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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第三部 決戦 稲葉山城
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 オレは土砂降りの墨俣にいた。雨はオレの涙をきれいに流していく。木下秀吉は一夜城を着々と築城しつつある。


オレは一夜城の対岸にしゃがみ込み築城の様子を眺めていた。


「なんか辛いことでもあった?」


オレは声のする方へと顔を向ける。


「ゆきな、さよが死んじゃったよ」


「おいこら、浮気かよ」


「はあ? さよってゆきなの甲賀の幼馴染って聞いたけど……」


オレはゆきなの問いに答える。


「ほお、いい度胸だね。まあ、それは後でのお楽しみとして、あれどうする?」


ゆきなが指差す先には一夜城が完成間近だった。


「もう、どうでもいい」


「あたしは知らないけどさあ。その女も今のあんたを見たら失望するよ」


「もう終わったんだよ」


「そう⋯⋯、あたしね。凄い秘密探り当てたよ」


「すごい……」


「リセット使いが誰かってね」


「信長だろ」


オレの答えにゆきなは首を横に振る。


「とりあえず、あれぶっ壊そう。そしたらリセット使いが現れるはずだよ!」


リセット使いが信長でない?

こいつをぶっ壊すとリセット使いが現れる?

まったく意味がわからん。


「リセットすればいいんじゃない」


ゆきなは意味深に笑う。


やるったってねえ。

こんなデカいの。

ユンボだってぶっ壊すの一苦労じゃねえか。


オレがそんなことを思って一夜城を見てると、ゆきなが横から口を挟んできた。


「あれだよ。あれ」


「なんだよ。あれって? 年寄りの会話じゃねえんだ。ちゃんと言え」


「ほら、砦斬りだよ」


「ありゃダメだろ。北条左衛門佐が大袈裟に盛って広めたヤツだ……。でも⋯⋯いけるか。ゆきな、お前この雨の中でも火炎使えるか?」


オレの問いにゆきなは胸を張って答える。


「あたしは火炎のゆきなだよ。雨だって槍だって関係ないよ」


ほお、雨は火炎の天敵だと思うが試しにやってみるか。


「ゆきな、特大のをくれ!」


オレがそう言うと、ゆきなは火を吹く。


「甲賀忍術 豪火球!」


ほお、雨の中にしては上出来だ。


オレはゆきなの火炎を忍び刀に纏わせて宙に飛ぶ。


「風魔忍術 疾風火炎斬!」


オレの放った斬撃は川を挟んだ一夜城に向かって飛んでいく。物凄い爆音を残して直撃するが埃で何も見えない。


雨が降っているのに埃が舞うって結構な威力だぞ。

やったか?


埃が晴れた時、川の対岸には瓦礫の山が積み上がっていた。


「あー、こりゃ随分派手にやったね」


「ほら、やっぱり来ただろ。リセット使い」


そこにはドヤ顔のゆきなを睨むヴィルの姿があった。


「おいおい、歴史変わっちゃうだろ。木下秀吉がいなくなったら、まずいことくらい転生者の小次郎くんならわかるだろう」


ヴィルがオレを叱責するがオレは反論する。


「木下秀吉がいなくなったら朝鮮出兵がなくなるから、あんたは万々歳じゃねえのか?」


ヴィルは顔をしかめる。


「いつ気がついた?」


「あんたの言動すべて」


オレはヴィルに核心を突きつけ話を続ける。


「なんとなくあんたが日本が嫌っているのは最初から気付いていたよ。だからクソ坊主の手先をやってるんだろ」


「ほら、小次郎。リセットの話したほうがいいよ。こいつ自分に都合が悪くなるとリセットするから」


ゆきながオレにリセットの話をするように促す。


「ゆきなくん、君を復活させてあげたのは私だよ。少しくらい恩義を感じてほしいものだ。これだから日本人は……」


ヴィルはそこまで言って言葉を飲み込む。


「まあ、別に今回はその話はいいよ。どうせさよは戻ってこないんだろ」


ヴィルは黙って頷く。


「生からの解放か……。めでたいことじゃないか。オレはさよを笑顔で見送ってあげるべきだったと後悔しているくらいだよ」


「それであんたはクソ坊主のなんなんだよ」


オレはヴィルを問い詰める。


「そんなこと知ってもどうにもならないんだよ。私たちは咎人なんだから」


ヴィルの答えにオレは苛立つ。


「いや、知っているのと知らないのとでは全然違う。お前、初めて会った時に言ったよな。味方でも敵でもないって。クソ坊主の手先ってだけで、オレにとっては敵なんだよ。もう一度訊くぞ。ヴィル、お前はオレの敵か?」


