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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥
第三章 化け物とヒーロー
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第3章 3話 重さのない荷物

 街へ戻る前、レンはふと思い出したように立ち止まった。


「……そうだ」


 街道脇の、少し開けた場所。

 日が傾き始め、風が涼しくなってきている。


「どうした?」

 シャルルが振り返る。


「《妖精の倉庫》、試してみてもいいですか」


 その言葉に、ジキルがゆっくり頷いた。

「街に戻る前に確認しておくのは、悪くない」


 レンは頷き、胸の前に手を伸ばす。

 呼びかけるように、意識を集中させた。


「《……倉庫》」


 声に出した瞬間、空気がふわりと揺れた。

 何かが開いた、というより――

 “繋がった”という感覚。


 次の瞬間、淡い光がいくつも弾ける。


「あ……」


 現れたのは、小さな妖精たちだった。

 先ほど見た、あの子たちだ。

 それぞれが淡い色の光をまとい、宙に浮かんでいる。


『はーい』

『順番にお願いね』


 軽い声。

 まるで仕事慣れした倉庫番のようだった。


「……本当に来たな」

 シャルルが感心したように言う。


 レンは一瞬だけ躊躇ったが、背負っていた荷袋を外した。

 中には予備の食料、水袋、ロープ、簡易寝具。


「これを、お願いします」


 妖精たちは楽しそうに近づき、荷袋を抱える。

 次の瞬間、それは光に包まれて消えた。


「……軽い」


 レンが呟く。

 背中から、確かに重さが消えていた。


「長期の冒険じゃな」

 ジキルが低く言う。


「荷物が一番の足枷になる」


「だからポーターって職業があるくらいだしな」

 シャルルが肩をすくめる。

「荷物運び専門。あれはあれで、立派な仕事だ」


 グレンが静かに頷いた。

「移動速度、生存率、全てに影響しますから」


「それが不要になる、か……」

 レンは妖精たちを見る。


『まだ余裕あるよー』


「……他の人の分も、大丈夫?」


『もちろんだよー』


 声に促され、ハルやシャルル、ジキルたちも荷物を預けていく。

 ルゥは興味津々で、妖精の動きをじっと見ていた。


「……すごいね」

「うん。なんか……かわいい」


 そう言って、ルゥは小さく手を振る。

 妖精の一体が、ぴょんと返事をした。


 気がつけば、全員の荷物が消えていた。

 身軽になった一行は、そのまま街へと戻る。


 セルトゥールの門が見えた頃には、空はすっかり夕暮れ色だった。


 街に戻ると、ジキルが静かに言った。

「今日はここまでじゃな」


 ルゥが少しだけ、残念そうな顔をする。


「……ルゥ」

 ジキルは目線を合わせた。


「街におる間は、家族と過ごせ」


 一瞬、ルゥは迷ったように瞬きをして――

 それから、こくりと頷いた。


「……うん。分かった」


 ナナとフーリーの顔が浮かんだのだろう。

 少し照れたように、でも嬉しそうに笑った。


「また、明日ね!」


 そう言って、ルゥは街の奥へと駆けていった。


「グレンはどうする?」

 シャルルが何気なく聞く。


「孤児院に寄ります」

「今夜は、そちらで泊まろうかと」


「へぇ?」

 シャルルがにやりと笑う。


「女か?」


「なっ……」

 グレンが一瞬、言葉に詰まる。


「そ、そういうのではありません」

「ただの……友人です」

 珍しく、声が揺れた。


「えー?」

 ハルが楽しそうに身を乗り出す。

「気になるなぁ」


「からかいすぎじゃ」

 ジキルが低く窘めるが顔は少しだけ、にやけていた。


 その後、ジキルは小さな袋を取り出し、グレンに差し出した。


「少しじゃが分配金じゃ。受け取れ」


「……しかし」


「皆の働きじゃ」

 少し迷ってから、グレンは深く頭を下げて受け取った。


 翌朝。

