表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様、魔族の平定に乗り出す
25/37

その8

 私の本業は弓師だ。そう決められた。軍で訓練を受けさせられてた頃のことだ。

「聖なる神弓」を与えられたのは、城へつれていかれてすぐだった。多分、性別と親の職業が理由だと思う。

 それ自体に不満がある訳じゃない。実際、一通り戦い方は教わったけど、剣は「ぎりぎり及第点」と言われた程度、体術は才能がなくて、槍や斧は腕力が足りなくて論外。

 私に弓をやらせると最初に決めた人は、見る目があったんだと思う。少なくとも、初対面でいきなり「勇者の相棒」に任命してきた人よりは。ええまあ、今も根に持ってますとも。

 それはそれとして。


 ここで一つ問題がある。言うまでもないけど、弓師は単独での戦闘には不向きなのだ。

 まず、女の腕力や体格ではあまりに大きな弓は引けない。大型の弓を引けないとなると、一射の威力は当然落ちる。

 小型の弓で数をかせぐ戦法をとるなら、こまめに矢の補給をしなくちゃいけない。当然、どんなに頑張っても、補給のタイミングは無防備になるし、もたつく。連射式の弓もあるけど、やっぱり矢の本数には限りがある。

 それに、弓で敵を倒そうとするなら、確実に急所を狙わなくちゃいけない。胴をかすめたって、牽制にもならない。

 戦闘中の全てに一人で目を配っていると、集中力は削がれる。相手との距離があるならともかく、接近戦になると終わりだ。


 獣が相手の狩りなら、そもそもこんな事考えずにすむんだけどなあ。嫌だなあ。面倒だなあ。


「仮に、私やおばあさまが陛下のサポートに入って勝ったとしても、妖精族は陛下を認めないでしょうね。」と冷静なユージンに対し、ジジがふん、と鼻を鳴らした。


「暴力を唯一の基準にする野蛮な種族はこれだから。」


 ジジは偏りすぎだけど、前の魔王様が妖精族だったことを考えると、完全に否定もできないんだよなあ。


「矢面にたつのは、あくまで一人だけ、ってこと? さすがに死ぬんじゃない?」


 嫌な事をあっさり言ってくれたのはアシルだ。私も同じ事をちらっと考えたけど、他人に言われるとちょっとムカッとする。


「おそらく彼らは代表を出してきます。前の魔王様の性格を思い出せばおわかりの通り、たかが人間の小娘一人に大軍を差し向けるような真似を、妖精族は好みません。」


 たかが、人間の小娘一人。

 うん、正しい。私は実際小娘で、腕力でも魔力でも劣る人間だ。

 でも今のはちょっと、かなり、カチンときた。


「それが、『勇者の相棒』でも?」


 好きでそうなった訳じゃない。好きでやってた訳じゃない。だけど、あんまり下に見られてるのも癪だ。私だって、死にもの狂いで生き延びた時間がある。


「そうです。陛下、あなたが勇者だろうが魔王だろうが、彼らのプライドが許しません。」


 ユージンのその一言で、私の気持ちは決まった。


 選んだのは魔王城の大広間。前の魔王を倒した場所だ。

 吹き抜けの天井にはステンドグラスの装飾、扉は堅くて分厚い一枚板に蔦模様が彫ってある。床も壁も白っぽいから、日中はシャンデリアをつけなくても明るい。「魔王城」という言葉からは連想できないかもしれない。

 でも。

 一番奥に置いてあるふかふかの椅子に座って、ぐるりと見渡す。

 悲惨だ。

 天井は大穴が空いて風が吹き込み、床は陥没して、ヒビの入った壁には破れたままのタペストリー。この椅子だって、ひじ掛けが片方ない。物はいいのに、どこもかしこも傷だらけ。廃墟そのもの。

 どれもこれも全て、前の魔王を倒した時のものだ。

 天気がいいのが救いかもしれない。光がよく入って明るいし、屋根で鳥がぴいぴい鳴いてるのが聞こえるから、のどかだ。風も穏やか。人がいなくなって荒れた村って、まさにこんな感じ。


 戦闘の跡が残ってるのはここだけじゃない。ユージンや私が生活してる居住スペースは無傷だけど、城門も庭も廊下も、最初はボロボロだった。順番に直してるけど、予算の関係で大広間は後回しにされたらしい。

 あまりに放ったらかしなのを見かねてか、近所の獣人が修理を買って出てくれたけど、ちょうどよかったから、ここで迎えうつことにした。

 何かあったら危ないから、他のヒトは近づかないようになってる。長老やブルーノは今日も仕事、ユージンはまた外出。ジジは城全体に魔力を注いでくれてる。ホアンは庭で昼寝中。


 近くに誰の気配もしないのは、久しぶりかもしれない。

 高い空を見上げてると、どこか田舎のボロい聖堂にでも来たみたいな気分になる。それくらい、のどかだ。


「…私は、本当に、何やってんだろ」


 何が悲しくて、いまだに命張ってるんだろ。どうしてこうなってるのか、自分でも謎だ。今回のこれは、ユージンにうまく乗せられた感じはする。


 旅が終わってから大して時間は経ってないはずだけど、胸当てやら籠手やら防具一式を着けるのは久しぶりな気分だ。弓は魔獣退治とか、ネズミ族のとこに行くのにも一応持って行ったし、なんだかんだで使ってたけど。

 城の武器庫から引っ張り出してきた借り物なのに、何となく落ち着く。

 それがまた悲しい。


 一人でいると、あれこれ考えてしまって嫌だなあ。

 悪夢のことだってある。

 城に戻ってきてから、また悪夢を見てる。やっぱり中身は覚えてない。朝起きると頭痛がすることがある。少しずつ疲れがたまってくのがわかる。

 私を魔王城に引きずり込んだ例の魔力とかが、人間にはよくないものなんじゃないかと考えたりもしたけど、長老にそんな話は聞いたことないと鼻であしらわれた。

 おまけに「もうしばらくは生きててもらわないと困るんじゃが」ときた。ユージンはユージンで「そんなに『魔王』を気負っていたとは思いませんでした」なんて言ってくるので、いつかそのうちあの二人を追い落としたい。

 頑張れば、きっと、どうにかして。なせばなる。はず。


 ………えーと、何の話だったっけ。

 ふと、頭上がかげった。


「りー! きたよ!」


 上を向くと、ホアンが天井の穴の上からひょっこりと顔をのぞかせていた。

 耳をすませば、普段は聞こえない音が色々と響いている。


「いっぱい来てる?」

「うー? うー…、えっとね、ふつう」


 竜の子の「ふつう」って、私の「普通」と一緒なのかな。ちょっと不安になる。


「ねえ、あれ、たべちゃだめ?」

「だーめ。お腹が空いてるなら、厨房でおやつもらっておいで。」

「やだ! おもしろそうだから、ここで、みる!」


 屋根の上からズシズシと音がした。体の方向を変えたんだろう。子供といっても竜の巨体、天井の穴から折木片やら埃やらレンガのかけらやらが降ってくる。大丈夫かな、天井。崩壊するなら、これが片付いてからにしてほしいんだけど。

 不安になりながら、一度椅子から降りて、体をほぐす。ぱんと顔を叩いた。

 頑張って生き残らないと。


「あ! ねえねえ、りー! りーがしんだら、りー、たべていい?」

「………。………………。」


 ………が、頑張って、生き残らないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