雪どけ⑵
マネージャーは詮索してこなかった。何も言わずホットココアとホッカイロを手渡し、座る場所を用意してくれる。
あたたかい。買ってきたばかりのだ。
ホットココアをひと口飲めば、舌先を火傷した。痛い。けど、甘い。やさしい甘さに安心する。
そういえば妃希さんもこれを飲んでいたっけ。思い出したら、ふしぎと気が紛れた。
昼休憩を挟み、公園内に撮影場所を移した。
広場前に停まる、半熟卵色のキッチンカー。普段はサンドウィッチを売っているそこで、次の収録が行われる。
シーン54。フワリの言葉をきっかけに自信を取り戻したアヤが、いよいよユウダイとともに雑誌撮影に挑む。
「これから撮るシーン54は、基本喋らなくていいから」
「ふたりともモデル経験あるんだよね?」
「はい!」
「あります」
「ならいつもどおりで大丈夫。配置だけ確認しよう」
出番のないあたしは、モニター前で待機中。
休んでいても気持ちは落ち着かない。ココアをホットなまま飲み干してしまった。
「コンセプトは、おいしいカップル。付き合う前の好き合ってる雰囲気を出してほしい」
「このくらい距離が近いほうがいいっすか?」
「そうだね、もっと自由に動いちゃっていいよ。キッチンカーも好きなように使って」
「はい! わかりました!」
「何度も見返したくなるような、いい感じの画も期待してる」
カメラをとおしてリハーサルしながら微調整していく。臨場感を追求し、今回はあえて手持ち撮影になった。
リアルなシャッター音に混ざり、監督たちの指示が飛ぶ。ふたりのポージングが変わっていく。ほどよくイチャイチャした画になってきた。
照れのある巽さんを、妃希さんがリードしてる。聞けば彼女は、ファッション雑誌のモデルだとか。どうりで慣れている。
「――ねぇ、あれ!」
「うわ、まじ!? 巽くん!?」
突然、真っ黄色な声が飛んできた。
派手な女子高生が、2人。
たまたまイケメンを見つけ、大はしゃぎ。ランスルー中にカメラのうしろから身振り手振りして呼びかける。
撮影に集中している巽さんが応えられるはずもない。それでも甲高い悲鳴はヒートアップしていった。スタッフが注意しても収まらない。
「きゃー! かっこよすぎ! ビジュ良っ!」
「ぎゃあっ近すぎあの女! あたしの巽を盗らないで!」
「アハハ! あたしのって何ぃ?」
「え~だって~!」
乗りに乗っていた空気に水を差された。たまらず監督はカメラを止める。
「監督! 俺のせいですみません!」
「い、いやいや、巽くんのせいじゃないよ、うん。ファンは大切にね。握手でもしてあげな」
「は、はい……」
巽さんは渋々ファンサービスしに行った。握手をすると、女子高生はバカみたいに興奮していた。人間のものとは思えない声を出し、飛び跳ねる様は、空気の読めない猿も同然で、目の毒だ。
女子高生はぺちゃくちゃと自分語りをし、巽さんの手を離さない。彼の苦笑いに気づいていないのか、顔立ちの良さにしか眼中にないのか。いい加減察してくれないだろうか。
スタッフが声をかけに行こうか話し合うなか、すっ、と華奢な体が立ち上がった。
「巽さん」
「ひ、妃希さん!」
「撮影、始めるみたいですよ」
か、かっこいい! 颯爽と! 助け船を出した!
全スタッフ、あたしが歓喜!
ヒーローのごとく登場した妃希さんに、巽さんも安堵の笑みをもらす。元気よく返事をしながら、やんわりと手を抜き取った。
女子高生だけは不服そうに妃希さんを睨みつける。
「えぇー。もう行っちゃうんですかー」
「ひどー。ちょっとくらい別にいいじゃん」
「すみません、撮影があるので」
「応援ありがとうございました! できたら静かに見守ってくれるとうれしいです! よろしくお願いします!」
推しに今日イチのテンションでさりげなく忠告されれば、さすがの女子高生もうなずくしかない。
巽さんは満足げにキッチンカーへ帰っていく。妃希さんも軽く一礼してあとを追う。
ひらり、ワンピースがひるがえった。
――ビチャッ!
