↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥
第四章
PR
81/81

第4章 7話 フェーレム商会

 フェレルの街門をくぐる頃には、夕焼けが石畳を赤く染めていた。

 ダンジョンの湿った空気から一転、街には屋台の匂いと人の声が満ちている。


「……やっと戻ったな」

 シャルルが肩を回した。


 ミリとビルトが一行の前に立つ。


「今回は、本当に助かった」

 ミリが頭を下げる。

 ビルトも続いて頭を下げた。


「ありがとうございました」


「結果的に何もしてないけどな」

 シャルルが手を振る。


「それでも、ですよ」

 ビルトは苦笑した。


「私ひとりだったら、まだ九層で素材集めてたと思います」


「それはそれで問題だろ」

 シャルルが呆れる。


 ミリがふと思い出したように言った。

「ちょっと待ってて」

「すぐ戻る」


 そう言うと、通りの奥へ足早に消えていった。

 シャルルがその姿を目で追う。

 

 少し沈黙が流れた。


 やがてビルトが口を開く。


「そういえば、きちんとした自己紹介がまだでしたね」

 軽く姿勢を正す。


「私の本名は」

「ビルトルト=フェーレムと言います」


 グレンの表情がわずかに動いた。

「……フェーレム?」

「まさか……」


 ビルトは苦笑する。


「はい」

「私たちの親は、元々フェーレム商会という商会の会長をしていました」


 レンは首を傾げる。

「フェーレム商会?」

「それって有名なんですか?」


 ハルが横から言う。

「大商会の名前よ」

「この辺りじゃ知らない人の方が少ない」


 ジキルが思い出すように言った。

「今は名前が変わっておったな」

「確か……」


 ビルトが静かに口にする。

「イデル商会」


 グレンの目が細くなる。

「……もしかして」


「はい」

 ビルトは淡々と答えた。


「乗っ取りです」


「NMCという闇ギルドの連中に」


 その名前に、レンの脳裏に過去の会話が蘇る。

 闇ギルドの中でも、唯一、表に存在を認知されている組織。

 新商会同盟(ニュー・マーチャント・コンコルディア)。

 通称――NMC。

 

「……あのNMCですか」

 レンが言う。


「ええ」

 ビルトは頷いた。


「私たちの両親は」

 少し言葉を選ぶ。


「“悪魔と取引した”という罪で捕まりました」


 ルゥが息を呑む。

「悪魔との……取引?」


「でっちあげですよ」

 ビルトは肩をすくめた。


「根も葉もない」

「ただ――」

 視線を落とす。


「両親の自宅から“証拠”が出てきた」


「証拠?」

 レンが聞く。


「悪魔を呼び出す召喚陣です」

「使用済みのね」


 グレンの指がわずかに動いた。


 ルゥが小さく声を漏らす。

「そんな……」


 ジキルが静かに言う。

「噂は聞いておる」

「ただ」

「おぬしらの両親が“やっていない証拠”も無いのじゃろ?」


 ビルトは頷いた。

「ええ」

「だから」

「私と、妹のミリは」


 顔を上げる。


「両親の無実を晴らすために動いています」


 レンが言う。

「どうやって?」


 ビルトは答える。

「とあるグリモアを探しています」


「グリモア?」


「《魔力解析》です」


 ハルが目を細める。

「魔力解析……」


「それで召喚陣を調べるんです」

 ビルトは続ける。


「誰が使ったのか」

「使用者を特定できる」

「それが分かれば」


「両親の無実を証明できます」


 シャルルが腕を組む。

「……で」

「心当たりはあるのか?」


 ビルトは答えた。

「フェレルのダンジョンです」


 レンが驚く。

「さっきのダンジョン?」


「元々そのグリモアを持っていた研究者がいたんです」

「その人が」

 少し間を置く。


「フェレルのダンジョンで命を落としました」


 ルゥが小さく呟く。

「……見つかってないんですか」


「ええ」

「遺体も、グリモアも」


 ハルが腕を組む。

「つまり」

「ダンジョンが取り込んだ可能性が高い」


 ビルトは頷いた。

「ダンジョンは中で死んだ者を持ち物ごと取り込みます」

「そして価値ある物を“報酬”として出す」


 シャルルが低く言う。

「……まだどこかにある」


「そういうことです」


 レンが聞く。

「どこまで調べたんですか?」


「三十層近くまでは」

 沈黙が落ちた。


「三十層?」

 レンが目を丸くする。


「そこまで潜る冒険者は少ない」

 ビルトは言う。


「それに――」

「お金もかかるのよね」

 戻ってきたミリが言葉を継いだ。


 袋を机に置く。


「だから今、資金を集めてるの」

「ビルトと二人で」


 ビルトの表情がわずかに硬くなる。

「一つ問題があって」


「問題?」


「NMCです」

 空気が張り詰めた。


「奴らも、この件に気付いているらしい」

「私たちが《魔力解析》のグリモアを探していることを」


 ハルが低く言う。

「邪魔が入る……」


「可能性は高いでしょう」

 ビルトは頷いた。


「もし奴らが先に見つければ」

「召喚陣の真相は永遠に闇の中です」


「ちょっと待ってください」

 レンが話を止める。

「そういうのって」


「ご両親が捕まった時に、調べないんですか?」


 ミリが応える。

「NMCがね」

「すでに、魔法陣を調べた鑑定書を提出していたから」


「ああ……」


「だから、再審査の依頼を、治安維持ギルドに提出するの」


「でも、見つからなくても」

「そのスキルが使える人が見つけられたら」


 ミリが首を振る。

「何人か知っているよ」


「でも全員だめだった」

「NMCの標的になるから……」


「そんな危険なことできないって」


「……なるほど」

 沈黙が流れる。


「あ、そうだ、シャルル」

「はい、報酬」

 ミリが袋を開く。

「鋼化、で良いんだよね?」


 シャルルは黙ってそれを手に取った。


「……ああ」

 シャルルは大事そうにグリモアを懐にしまう。


 シャルルが腕を組む。

「で?」

「話の続きは?」


 ビルトは一行を見回した。

「三十層付近までは調査済み」

「でも、その下はまだ」


 グレンが少し息を吐く。

「……なるほど」

「つまり、いま私たちにその話をしたというのは」


 ビルトが少しだけ息を吸う。

「話が早いです」


「三十層より下」

「その探索に――」


 視線が、レンたちに向く。


「手を貸してもらえませんか」


 レンは少し考えたあと、ふと街の向こうを見た。

 フェレルの外れ。

 ダンジョンのある丘が、夕暮れの中に沈んでいる。

 静かで、何も変わらないように見える。

 それでも――

 まるで何かを、待っているみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。