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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第四部 越前攻め
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 オレが呆然と騎馬の一団が去っていくのを見送っていると何者かがオレの肩を叩く。オレが振り返ると小助がいた。


「もう、あちこち行かないでくださいよ。追いかける身にもなってよ」


「すまん。こっちはこっちで色々あるんだ」


オレがそう答えると小助は手を横に振る。


「いいって。今回も道舟様からの伝言だ。油坂峠に来い。以上」


「また夢枕かよ」


オレがそう言うと苦笑いをして小助は去っていった。オレは気乗りしないまま油坂峠に向かっていった。


 オレは白く光る寺の目の前にいる。何故入らないのかって? 驚きで足がすくんでいるのだ。


「何をしている? さっさと入ってこい」


道舟がオレに言ってきたが、オレの足はすくんだまま入口で立ちすくんでいる。


「いや、そこには入っちゃいけないとオレの本能が訴えているんだよ」


「仕方ない。今回だけだぞ。旅人よ」


道舟がそう言うと、オレは気づくと本堂の中にいた。いやいや、見たくない。見たくない。信長の死体なんて……。


「これが今回そなたが得たこたえだ。これで間違いないないか?」


道舟がそう言うとオレは首を横に振った。


何がしたいんだ。

オレは⋯⋯。


「道舟、このゲームの勝利条件を教えてくれ」


オレの問いに道舟は黙り込んでいる。


「すまん。そうだよな。言葉の意味がわからんよな。どうやったらここからオレは抜け出せる?」


「いや、言葉の意味はわかっているが、それを見つけるのが旅人の役目だ」


ゲームの勝利条件で通じていたのかよ。


「じゃあ、オレがこれがこたえと答えたらこの旅は終わるのか?」


「そうだ。そうすれば、そなたの旅はここで終わる」


道舟の答えにオレは呆然とする。


よし、言うぞ。

これでいいんだ。


「そうだ……」


「小次郎、それでいいのか?」


オレの言葉を遮り、死んでいるはずの信長が口を挟んできた。


「ああ……。信長、お前がここで死ねば戦国乱世がこのまま続くだろう。そうすれば、異国などに攻め込もうとする余裕なんてこの国には生まれない」


「本当にそう思うか?」


オレの言葉に道舟が訊く。


「小次郎、ワシがここで死んでも誰かが成し遂げる」


成し遂げる。

何を?


「それが運命なんだよ」


道舟がオレの心の声に答える。


「ならば、オレのこたえは簡単だ。そのクソッタレな運命とやらと戦い続ける」


オレは信長の死体を抱きかかえ本堂を出ていった。


信長の死体はいつしかオレの腕の中から消失し、オレは金ヶ崎城の前に立っていた。


 時は元亀元年四月、金ヶ崎城は織田・徳川連合軍によって落城した。オレが信長本陣に駆け込んでいくと信長は立ち上がりオレに声をかけた。


「小次郎、小次郎ではないか。随分捜したぞ」


「織田殿、兵をお退き下され。北近江から敵軍が迫っております」


「北近江から敵軍だと……」


周りからオレを嘲笑する声。


「六角か?」


信長はオレに訊く。


「浅井にございます」


オレの言葉を聞き、信長は手にした盃をポトリと落とす。


「いや、そんなことはない」


信長は声を振り絞るように言った。


「織田殿、お伝えしましたぞ」


オレはそう言って消えていった。


しばらくすると織田・徳川連合軍は近江朽木に向け撤退を始める。越前と北近江からの挟撃を受ける危機にみまわれたからである。朽木谷を越え京に帰還した信長は軍を立て直すため岐阜に向けて出立した。

朝倉軍は浅井軍とともに南近江まで進出して六角義賢とも連携し信長の挟撃を図ったが、この連携はうまくいかず、信長は千草越えにより岐阜への帰国に成功した。六月、信長は小谷城とは姉川を隔てて南にある横山城を包囲し、信長自身は竜ヶ鼻に布陣した。ここで徳川家康が織田軍に合流し、徳川家康もまた竜ヶ鼻に布陣する。


