デルゼの想い
デルゼ・ナーリス:龍族 騎士団長
戦場で最愛の人を亡くす。
ヴァルハロには危ない事をしてほしくないと思いつつ、本人のやる気を損なわないように接している。
ザックスが家まで迎えに来るのは、夫を亡くし傷心したデルゼを毎日励ましに来ていた名残り。
風の球体に刃を混ぜる...。どうやって...。
片手は球体の維持に使用している。
では、もう片方の手を使い刃を発生させる?
ヴァルハロは手刀を作り、風の刃を作った。
自分の右手の球体に向かって放つ。
「いっっでぇぇ!」
腕が切れた。
鱗が無かったら切断されていたかもしれない。
もっと小さい刃を生み出すには?
手刀だとデカすぎる。
指先に魔力を込め、風の刃を生成する。
デコピンの要領で球体に放つ。
球体に巻き込まれた刃は、中で円状に回転する。
「出来た!」
デコピンでさらに刃を球体に放ち、目の前の木に投げた。木にぶつかった球体は、木のサイズに膨張し飲み込む。飲み込まれた木は無数な刃に四方八方から切断されて細切れになった。
「本当に剣...いらないじゃん。」
ぐしゃっ___
背後から何かが落ちる気配がした。
振り向くとそこには、食品が入ってるであろう紙袋を落とし真っ青な顔をしているデルゼが居た。
「あぁ、なにやってるんだよ母上。」
袋を拾おうとしたヴァルハロの両肩を、デルゼは激しく掴む。
「ヴァルハロ、あんた誰に魔法を教わったの?」
「え...?ザックスだけど...。」
ザックスと聞いた瞬間、母上は全身に風を纏い目の前から消えた。
巻き起こる暴風に目を開けてられず腕で顔を守る。母の身体を纏った風には、殺意が混ざっているように感じた。なぜ母は、あんなに怒ったのだろう。しばらく考えたが答えは出なかった。
「ザックス...死ぬ前にもう一度稽古つけて欲しかったな...。」
10分後、顔をパンパンに腫らしたザックスが母に首根っこを掴まれ目の前に現れた。
「明日から毎日、ザックスがヴァルハロの稽古をつけてくれるからね。」
「え?それは凄く嬉しいけど...ザックスはその顔どうしたの?」
「う"ぼぱぽぺべぱ、ばぶばべばんば。」
「そ、そうなんだ。」
なにを言ってるのかなにもわからなかった。
__________
翌日、ザックスは俺が学校から帰ると稽古をつけてくれた。
後から聞いた話だが、ザックスが川釣りをしていると上空からいきなり母が降ってきたらしい。着地の衝撃で川の水は上空に飛び散り雨となり、川の魚は弾き飛ばされ木っ端微塵だという。無慈悲な殺生は感心しないな。
ザックスは殺意剥き出しの母に迫られた。
「ザァァクス...。歯を食いしばりなさい...。」
「デルゼ!?なにがあった!?なぜそんなに怒ってぶべべべべ!?」
ザックスの顔は容赦のない高速連続パンチを受けた!!
__________
「ザックス、あなたどういうつもりです?」
もはやダムと化した川を眺めながら座り、優雅に語り合う。なにが優雅なものか。歯が折れたし、顔が段々と腫れてきた。
「な...なにが?」
「ヴァルハロに魔法を教えたでしょ。」
「魔法?ヴァルハロはすでに魔法を使えたぜ?」
「違います。魔法での戦闘技術を教えたでしょ?」
「あ...あぁ、あいつは母を超えるって言ったんだ。」
「それで教えたんですか?」
「それだけじゃ教えないさ。あいつの目には闘志が宿っていた。誰かを護りたいという闘志が。お前の事だぞデルゼ。」
「護る?私を?私はヴァルハロを護る為に戦ってるの。なぜ、あの子に魔法を教えなかったか分かるかしら?あの子を戦場に行かせないためよ。戦い方も知らなければ、騎士団に合格することもない。剣は毎日振って、頑張っているけどそれだけで騎士団に入れるほど甘くはないわ。」
「デルゼ、戦い方っていうのは誰かを護るためだけにあるんじゃないぞ。自分を守るためにも使えるんだ。例えば街が襲撃されて、ヴァルハロが襲われたらどうする。お前は戦場に赴き不在。戦い方を知らないヴァルハロは、一方的に殺される。」
デルゼは言い返さなかった。
「それに、【弱い】罪はお前が1番痛いほどわかってるだろう。お前の旦那は、お前をか___」
デルゼの瞳から涙が溢れた。
その涙は頬を揺らし、膝の上で強く握られた拳にピタリと落ちる。美しすぎるその鱗を涙が濡らし、まるでオーロラのような神秘的な輝きを放つ。
ザックスは、瞳に溜めた涙を指ですくい、デルゼの肩に腕をまわした。
デルゼはその腕を掴み、前へ投げ飛ばした。
倒れたザックスの顔面に往復ビンタを喰らわし、ただでさえ腫れてた顔が、ア◯パ◯マ◯のように腫れ上がった。
__________
「ヴァルハロ、自分に風を纏わせてみろ。」
「こう?」
自分の身体の周りをぐるぐると回るように風を巡らせる。
「良い感じだが、そうじゃない。真上に一方通行に吹かせてみろ。」
回っていた風を真上に送る。
「次に翼を広げてみろ。」
翼を広げると身体が浮き上がった。
「飛ぶんだったら羽ばたけば良いじゃないか。」
「羽ばたきと合わせて追い風を送るんだよ。そうすれば格段にスピードが上がる。それだけじゃない。自分が攻撃する時、例えば蹴りを入れるときに、蹴る方向に風を送るんだ。そうすれば攻撃のスピードも上がるだけじゃなく、威力も格段にアップする。送る風を強くすればするほどさらにな。」
目から鱗だった。
実際には、鱗は身体にしか無いのだが。
今まで風を飛ばし土埃しか上げなかったヴァルハロにとって、ザックスから教えてもらうことは全てが自分の常識を覆すものだった。
「あと、この間教えた風の球体。あれに指を弾き刃を送る発想は悪くなかったが、作成に時間がかかり過ぎて実用性が無い。もっと、手早く生成する方法を編みだせ。」
「もっと早く...。」
「お前明日から風だけで移動な。」
「ええ!そんな事したら魔力切れ起こしちゃうよ!」
「いいか?魔力は【力】だ。魔法を使えば、身体は疲弊していく。走り続ける感じだな。その力の消費を抑える為に、正しい形で無駄な力を消費せず効率よく走ることも重要だ。そして、魔力は使えば使うほど、最大貯蔵数が上がるんだ。鍛錬と一緒で、キツイと思ってからが勝負だ。寝てる間も身体に風を巡らせろ。」
「寝てる間も!?」
「無意識に風を操れるようになれば、戦闘中の意識も他に回せる。これが出来ると出来ないでは生存率が桁違いに変わる。」
「...わかった。やってみる。」
「あと、週に1回新技考えろ。」
「月1じゃダメ?」




