その11
いきなり何を言い出すのか、と思われるかもしれないけど、私は、美少女には耐性がある。
理由は単純明快で、最近まで一緒に旅をしてたからだ。
魔王討伐のメンバーは私を含め六人。そのなかで、男は「ヤツ」一人だった。
もう一度言う。男一人、女五人だった。
…うん、あのね。冗談じゃないんだ、これ。私もいまだに信じたくない。絶対、何かの手違いがあったはずだ。
偶然なのか故意なのかはわからないけど、とにかく、女の集団に男一人が混ざると、結果は二通りに分かれる。共有の下僕兼オモチャにされるか、取り合いになるか、だ。
たいていはオモチャにされるんだけど、なぜか、本当になぜなのか、「ヤツ」の場合は取り合いになった。
となると、おわかりだろう。女同士ややこしくなるのである。
「ヤツ」の幼馴染ということが広く知られてたせいで、私は散々な目に合った。美少女ににらまれたり、美少女ににこにこ顔で寄ってこられたり、美少女達のにらみ合いの間に入ったりした。
完全にとばっちりだ。
なんでだ。ほんとになんでだ。「ヤツ」は私と同じ、平々凡々な馬鹿なのに。みんなタイプは違っても美人揃いだったのに。その気になれば、相手が神官様だろうが王様だろうが、すぐにでも嫁に行けそうなのに。一体アレのどこを気に入ったんだ…。
話がずれた。
とにかく、そんな訳で、美少女に嫌われようがにらまれようが微笑まれようが、あまり動じなくなった。
それは、ソファーから見上げてくる女の子にも当てはまる。
「人間のお嬢さん、どうしてこんな所にいるのかわからないけれど、ひとまず名前を教えていただける? このままじゃ、お互い不便ですもの。」
銀髪の美少女、とってもにこやかだけど、声はひんやりしている。
声、出していいのかな。これくらいはいいよね。
「リーです」
へらっと笑顔を作ってみる。しばらく、この顔で通そう。笑顔にまさる武器はないとも言うし。
「それは本名?」
うぐ、鋭い。
「本名が好きじゃないので。皆そう呼んでます。」
別に偽名じゃない。ちゃんと本名からとった呼び名だ。日常生活を呼び名で通すのはよくあることだし、わざわざ言うことでもないと思って、省略しただけで。
ああ、隣のユージンの視線が痛い。自分の知らなかったことを他人に聞き出されるのって腹立つよね。わかる。でもこれ流れに乗せられたというか、不可抗力。
「そう。私も本名が嫌いで、ジジと呼んでもらっているの。あなたと同じね。それで、リー、あなたは、『何』?」
「おばあ様、そこから先の詳しい説明は私が。」
すばやくユージンが割り込んだ。
…待って。「おばあ様」?
ぎょっとして、二人を見比べる。(見た目)二十歳そこそこのユージンと、(見た目)十二歳のジジ。
銀髪は確かに同じだ。髪質も。ユージンは男くささが薄いし、雰囲気とか、眉の形とか、顔立ちも似ていると言えなくもない。
でも、この美少女がおばあ様? 逆じゃなくて? それこそ冗談でしょ?
「ユージン? 私は今、あなたとではなく、彼女と話しているの。おわかり?」
「承知しております。が、おばあ様も仰ったとおり、彼女は人間で、魔界のことには詳しくありません。そのかわり、彼女の第一発見者である私が、今後のことも含めて説明をさせていただきます。」
気のせいかな。バチバチと火花が発生してる。身内じゃないのか、あなた方。
ジジがゆーっくりと目を細めた。
「よろしくてよ。それでは、その説明とやらを聞かせていただこうではないの。」
わああああ、怖い! この子、…子?、このヒト怖い!
ユージンがこほ、と一度咳払いをした。
「まずは、今朝方の城の異変に関してですが、これは城の意思によるものです。率直に申し上げます。城は、ここにいるリーを、新たな魔王としました。」
息を飲む音がいくつか聞こえた。動じないのは、もう知っている長老とシバ。ジジは微笑みを崩さない。
「待て、その子は人間だろう。」
太い声をあげたのは、ソファーの近くに陣取ってた獣人。上半身は人で、下半身は馬の、ケンタウロス型だ。めずらしいことに、背中に鳥の翼までくっついているから、ケンタウロス型の中でも「天馬」と特別に呼ばれるタイプだ。
獣人らしく、上半身も下半身もがっちり筋肉がついている。一応、上半身は布を巻きつけているけど、頭部が無精ひげに髪もボサボサの中年男性とくれば、見た目の暑苦しさというかむさ苦しさは否定できない。
「そうです。人間界と魔界との間に穴があき、彼女が魔界へ落ちてきたのが今朝。落ちてきたのは、私の客室でした。城にプロテクトがかかっているのは、皆様もよくご存じのはず。他でもないこの城が彼女を選んだ。今はそれだけが確かなことと言えるでしょう。」
天馬がぽりぽりと頭をかいた。
「だからってなあ…」
「元はと言えば、いつまでも私たちがもめて、王をたてなかったのが原因です。仮に彼女を殺したところで、次の王を誰にするのか、また同じことで揉めるだけです。それなら、いっそ受け入れる方がよいでしょう。魔界の未来のためにも、私たちが無能と指さされるのを避けるためにも。」
なんか、今、さらっと怖い言葉が聞こえたぞ。
頬がひきつりそうになって、ぐっと力をこめた。これが終わったら、逃げる準備だけはしとこう。
「人間だぞ。魔界についてどれだけ知っているかも怪しいのに、魔王が務まると思うのか」
「確かに、新たな魔王陛下は、魔界についてほとんど何もご存じない。浮浪児、以下です。」
きっぱりと言われた。返す言葉もないけど、その例えはどうにかなんないかな。
「先代魔王陛下は、ちょっと色々アレな方でしたが、一つだけよいお言葉を残されました。」
曰く。
我、君臨すれども統治せず。
…いや、ちゃんと統治してくれないとこっちが困るから。
「これを、我々は踏襲しようと思います。」
ユージンが宣言した。
ハーレムタグは嘘じゃないけど、リーの周りではないのです。




