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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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ルームサービスにご注意を

 ここはラビュリントスの上層、高級カジノや高級ホテルが立ち並ぶ、お金持ちの観光客御用達のエリア。

 不和の女神エリス一行は欺瞞の女神アパテーの手引きで、とある高級ホテルに裏口から入り、監視カメラを避けてスイートルームに宿泊していた。


「この部屋、やけに上等そうだね。壁とか家具とか、戦闘になったら壊すけどいいのかな?」

「つ、使い方がわからない……」


 ヘスペリエーは室内を見回し、襲撃時の立ち回りを考えながら物騒なことを言っている。

 アイリカーは何かのリモコンを手にして顔を引きつらせている。

 エアコンのリモコン、テレビのリモコン、照明のリモコン……リモコンが多すぎる。


「最高級の一つ下くらいのランクだからね。高級品だけど、必要なら壊してもいいわよ。コロシアムだってぶっ壊したけど誰にも何も請求されてないし……って、そこの建造物損壊犯、何ゴロゴロしてんのよ!」


 エリスの声がきつくなる。

 アキレウスは高級そうなソファーでだらけていた。


「うっせーな、いいだろ別に。疲れてんだよ」


 ソファーに長くなって眠たそうなアキレウス。

 しのぎを削る連戦の後でコロシアムをぶっ壊し、倒壊現場の人命救助もしてきたのだから、無理もない。

 シャワーを浴びて身ぎれいになったら眠たくなるのも当然だ。

 寝ていい立場ではないのだが。


「ルームサービス取りましょう。何食べたい?」


 アパテーはルームサービスのメニューを広げている。


「和食懐石ね」

「中華。あ、酒も付けてくれ」

「食べたことないんだけど、ビーガン料理ってどんなのかな……?」

「私は食べられれば何でもいいよ」


 あちこちから返ってくる返事に呆れるアパテー。


「全員バラバラじゃない。しょうがないわねぇ」


 適当に寿司と中華を注文し、通話を切る。

 さて、と全員が話し合いの態勢に入った。

 アキレウスだけはソファーに横になっているが。


「約束通り、トーナメントでいいとこまで行ったんだから、知ってることを話してもらうわよ」

「……って言われても大したことは知らないわよ?」

「いいからキリキリ吐けっつーの」

「キャー、エリちゃん乱暴~♪」


 エリスに肩を揺さぶられて楽しそうにしながら、アパテーは話しだした。


「私が教えてあげられるのはアリアドネの居場所くらいね。言っておくけど警備は厳しいわよ?」

「そんなの最初から承知の上よ。で、どこに隠れてるの、あの女は」

「うふふふ~♪それはねえ……」





「ルームサービスです」

「やっと来たか」


 ドアがノックされた。

 それに応じて起き上がるアキレウス。

 ドアスコープを覗いて、ホテルの従業員とワゴンを確認。

 部屋のドアを開ける。


「お夕食をお持ちしました」

「ああ、入ってくれ」


 しずしずとワゴンを押して入ってくる従業員。

 女神姉妹と妖精姉妹が見守る中、トレイの蓋が持ち上げられ……。

 そこにあったのは中華料理でも寿司でもなかった。

 蓋の下にあったのは小型のサブマシンガン。


 アイリカーの目が丸くなる。

 ヘスペリエーが前に出る。

 アパテーが口元に手を当てる。

 エリスが険しく眉根を寄せる。

 従業員に扮していた男がそれを手に取るのとほぼ同時、ワゴンの陰から男が二人転がり出てくる。

 その手にあるのもサブマシンガン。

 時間の流れが遅くなったように感じられる瞬間。

 一斉にエリスたちに9mmパラベラム弾が浴びせられる。

 四人の女たちに向かって銃弾が雨あられと降り注ぐ。


「壊してもいいんだったよね」


 ヘスペリエーが分厚い大理石のテーブルを跳ね上げて盾にする。


「こわーい♪」


 アパテーがひらりとソファの陰へと身をかわす。


「身代わり人形、私を守って」


 アイリカーの藁人形が怪しい光を放ち、狭い範囲に結界を張る。

 結界に守られるのは、エリスとアイリカー。


「あんたらどこのもんよ!?」


 エリスがアイリカーの後ろに隠れながら誰何する。

 襲撃犯は何も答えない。


「俺を無視すんなよ」


 ドアの横に置き去りにされたアキレウスが従業員に扮した襲撃犯に襲い掛かる。

 サブマシンガンの発射音がけたたましく鳴り響く。

 やがて大理石のテーブルの向こうから飛び出してくる一つの影。

 それが槍を振りかざした女だと気づいた時にはもう遅い。

 襲撃犯の一人が頭骨を砕かれて倒れ伏す。


「やっちゃえー、ペリちゃん、皆殺しよー♪」

「一人は生かしといて情報を聞き出すのよ!」


 ソファーの向こうから顔を半分覗かせて、アパテーが声援を送る。

 エリスが皆殺しはダメだと釘を刺す。


「わかった。一人捕まえればいいんだね」

「こいつにしとくか」


 アキレウスが従業員に扮した襲撃犯を鷲掴みにし、そのまま腕を捩じ上げる。

 銃弾は当たっても気にせず、銃を奪い取り、制圧。

 尋問用の捕虜が確保されたのを見て、最後の一人をヘスペリエーが叩き伏せた。


 短い乱戦が終わった。

 エリス一行に怪我はない。

 惨憺たる有様の室内には死体が二つと、従業員に扮した男が一人。


「さあて、お話聞かせてもらいましょうか。てきぱきと、手短にね」


 ニヤリと邪悪に笑うエリス。

 従業員に扮した男は拷問を予想してゴクリと唾を飲み込んだ。





 真夜中のラビュリントスを四人の女と一人の男が走っている。

 背後のカジノには煌々と明かりが点いている。

 眠らない街ラビュリントス。


「急ぐのよ! ミノタウロスにバレたんなら、一か所に長居はできないわ!」

「んもう、せっかく高級スイートを予約したのにぃ~」

「疲れて帰ってきて、夕食も無しかよ!」


 五人は夜の道を駆けていく。

 三つの死体が残された高級スイートを後にして。



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