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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第二部 決戦 桶狭間
13/37

 オレは床に伏している。荘介は驚いた顔でオレを見て泣き崩れた。


「荘介、泣くのは後だ。状況は?」


「永禄三年二月、ここは風魔の里。小次郎様は三年ほどずっと眠ったままでした」


「三年か⋯⋯。フッ、でも間に合うってことだな」


オレの言葉に荘介は不思議そうな顔をする。


「間に合うって何に間に合うのでしょうか」


「宿敵との決着だよ」


オレはそう言って立ち上がった。多少目が眩むが問題ない。時間もないしこれで行くしかない。オレは親方(こたろう)のところへ向かった。


「兄者、すまん。心配掛けた」


「まあいい。しばらくゆっくりしてろ。京で倒れたと聞いた時はさすがに肝を冷やしたが⋯⋯。こちらへ運ばれてからもすやすや眠っていただけだったので、心配などしてなかった。お主は一度死んだ男だからな。荘介からの報告だとどこかに行くらしいが、ダメだぞ。しばらくゆっくりしてろ」


親方(こたろう)はそう言って笑った。


そんなことを言ってもオレがきかないのはわかっているのだろう。


「では、行ってまいります」


「フフ、ゆっくりしてろと言っているものを⋯⋯。まあいい。好きにせい」


オレは風魔の里を出て尾張に向かっていた。



 オレは今、清洲のあの酒場にいる。おそらくここで待っていれば彼女は必ずくる。目の前の席に人の気配がする。


「お兄さん、ここいい?」


えっ?


オレがそう言うと目の前には見知らぬ女が立っていた。


「あれあれ、お好みのオンナじゃなかった?」


「そうかもしれないね」


「火炎使いとか?」


オレは忍び刀に手をのばす。


「もう冗談だってば、冗談。ゆきなでしょ」


オレが頷くと彼女は続ける。


「あたいは甲賀のさよ。ゆきなとは幼馴染よ」


「それでオレに信じさせることができると思ったのかい」


さよは少し考えてからオレに言った。


「どうしよっかなぁ。あんたのオンナになってもいいよ」


「ああ、くノ一は一律お断りしているんで」


「ああ、そうだよね。くノ一なんかね。じゃあ、どうしようっか。そうだ、リセット使いの弱点を教えるっていうのは?」


オレは忍び刀を抜き、さよに向ける。


「ちょっと待ってよ。あたいはあんたと一緒だよ」


オレが黙り込んでいると、さよは続ける。


「本名はNGだけどね。一応、東京出身のJK」


「お前、それが何かわかっているのか?」


オレの問いに、さよはあっけらかんと答える。


「転生でしょ。あたいさあ。悪役令嬢に転生したかったんだけどさあ。くノ一だって、くノ一。なんか笑える」


あたいが一人称の悪役令嬢のほうが笑えると思うが⋯⋯。


「リセット使いの弱点ってなんだ?」


「おおっ食いついた。食いついたね。お兄さん」


うぜえ。

このJK。

めちゃうぜえ。


さよによるとリセット使いはリセット前の記憶、正確に言うとリセット後の後の時点の記憶は継続しない。つまり、リセットしてもリセット後の時点の記憶は覚えているらしい。これはオレの経験とも一致している。もう一つはそのリセット後の時点を選べないらしい。


そんなことあるのか?

それではリセットする意味がオレには見いだせない。


「それでね。リセット使いの弱点は、というよりもあたいらもそうなんだけど。意識がないときにはリセットできないんだよ」


「そんなの誰が試したんだよ。エビデンスはあんのか?」


「エビデンス、エビデンスってウザいんですけど。リセット使いは織田信長が初めてってわけじゃないから⋯⋯」


信長がリセット使いの元祖じゃないって、他にもリセット使いがいたのか?


「意識がないとかってその状況に持ち込むって難しいんじゃねえか。催眠薬なんてねえわけだし」


催眠?

