表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第三部 決戦 稲葉山城
18/37

 ゆきなは無言のまま立ち上がって酒場を出た。オレもゆきなについて歩いていく。行き先はなんとなくわかっている。ゆきなの隠れ家。最初にヴィルの惨殺死体を見た場所。そして、さよが前世で自殺した場所⋯⋯。


「こっちだよ」


そう言うゆきなの声は泣き声と聞き間違うくらいの声だった。


「ここ。ここがどこかわかる?」


「さよが前世で自殺した場所だね」


「めぐみは何て言ってた?」


「SNSで知り合った女の子に会いに名古屋に来て、ここで複数の男たちに襲われたと……」


「そう、やっぱり⋯⋯。めぐみがさよって女だったんだね。でもね……」


ゆきなはむせび泣き、絞り出すように言葉を続けた。


「知らなかったんだよ。あいつらがめぐみにあんなことするなんて。あんなことを……」


「もういい。終わったことだ。それにさよはもう解放された。ゆきな、そろそろ自分を許してやれよ」


「あたしは無理⋯⋯。あたしは永遠に生から解放されちゃいけないの」


むせび泣くゆきなをオレは抱きしめた。


 オレはゆきなを抱きしめ美濃に向かう。やがて、井口山が見えてきた。ゆきなを井口の宿屋に預けて竹中邸へと急ぐ。


「荘介いるか?」


返事がない。


やがて、竹中邸の前へと到着する。


「荘介いるか?」


「ここに控えております」


「どうした?」


「稲葉殿の切り崩しに成功いたしました。これより残り二人の切り崩しに入ります」


「荘介待て。リセットされたらその努力は無駄に終わる。何故そんなに急ぐ?」


「おそらく小次郎様にお仕えできるのは、これが最後のような気がして……」


「不吉なことを申すな。適当に肩の力を抜いて生きればいいんだよ」


「小次郎様ほど生き急いでおりませぬ」


「オレは……。まあいい。好きにせい」


オレがそう言うと荘介は消えていった。


オレは竹中邸へと足を踏み入れた。


「これはこれは。小次郎殿、お待ちしておりました」


竹中半兵衛と思われる男に声をかけられた。病弱と聞いていたがそれは晩年のことか……。


「お初にお目にかかります。風魔小次郎と申します。よろしく」


オレが不敵に笑うと彼の顔がこわばるのがわかる。


「そういうことでしたか。小次郎殿」


竹中半兵衛は笑う。


「まったく見分けがつきませぬ。ご説明をしていただきたい」


竹中半兵衛はオレに話を促す。


「申し訳ございませぬ。今まで竹中殿がお会いしていた男は荘介といって某の影武者でございます。某、長い間床に伏せておりまして荘介に代理させていたのであります。申し訳ございませぬ。なにぶん時間がないものでして……」


オレの言葉を遮り竹中半兵衛が訊いてきた。


「時間がないとは?」


「織田信長が稲葉山城を攻略するってことですよ」


「ハハハ、小次郎殿。織田軍など取るに足りませぬ。これまでも幾度も攻めてきておりますがね」


竹中半兵衛は笑う。


「某が知っている歴史では……」


「某が知っている歴史?」


よし、食いついた!


「某の知っている歴史では今回の攻略戦で三人衆が織田信長に内応して稲葉山城は落城しています」


「まさか三人衆が……。誠にございますか?」


「今、荘介が切り崩しにかかっております。先ほどの報告では稲葉殿を切り崩してきたという話でしたが……」


「ところで小次郎殿。先ほど某が知っている歴史とおっしゃいましたが、歴史とは過去の事実ではないでしょうか?」


「歴史は事実ではございません」


竹中半兵衛はオレの答えに驚きを隠せない。


「歴史が事実でなければ歴史とは何なのでしょう」


「歴史とは為政者に都合よく捏造された妄想にございます」


「それでその歴史では某は小次郎殿に調略されたのですか?」


「某の知っている歴史に風魔小次郎という忍びは存在しませぬ故、この後どうなるかは……」


「神仏のみ知ると?」


「某をこのようなところに貶めた神仏に某はなにも求めませぬ」


オレの言葉に竹中半兵衛はしばし目を閉じ考える。


「小次郎殿、貴殿は……」


竹中半兵衛は口を開いたがすぐに言葉を飲み込む。


「竹中殿、某は今から五百年後の世界で生きてきた人間です」


竹中半兵衛は驚きのあまり口を半開きにして言葉を失っている。


「ハハハ、お恥ずかしい。つまらんことで自死しまいましてね。この戦国乱世に貶められたんですよ。竹中殿が信ずる神仏とやらにね。某は神仏など信じぬ。決して。己の力でこのくだらねえ世界を生き抜いていく」


