歩前に出た。

「レンです」


 続いてハルとグレンが並ぶ。

「ハルです」


「グレンと申します」


 ルゥが小さく会釈する。

「……ルゥです」


「ただの年寄りじゃ」

「絶対“ただ”じゃないでしょう」

 ビルトが即座に突っ込む。


 そして――ルゥを見た。

 一拍。

 目が見開かれる。


「……え?」

 一歩、にじり寄る。


「耳……」

「尻尾……」


 次の瞬間。


「ケットシーだぁぁぁ!!」

 絶叫。

 ダンジョンに響く。


 ルゥがびくりと肩を震わせる。


「本物!? 本物!?」


「ちょっと、ビルト」

 ミリがぴしゃりと言う。


「落ち着きなさい。距離」


「あ、はい」

 即座に一歩下がる。


 だが目は輝いたままだ。


「すげぇ……ほんとにケットシー……」

 ルゥは、そっとレンの後ろに回る。

 レンが自然に半歩前へ出た。


 ハルも少しだけ距離を取る。


 シャルルが小声でミリに言う。


「いつもあんな感じか?」


 ミリは顔をしかめた。


「……身内がすみません」


 小さくため息。


 帰路。

 七層へ向かう途中で、足音が乱れた。


「来る」

 シャルルの声。


 曲がり角から、武装ゴブリン四体。


「前、任せる」


 グレンが盾を構える。

 レンが《風刃》で一体の動きを止める。

 シャルルが踏み込み、斬り払う。


 残る二体が横から迫る。


「ルゥ!」


「……うん」

 ルゥが両手を胸の前で組む。


「シリィ、お願い」


 空気が揺れた。

 小さな風の粒子が集まり、淡い緑の光が渦を巻く。

 そこから、透き通るような少女の姿が形を成す。


 長い髪が風に揺れ、瞳がきらりと光る。


『……任せて』

 次の瞬間、風が爆ぜた。

 渦がゴブリンを包み込み、まとめて壁へ叩きつける。


 一瞬で沈黙。


 ビルトが固まる。


「……精霊だぁぁぁ!!」


 シリィが距離を取る。


『……何コイツ』

 ルゥの肩に戻りながら、じっとりとした目。


『吹き飛ばしていい人間?』


「……悩んでる」

 ルゥが真顔で返す。


 ビルトが慌てて両手を振る。


 シャルルが物陰に半分隠れていたビルトを見る。


「お前、戦闘は?」


「からきしで」

 即答。


「どうやって九層まで来た」


 ミリが肩をすくめる。

「戦闘を避けるのが病的に上手いのよ」

「モンスターの巡回、気配、音の読み」

「一級品」


 ジキルが頷く。

「まあ、それも立派な才能じゃ」


 シャルルが腕を組む。

「なら、なぜ今は避けない」


 ビルトはきょとんとする。

「だって、こんな強い人たちと一緒なんですよ?」

「倒して素材集めた方が効率いいじゃないですか」


 沈黙。

 シャルルが目を閉じる。


「欲に正直すぎるだろ」


 ミリが苦笑する。

「昔からこうなのよ」


 七層へ上がる途中。

 ビルトがふと思い出したように言う。


「あ、そうだ」

「九層で見つけた鉄の鉱脈、掘らなくていいの?」


 ミリがぴたりと足を止める。


「……今言う?」

「九層で言いなさいよ」


「いや、忘れてて」


「ほんとにあなたは……」

 呆れた顔。


 シャルルが肩を回す。

「戻るか?」


「せっかく見つけたなら、もったいないでしょ」

 というわけで、再び九層へ少し引き返す。


 露出した鉄鉱脈。

 レンがいくつか切り出し、収納する。


 ビルトがちらりと見る。

「レン君も“倉庫”持ってるの?」


「はい」


「へぇ」

「容量どれくらい?」


「ええと……」

 レンが答えかけると、ミリが横から言う。


「やめときなさい」

「他人の倉庫容量聞くの、行儀悪いわよ」


「あ、そうか」

 ビルトはあっさり引く。


「ビルトさんも持っているんですよね?」


「そうそう。でも」

「俺のはあんまりなくて」

「基本装備で埋まっちゃってて」


 レンが頷く。

「へーそうなんですね」


「まぁ、倉庫は容量より運用だぞ」

 ちょっと得意げに言った。


 シャルルが鼻で笑う。

「戦闘はからきしなのにな」


「痛いとこ突くなぁ」


 再度、七層へ戻る途中の少し広がった場所。


「……ちょっと休憩しない?」

 ビルトがそう言って、背負い袋を下ろした。


「まだ食料、余ってるんだ」


 ミリが半目になる。