いやな音。いやな感覚。
「ああ、ごめんなさーい」
「ちょっと手がすべちゃって……ク、フフ」
いやな、笑い声。
場が凍りついた。全員が目を疑った。
妃希さんが一時停止する。せざるを得ない。
一面きれいなまでに真っ白だったワンピースを、汚されたのだから。
裾に泥のように飛び散った痕跡が、布地に染みていく。その濃さ、大きさは、容易には隠し切れない。
女子高生は後ろ手にペットボトルのジュースを持っていた。どこから見ても事故なんかじゃない。あれらは本当に猿だったのかもしれない。
だって。
こんなのってない。
「フフフ。わざとじゃないんですー」
「許してくれますよねー?」
変色した裾を見て、妃希さんは黙りこんだ。泣いちゃうんじゃないの、と女子高生は愉悦そうにうかがっている。
助けなくちゃ。あたしが、行かなきゃ。
はらわたが煮えくり返りそうだった。いてもたってもいられずガタンと椅子を倒した――そのとき、妃希さんが顔を上げた。
「泣いて……な、い?」
「わざとでは、ないんですよね?」
「え……あ、はい」
「でしたら大丈夫です。気にしないでください」
「え、っと……」
彼女は、笑っていた。
皮肉じゃない。混じりけのない、純粋な気遣いだった。
女子高生は嗤えなかった。
欲しかった反応とは真反対。清廉潔白だからこそ、有無を言わさない迫力があった。けっして汚せない年下のほほえみに、彼女たちもまた、やられたのだ。
しんと静まり返った。
妃希さんが再び歩き出し、ようやっと場の時間が進む。あたしははっとして椅子を立て直した。
あたしの出る幕はなかったな。そりゃそうだよね。あの子を助けるなんて、そんなの、おこがましい。
「春日野!」
妃希さんにいち早く駆け寄ったのは、彼女のマネージャーだ。
焦った様子で彼女の身を案じている。彼女自身は至って平然としていた。
達観している。怒るでも泣くでもなく、あんなにも堂々としているなんて、17になったあたしでもできやしない。
監督やスタイリストたちも合流すると、妃希さんは困り顔になる。「大丈夫?」「大丈夫」の問答を何度も往復していた。
大事になりつつある。女子高生は青ざめた。逃げたくても、足がすくみ逃げられずにいた。
「妃希ちゃん、本当に大丈夫かい?」
「はい。ただ、せっかくの衣装を汚してしまって申し訳ないです」
「あれは彼女たちが……!」
「わざとではないと言っていましたし、わたしの不注意でもあります。のちほど弁償しますね」
「弁償なんて! ねぇ監督?」
「ああ、そのことは気にしなくていい。妃希ちゃんに責任はない。事故ならなおのことだ」
だがな、と監督は後ろ頭を掻く。
「その汚れじゃあ撮影は難しそうだな」
「腰にシャツでも巻きます? 少々ダサくなりますが……」
衣装問題。これはなかなかに大きい損害だ。
雑誌撮影の場面は、いわば山場。あのシーンがあるからこそ、ユウダイの恋心がたしかなものになり、第4話のラストで好きだと伝えられるのだ。
その布石となる肝心なシーンは、数少ないこだわりたいところ。
妥協は避けたいが、用意された衣装には限りがある。念のため予備はあれど、妃希さんの衣装を替えてしまうと、色味や画などを考え、必然的に巽さんの衣装も替えることになる。つまり、イチオシの衣装はお蔵入りになってしまう。
詰んだ。
選択肢のどれもが妥協しかない。
「あの」
ふと、妃希さんが手を挙げた。依然として平然としたまま。
「このまま一度撮影してみませんか?」
「へ?」
「で、でも」
「運よく汚れが目立たないかもしれないじゃないですか。物は試しです。無理があるようなら、シャツを巻くなり着替えるなりします」
大丈夫だと、彼女の目が物語っていた。
運だ。そう、この世界は運でできている。だからきっと大丈夫なんだろう。
疑いの余地はなかった。
監督たちの懸念が目に見えて取っ払われた。ふたつ返事で受け入れ、撮影のスタンバイをする。あっという間に現場が活気づいていった。
