その12
さて、ここからはサクサクいこう。
四人目と出くわしたのは、ちょっと想定外だった。
隠し通路から出た瞬間、なぜか出歩いてたシバと三方向から至近距離でばったり。全員が一瞬固まった。
真っ先に気がついて、私の胴体をひっつかんで猛ダッシュしたシバには、後でなにかお礼をしなきゃいけない。
そのまま地獄の追いかけっこが始まり、両手の空いてた私は廊下の花瓶を投げたり、ナイフを投げて照明を落としたり、めいっぱい抵抗した。
あっちこっちトラップも発動したみたいだけど、なにしろ途中からホコリと煙がすごくて、どれがどうなったのかよく見えなかった。
城中を走り回って大広間にたどりついた時には、シバの息はきれてたし、私も振動で気持ち悪くなって限界だった。
シバの袖を引いて扉の陰に移動して、壁の隠しスイッチを壊してもらう。
玉座から豪速で発射される槍。爆薬を追加しておいたから、さすがのオーガ族も完璧にはかわしきれない。間一髪で避けられるのは読み通り。
刃のところがネジ状になってるものに替えておいたから、ほんの少しでもかすめたら、錐もみする刃が衣服を巻き込んでダメージを与える計算だった。
予定通りにいかなかったのは、そもそもオーガ族が鎧しか着けてなかったことだ。
火花が激しく散って、金属と金属が削りあう音が耳を刺す。
シバの耳は私がふさいでおいたけど、オーガ族はそうはいかない。耳がいいのも考えものだ。
シバの体力の限界がくる前にどうにかなってくれてよかったなあと思いながら、目を回してるのを確認して、とどめに両肘に矢を射ておいた。
五人目はというと、裏庭にいたホアンに挑みかかって返り討ちにあい、かじられてるところを見つけて、慌てて救助する羽目にあった。
なんでだ。
倒す相手を間違えてる。というか、これ絶対、ホアンを見つけてテンション上がって私のことなんか忘れてたパターンだ。
救助が遅れて腕が一本ホアンのおやつになってしまったけど、私を倒しにきた相手だと思うと、いまいち同情できないというか。
それに、私が城の中に移動したせいで退屈して、一人で楽しくよい子に遊んでたホアンにわざわざちょっかいかけにいく方が、えーと、うん、なんだ。私は悪くない。
そんな訳で。
「…なんですか、この惨状は」
どこかから帰ってきたユージンの顔がひきつってる。
美形なのになあ。表情がよく崩れるのがもったいない。
玄関の扉は見事に木端微塵。
窓ガラスはあっちこっち吹っ飛んで、外壁はヒビが入って煤で真っ黒。
床は穴だらけで、花瓶や置物の破片が散らかってる。
トドメは屋根から煙。
これはもはや城っていうか、一戦やった後の砦? 廃墟の一歩手前?
近所の子供たちが、大広間から飛び出して門を貫通した槍に「すげー、すげー」と騒いでるのが、ちょっぴり心あたたまらなくもない。かもしれない。
私はボロボロになった城を見て。
忙しく後片付けを始めた城下の有志のみなさんを見て。
外に並べて縛って転がされたオーガ族を高笑いで踏んづけてるジジを見て。
被害(?)状況の報告を受けながら「まーたずいぶん派手にやってくれたのー」とぼやく長老と、その隣で半目になってるブルーノを見て。
私の手ではふせぎぎれなかった音で座り込んでるシバと、その世話を焼きたがってるアシルと、アシルのフェロモンにやられて群がってる女性陣の三つ巴の攻防を見て。
とりあえず、自分から正座した。
「やりすぎたかも?」
「どう見てもやり過ぎです! 誰が城を壊していいと言いましたか! 人の世界には加減という言葉がないんですか!」
めちゃくちゃ怒られた。
「で、なんでこうなってんのか、が、わかんないっ」
「よそ見してると、首が飛ぶわよ!」
キン、と高い金属音。
力を受け流すように剣を弾いて、バックステップでアシルと距離を取る。
城の中庭にジジが特殊な結界を張ってくれたから、アシルのフェロモンで余計な観客が来る心配をしなくていいのは助かる。
女でも、ジジみたいに伴侶に一途なタイプ(自称)や、クルルさんみたいに仕事熱心なタイプにはフェロモンの効きは悪いみたいで、逆にアレでやられるのは、なんというか、けたたましいヒトが多いのだ。正直苦手。
昼食後すぐに動き始めて、そろそろ半時。もちろん休憩はなし。背中も足の裏も汗でべたべただ。
「ちゃんと説明されたでしょ。あれだけ城をボロボロにしたのは、うまいやり方を選べなかった陛下の実力不足。ユージンじゃないけど、気軽に城を破壊してもらっちゃ困るのよ。陛下にしても、今後を考えたら鍛えといて損はしないはずだけど?」
ユージンの言うことも、アシルの言うことも、まあ正しいんだと思う。
私がもっと強くて手数をいっぱい持ってたら、他のやり方を選べたし、そもそも妖精族の反抗もなかったかもしれない。
それに、魔界のルールは「前の王様の首取ったヤツが新しい王様!」。
今はとりあえずジジや長老がにらみをきかせてくれてるけど、安心はしない方が自分のためだ。
魔獣を追いかけたり、ホアンの狩りにつきあったり、毎日の自主練も欠かしてなかったけど、一人では限度があったし、助かると言えば助かる。
でも、愚痴は言いたい。
息を整える数秒もなく、ひゅっと距離を詰められて、斜めに斬りつけられる。
とっさに自分の剣で下からすくうように受け止めると、ガキン、と嫌な音がして火花が散った。
力負けしないように必死でこらえてると、ふくらはぎまで震えだす。
「今の反応は悪くなかった」
「…っぐ。じゃないと、私、死んでるでしょうがっ」
お互い握ってるのは刃引きなしの真剣。
そうでもしないと気持ちがたるんで訓練にならないでしょ、と言われた。
確かに、本気を出さざるをえないんだけど! 間違ってないんだけど!
アシル、強い。
上手いっていうか、鋭いっていうか、とにかく私とは全然レベルが違う。
「足さばきは意外と悪くないね。腕も剣の重さに振り回されてないし、基礎は一応できてる。力を速さで補うのも、人間の女だったら仕方ないのかな。」
腕がしびれてくる前に、アシルの剣を無理矢理はね返そうとしたら、ふっと相手の力が抜けた。
勢いあまってつんのめったところで足を引っかけられて、転がされて終了。
喉元に突きつけられた剣に、つつつ、と顎を持ち上げられる。
ニヤー、と嫌な笑い。
「でも、体の軽さにまかせて腕を磨いてないから、決定力がない。その分は数で稼がなくちゃいけないのに、体力が足りないから、すぐに鈍る。年をとって体が重くなったら完全にいいとこなし。よかったねえ、今のところ僕が味方で。」
ああああああああっ、もう! ムカつく! さんっざん振り回して消耗させといて、この、鬼畜!




