表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥
第二章 歩き出す者たち
44/81

第2章 21話 フェレルへ

 翌朝。

 宿屋の一階は、朝の光が差し込み、まだ静けさが残っていた。


 出発の準備は、すでに整っている。

 レンが荷を背負い直していると、扉の方が少し騒がしくなった。


「おはようございます!」

 元気な声とともに、

 ナナとフーリーの元に帰っていたルゥが少し控えめに顔を出す。


「おお、おはよう」

「おはよ」

 それぞれが返事をする。


 ルゥは、どこか落ち着かない様子だった。


「何かあったのか?」

 シャルルが尋ねる。


「あの……」

「えっと……」

 ルゥは、胸の前で手を組む。


「フェレルに行くんですよね?」


「ああ、言っていたとおりじゃ」

 ジキルが答える。


「ルゥは待ってるか?」

「またすぐ戻ってくるし」


 シャルルの言葉に、

 少しだけ、返事を探すような間。


「私も、」

「一緒に行きたいです」


 一瞬、静かになる。


「契約のこともあるし……」

「それに、みなさんとも一緒にいたいというか」

「ここにいてもすることないし……」


 言い訳のようでいて、どこか決意も混じった声。


 レンがルゥを見る。

 不安よりも、「行きたい」という気持ちが前に出ているのが分かった。


「別にいいんじゃねえか」

 シャルルが、あっさり言った。


「ナナとフーリーは何て言ってるの?」

 ハルが聞く。


「みなさんと一緒なら安全だから」

「心配してないって」


「じゃあ、一緒にいこう」

 ハルがニコッと笑う。


「いいんですか?」

 ルゥの目が、少しだけ輝く。


「もちろん」


「わしは当然一緒に行くもんじゃと……」


 ジキルの言葉にハルが笑って言う。

「小さい子を勝手に連れまわしたらだめですよ」


 温かい笑い声が広がった。


 出発しようとすると、冒険者ギルドの扉が開いた。

 ナナと、フーリーだ。


「あ、フーリー」

「もう動いて大丈夫なの?」

 ハルが聞く。


「もう大丈夫だ」


「ルゥがご迷惑をおかけします」

 ナナが丁寧に頭を下げる。


「大丈夫だよ」


「そうそう、ルゥは頼りになるからね」

 ハルは屈み、ルゥの目線に合わせてそう言った。

 ルゥの目が輝く。


「よろしくお願いします」

「ルゥ、気をつけてね!」


 ルゥは深く頷き、二人に手を振った。


 街の外れ。

 待っていたのは、大きな馬車だった。

 だが、普通の馬車ではない。


「……でかいな」

 レンが思わず声を漏らす。


 馬車を引いているのは、二頭のグラニ種。

 馬に似た体躯で、脚は太く、蹄は岩を削るほど硬い。

 首筋には淡い魔力の脈動が走り、ただ立っているだけで圧がある。


「前に見たのより大きいですね」


 レンの言葉に、グレンが応える。

「馬車用に飼われたグラニは脚力と持久力が桁違いで」

「高速馬車には、だいたいこれが使われます」


「フェレルまでは?」

 レンが聞く。


「一時間ほどじゃ」

 ジキルが答えた。

「道も整備されておる」

 

 一行が乗り込むのを確認して御者が合図を送ると、

 グラニ種は一斉に踏み込み――

 馬車は、滑るように走り出した。


 風が、窓を叩く。

 景色が、流れていく。


「……速い」

 ルゥが、思わず声を漏らす。


「酔うなよ」

 シャルルが軽く言う。


「だ、大丈夫……たぶん」

 ルゥは、揺れる車内で外を見つめながら、静かに息を吐いた。


 しばらく経つとルゥはウトウトとし始めて、

 レンの膝に、もたれ掛かった。


 無意識に頭を撫でているレンに

「またやってる」

 とハルが言い、レンは慌てて手を離した。


 高速馬車は、最後に大きく揺れ、ゆっくりと速度を落とした。

「――着いたぞ」


 御者の声に、レンは顔を上げる。

 ルゥも目を覚まし、慌てて起き上がって、レンに謝る。

 レンは笑顔で気にしないでと言った。


 窓の外に広がったのは、これまで見てきたどの街とも違う景色だった。

 高い城壁。


 だが、威圧的というよりも、整然とした美しさがある。

 白い石材を基調とした壁面には、幾何学模様の魔導刻印が施され、淡く光を反射していた。


「ここが……フェレル」

 フェレル。

 フェレル諸国連合の中心都市。

 どこの国にも属していない独立都市。


 身分証代わりの冒険者プレートを差し出して 

 門をくぐった瞬間、空気が変わる。


 人の多さはもちろんだが、それ以上に――

 魔力の密度が違った。


「……なんか、空気が重いな」

 レンが小さく呟く。


「賢者の石がある街じゃからな」

 ジキルが応える。

「街全体が、その影響を受けとる」


 石畳の道は広く、行き交う人々も多種多様だった。

 冒険者らしき武装の一団。

 魔導具を抱えた商人。

 ローブをまとった学者風の者たち。


「……精錬効率が」

「いや、理論上は――」

 耳に入ってくる会話も、どこか専門的だ。


「すごい……」

 ルゥがきょろきょろと周囲を見回す。


「お祭りみたい」


「実際、似たようなもんだ」

 シャルルが肩をすくめる。


「学者も、研究者も、冒険者も集まる」


 通りの奥には、ひときわ目を引く建造物があった。

 塔――いや、尖塔群と呼ぶべきか。

 幾つもの細い塔が円状に配置され、中央に巨大な結晶構造体が見える。


 あれが、とレンは直感した。

「賢者の石……か」


 ルゥが、ふと胸元に手を当てる。

「……なんだか、そわそわする」


 馬車を降り、一行は街の中心部へと歩き出す。

 建物はどれも高く、整っているが、冷たさはない。

 生活と研究が、自然に溶け合っている街だった。


「とりあえず宿を探す」

 ジキルが告げる。


「賢者の石に関わるのは、それからじゃ」


 レンは、もう一度街を見上げた。

 ここで、また何かが変わる。

 そんな予感が、はっきりと胸にあった。


 フェレル――

 次の段階へ進むための街。

 物語は、確実にその中心へと踏み込んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