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魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様、魔族の平定に乗り出す
26/37

その9

 魔王城にを囲む城壁には、東西南北に門が四つある。

 南がいわゆる正門、堂々とした大門で、よほどの事がないと使わない。北が大きいけど色々控えめな裏門。ブルーノ曰く、ここを使えるのが魔王と貴族の特権なんだそうだ。

 東西の二つは少し小さくて、誰でも使える。ジジやアシルは貴族だけど、意外とこだわらない性質らしくて、城下からお手伝いにきてくれるヒト達に混ざって入ってくる。

 ちなみに、ホアンはいつも空から悠々と入ってきて、日当たりのいいところに陣取る。誰よりも態度が大きいけど、誰も何も言わない。


 話がずれた。

 何の話かというと、要は敵がどこから入ってくるか、って事だ。魔王城は大きいし、他のヒトの力もあまり大っぴらに借りられない以上、相手を探すところから始めるなんて嫌すぎる。

 十中八九、南から来るわ。とジジは言った。

 彼らには彼らなりのご立派な理想があって、わざわざやってくるのだから、こそこそ隠れるような真似はしない。する理由がない。

 前の魔王を倒した時、あなた達もそうしたでしょう。と微笑まれると、何も言えない。


「ホアン! 今、相手はどこにいる?」


 玉座の脇の隠し部屋から粗末なハシゴを登って中二階に入ると、物置のようなそっけない部屋がある。


「えっと、たいようの、あるほう!」


 という事は、ジジの予想は的中したみたいだ。

 南向きの小窓を下から押し上げてみれば、見事に城門のトラップに引っかかって、岩のような大男が宙づりで動けなくなっていた。周りを似た体格の魔族が数人囲んで騒いでいる。

 トラップといっても単純なもの。ちょっと大がかりなだけの絡繰り仕掛けで、魔力も何も使ってない。きちんとした手順を守らないで門を開けると、足を一歩踏み入れた瞬間に、地面から網ですくわれる。それだけの子供だまし。

 故郷の城にだって似たようなのがあった。しかも、ずいぶん昔に仕掛けられたみたいで摩耗が激しくて、ちょっと見れば一目で怪しいとわかる。一応部品の交換はしたけど、まさか発動するなんて思わなかった。


 でも、これで一つ確信した。

 彼らはこの城を全然知らない。

 今まで妖精族の魔王は何人もいたはずなのに、あんな初歩的なトラップに引っかかるなんて、正直ありえない。

 ジジも長老も、アシルも、一族を代表して城に来たヒトはみんな、この城に詳しかった。

 間取りはもちろん、武器庫の奥に厳重にしまわれた呪いの鎧の由来や、執務室の隠し扉の数も、城の外れの枯れ井戸が水魔族の代表との会談の場につながってる事も、雑談のついでみたいに教えてくれた。

 代々の魔王が、こっそり自分が付け足したものを一族にだけ教えて死んでいくと、自然に知識がたまっていくらしい。実際、ジジの知識とアシルの知識は違ったし、向こうも私に全部教えてくれてはいないと思う。


 ちなみにブルーノもいくつか教えてくれたけど、どうも獣人族は連係をとるのが下手なようで、獣人同士でも知識に差があったり、うまく子孫に伝わらなかったものもあるらしい。長老と二人がかりでシバの知識を確かめようとして、うまくいかなくて、最終的に諦めてた。

 操り人形の王様に切り札を差し出してくれるなんて期待してないから、別にそれはいい。

 私が知ってるレベルのことは、妖精族も知ってる可能性が高いって意味だと思えば、裏をかかれないための最低限を教えてくれたんだと考えることにした。


 なのに、しょっぱなの門で引っかかるという事は、彼らの一族にはこの城のトラップの数々が全く伝えられてないってことだ。

 いけるかも、と思って移動しようとした、その時だった。


 門の方からものすごい破壊音が響いた。


 ぎょっとして振り返ると、網を吊るしてあった箇所が大きくえぐれて、埃で空気が真っ白になっていた。真下で妖精族が大斧を持った肩を回してる。

 地面に落ちた大男が、もがくように腕を振り回して網から抜け出してくる。側にちらばってるガレキなんか、尖ったところで怪我をするどころか、平気で踏みつぶしてしまった。他の妖精族も自分の周りの埃を手で散らすだけ。ちゃちな網なんかに手を貸す理由はないらしい。

 さすがに声はここまで届かないけど、抜け出すのに消耗するどころか、準備運動に手間取った仲間に文句言ってる雰囲気だ。


「わあ、すごいねえ。もんがこわれちゃった」


 ホアンはのほほんとしてるけど、冗談じゃない。あんなの、まともにやりあったら即死だ。一瞬で肉団子だ。

 私の思い違いだ。オーガ族とは直接戦ったことがなかったから、すっかり勘違いしてた。

 知識なんて、そもそも彼らは必要としてないのだ。正面から戦えば必ず勝てるし、半端な小細工なんて通用しない。

 足元から頭のてっぺんまで、震えに似た何かが抜けていく。手が勝手に動いて、身に着けた装備を再確認する。防具の革のなめらかさ、刃物の冷たさ、矢筒を背中に固定するベルトの締り具合、矢の本数。


「りー、あれつよい? おいしい?」

「だめだよ、ホアン。大人しくしてたら、クルルさんがホアンにだけ特製のおやつ作ってくれるって約束でしょ。」


 ぶふー、と屋根の上でホアンが不満そうに鼻を鳴らした。でも、動かない。約束を守るいい子だ。


 ホアンについては、あらかじめジジにも長老にも釘を刺されてる。

 もしホアンが首をつっこむことがあれば、仮に妖精族に勝利しても、それは私の実力とは認められない。ネズミ族の前例とあわせて、「たまたま手懐けた竜におんぶにだっこ(ブルーノ談)」って評価になる。

 まあ、言われてみれば当たり前の話だし、反論のしようがない。

 私の実力なんて、たかが知れてる。一対一で正面からやりあえば、多分私はクルルさんの上腕二頭筋にも勝てない。

 でも、城の入り口にすら立ってないのに、ピクニックにでも来たみたいに笑ってるのは、やっぱり、うん。

 あとあと面倒だから殺すな、うまく加減しろってユージンに無茶言われたけど、そもそも頭数が違うし、こっちは人間だし、どうせちょっとやそっとじゃ怪我しないんだし、遠慮なんてすることないよねー、って気持ち。


 という訳で、さっさと大広間に戻って、玉座をくるりと一回転させた。

 カチ、とスイッチが入る。


 次の瞬間、景気のいい爆音が正門で轟いた。

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