その11
二人目は、城の玄関で消えたみたいだった。
他のヒトからすれば、気がついたら頭数が一つ減ってて不気味だったと思う。
それとも、気にかけてる余裕はなかったかもしれない。城門のアレは小手調べもいいところ。本番は城の中に入ってから。
玄関扉を閉めて十歩進んだ瞬間、上から大量の槍、すぐ目の前に巨大な落とし穴、左右に毒花粉、落とし穴の向こう側に地雷、後ろから発射される大岩と畳みかけられたら、さすがのオーガ族も完璧には切り抜けられなかったんだろう。
爆音を合図に一人目をきっちり仕留めて見に行ったら、置いてきぼりにされたヒトのふてくされた叫び声が地下から鳴ってた。
実を言えば、城に地下があるのは知ってたけど、この落とし穴がどれくらい深いのか、落ちた先がどうなってるのか、時間が足りなくて確認できてない。
のぞきこんでも、真っ暗で底が見えない。
試しに砕けた床のかけらを一つ落としてみたら、二百を数えたあたりで「痛ってえええええええ!」と小さく響いてきた。
…………ええと、うん。これは想像以上の深さかも。
動けなくするというより、遭難と飢え死にを心配しなきゃいけないやつだ。ていうか、この城の地下は一体どうなってんの。あと、オーガ族の体の頑丈さも。
長老かジジに聞けば教えてくれるかなー。いや、それより後始末を考えてユージンに報告しなきゃダメなやつだ。ちょっとげんなり。
距離を離され過ぎないように、急いで後を追いかけた先に、三人目はいた。
まだあと三人残ってたはずなのに、他に気配がない。一人で歩いてるところを見ると、バラけて私を探すことにしたんだろう。確かに、かくれんぼで固まってても仕方ない。
入り口からここまでのルートを頭の中で確認して、分かれ道になった場所を推測する。
誰かが道を戻らない限り合流はなさそうだし、どのルートを選んでも後戻りはできないようになってる。肉体自慢の妖精族でもスムーズには進めないはずだから、私は一人ずつ仕留めればいい。
向こうは正々堂々私を倒しにきたんだろうけど、私は真っ向勝負なんてする気はない。小細工上等だ。
それにしても、大きい。
基本的な体のつくりは私と変わらないけど、とにかく大きい。背丈は、多分大人二、三人分くらい。
ありきたりだけど、腕も足もほんとに丸太ぐらいある。歩いてるだけなのに、めちゃくちゃ廊下が狭く見える。
他に違いがあるとすれば、布の服を着てない。
使い込んだ鎧の隙間から見せつけるような全身の毛深さ。獣人の毛皮よりは、人間の体毛に近いけど。
頭に生えた角も、まさか動物のケンカみたいな使い方はしてないと思うけど、近くで見たら傷がいっぱいついてそうな雰囲気だ。
それから。
足音が、全然しない。
このエリアは床に絨毯を敷いてない。固い石の床だ。
あの体の大きさで、筋肉の塊が鎧をつけて歩いてるみたいな重量感で、どんな足さばきをすれば音と振動を殺せるのか、さっぱりわからない。
気配ごと消してる訳じゃない。呼吸も無造作だ。でも足元に油断がない。
こういう動きは前にも見たことがある。旅に出る前、軍に放り込まれてた頃に。
いい家の出身で、子供の時から礼儀ときちんとした戦い方を習ってきた人の事じゃない。下町のゴロツキあがりの、やたらタフで喧嘩慣れした方。
多少ホコリはかぶってるけど、ダメージが残ってるようにも見えない。
ここに来るまでのあれもこれも、かわしきったのか。かわしきったんだろうなあ。これがまだ三人いると思うと、つくづく嫌になる。
パワーもスピードも向こうが上。仕留めるには、せめてどちらかを封じなきゃ無理だ。
至近距離で直接狙えたら色々楽だなあ、なんて考えてたけど、やめよう。確実にいこう。命は大事にしなきゃダメだ。
距離が開くのを待って、壁のタペストリーの裏側から隠し通路(前に使用人用じゃなくて、秘密のがつく方)にすべり込む。
大広間の玉座を回転させた時点で照明にも魔力が通ったから、暗くはない。ジジがいる限り、魔力がなくなる事もない。
けど、掃除をする時間がなかったから、埃っぽくて仕方ない。
「隠し通路」で想像するより、中はゆったりしてる。武器を持った大の男が余裕ですれ違えるくらい、と言えばわかりやすいかも。
でも、あのオーガ族の体格だと通り抜けられないかな。作ったのは獣人かも。分隊でも忍ばせておくのにちょうどいい広さだし。
途中でワープポイントをくぐって、頭に叩き込んだ地図を頼りに進むこと数十秒。
出口をくぐれば廊下の飾り棚に出る。空間をゆがめる魔術がかかっていて、外からはよくある飾り棚、中の綺麗なお皿しかさわれない。
でも、隠し通路からはちょっとした小部屋くらいの空間に入り込む。
ちょうど弓を引くのにいい広さ。都合のいいことに、魔術は視界を邪魔しない。どんな理屈かわからないけど、こちら側からのあらゆる干渉も邪魔しない。待ち伏せする場所としては最高だ。これを作ったヒトは絶対性格が悪い。
矢の準備をして飾り棚を通り過ぎる瞬間を待つ。ここまでは一本道だ。移動スピードを考えたら、あと数十秒。
曲がり角から狙撃ポイントまでの数十メートル。ありとあらゆるトラップを仕掛けておいた。
オーガ族ならぎりぎりでかわせるように計算して隙を作ってある。体勢は崩れるし、相手の動きも予測しやすくなる。
狙うのは膝だ。ぶ厚い頭蓋骨や鎧をぶち抜くような腕力はない。首を狙えば、さすがに怪我ですまない。
そのかわり、至近距離で膝を破壊できれば、確実に再起不能にできる。敵に情をかけないのが、師匠に昔教えられた戦場の礼儀だ。
さっき直接見たから、オーガ族の膝がどれくらいの位置にあるかはわかってる。
曲がり角をオーガ族が通過した瞬間、その左右から斧を持った無人の全身鎧が襲いかかる。大きく足を踏み出した先に転がる爆弾。爆風に押されるように体を投げ出した先は、床の中央がぱっくりと口を開けて、白い煙のあがる酸の沼。壁を使って跳び越えた先には、びっしりと棘のついた巨大な振り子。床から飛びだすダガーナイフ。
オーガ族が吠えて、びりびりと空気が震える。
まともな人間なら生きて帰れないそれを、次々とかわすこと、およそ七秒。
「!」
きつく引き絞った弓から矢を放つ。
括り縄を避けて力強く踏み出した右足の膝のくぼみから、ひどく嫌な音がして、ついにオーガ族がうずくまった。
参考資料としてSASUKEの動画を見てみましたが、どれを見ても「クリアするための道具」が準備してあるので、いまいちぴんとこず。
二番目のヒトがどのあたりにいて、床のかけらがどれくらいの威力を持つかの計算が気になる方はこちらへどうぞ。
http://keisan.casio.jp/exec/system/1204505721
正直やり過ぎた感はある。




