失翼
ヴァルハロ・ナーリス
種族:龍族
長い銀灰色の髪に、琥珀色の瞳。
頭には鋭く伸びた黒銀の角が二本。
母親譲りの白く輝く鱗で全身を包み、光の加減で虹色にも見える。龍化後も同色の鱗。
顔には鱗はなく、ペールオレンジの肌が見える。
腰からは龍の尾が伸びる。
大きな声では言えないが、マザコン。
ガキンッ!!
激しくぶつかり合う金属音が響く。
メルリスとヴァルハロ・ナーリスは激しい攻防を繰り返していた。
魔力の消費が激しく、ほとんど残っていない。
ここから先は、魔法無しの肉弾戦となるだろう。
龍族であるヴァルハロの繰り出す槍斧の一撃は、地面に大きなクレーターを作る威力だ。
まともに受けると間違いなく木っ端微塵になる為、メルリスは剣で威力を受け流しながらなんとか耐えていた。
動体視力は、ずば抜けて良かった。
目にも止まらぬ速さで繰り出される槍斧をなんとか受けきっていた。
「どうした!!防戦一方だな勇者よ!!そのまま押し切り、貴様の首を魔王様へ献上する!!」
槍斧で激しく攻撃をしながら視線を誘導させる。その死角から、右脚でメルリスの脇腹に蹴りを入れた。
「ぐあぁぁあ!!」
メルリスは吹き飛ぶ。
砂埃が上がり視界が遮られる。
メルリスが居るであろうその先に、ヴァルハロは槍斧をトマホークのように投げ飛ばす。
ガキィィイン!!
金属音が響く。
この砂埃の死角の中でも、メルリスは剣で槍斧を弾いたのだ。
砂埃が晴れると、そこには折れた剣を持つメルリスの姿があった。
「ここまでだな勇者。その剣ではもう戦えまい。大人しく首を差し出せ。」
「...断る。」
メルリスは、折れた剣を地面に置いた。
「すぐ、治してやるからな。」
そう告げた直後、メルリスの雰囲気が変わった。全身から湯気のように魔力が静かに噴き出す。
「...?なんだ?その構えは...」
顎を引き、拳を作り顔の前に出す。
ファイティングポーズだ。すぐさま、攻撃にも防御にも転ずる事ができる究極の構え。
しかし、この世界の人間には分からない。
相手は丸腰だ。
まだ魔力が残っていたのかと思ったが、大した量は残っていなさそうだった。
しかし、そこに隙はなく近寄る事を躊躇う。
ヴァルハロは翼を大きく広げた。
上体を前に倒し、地面を思い切り蹴る。
凄まじいスピードで一直線に跳躍しメルリスとの距離を詰めた。
音よりも早く到達したヴァルハロの拳は、宙を仰ぐ。
メルリスは首を傾げるように拳を回避していた。
ヴァルハロは翼を仰ぎ、急な体勢変更を行い次の攻撃をすぐさま繰り出す。
人間には出来ない芸当。
横から薙ぎ払うように蹴りを入れるが、その脚はまたも宙を舞っていた。
メルリスが消えた。
違う。凄まじいスピードでしゃがんでいた。
まずい...!!
そう思うより先に、ヴァルハロの両翼が消し飛ぶ。
「ぐぁぁぁぁあっっ!!」
痛い!!何をされた!?翼をやられたのか!?
翼はもう使い物にならない。
翼がなければスピードが落ちる。
攻撃力も回避力も翼によるブーストの恩恵は大きい。
翼が無くても、身体能力は人間よりも龍族の方が優れている。
しかし___
一旦、引くのが賢明だろうか。
メルリスが剣を失った後の急激な戦闘力の上昇に、ヴァルハロは撤退を決断せざるを得なかった。
人間であるメルリスが、翼の機能が失われたとはいえ、龍族のスピードに勝る訳がない...はずなのに何故か危険予知能力が告げていた。
背中を見せた瞬間に死ぬ____
逃げて死ぬならば、残りの全魔力を使い、
龍化の衝撃波でメルリスを吹き飛ばす!!!
「くたばr...」
ヴァルハロは頬に強い衝撃を感じ、視界が歪んだ___