追い詰めてしまったらしい⋯⋯。


その瞬間、目の前がグニャリと歪んだ。


 オレは目覚める。目の前には荘介がいた。


「荘介、迷惑かけるね。で、今は?」


「永禄九年十二月三日にございます」


「そうか……。美濃三人衆は?」


「すでに織田方に人質を送る旨を打診した模様」


美濃三人衆は手遅れか……。

何かやるには時間があるな。


「半兵衛は?」


「竹中殿にございますか? 渡りはつけております。後は小次郎様が直接お会いになられるばかりとなっております」


「三顧の礼か……」


「いえ、私が何度か行ってすでにお会いしております」


こいつ⋯⋯。

影武者にしておくのもったいない。


「荘介は何故オレの影武者となった?」


荘介は少し考えるような仕草をしてから語り始めた。


「信じてもらえぬと思いますが……」


荘介は前置きをする。


オレのこの状況で信じられないことなんてないと思うが……。


「一言で言うと小次郎様は私なのです」


ん?

ん?

どゆこと?


「ごめん、荘介。急いでないから一言じゃなくてもいいよ」


「ある朝起きたら身体が二つになっていて……」


オレは荘介を制した。制したがうまく言葉がつながらない。


そんな荒唐無稽な話があるか。


「悪い。続けてくれ」


「もう一方の身体が目覚めたのです。小次郎様、覚えておりますか?」


覚えているとも。

自殺して意識がなくなったはずなのに、目覚めたらいきなり目の前に荘介がいたんだから。

でも、その話は初耳だぞ!


「覚えてるよ。他人の身体で目覚めたんだ。忘れるわけないだろ。身体が分裂? 分身? よく分からんが、この時代にはよくあるのかい」


オレの問いに荘介は首を横に振る。


「兄上にお聞きしてもそんなことは聞いたことがないと……」


そりゃそうだ。


「オレが影武者っていうこともできたと思うが、なんでお前が影武者になったんだ」


「私は兄上の出涸らしと言われ続けた下忍でございます。初陣で風魔の疾風の二つ名を戴いた小次郎様に比べれば……」


そういうもんじゃねえと思うがね。

まあいい。


「それにしては調略などの手際が見事だと思うが、それでも上忍にはなれぬのか?」


「調略などの裏仕事は兄上から幼き頃より仰せつかっていたので、ある程度はできます」


「ある程度? 竹中半兵衛はオレの知っている歴史では信長には会わなかったんだぞ。ある程度な力で竹中半兵衛を調略できるとは思うなよ。それで荘介。お前どうする?」


「どうするとおっしゃられても」


「オレの影武者なんかやっている才覚じゃないって言ってんだよ」


「夢枕に仏様が出てまいりました。間もなく私は消え去って小次郎様と一つになると……」


仏様?

胡散臭えな。

クソ坊主じゃねえのか。


「その話だとオレが消え去るということも考えられるがね。まあいいよ。この話はこの辺にして井口に向かう。兄者に報告してきてくれ」


「御意」


オリジナルが消滅するってひどい話だが、クソ坊主なら思いつきそうな嫌がらせだな。


 オレは美濃に向かって東海道を上って歩いていく。それにしてもあのくノ一の尾行の下手すぎる。もちろん、ゆきなである。オレは清州の例の酒場で酒を呑む。すると、目の前の席にゆきなが座った。


「お兄さん、座っていい」


本当、下手クソが……。


オレが黙り込んでいると、ゆきなは調子に乗る。


「気づかなかったでしょ。あたし尾行得意なんだよ」


甲賀のレベルが知れるから、それ以上やめろ。

営業妨害だ。


「遊びでやってんじゃねえんだよ。帰れ」


「帰れって、どこに?」


「お前の隠れ家だよ」


「隠れ家って?」


隠れ家……。

違う。

あの場所はゆきなの隠れ家ではなく……。


オレが涙をこらえていると、ゆきながからかってくる。


「あらぁ、浮気相手のことでも思い出してた?」


オレはテーブルをドンと叩く。


「おおっこわ! 自分が浮気したクセに怒るんだ」


「さよはお前とどんな関係があるんだ?」


「知らないよ。さよって女があんたの浮気相手か。フザケやがって」


「前から不思議に思っていたんだが、お前とさよって重なって出てこなかったよな?」


「何言ってんだか……」


ゆきなは意味深に笑う。


「きっと、あたしに会いたくないんだよ。めぐみは……」


めぐみ?


「ゆきな、お前自殺したことあるか?」


ゆきなは少し考えてから頷いた。

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