↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/70

飛ばされて異界③

 ここは冥界の最奥部タルタロス。

 テュポーンによって飛ばされた日本人たちは地上に帰ることになり、ティターンたちと別れの時を迎えていた。


「ありがとう、本当にありがとう!」

「巨人の皆さんのご親切は一生忘れません!」

「バーベキュー楽しかったです!」


 口々にお礼の言葉を述べ、巨人が差し出す指先を両手でギュッとハグする日本人たち。

 サイズ感が異なる両者が握手しようとするとこうなる。


「私たちも楽しかったわ」

「滅多に客も来ないからね。いい気晴らしになったよ」

「いつまでもいてくれていいんだよ?」

「イアペトス、いい加減に引き留めるのやめてくれませんか。彼らも帰りづらくなるでしょう」


 ティターンたちも口々に別れを惜しむ。

 小さな体で懸命に生きている人間たちが可愛くてならない。

 ずっと一緒にいられたら……だがそれは望んではならないことだ。

 タルタロスは人間が住むには適さない厳しい環境なのだから。


「さて、別れは辛いだろうが、そろそろ行くぞ」


 冥界の王ハデスが出発の合図をする。

 日本人たちは指定された円の中に集合した。

 タルタロスから地上への直通ゲートはないので、ハデスが神の力で転移させるのだ。

 ちなみに転移を使わずにタルタロス⇔地上間を移動すると気の遠くなるような時間がかかる。

 彼我の距離は想像を超えて遠いのだ。


「さようならー!」

「元気でねー!」


 手を振って見送るティターンたち。

 日本人の姿が一人、また一人と消えていく。

 最後の一人が転移して消えた後。


「……あの、離してもらえませんか?」


 白狐は狩衣の裾をつまんでいるティターンを戸惑いがちに見上げた。

 裾を離してくれないと白狐が地上に帰れない。


「いえね、ここは人間が住むにはちょーっと寒すぎるんだけど、もふもふの毛皮をまとった狐さんなら、ここの寒さに適応できるんじゃないかなーって」

「人間も可愛かったけど、狐さんも可愛いわよねえ~」

「小さいのにお行儀がいいし、動物なのに服着ててラブリー♪」

「うちの子にならない? 大事にするよ?」


 白狐、うっかりティターン女性たちのハートを掴んでしまったらしい。

 女神たちのラブコール、どうやってお断りしようか。

 遠い目になる白狐であった。



※



 ここはオケアノスの異界、海洋生物たちのパラダイス。

 打ち寄せる波、どこまでも広がる水平線。

 大海原に浮かぶ小島で一組の男女が愛を囁き合っていた。


「本当に私でいいの? 気が変わったりしない?」

「心変わりなんかするもんか。海に投げ出されて溺れかけてた僕を助けてくれたあの時から、僕の心は君だけのものだよ」

「でも私、人魚だし……」

「愛に種族は関係ないよ」

「あなたは陸の人でしょ? 地上に帰りたくなっちゃうんじゃない?」

「君のいない地上なんか意味ないよ」

「本当? 信じていいの?」

「疑うのなら命を捧げてもいい。この胸を切り裂いて心臓を差し出したっていい」

「本当なのね……?」


 二人の唇が重なろうとした、その時。


「ちょおっと待ったあー!!」


 割り込んできた者がいた。

 水上バイクで水面をかっ飛ばしてくる。

 人魚と人間のカップルに激突する寸前で急停止。

 海と陸のカップルは盛大に水しぶきを浴びたが無事だった。


「誰っ!?」

「和風人魚の一種、アマビエです。近年、疫病封じの妖怪としてちょこっと名前が売れました」


 水上バイクから降り立ったのは一見すると日本人女性、だがよく見ると下半身が謎の形状になっている。

 鱗もヒレもあって魚っぽいが、なぜか三又に分かれているのだ。

 三又に分かれた肢の一本一本は少しシーラカンスに似ていなくもない。


「何しにここに? 疫病なんか流行ってないわよ?」

「疫病の流行が収まって暇になってきたので、海洋方面に飛ばされた日本人救出に駆り出されました。生存者を発見したら日本に戻しませんと」


 日本人救出と聞いて、人魚は恋人にギュッとしがみつく。


「この人はダメよ! この人は私のなんだから!」

「そこは議論の余地があるかと思われます」

「プロポーズしてくれたんだから! ずっと一緒にいるって約束したんだから!」

「心神喪失状態での契約は無効になる可能性があります」

「何よそれ!?」


 アマビエは男性の顔の前でピシッと指を弾いた。

 熱に浮かされたようにボーッとしていた男性が、ハッとした表情になる。


「俺はいったい何を?」

「あなたはセイレーンに魅了されていたのです」

「セイレーン……?」

「セイレーンとは、河の神アケロオスの娘で美しい声で人間を誘惑する海の魔物です。古代ギリシアではハーピーのような半人半鳥の姿をしていましたが、中世にモデルチェンジして人魚になりました。こんな風に」


 アマビエに指さされて、人魚(セイレーン)がぷんすこ怒り出す。


「何よー! 確かに昔は全体的に鳥っぽかったけど、いいじゃない別に。今は下半身が魚で、上半身は人間なんだから、人間と結婚したっていいじゃない!」

「魚と哺乳類では不幸な結婚生活にしかなりませんよ。受精の仕方が違うんですから」

「そんなのやってみなきゃわからないじゃない! ねえダーリン、愛に種族は関係ないわよね?」


 人間の男性はそっと視線をそらした。


「……冷静になって考えてみると、体外受精はちょっと違うかなって」

「なんでよーー!!」


 海の女と陸の男。

 種族の壁は厚かった。

 そうそう乗り越えられるものではないよなあ……と破局する二人を見守るアマビエであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。