 宿の前に、ルゥとグレンの姿があった。


「おはようございます!」

 ルゥが元気よく手を振る。


「……おはようございます」

 グレンも続く。


「おやおや」

 シャルルが口元を歪める。


「昨日はどうだった?」


「何もありません」

 グレンが即答する。


「へぇー?」

 ハルが楽しそうに笑う。


「いい加減にせんか」

 ジキルが一言で場を締める。

 口調は強かったが、顔は笑っていた。


 その後、簡単に消耗品を買い足し――

 武器屋へ向かった。


 昨日預けた装備は、すでに整えられていた。


 レンは新しい剣を手に取る。

 重さ、バランス、握り。

 昨日より、はっきりと「自分のもの」だと感じる。


「……いいですね」


「だろ?」

 店主が鼻を鳴らす。


 ハルもローブを羽織り、杖を握る。

 ルゥは新しいロッドを恐る恐る構え、目を輝かせた。


「……大丈夫か?」

 レンが聞く。


「うん。なんか……安心する」


 武器屋を出た後、レンがぽつりと言った。


「このまま、昇格の依頼を受けるんですか?」


 シャルルは即座に首を振る。

「しない」


「そんな無茶はせん」

「まずは」

 ジキルが続ける。


「まずは慣らしじゃ。装備と体の感覚を確かめる」


「低ランクの討伐依頼で十分だな」


「数も少なく、危険度の低いもの」

 そう言って冒険者ギルドに向かう。


 選ばれたのは、街道脇に出没する小型魔物の討伐。

 群れは小さく、知能も低い――新人向けの依頼だった。


 街から少し離れた草地。

 レンは足を止め、周囲を見渡す。

 風の流れ、草の揺れ、地面の踏み心地。


「……いたな」

 低い位置で、草が不自然に揺れた。


「数は三」

 シャルルの声。


 グレンが静かに告げる。

「こちらに気づいてはいません」


「よし」

 シャルルが短く言う。

「前に出るな。今回は確認だ」


 レンは頷き、剣を抜いた。

 昨日までとは違う感触。

 重心がぶれず、自然と構えが定まる。


(……動きやすい)


 合図と同時に、シャルルが踏み込む。

 素早く、無駄のない動き。

 魔物の注意を引きつける。


「今だ」

 レンは一歩踏み込み、剣を振る。

 刃は狙い通りに通り、魔物はあっさりと倒れた。


「……軽い」


 思わず口をつく。


「武器が合ってる証拠だ」

 シャルルが言う。


 別方向から現れた一体に、ハルが杖を向ける。


「光縛」


 淡い光が走り、魔物の動きを止めた。


 ルゥが一瞬だけ躊躇い――

 それでも、ロッドを握りしめる。


「……いくね」

「《精霊召喚》」

「シリィお願い!」


 光が集まる。


『召喚で呼ばれたの久しぶりね』

 シリィが現れ、すぐに前の敵を見る。


『あれね』

『よっと』


 攻撃は控えめだが、確実だった。


 最後の一体をグレンが盾で弾き、拳で沈める。

 戦闘は、あっという間に終わった。


「……問題なしだな」

 ジキルが周囲を見回す。


「連携も悪くない」

「新装備も、きちんと機能してる」


 レンは息を整えながら、周囲に転がる魔石を見る。


「回収しますか?」


「もちろん」

 シャルルが頷く。


 レンは意識を向ける。


「《妖精の倉庫》」


 空気が揺れ、小さな妖精たちが現れた。


『はーい』

『これね?』

『あと、それも?』

 倒した魔物の素材が、次々と消えていく。


「……早いな」

 シャルルが感心する。

「戦闘後の手間が減るのはでかい」

「回収してる間に襲われる、ってのがよくあるからな」


 ジキルも頷いた。

「荷物がない分、撤退も速い」


 妖精たちは仕事を終えると、軽やかに消えていった。


 レンは剣を鞘に収める。


(……これなら)


 戦える。

 無理はしない。

 だが、確実に前に進める。


「じゃあ、戻るか」

 シャルルが言う。

 

 一行は、再びセルトゥールへ向かって歩き出した。

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