催眠ってつい最近聞いたような気がするが⋯⋯。


「ハハハ、ラリホーでも使えばいいんだ! ラリホー。ラリホー。まじウケる」


「うるせえよ。他人が真面目に考えている時にまじうぜえよ!」


ラリホー?

ラリホー?

あっ、催眠術か⋯⋯。

ダメだ。

ヴィルとは無理だわ。

一回殺したし。


「ラリホーの当てでも?」


「はあ、ゲームの話でしょ。ラリホーなんて使えるわけねえし。このオジサンまじウケる」


こいつ一回殺しておくか。

どうせ死なねえし。

ん?

ゲーム。

なんか。

なんだ。

うまく言葉にできないけど⋯⋯。


その後、さよとはくだらねえ話が続いたが、オレは今一番気になっている話題をさよに振った。


「それでさ。ゆきなはどうしたんだ? さよはゆきなの幼馴染なんだよね」


オレがそう言うと彼女は押しだまりむせび泣いた。


「ゆきなはね⋯⋯。あんたが織田信長の前で撃たれた後、織田信長に襲いかかろうとして撃たれて死んだの⋯⋯」


「ちょっと待て。その後リセットされただろ!」


「リセット? リセットなんてされてないよ」


「おいおい、ちょっと待て。なんでリセットされていないのに、桶狭間の戦いの三ヶ月前にオレはいるんだよ?」


「あんたとゆきなが死んだのは桶狭間の戦いじゃないよ」


「じゃあ、なんの戦いだよ!」


「知らないよ。三年前の名も無き小競り合いって聞いてるよ」


「誰から聞いたんだ?」


「喜助さんだよ」


ゆきなの父親が?

なんでそんな嘘を⋯⋯。


「さよ、確認するが今は永禄三年二月で間違いないよな?」


「そうだけど。それがどうしたの?」


オレは黙って頷き酒場から出ていった。

オレは記憶を頼りにゆきなの隠れ家へと歩を進めていく。さよもついてきている。


ない?


ここには二度来ているが、その場所にはなにもなかった。オレはさよの顔を見る。すると、さよは言った。


「いきなりこんなところに来てどうしたの?」


オレは首をひねって、さよに言った。


「ここになんかなかったか?」


「ここはね⋯⋯。やっぱりなんでもない」


なんだ。

何かある。

ひょっとしたら、それが今回のカギかもしれない。


「それで喜助さんはどこにいるんだ?」


「喜助さんに会ってどうするの?」


「どうするって? 話をするだけだよ」


「会ってもらえないと思うよ」


「なんで?」


「なんでって、あんたのせいで娘が死んだんだよ。会ってくれるわけないだろ」


いや、確かにそうだ。

もし、ゆきなが本当に死んだのなら⋯⋯。


「わかったよ」


オレはそう言うと、疾風を使ってさよの尾行を振り切った。


 オレは今、熱田神宮にいる。もちろんまだここには。誰もいない。そう、誰もね。


「荘介いるか?」


「ここに控えております」


「非常に訊きにくいことなんだが⋯⋯」


「なんでございましょうか?」


「ゆきなって知ってる?」


「火炎のゆきなにございますか?」


おおっ、知ってた!


「ゆきなの居場所を調べてくれ」


「御意」


荘介はそう言って消えていった。オレは周りをうかがう。


ん?

あれで隠れているつもりか。


「おい、さよ。隠れるなら、ちゃんと隠れろよ」


オレがそう言うと、さよは観念して出てきた。


「さっき、あんたが二人いたように見えたけど?」


「ああ、影武者だよ」


「か、か、影武者!」


大袈裟なJKだよ。

本当に。


「驚くことねえだろ。戦国乱世に影武者なんか」


「あんた⋯⋯」


さよはオレの顔を見ながらまじまじ言った。


「漫画の見過ぎだよ」


ああ、家康ね。

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