グロスを塗り重ね、前髪の分け目を直し、左の太ももあたりについた服のシミから水分を吸収する。
きれいになった妃希さんが、ちらり、女子高生に目配せした。たじろぐ彼女らに含み笑いし、位置につく。
そこで、見ていて。挑発しているようにも、やさしさにも感じた。
「本番いくぞ!」
「シーン54、テイク1。よーい、アクション!」
肩の力の抜けた、カチンコの合図。
カメラを手にカメラマンが動き出す。
スタートはキッチンカーの全体図。カウンターをへだて、右にアヤ、左にユウダイがいる。微妙な距離感がもどかしい。
カメラがアヤに寄る。ワンピースの汚れを気にしてか、ランスルーより動きが鈍い。
アヤはユウダイに、そしてカメラにも背を向けた。うつむきながら両手をうしろ首に回す。
緊張、しているのかな。年相応の恥じらいがうかがえて、なんだかかわいらしい。
長い髪の隙間から覗く横顔が、つと凛々しくなった。
首から手を離し、左に振り向けば、ふわっと髪が舞う。香りをまくように軽やかに、華やかに、細い糸が宙を踊り、顔周りを飾り立てる。
時が、止まる。
スローモーションのように落ちゆく髪を、一本一本、ユウダイの目がたどっていく。
あたしも、“ユウダイ”と化していた。
アヤと、視線が、絡み合う。
アヤは力なくほころんで、こちらにトコトコ詰め寄ってくる。微妙な距離感を一瞬で埋め、ユウダイのうしろに回った。
「え、なに!?」
「んふふ」
「ちょ、ちょっと、なあ!」
ぐるぐる、ぐるぐる。ユウダイの周りを回り回る。右肩からひょっこりと顔を出し、今度は左肩をちょんちょんと押してみる。
まんまと左を向いたユウダイに、右からほっぺを突っついたアヤは、子どもっぽく噴き出した。
「こ、こら。仕返し!」
「うにゅ?」
今度はユウダイのターン。アヤの両頬をむにむにいじり、びよんと伸ばした。太い指の触れてるところからじわじわと赤らんでいく。
アヤはふいとそっぽを向いた。カウンターにもたれかかり、胸元のハートマークにそっと両手を添える。
にやけながらユウダイもカウンターに右腕を置いた。下からアヤの顔を覗きこむ。
笑みが伝染する。
おもむろにアヤの両の手のひらが、ユウダイの右手を包んだ。
「……カ、カット!」
――カチンッ。
っぷは、と口から空気がもれた。
今の今まで、あたしもアヤのそばにいた。ドラマの世界に飲みこまれていた。
リハーサルやランスルーと動きは似ていたのに、まるでちがった。
アヤがかわいくて、かわいくて、仕方がなくて。
どうかしていた。心の底から。
「監督、どうでした?」
妃希さんが監督に聞きに行くと、絶賛の嵐。あの表情がよかったとか、あの仕草がたまらんとか。息継ぎなく熱弁していた口が、はたと硬くなる。
急に肩を落とした監督は、泣いてしまうんじゃないかってくらいしょげてしまった。
「画的にはこれ以上なくおいしい、んだけど……」
「汚れ、映ってしまってましたか?」
「うーん……たぶん、ね。あの動きだとさすがに無理があるんじゃないかなあ……。とりあえずVだけチェックしてみるよ」
「はい、お願いします」
撮り立ての映像がモニターに反映される。
愕然とした。
監督、そしてあたしも、椅子から転げ落ちかけた。
真っ先にピントが合うのは、自信のついたアヤの横顔。なびく髪は鮮明で、はためくワンピースはぼやけている。
美しさに磨きがかかる流れを、惜しみなく捉えていた。
そう……あたしにも、こう見えていた。
最後、真っ赤なハートを贈るように手を繋いだところまで、あたしたちの見たままのフォーカスで映し出されていた。
カメラワークもピントもメリハリも、この目で追っていた景色と、まったく変わらない。
服の汚れなんか微塵も気にならなかった。それどころか画角に汚れが入りこんでいても、ちょうどよくフォーカスがずれていて気づかなかった。
「これではだめでしょうか?」
首を傾げる妃希さんに、監督は「まさか!」と高らかに笑った。
映像がリプレイされ、また熱弁が始まる。
