↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/63

秘密の通路を突破せよ!

 異界ラビュリントス地下。

 コンクリート打ちっぱなしの味気もそっけもない地下通路。

 照明は壁の高い位置に等間隔に取り付けられたLEDライト。

 入り口が偽装されていたことを除けば、一見何の変哲もないただのトンネル。

 足音が反響するその地下通路を女四人と男一人の五人組が走っていた。

 けっこう本気の全力疾走で。


「ミノタウロスは何を考えてるのよー!」


 走りながら絶叫する不和の女神エリス。


「強い殺意を感じる……」


 暗い表情で走っているアイリカー。


「侵入者は殺す、常識だよね」


 平然と現状を受け止めているヘスペリエー。


「その常識、一旦捨てろよ! 侵入してる側だろ!」


 走りながらツッコミを入れずにはいられないアキレウス。

 彼らの背後からは謎の殺人マシンが迫っていた。

 鎌のような刃を回転させながら追ってくる奇怪な戦車。

 そのフォルムはよく言えばダ・ヴィンチの発明デッサン図、身もふたもない言い方をすればフードプロセッサーに似ていた。

 追いつかれればミンチにされることは間違いない。

 アキレウスだけは無傷で済むかもしれないが。


「そういえばラビュリントス下層のバーガーショップでは人肉使ってるっていう噂があったわぁ~」

「その噂、今言う必要あった!?」


 女神姉妹の心温まる会話。

 エリスは自分が挽肉になってハンバーガーに挟まる様子を考えたくはない。

 女神は不死だが、斬られればそれなりに痛いのだ。


「女神バーガーなど許さん!」

「ニンフバーガーもダメだから!」


 怒りのエリス、悲壮なアイリカー。

 ニンフは不老だが不死ではないので、危機感はアイリカーの方が強い。


「あの車遅いから大丈夫よ~。階段上がっちゃえば追いかけてこられない……って、前~!!」


 珍しく焦った様子のアパテー。

 それもそのはず、前方に黒い服を着た男たちが銃を構えていたのだから。


「身代わり人形、私を守って」


 藁人形を胸に抱き、パーソナルサイズの結界を張るアイリカー。

 アイリカーの後ろに隠れるエリス。

 エリスの後ろに隠れるアパテー。

 轟く銃声。

 結界に弾かれた跳弾がチュイン、チュインと火花を散らす。


「やだ、何かが腕に当たったわ~!」


 アパテーが泣きそうな声を出すが、誰も反応しない。

 だって彼女は欺瞞の女神、真実味はない。

 激しい銃撃で結界が削られていく。

 アイリカーの身代わり人形がみるみるうちにボロボロになっていく。


「身代わり人形二号……三号……」


 新しい人形を次々取り出すアイリカー。

 彼女の結界を盾にして、一列になり走り続ける一行。

 そして男たちが目前に迫った時。


「はっ」


 短く息を吸って、ヘスペリエーが飛び出した。

 突撃の勢いで数人をなぎ倒し、槍の一閃で更に数人をなぎ払う。


「道が空いたわ! 一気に駆け抜けるわよ!」

「ねえ、さっき腕に何か当たったんだけどぉ?」

「身代わり人形四号……」


 倒れた男たちを女たちが容赦なく踏みつけていく。

 女神のハイヒールが、ニンフのブーツが男たちを踏みにじる。

 それでもなんとか起き上がり、銃で狙いをつけようとするところを……。


「悪いな」


 アキレウスが蹴り飛ばしていった。

 五人が通り過ぎた後、しばらくして背後で絶叫と何かが粉砕されるような音がした。

 誰も振り返りはしなかった。





 エリス一行は隠し通路を走り抜ける。

 偏執的な罠の数々を強引に突破して。


「侵入者防止でシャッターが下りるのはわかるけど、天井から切れ味良さそうな振り子が下りてくるのはなんなのよ!?」

「昔の名作へのオマージュじゃないかしらぁ? レトロなホラー映画で見たことある気がするわ~♪」


 ミノタウロスファミリーの人海戦術も突破して。


「うう……丹精込めて作った身代わり人形がどんどん減ってく……あと六百六十二個しかない……」

「それだけあれば十分だと思うよ」

「それは十分だと俺も思う。だから戦闘員が出てくるたびに俺を盾にするのはやめろ」

「ううう……」


 そして一行はたどり着いた。

 やたらと頑丈そうで威圧的なデザインの扉の前に。

 それはいかにも迷宮の入り口らしい雰囲気を醸し出していた。

 『この門をくぐる者は希望を捨てよ』と言いたげに。

 扉の表面には無数の人物像が浮き彫りにされている。

 よく見るとそのすべてが苦悶の表情を浮かべている。


「地獄の門って感じだな」

「そういえばあんた死んだことあるんだよね。冥府の入り口ってこんな感じ?」

「いや、こんなに装飾過多じゃなかったな。もっと質実剛健っていうか、実用本位みたいな? 門番がケルベロスだし、犬小屋の方がでかくて迫力あってゴージャスだった」


 ケルベロスの犬小屋が冥府の門よりゴージャスな件。

 興味をそそられるニンフ姉妹であった。


「冥府の入り口が見たいの? いつでもご招待してあげるわよ~♪」

「たまには帰省しろってお母さんが言ってたわね。帰るつもりないけど」


 実家が冥府の入り口にある女神姉妹は動じる気配もない。

 夜の女神ニュクスとその家族が住むエレボスに比べたら、こんな扉、こけおどしに過ぎない。

 ここはミノタウロスが作らせた特別製の迷宮。

 この先にアリアドネがいる。

 侵入することも、脱出することも許されない、アリアドネの聖域。

 そこに彼らはためらわず足を踏み入れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。