第4章 2話 ダンジョン
セルトゥールからの馬車は、昼前にフェレルの街門へと滑り込んだ。
人の流れは相変わらずで、露店の呼び声と焼き物の匂いが混じる。
「……相変わらず騒がしい街だな」
シャルルが肩を回しながら言う。
賢者の石の間で、全員が順番にレベルアップを済ませたあと、
一行は屋台の並ぶ通りで昼食を取っていた。
「で、どうだった? レベル上げ」
串焼きを片手に、シャルルが軽く問いかける。
「今回は全員じゃな」
ジキルが言う。
「ジキルさんは良かったんですか?」
レンが言うと、ジキルが鼻で笑う。
「わしはもう十分じゃ」
「ゴブリンクイーン掃討で、収受が溜まりましたからね」
グレンも串焼きを食べながら言う。
セリルは、少し気まずそうに視線を落とす。
「……私は、あまり溜まっていませんでしたので」
「まぁ、孤児院のシスターが」
「ため込んでたら、それはそれで……な」
シャルルは笑いながら肩をすくめる。
「俺とグレンは、もう成長するにかなり必要だからな」
「……今回も1つあげるので精いっぱいでした」
グレンも苦笑する。
「ハルはどうだった?」
シャルルが話を振る。
ハルは少しだけ姿勢を正す。
「……グリモアで、《光陰の矢》と、《浄罪》を取得したよ」
「残りで、《光縛》のレベルも一つ上げられたし」
「おお、手段が増えたね」
レンが素直に感心する。
「縛るだけって言われたからね」
「……誰かさんに」
ハルは小さく息を吐き、シャルルの方を見た。
「……ル、ルゥは?」
シャルルが慌てて、視線を向けると、
ルゥは一瞬だけ間を置いてから答えた。
「……魔力系を中心にあげました!」
「レンは?」
「《風刃》を二つ上げた。あとは魔力量とか基礎を満遍なく」
「堅実だな」
シャルルは満足そうに頷き、
グレンをちらりと見る。
「で、グレンは?」
「……防御を一つだけ」
その時――
屋台の影から、聞き覚えのある声がかかった。
「……また会ったね」
声の主に、レンが先に気づく。
「……あ」
現れたのは、以前この街で顔を合わせた女性――ミリだった。
フェレル近郊で商売をしている人物だ。
セリルが一歩前に出て、丁寧に会釈する。
「初めまして。こちらの方は……?」
「前にこの街で世話になった人だ」
シャルルが軽く説明する。
「ふふ、覚えててくれて嬉しいよ」
ミリは気楽に笑ってから、一行を見回した。
「相変わらず、変わった集まりだね」
そして、少しだけ言い淀む。
「あのさ」
「……実は、お願いがあってさ」
「お願い?」
レンが首を傾げる。
「うん。あなたたち、かなり腕が立つでしょ」
シャルルが苦笑する。
「急だな」
「フェレルから少し離れたところに、ダンジョンがあるのは知ってる?」
その問いに、
シャルル、グレン、ジキルが頷く。
「昔、修行でよく連れて行かれた」
シャルルが肩をすくめる。
ルゥとハル、セリルも小さく頷いた。
「……名前は聞いたことがある」
レンだけが、少し考える。
「あの」
「ダンジョンって……具体的にどんな存在なんですか?」
ミリは一瞬考えてから言った。
「うーん。とりあえず、店、入ろっか」
*
酒場の個室。
人払いを済ませ、腰を落ち着ける。
「ダンジョンはな」
ジキルが、低い声で切り出す。
「正式には“ダンジョンメイカー”と呼ばれておる」
「……ダンジョンメイカー?」
レンが眉をひそめる。
「学者の間じゃ、すべての系譜を持つ“モンスターの一種”だとも言われてる」
ミリが続ける。
「単なる魔力の集合体だとか、他の何かって説もある」
「まぁでも、魔核があるから」
「魔族の一種だね」
「魔族と言っても――」
グレンが言葉を継ぐ。
「自分から動いたりすることはありません」
「地下深くで生まれて、魔力を集めて成長する」
ジキルが補足する。
「育つと、周囲のモンスターが住み着くようになる」
「中でモンスターが死ぬと、その“情報”を覚えるんだ」
ミリが言った。
「同じ種類を生み出したり、素材を作ったりできる」
「コピーを複製しちゃうんだって」
レンは、ゆっくりと理解を噛み砕く。
「しかも成長すると、人を呼び込むために宝を置く」
「……罠だね」
ハルがぽつりと呟く。
「資源だって考える連中もいる」
ジキルが言う。
「だが放っておけば――」
「中で増えすぎたモンスターをね」
「一気に外に吐き出すことがある」
ミリが続ける。
「“スタンピード”って現象」
レンは、少しだけ顔を引き締めた。
「……スタンピード」
「ええ」
「だから基本的には“討伐“が推奨されています」
グレンが言う。
「どうやって倒すんですか?」
レンが素直に聞いた。
「まあ、基本はモンスターと一緒じゃな」
「最深部にある“魔核”を壊す」
ジキルが答える。
「ただし、壊したらダンジョン自体が崩壊する」
「……脱出できないと、巻き込まれる」
シャルルが小さく付け足す。
「だから転移系スキルか、専用アイテムが必須」
ミリが頷く。
「高いけどね」
「普通は“シェルパ”を雇う」
シャルルが言う。
「案内人だ」
「どんな人たちなんですか?」
レンが聞くと、ミリは指を折る。
「探索系、先導系、攻略系」
「探索は罠や宝箱に詳しくて、荷物運びもする」
「先導は目的地まで案内」
「攻略は踏破前提。転移スキル持ちが多い」
レンは、少しだけ唸る。
「……ダンジョンって、なんというか」
「複雑なんですね」
ミリは、そこで表情を曇らせた。
「でね……そのダンジョンの話なんだけど」
一呼吸置いて、言った。
「……知り合いのシェルパが、帰ってきてないんだ」
空気が、わずかに張りつめる。
「……それで、私たちに?」
ハルが静かに尋ねる。
ミリは、はっきりと頷いた。
「うん」
「もう、戻る予定から、二日帰ってきてない」
「……何かが起きてる」
「お願い」
「助けに行ってあげてくれないかな?」