随所に仕掛けられた注目ポイントのほとんどを、上半身に集め、視線誘導と大きな動きで補完してある……らしい。
汚れは多少なりとも映ってはいるものの、この程度なら編集でどうにでもできてしまえるとも、喜色を全面にして言っていた。
あたしにはすごいということしか理解できない。でも、運だけでは到底成し得られないことは、わかる。きっと宝くじが当たるよりうんとすごい。
今夜は眠れそうにない。
「オッケーですって。無事に済んでよかったですね」
昂る監督に相槌しつつ妃希さんがそう告げた相手は、あの女子高生2人だった。
まだいたんだ。すっかり存在を忘れていた。
妃希さんにほほえまれ、女子高生は涙を流した。いや、すでに泣いていた。マスカラが取れ、黒くなった目元をこすってはまた黒く汚している。
「ごめんなさ……ッ、す、すみませんでした」
「あの……まじ、感動して……うち……ッ」
「泣かないでください。せっかくのかわいい顔が台無しですよ?」
妃希さんからハンカチを受け取るとさらに泣きじゃくった。戸惑いながらも妃希さんは涙を拭ってあげる。
あんなに染みこんでいた汚れが、きれいさっぱり洗われていく。
――もったいないよ。
――いつでも変われるのに。
ちがう。
ちがうよ。
彼女がすべてを変えてくれるの。
女子高生を見送ったあと、雑誌撮影を終えたアヤとユウダイの会話シーンを何テイクか重ねた。カメラの位置を変え距離を変え、ふたりの心がぐっと縮まった様子をあますことなく伝える。
もうすぐ、今日あたしが出演する最後のシーンだ。
かわいくなったアヤに感化され、フワリがアヤに赤裸々に思いを語る。あたしの好きなシーンのひとつ。
妃希さんと一対一での芝居はライブシーン以来、いや、あのときはエキストラがいたから、ちゃんとしたふたりきりははじめてだ。
ひと缶丸まる飲んだホットココアは、どんな味だったっけ。
「シーン57、撮影しまーす」
始まる。
アヤの私服に着替えた妃希さんが、目の前にいる。当然だ。これから撮影するのだから。なのに、なぜだろう、鳥肌が立つ。
「シーン57、テイク1」
「よーい、アクション」
始まってしまう。
あたし、フワリになれる?
――カチン。
「撮影、お疲れ様」
「フワリちゃん! あ、あの……い、いかがでしたか?」
「……嫉妬、した」
「嫉妬、そうですか、嫉妬……って、ええ!?」
声が小さい。舌が回らない。目を合わせられない。
むずかしいな。
今までになく緊張してる。あのライブシーンよりもはるかに。
「ど、どうしてわたしに嫉妬を!?」
「あたし……」
「……?」
「あ、たし……」
セリフが喉に引っかかって出てこない。
言えない。
こんなんでフワリになれない。
「…………す、すみません」
「カット! 七音ちゃん台詞飛んだ?」
「いえ……すみません」
「はは、そう落ち込まないで。台本確認しようか」
セリフは頭に入ってる。
入ってるだけだ。
スタッフが持ってきてくれた台本を、まるで他人ごとのように読んだ。アヤとフワリの名前が並んでる。あたしは思わず目を細めた。
「シーン57、頭から」
「テイク2。よーいアクション!」
「……撮影お疲れ様」
「フワリちゃん! あ、あの、いかがでした……?」
「嫉妬した」
「シット、そうですか、嫉妬……って、ええ!? ど、どうしてわたしに嫉妬を!?」
どうして。
それはフワリがかわいさにこだわる理由。
代弁すべきあたしは、ちっともかわいくない。
「……っ」
「フワリちゃん?」
またカットがかかった。
マネージャーがおろおろしている。監督たちが何か言っているようだけれど、うまく聞き取れない。鼓膜が麻痺していく。
どんどん、どんどん、血の気が引いていく。こんな姿、妃希さんに見られたくない。ひたすら新品の厚底靴を見つめた。
あたしはフワリじゃない。
清廉潔白でもないし、天才でもない。
ちっぽけなプライドと自信を砕かれたら、ただの凡人。
彼女には、なれっこない。
それでも。
「七音さん、焦らないで」
