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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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ラビュリントス一周ツアー

 その日、女四人と男一人のグループが観光都市ラビュリントスを足早に移動していた。


「ろくに寝られなかったんだが。あのホテル、ベッドが狭いし短いし」

「ベッドで横になれただけマシだと思いなさい!」

「確かに狭かったわぁ~。寝返り打ったら落ちそうで」

「私はどこででも眠れるよ。床の上でも、地面の上でも、小さすぎるベッドの上でも」

「ベッドは普通だったけど、ホテル自体が変だった……幽霊がいて、動く死体が接客してた……」


 不満を漏らすアキレウスに、エリスがビシっと叱りつけようとするが、他の三人がそれぞれ勝手なことを言い出した。

 分が悪いと感じ、守勢に回る不和の女神エリス。


「悪かったわね、泊まったのがモンスターホテルで。ミノタウロスの目が光ってない場所なんて限られてるんだから、仕方ないでしょ?」

「敵地に潜入中だから贅沢言えないのはわかってるが、宿がモンスター仕様なのはなんでだ? あのベッド、どう考えても首を外して横に置いておけるやつ用だぜ」

「そんな仕様が作られるほどデュラハンが大量にいるもんですか。東洋人サイズだっただけでしょ」

「でもなあ、枕がベッドじゃなくサイドテーブルに置いてあったんだよなあ……」

「そんなことはどうでもいいのよ!」


 納得いかない様子のアキレウスだが、エリスが強引に話題を変える。


「問題は迷宮の入り口が特定できてないことよ!」

「候補はいくつかあるんだから、全部回ってみればどれかが正解よ~♪」


 アパテーはアリアドネが隠れている迷宮の位置は知っていたが、そこにたどり着くための隠し通路の入り口までは知らなかった。

 このラビュリントスのどこかに、人目につかない形でカモフラージュされた入り口があるはずなのだが、それが果たしてどこにあるのか……。

 アパテーが候補として挙げた場所は合計十か所。

 ミノタウロスの手下による妨害を避けながら、この中から当たりを見つけ出さなくてはならない。


「そうと決まれば近い所から順に潰していくわよ!」





 第一候補:霧の裏通り。

 故買屋の看板がある薄暗い通り。

 この故買屋が入り口か?


「空振りだったわね」

「黒猫が……屋根の上を横切っていった……不吉」


 第二候補:サーカス。

 町はずれの空き地にサーカスがテントを張っている。

 このテントが入り口か?


「ここも空振りね」

「空中ブランコ、面白かったね」


 第三候補:映画劇場。

 ホールには昔の女優の衣装やフィルム時代の撮影道具が展示されている。

 このレトロな映画館が入り口か?


「空振りだわ」

「懐かしの名画、郷愁を誘うわねぇ~」


 中休み:猫カフェ。


「絶対違う、ここは入り口じゃない。なんでこんな寄り道を……」

「カリカリしないで、少し休憩しましょ、エリちゃん」


 第四候補:燃えた屋敷。

 元は豪華な邸宅のようだが火災があったらしく物が散乱している。

 この無人の屋敷が入り口か?


「ただの焼け焦げた廃屋だな」

「こんな煤だらけの場所、アリアドネが出入りするわけないわ」


 第五候補:遊園地。

 大きな観覧車を背景に、大小様々な機械人形たちが楽器を演奏したり、芝居を見せたりして客を楽しませている。

 この賑やかな遊園地が入り口か?


「ねえねえ、メリーゴーランドに乗りましょうよ~♪」

「あんな一か所をグルグル回るだけの乗り物のどこが楽しいのよ。子どもか!」


 第六候補:魅惑の舞踏会。

 仮面を着けた紳士淑女が夜な夜な怪しげな舞踏会を繰り広げるダンスホール。

 ここが入り口か?


「あんた真面目に案内してる? 実は遊びたいだけなんじゃないでしょうね?」

「やだ~、エリちゃんったらお姉ちゃんを疑うの~?」


 第七候補:幽霊公園。

 どう見ても墓場だが……打ち捨てられた棺から骨だけの手がはみ出している。

 ここが入り口か?


「……嫌になってきたわ」

「……俺も」

「……私も」

「私は体力的には余裕だけど、ちょっと飽きてきたかな」

「がんばって! 候補は残りあとわずかよ~」





 ここは華やかな結婚式場に隣接する静かなチャペル。

 ほぼ結婚式専用に作られたようなものではあるが、神父が一人派遣されている。

 ラビュリントスの中心地から離れているので、観光客が訪れることはあまりない。

 挙式の予約が入っていなければ、暇である。

 神父はここの暮らしも悪くないと思っている。

 結婚式よりも葬式の方が多いし、強盗には気をつけなければならないが、マフィアの大物に保護されているので危険なことは滅多にない……。


 チャペルの入り口からどやどやと観光客風の一行が入ってきた。

 女性四人と男性一人のグループである。

 誰でも出入り自由ではあるが、マナーの悪そうな客に神父は眉をひそめた。


「ここになかったら今日はもう探索やめてホテルに帰るからね」

「今朝出てきたあの宿にか? もっとまともな宿ねえのかよ」

「大丈夫、今度こそあるわよ~♪」


 わいわいがやがや、足音もドスドスと遠慮がない。

 マナーを守らない一行は神父を無視して奥へと進んで行く。


「皆さん、そちらは関係者以外立ち入り禁止で……」


 誰も聞いていない。


「ほらあったー♪」

「あんた最初からここだと知ってて遠回りさせてたんじゃないでしょうね?」


 一行は神父を無視して、秘密の通路の入口へと消えていった。

 唖然として見送る神父。


「……なんということだ」


 ハッと我に返った神父は緊急通報のボタンを押した。

 通報先は警察ではなく、この教会を保護するマフィア、ミノタウロスファミリー。


本文中に出てくるロケーションはアイテム探しゲーム「Hidden City」を参考にしました。

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