ザックス
ザックス:龍族
騎士団長 デルゼ・ナーリスの側近。
デルゼを慕っている。
父が居ないヴァルハロを気にかけているが、今のところ挨拶程度。
「ヴァルハロ、今日は何をして遊ぶ?」
母 デルゼ・ナーリスは、いつもそう言って俺の頭を撫でた。当時はまだ騎士団長で、戦場に出る前の母は、よく笑っていた。
「母上、今日は剣の稽古をつけてください!」
白く輝き、光の加減で虹色にも見えるその鱗は、血に汚れた戦場では敵も味方も見惚れてしまうほど美しく、そして踊るように戦う。
白銀の戦女神と称され戦場で数々の功績を上げている母は誇らしく...
「ふふ、また剣? ヴァルハロは本当に剣が好きね。」
「好きなんかじゃない。ただ、強くなりたいんだ。」
「どうしてそんなに強くなりたいの?」
母が死ぬのが怖いから...
口には出せなかった。
母が戦場に行くのが怖い。
いつか死んで帰ってくるのではないかと。
そう思うと、眠れなくなる夜が幾度もあった。
その度に、母上は身を寄せて一緒に寝てくれた。戦で居ない日を除いて。
でも、それを言えば母を悲しませる。
言えば言霊になる気がする。
「...母上に、背中を預けてもらえるようになって、一緒に戦いたいから。」
母は少しだけ驚いた顔をして、それから優しく笑った。
「ヴァルハロ、あなたなら必ずやり遂げる。父さんもあなたくらい頼もしい男だったよ。」
父は俺が産まれて間もなく戦死した。
背中を預けてもらいたいなんて嘘だ。
本当は、強くなって母上がもう戦場に立たなくてもいいようにしたい。
毎日、家でご飯を作って待っていてほしい。
そんな夢見たいな光景を俺は心から望み野望としている。
毎日、毎日、剣を振った。
メキメキと才覚を表し、大人の兵士と互角に戦えるようになっていた。
だが、それでも母には敵わなかった。
母の背中はいつも遠かった。
「ヴァルハロ!!いつ来ても剣振ってるな。俺がお前くらいの時は仲間達と遊びまわってたぞ!」
ザックスは騎士団長である母の側近で、よく家に母を迎えに来ていた。
「遊んでいる暇なんてない。」
「おいおい、まだ子供だろ? 少しくらい遊んだって誰も怒らねぇよ。」
「俺には時間がないんだ。」
「時間がない?」
ザックスは眉をひそめた。
俺は剣を握ったまま、何も答えなかった。
「……俺は母上を超える。」
「…………」
ザックスは黙った。
しばらく俺を見つめたあと、頭を掻く。
「なるほどな。」
「何が?」
「いや。お前がどうしてそこまで剣に執着するのか、少し分かった気がした。」
「だったら邪魔しないでくれ。」
「邪魔なんかしねぇよ。」
ザックスは笑った。
「ただし、今日は俺と一本やれ。」
「ザックスと?」
「ああ。お前がどれだけ強くなったのか見てやる。」
俺はすぐに剣を構えた。
「後悔するなよ。」
「言うようになったじゃねぇか。」
ザックスが腰の剣を抜く。
次の瞬間――。
「来い!」
地面を蹴った。
「ハァァッ!」
一気に間合いを詰める。
上段から振り下ろす。
ガキィンッ!!
「ぐっ……!」
受け止められた。
だが、俺は止まらない。
一歩踏み込み、剣を滑らせる。
右。
左。
突き。
斬り上げ。
「おっと!」
ザックスは次々と俺の攻撃を捌いていく。
それでも俺は攻撃を止めなかった。
「おお……!」
ザックスの表情から余裕が消えていく。
最後の一撃。
全身の力を込めて横薙ぎに振り抜いた。
ガァンッ!!
二本の剣が激突し、火花が散った。
「……はぁ、はぁ……」
「…………」
ザックスは剣を下ろした。
「お前、魔法は?」
「え?」
「魔法だよ。まさか使えねぇのか?」
俺は息を切らしながら笑った。
「馬鹿にしないでよ。魔法ぐらい使える。」
「じゃあ、今度は魔法込みで戦ってみろ。」
「......わかった。」
風を巻き起こし飛ばす。
「うぉ、風魔法か。でも、そんなそよ風じゃダメージなんて通らねぇぜ。」
しかし、ザックスは前を見て目を見開いた。
ヴァルハロが居ない。
背後から気配。
ガキィィン!
「あっぶねぇぇ!」
寸前でヴァルハロの剣を受け止めた。
風を起こし砂埃を立て、死角を作ったのだ。
「やるじゃねぇか。」
再び、ヴァルハロは風を巻き起こし視界を遮る。
「また死角から攻撃してくるつもりか?」
砂埃の死角に加え、砂埃が目に入りまともに目を開けられない。
ザックスは笑った。
そして、目を閉じた。
「......。」
ザックスの動きが止まる。
砂埃の死角から飛び出し剣が振り下ろされる。
「____っ!!」
死角からの攻撃をザックスは余裕で受け止めている。
そして目を閉じている事に気づいた。
「コイツ!!ふざけるな!!」
連撃を繰り出す。
が、全てザックスは受け流す。
「こんのぉぉ!」
ゴンっ!!
ザックスは拳骨を繰り出した。
「いっってぇぇ...!」
「お前、その魔法の使い方は独学か?」
「だったらなんだよ。」
「お前の母さんから教わらないのか?」
「教えてくれないんだ。まだ早いって。」
「へぇ......。」
「教えてやろうか?」
ヴァルハロは目を輝かせた。
強くなれる。
その期待に胸を躍らせる。
「お前、風魔法はどこまで使える?」
「え?さっき見せたじゃん。」
「あれだけか?」
「そうだけど。」
(お前の母さんは、お前を戦場に行かせたくないんだな。だがな、デルゼ...。)
「風魔法の使い方は、風を起こすだけじゃない。」
「え?」
「まず、手刀を作ってみろ。」
「こう?」
言われるがまま、手刀を作る。
「手先に魔力を集中させ、刃をイメージしながら風を纏わせろ。」
「出来た。」
「そのまま手を振り、刃を前に飛ばせ。」
シュンッ!!
目の前の木が、スパンッと切れ倒れる。
「え??」
「見たか?すげーだろ。」
「......剣いらないじゃん。」
「ハハハッ!そうでもねぇよ。」
ザックスは一度で習得したヴァルハロのセンスに、デルゼの面影を見ていた。
「次は、手のひらに風を渦巻かせ球体を作ってみろ。」
ヴァルハロは手を広げ、風の渦をイメージする。
「......むずかし。」
「そりゃ、魔力コントロールが出来なきゃ絶対に無理な芸当だ。魔法の基礎中の基礎だな。通常は習得に数ヶ月はかかる。これを飯食ってる時やお風呂の時の隙間時間に練習してみろ。それが出来るようになったら、また次を教えてやる。」
ザックスは立ち去りながら後ろ手に手を振る。
「......出来た。」
ガンっ!
ザックスがコケた。
「嘘だろ......。」
「自分の周りに円状に砂埃発生させる練習を毎日してたからね。その規模を小さくするんだから、考えてみれば簡単だよ。」
「そっ......か。」
簡単じゃねぇよ。
凝縮が1番難しいんだよ。
「じゃあ、その球体に無数の刃を混ぜてみろ。」
「え??どうやって?」
「自分で考えてみろ。魔法は自由なんだ。自分で編み出すのも醍醐味だよ。」
「.....わかった。」