「五日も潜ってて、まだあるの?」


「計算は完璧」


「だから連絡をしなさいって言ってるのよ」


 軽口を叩きながらも、全員腰を下ろす。

 ビルトは手慣れた動きで、小さな折り畳み式の簡易コンロを取り出した。

 火打石で火花を散らし、乾燥燃料に着火。

 鍋に水を入れ、干し肉と乾燥野菜を刻んで放り込む。


「……慣れてるな」

 シャルルが呟く。


「シェルパは、野営も仕事のうち」


 手際がいい。

 香ばしい匂いが、ダンジョンの湿った空気に混じる。

 やがて、簡易スープと薄焼きパンが配られた。


 ルゥが一口食べる。

「……おいしい」

 ぽつり。


 ビルトの目が輝いた。

「ほんと!? ほんと!?」


 ぐいっと身を乗り出す。

「味付け、薄すぎない? 塩加減どう?」


「ビルト」

 ミリが低い声で制止する。


「距離」


「あ、はい」

 だがテンションは上がったままだ。


「やっぱり料理は現地で作るに限るよなぁ!」


 その様子を見て、シリィが肩の上で腕を組む。


『……騒がしい人間ね』


「妖精さんも食べる?」

 ビルトがごそごそと袋を漁る。

 小瓶を取り出した。


「これ」

 琥珀色の液体が、淡く光る。


「マナアカシアの蜜」

 シリィの目がわずかに細くなる。


『……本物?』


「精霊さんに会った時のために持ち歩いてる」


 差し出す。

 シリィは警戒しつつ受け取り、そっと舐めた。


 目が、わずかに見開く。


『……意外と、気が利くわね』


 ビルトが絶叫する。

「ツンデレだぁぁぁ!!」


『やっぱり吹き飛ばしていい?』


 レンがくすっと笑う。

「シリィは、そういうとこあるよね」


 好意的な声。


 シリィが振り向く。

『……まとめて吹き飛びなさい』


「え、何でおれまで!?」

 レンが抗議する。


 その横で、ふわりと空気が揺れた。

 別の光が、ふわっと現れる。


 淡い水色の髪の少女――ティーユ。


「……私も、マナアカシアの蜜飲みたい……」

 ぼそり。


 ビルトの目が再び輝く。

「え、増えた!?」

「もう一人いる!?」


 慌ててもう一本、小瓶を取り出す。


「どうぞ!」


 ティーユは両手で受け取る。


「ありがとう!」

 満面の笑み。


 その無垢な笑顔に、ビルトが両手で顔を覆う。


「こっちの方がかわいいぃぃぃ……!!」


 空気が、ぴきりと凍る。


『……やっぱり吹き飛ばすわね』

 シリィが乾いた顔で微笑む。

 風がわずかに渦を巻く。


「待って待って待って!」

「風の?精霊さん!」

「あなたの方が美しいです!」


 慌てるビルト。

 談笑が、洞窟に柔らかく響く。


 ルゥは、その様子を見ながらぽつりと言った。


「……なんで、私の精霊たち」

「勝手に出てくるんだろ……」


 ハルが小さく笑う。

「居心地が良いからじゃない?」


「……そうなのかな」


 ジキルが静かに頷く。

「信頼の証じゃな」


 シャルルが、壁にもたれながら呟く。

「……騒がしい休憩だ」


 だが、その声はどこか柔らかかった。


 ダンジョンの冷たい空気の中で。

 ひとときだけ、

 温かな時間が流れた。


 小休止の後、六層へ。

 ビルトを先頭に小型魔物を避けつつ進む。

「……しかし」


 ビルトがぽつり。


「ほんとに連携いいな」

「羨ましい」


「羨ましいのはこっちだ」

 シャルルが言う。


「戦闘避け能力」

「欲しいわ」

 ミリも真顔で頷く。


 やがて、入口の光。

 森の匂い。


「……戻ったな」

 シャルルが呟く。


 ビルトが大きく伸びをする。

「いやー、焦った焦った」


「焦ってないでしょ」

 ミリが即座に言う。


「……ちょっとは」


 レンは振り返る。

 あれほど不気味だった闇が、今はただの洞穴に見えた。


「無事でよかったです」

 グレンが静かに言う。


 ルゥも小さく頷く。

 ミリは、そっと息を吐いた。


「……ほんとよ」


 ビルトは頭を掻く。

「心配かけたな」


「ほんとにね」

 軽く睨むが、声は柔らかい。

 こうして一行はフェレルへ戻る。


 緊張も、怒鳴り声も、笑いも。

 全部まとめて――

 無事帰還。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