徳川家の動向も確認しておくか⋯⋯。


オレはそう考えて、竜ヶ鼻に構えた徳川軍の本陣に北条家家臣、橘左衛門佐と名乗って徳川家康に謁見する。


「おお、橘殿。金ヶ崎の折、浅井の裏切りを伝えてくれて助かったぞ」


徳川家康の言葉にオレは首を傾げる。


「徳川殿、人違いではないか。某は金ヶ崎など行ったことがございませぬ」


「おいおい、皆も金ヶ崎で橘殿と会ったよな」


徳川家康の言葉に本陣の家中の者は皆俯く。


「橘殿、すまぬ。人違いのようだ。ところで此度は?」


徳川家康がそう言うとオレはうやうやしく言った。


「此度は織田殿に加勢することになりました故、徳川軍に同士討ちされぬようご挨拶をすることになりもうした」


オレはそう言うと徳川家康に一通の書状を渡す。徳川家康はその書状を受け取り読み始めた。読み進めるにつれ明らかに徳川家康の顔が曇っていく。


「橘殿、これは誠か?」


「はい、確かにございます。風魔衆より得た知らせにございます」


オレの言葉に徳川家康は黙り込む。徳川家康はその書状を本多平八郎に無造作に渡す。本多平八郎はその書状を一瞥してニヤリと笑う。そして、その書状をオレの前に投げつけ怒鳴った。


「こんなものを持ってきて……」


本多平八郎は最後まで言わずに笑い出す。オレも一緒に笑い出す。


「小次郎久しいな」


「平八郎こそ、まだ生きていたのか」


二人は肩を組んで外に歩いていった。その間に服部と渡辺の半蔵コンビが帰陣して徳川家康の下知を受けていく。


「まさか武田信玄の盟約破棄などよくも考えついたな。小次郎。こんなもん誰が信じ……」


本多平八郎の大声が本陣に響き渡る。


 六月二十八日未明に朝倉・浅井連合軍は姉川を前に布陣し、徳川軍は三田村勢へと向かい布陣した。オレは本多平八郎の軍に従軍することになった。


「小次郎、どうやら服部半蔵の軍が一番槍のようだぞ。そろそろ行くか?」


本多平八郎はオレに訊く。


「そうだな。こんな大戦(おおいくさ)で槍働きををしなければ武士の名折れだな。まあ、オレは武士ではないが⋯⋯。平八郎、オレは一足先に服部半蔵に合流する。ゆっくり来い。風魔忍術 疾風!」


なんだ?

この感覚⋯⋯。

身体の力がまるで吸い取られていくかのような気がする。


そう思った瞬間、オレは地面に倒れ込んだ。


ここは?

いや、オレは夢を見ている⋯⋯。


目の前には左半身が赤、右半身が青の鬼が鬼気迫る形相でオレを睨みつけてくる。


「何者かは知らぬがここは我が支配する地獄。たとえお前がどこぞの神であろうとここでは我を従わせることなどできぬ。今すぐここを立ち去れ!」


鬼が大太刀を振り上げて、こちらに向かってくる。


「そうかい。では⋯⋯」


その声の主はその大太刀を軽々と奪い、鬼を一刀両断した。後には赤鬼と青鬼が血しぶきを噴き上げてその場に倒れ込んでいた。


 オレが次に目覚めた時には姉川の戦いは織田・徳川連合軍の勝利に終わっていた。


「すまん、平八郎。迷惑をかけた」


オレの言葉に本多平八郎は苦笑いをする。


「まあ、そんなこともあるさ。それに今回はお主は客人だったから問題はなかったんだが、お主大丈夫か? お主の目から覇気が消えているぞ」


オレの目から覇気が消えている?

いつから⋯⋯。

そうだ!

信長の死体と向き合った時だ。

こたえ⋯⋯。

やっぱりよくわからない。


「まあよい。とりあえず浜松までは某が連れて行ってやる」


本多平八郎は苦笑いをしながら、そう言った。


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