第98話 だって君達が良いと思うような相手なら、絶対同じように思っている誰かが他にもいるはずだから
それから健二の尻を叩きつつ時折り励ますなど、飴と鞭を使い分けて課題を手伝った。そして気付けば現在の時刻は十三時前だ。
「お腹減ったな」
「ああ、もう今日は終わりでいいだろ」
「いやいや、全く終わってないくせに何を言ってるんだよ」
翔は空腹で昼に行きたそうな表情を浮かべており、健二はさらっと今日の勉強会を終わらせるような発言をして海斗にツッコミを入れられていた。当然勉強会は午後からも続行だが、一旦昼休憩にする予定だ。
ひとまず俺達は荷物をまとめて出口に向かい始める。冷房の効いた建物の中とは違い、外は三十五度を超えているため一歩外に出ただけで汗が吹き出そうだ。そんな時、後ろから話しかけられる。
「あれっ、もしかして結人達も今からお昼?」
「実は私と夏乃も今からなんだ」
後ろを振り向くとそこには夏乃さんと真夜さんの姿があった。十二時をかなり過ぎているが、時間的に今からお昼というのも全然普通だ。そんなことを考えていると、健二と海斗が挙動不審になる。
「おい、結人。結城先輩の隣にいるクールなお姉さんは一体誰なんだ!?」
「まさか結城先輩だけに飽き足らず、他にも毒牙にかけた相手がいたのか!?」
「海斗も健二も人聞きの悪いこと言うな、この人は俺達の高校のOGで夏乃さんの大学の先輩だ」
さらっと人をとんでもないクズにしないで欲しい。毒牙にかけた相手なんていないし、逆に俺が夏乃さんからかけられている側だ。
「すまない、後輩君……結人君以外には自己紹介がまだだったね。私は目黒真夜、君達よりは三歳上らしいから在学期間は被っていないが、同じ高校の先輩ってところかな」
「真夜先輩は私と同じく生徒会執行部に所属していて、三年生の時は生徒会長もやっていた凄い先輩なんだよ」
「そんなに持ち上げられるとちょっと照れるな」
健二と海斗の視線に気付いた真夜さんは自己紹介を行い、夏乃さんが補足をした。美人に弱い健二と海斗は相変わらず鼻の下を伸ばしていたが、翔だけは一歩引いた雰囲気だった。
プールナンパ事件で彼女からぶん殴られ危うく別れ話に発展しかけた翔だったが、誠心誠意謝って許されたらしい。そこからは迂闊なことは一切しなくなった。
健二や海斗は多分気付いていないが、少し前から雰囲気も大人びた気がするし、もしかしたら色々と関係が進展したのかもしれない。
そのままの流れで夏乃さんと真夜さんも入れた六人で昼へ行くことになった。図書館近くのファミレスにやってきた俺達は各々好きなものを注文し、料理を待ちながら雑談を始める。
「えっ、目黒先輩って早穂田大学に一般入試で入ったんですか!?」
「ああ、推薦されるよりも自分の実力だけで合格したかったからね」
「早穂田の一般って進路指導室に貼られてた偏差値表だと七十は超えてたと思うので凄いですね、学年トップクラスの結人ならともかく俺や海斗には絶対無理ですし」
海斗と真夜さん会話を聞いていた翔はそんな声を上げた。健二はさらっと除外されていたが、あいつは論外だから当然か。ちなみにうちの高校で学年内の成績がトップクラスでも早穂田大学はきつい。
実際にここ数年のうちのOBやOGで一般入試合格者は二桁もいないはずだし、そこに入っている夏乃さんや真夜さんは本当にハイスペックだ。
「ところで目黒先輩は彼氏はいないんですか?」
「今はいないな、正直大学生活が充実してるから今はそんなに欲しいって感じでもない」
デリカシーのない健二の質問にもちゃんと答えてあげるところは本当に人格者だと思う。そんなことを考えていると真夜さんは少し真剣そうな顔になる。
「もし、後輩君達に付き合いたい相手がいるならすぐに行動すべきとは思う。だって君達が良いと思うような相手なら、絶対同じように思っている誰かが他にもいるはずだから」
その言葉を聞いた瞬間、俺は頭に冷水をかけられたような感覚になった。確かに夏乃さんほどの相手であれば間違いなく両手でも数えきれないくらい思いを寄せられていてもおかしくはないはずだ。
確かに俺は夏乃さんから告白をされてはいたが、自分に向けられた好きという気持ちが今後もずっと続く確証は全くない。
むしろいつまでも返事を先延ばしにしていると愛想を尽かされる可能性だってある。真夜さんの言葉を聞いて俺は思わず息ができなくなるほどの危機感を覚えた。