「ぁ、」
「ゆっくり、ゆっくり、息を吸って、吐いて」
背中に温もりが触れた。ぽん、ぽん、とやさしく撫でられる。
その手は、その声は、妃希さんのものだと気づいたとたん涙腺がゆるんだ。
だめだ。
もう。
戻れない。
でもいいの。
戻りたくない。
もしかしたら、あたしは今、やっと、恵まれたのかもしれない。
涙が出そうになって上を向いた。引っこめ。泣くのは今じゃない。
ずっと撫でてくれるリズムに合わせて深呼吸をした。すぅ、はぁ、すぅ。清んだ空気を流し入れ、細胞単位まで染み渡らせる。
戻らない。あたしはあたしをリセットする。
「……妃希さん、ありがとう」
「もういいんですか?」
「はい。ご迷惑おかけしました」
監督たちにも頭を下げると、鼓膜が震えた。あたたかな言葉ばかりが耳に届く。あたしはまた頭を下げた。
撮影が再開される。カメラやレフ板に囲まれながら、妃希さんと向かい合う。
緊張は、まだ、してる。けど、怖くはない。
背中に温もりが残ってる。
「テイク3、よーい」
妃希さんはあたしを見て、一度うなずいた。
温もりが広がっていく。あたしのと混ぜ合わさり、馴染んでいく。
体温が上がった。
「アクション!」
あたしの中に、フワリが、いる。
「撮影お疲れ様」
「フワリちゃっ! あ、あの……いかが、でしたか?」
「……、嫉妬した」
「シット、そうですか、嫉妬……って、ええ!? どどどうしてわたしに嫉妬を!?」
「あたし……」
あたしはフワリとはちがう。
全然かわいくない。
ごめん、でも、本当はかわいくなりたい。
憧れたの。きらきらな一等星に。愛されたいと願ってしまったの。
フワリ、あなたもそうだった。
「あたし、昔、ブスだったの」
ためらいがちに吐き出せば、心臓が痛んだ。
かわいい、かわいいフワリが、かわいげなく映っていたらいやで、精一杯口角を上げた。
アヤは声を上げておどろく。なにげないその仕草もちゃんとかわいくて、たまらず語気を強める。
「でもユウくんのことが好きで、大好きで。隣に立ちたくて、がんばってかわいくなった。今だって死ぬほどがんばってる!」
この思いをアヤに――妃希さんに明かすと、選手宣誓しているみたい。
うん、あたしも、がんばる。ここからがんばっていく。
フワリの思いと完全に共鳴していた。
「だから許せなかったの。かわいいを隠してるあなたが、ユウくんの隣にいること。ユウくんがあなたを選んだことも、全部」
「フワリちゃん……」
「だけど」
声の色を変えた。たとえるなら、朗らかなオレンジ。今の空みたいに何もかも包んでしまえそうなくらいのトーンで、伝えなくちゃ。
本当に伝えたかったこと。
さっき無理に引っこませた涙が、ふちに溜まっていく。赤らむ目に光が反射した。
「撮影してたあなたは、すごくかわいかったよ」
自己満足で十分。言うだけ言って、アヤの横を通り過ぎていく。
一拍遅れて彼女は振り返った。感極まった激情をたたえられず、ほとばしる。
「っ、ふ、フワリちゃん大好きです!!」
「ッ!」
「ずっとずうっと! わたしの憧れです!!」
ぽろっと涙があふれた。たったひと粒、ファンデーションの上を滑っていく。
ここは笑おうって決めてたのにな。
ありがとう。あたしもきらきらさせてくれて。
「カットォォー!!」
あたしはすぐさま踵を返した。
来た道を一直線に走り、勢いよく妃希さんに抱きついた。またひと粒、涙がこぼれ落ちる。アイメイクが崩れても気にならない。
「え、えっと……七音さん?」
「妃希さんに出会えてよかった……っ」
「そんな、大げさな」
冗談ぽく笑う妃希さんを、さらに力強くぎゅっとする。
本当だよ。
アヤがあなただったから、愛さずにはいられなかった。
握手会のときにファンが悶えながら言っていた「クソデカ感情」って、きっとこれのことだ。単純な喜怒哀楽では片付けられない。
あぁ、困ったな。思っていたよりも深い沼にダイブしてたみたいだ。
心地よくて離れられそうにない。




