プロローグ
この作品は、各章の人物の視点から描かれる走馬灯ファンタジーです。それぞれの目線から少しずつ見えてくるこの世界をぜひお楽しみください。
あらすじ から読んでいただけると世界観をより深く楽しめるかと思います!
主人公:中村 龍聖
職業:ボクサー
中村 龍聖の強烈なパンチが顔に入ると、殴られた相手は必ず走馬灯を見る。
周りからは、走馬灯パンチ、リワインド・ライフ・メモリー、追憶パンツァーと呼ばれている。
今日は、タイトルマッチ防衛戦である。
「あなたなら大丈夫。信じてる。いつも通り勝って来て。」
母親は、笑顔で優しく龍聖を抱きしめる。
いつも試合前は、この儀式が始まる。
セコンドである父親も続けて声をかける。
「何度も映像を見返したからわかると思うが、今回の相手は、お前と互角かそれ以上のパンチ力がある。相手の癖やリズムを叩き込んだが、それは過去の相手の映像だ。実際に闘うのとは訳が違う。臨機応変に...」
「あぁぁ!それ何度も聞いたって!!集中したいからその話は勝った後に聞くよ。」
「減らず口を...。絶対勝つぞ。俺もセコンドとして最高のサポートをしてみせる。」
「絶対、無理しないでね。」
母親は、再度抱きしめてきた。
妙にいつもより力強く感じる抱擁だった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
リングの上、歓声が遠い。
中村龍聖は、最終ラウンドのゴングが鳴った瞬間、勝利を確信していた。相手はすでに両腕が上がらず、ガードは形だけ。あと一発、顎に打ち込めば倒せる。ベルトは俺だけのものじゃ無い。絶対に死守する。
左ジャブで距離を測る。相手がわずかに後退した。その一歩で、足に感じた違和感を、龍聖は無視できなかった。足裏、膝に違和感を感じる。耐えてくれ、あと一歩なんだ。
視界が傾く。相手の動きが止まって見える。踏み込んだ前足に力が入らない。それもそのはずだ。相手は今までに無い強敵だった。いつもの相手なら、ガードごとパンチで弾き飛ばせる。しかし、それが通用しない最高の敵。気持ちも昂り、いつも以上に高揚していた。
気持ちとは裏腹に、超強力な戦車級のパンチを支える左脚はとっくに限界を迎えていた。
体が前のめりになる。ガラ空きになった顔面に、相手の最後の力を振り絞った右ストレートが突き刺さった。
衝撃___
首が後ろに折れる。リングの照明がやけに明るい。音が消えた。歓声も、セコンドである父親の叫びも、すべて遠ざかっていく。
真上を向いた顔面にすぐさま、真下に拳がぶち込まれる。
リングに後頭部が叩き込まれる。
ああ、これ...死んだかもしれない。
「りゅうせぇぇぇ!!!!いやぁぁぁ!!」
応援に来ていた母親の声だけ鮮明に聞こえる。
龍聖の意識は、そのまま深い闇へと落ちていった。