オレがそこまで言うと荘介が現れた。


「小次郎様、安藤殿と氏家殿を切り崩しました」


「おお、誠に見分けがつかぬではないか……」


竹中半兵衛は驚きのあまり再び言葉を失った。


「お久しぶりですね。竹中殿、驚かれたでしょう。」


荘介がそう言うと竹中半兵衛は口を開いた。


「驚くもなにも頭が混乱して何から訊けばよいかすらも……」


「とりあえず三人衆がこちらに調略されたのであれば稲葉山城に織田軍が攻め込むことはなくなったと言ってよいでしょうね」


オレがそう言うと竹中半兵衛が訊いてきた。


「して、某は何をすればよいのかな」


「竹中殿はこれからある主君に仕えることになります。その主君にくれぐれも異国の地に攻め込むなと釘を刺してくだされ。それだけお願いしたい」


「某は織田の大うつけに仕える気は毛頭ござらん」


「織田信長ではございません」


「では、誰?」


「木下秀吉という男にございます」


「一夜城のか……」


竹中半兵衛の言葉にオレは深く頷く。


「三人衆がこちらについたとあれば今回は織田軍の稲葉山城攻めはございますまい。某は後方撹乱に参りますのでこれにて……」


「小次郎殿、最後に一つだけ」


竹中半兵衛はオレを引き止める。


「五百年後の世界から来たとおっしゃられたが、五百年後のこの国はよい国でしょうか?」


すんなり受け入れるあたりは、さすが天才軍師!


オレは首を横に振り、言葉を選んで竹中半兵衛に答えた。


「おそらくここが分岐点なのでしょう」


オレと荘介は竹中半兵衛の前から姿を消した。


 オレは井口山とは山続きの瑞竜寺山へと歩いていく。ここは織田軍が駆け登り美濃三人衆が信長に挨拶に来た場所。そして、さよが討ち死に、いや解放された場所。


 オレが井口山を眺めていると聞き覚えのある声がする。


「本当に困るんだよね。これじゃ歴史が変わっちゃうだろ。君も咎人らしく、なんで雪舟様に従わないのかな。君も早く解放されたいんじゃない?」


「はあ? クソ坊主に従うくらいなら死んだほうがマシだ!」


ヴィルの挑発にマンマと乗るオレ。


「ところでゆきな殿は?」


「井口の宿屋にいるよ。かなり落ち込んでいたからなあ」


オレがそう答えるとヴィルが笑ってこう告げた。


「あの女も愚かだよ。せっかく雪舟様が解放してくれるというのにお前なんかに拘って解放を無下にしてしまうなんてね。本当笑えないね」


「今日は饒舌だな。ヴィル」


「ゔぁー、お前のせいで仕事が増えて困っているんだよ!」


「嫌ならやめちまえ!」


「救えないやつだな。リ……」


ヴィルの言葉を遮るように荘介がオレとヴィルの間に飛び込んでいく。


「風魔忍術 爆光弾!」


荘介の身体は粉々に砕け散る。凄まじい爆音と閃光を周囲に残して⋯⋯。オレとヴィルは後方に吹っ飛んだ。


真っ白な世界にオレは仰向けに倒れている。知っている気配の男がこちらに歩いてくる。


「小次郎様……」


「どうした? あんな勝手をオレが許すとでも思っているのか。荘介」


「小次郎様には感謝の言葉しかございません。兄上よりも比較にならぬ才覚を恐れていた私を解放していただきたいたのですから……」


荘介はむせび泣きながら言葉を振り絞った。


「私はある朝、身体が二つなっていたと申し上げましたよね。実はすべてが二つに分かれていたのです」


オレは荘介の顔をまじまじと見つめる。


「どういう意味だ?」


「半分の力で風魔の疾風と呼ばれていたのですよ。小次郎様あなたは」


「これからだって半分じゃねえのか。荘介、勝手は絶対に許さんぞ!」


荘介はニコリと笑ってこう言った。


「風魔の疾風 風魔小次郎様、ご武運を!」


荘介がそう言うとオレの意識が消えていった。荘介の記憶と力がオレの中に入っていった。


 オレは現実世界に戻って来た。明らかにさっきまでのオレとは違う。力が漲る。そんな生易しいものではない。オレは立ち上がり周囲を観察する。荘介が散り散りになった場所は不思議と血も肉片も存在せずきれいなままだ。その向こうにヴィルが仰向けに倒れている。リセット前に失神したのだろう。


どうするか?

殺せば生き返ってリセットだろう。

殺さずに放置しても、目覚めたらリセットだろう。

本当に面倒な転生者だ。


やがて、オレに近づく気配。

クソ坊主。


「本当、お主は世話が焼けるのお」


雪舟はヴィルに向かって歩いていくが、オレに気づきこう言った。


「貴様、何者?」


はあ?


「何者かと訊いておるのだ。名を名乗れ!」


「はあ? クソ坊主何言ってんだ。ボケ老人か?」


「お主、お主、それは、それはイカンぞ。咎人ごときがそんなこと……」


雪舟はオレから離れるように後ずさる。


そして、オレの目の前がグニャリと歪んだ。


そう、グニャリと歪んだだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