傷痕
――大人気放送中の日曜ドラマ『1のAのヤクザくん』。来週最終回を迎える本作で、主演を務めた雨ヶ谷丈さんをお招きし、撮影の裏話をたっぷりお伝えします!
お招きくださり、ありがとうございます。放送前にインタビューを受けてから、あっという間に3ヶ月が過ぎましたね。そろそろ時間を止める能力を身につけないと(笑)
――ヤクザくんなら、本当にできてしまいそうですね!
気づいたらできちゃった的なノリでやっちゃいますねきっと(笑)
――不可能を可能にしてしまえそうな、彼のフリーダムなキャラクターに、視聴者の方からは「勇気をもらった」との声が多く寄せられています。そんな彼とも、来週でお別れだと思うと、寂しさがありますね。
俺も、撮影時はそうでした。そのときは、放送がまだ先だからと、自分に言い聞かせていたんですが、その言い訳も使えなくなっちゃいますね。
――雨ヶ谷さんのお言葉やご様子から、とても充実した現場だったのが伝わってきます。
キャストは全員共演経験がありましたし、スタッフは皆さん親切で、常に笑いが絶えない現場でした。
……しいて言うなら、スケジュールがハードでしたね。
――今冬に公開予定の映画『SIESTA THE MOVIE』に、出演されることが発表されてましたもんね。
そうなんですよ。ドラマの撮影後半が、映画のクランクインとかぶってしまって。現場を行き交うこともしばしばでした。
せっかくなので、映画についても少し宣伝させてください。大人気シリーズ『SIESTA』に、今作から参加させていただきます。1stシーズンからリアタイしていたくらい大好きな作品なので、あの世界に仲間入りできて、非常に光栄です。しかも、主人公・ボンスケのライバル役として! これ以上、詳しいことを話せないことがもどかしい! ぜひ続報をお待ちください!
――続報が待ち遠しいです! うわさによると、アクションシーンもあるとか?
はい。『1のAのヤクザくん』で叩きこまれたアクションのいろはを、映画でも存分に発揮します!
――ドラマでアクションシーンに初挑戦したとのことですが、大変だったことはありますか?
体がついていかなかったことが、まずぶち当たった壁ですかね。筋肉を鍛えても、反射神経や力の調節が言うことを聞かず、悪戦苦闘しました。
とにかく練習して、やっとコツをつかんだと思ったら、次はワイヤーアクションをやるよー、と監督にさらりと言われて、さすがにびっくりしました。……まあ、楽しさが勝りましたが。
――「苦しい」も「楽しい」に変えられるところが、雨ヶ谷さんの魅力ですね。
ヤクザくん……トシロウの魅力でもありますね。有り余るエネルギー、猪突猛進さ、空気の読めなさも、彼が愛されるゆえんなんでしょう。
俺自身、そんな彼に支えられていました。俺が、俺らしく、本作をまっとうできたのは、彼のおかげです。
―― 雨ヶ谷さんは「ヤクザくん」への愛が人一倍深いんですね。
最終回直前の前話では、屋上から愛の告白をし、決死のアクションに挑むシーンがありました。演者とキャラクターの共鳴がずば抜けて感じられたのも、そのおかげでしょうか。
愛……。
そう、かもしれません。
顔合わせ時にあらかじめ、例の告白シーンはアドリブだと言われていて、ずっと悩んでいました。ですが、撮影が始まると、すらすらと言葉が出てきたんです。思っていた以上に、自分の中に愛をためこんでいたのかもしれません。
――とてもドラマチックで、まさに感動の嵐でした。神回と話題にもなってましたね。
そんな告白シーンを経て、次週はいよいよ最終回! まさかの結婚騒動! 今からドキドキです!
親の再婚と極道の後継問題が交差し、そこにトシロウ自身の恋愛もがっつり絡んできます。このボリュームは60分にはおさめきれない! ということで、90分拡大スペシャルでお送りします。あれほどドタバタな青春は、『1のAのヤクザくん』ならではでしょう。
――たしかに、学生の恋愛に結婚が関わることなんて、なかなかないですよね。
ちなみに、雨ヶ谷さんご自身は、結婚願望はありますか?
結婚、ですか……。
今は……考えられないですね。
――それはなぜ?
俺、好きな人がいるんです。たぶん、その人じゃないと、だめなんだと思います。
――え……と……冗談、ではなく?
俺の青春は、いつも、ここにあります。
――あ、あぁー……なるほど、ファンが好きということですね?
言葉にしないと、伝わらない気持ちもありますよね。だからこそ、できる限り、伝えていこうと思います。
ドラマの最終回、もちろんそのあとも、愛の恩返しをしていきます。ぜひ期待していてください。
(マガジン ウワサノ 8月号より)
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はあ、またやっちった。
にっこり営業スマイルの記者と、青鬼の形相のマネージャーに、否応なしに自分の罪深さを痛感させられた。また京志郎に笑われちまう。
謝る気はない。今回は自分から地雷を踏みに行ったし。
こうするしかなかった。
捌け口は、ここしかなかった。
かんかんなマネージャーに、罰としてタクシー禁止令を出された。そういうマネージャーは、先手必勝で事務所に報告しに、タクシーに乗っていった。
置いてけぼり。ひでえ。
まあ、でも。俺も26だし、スケジュールも行き先もばっちり頭に入っている。次は雑誌『chay』の特集ページの撮影だ。
インタビューの場を提供してくれた出版社をあとにし、撮影スタジオへ移動する。最寄り駅までは徒歩だ。帽子とマスクをしているとはいえ、この眉目秀麗な顔立ちだ、俺だと見抜く人は少なくない。裏路地を好んで歩いた。
まだ日は高い。薄手のシャツをまくる。虫の羽音がしたが、気にせず緑の葉の下をくぐっていった。
大正を彷彿とさせるレトロなカフェ、駄菓子屋、神社。進むにつれ、時代は昭和へと移り変わっていく。その道の角には、小さな電気屋が佇んでいた。
なんとなくショーウィンドウに注意を引かれた。ほこりのかぶった、アナログの小型テレビ。それを押しのけ、2世代前のテレビが最前を制している。こう言っちゃなんだが、ここではそれが真新しすぎて、店の世界観にそぐわない。
5台ほど並ぶ種類の中で最も値段の張る媒体にだけ、電源が入れられていた。手入れの行き届いた液晶画面に、生放送中のニュース番組がクリアに反映されている。
国際的な映画の祭典で、日本の映画が特別賞をもらったのだそう。高揚しきったキャスターが、マイクとの距離感を忘れ、息継ぎを荒くする。
『現在、日本で大ヒット中の話題作「未だ蒼きハルの子へ」! 高い演技力、演出が大絶賛され、異例の快挙を成し遂げました!』
鳥肌が立った。どこからにじみ出たのか、汗が伝う。
熱いコメントの最中、上映真っ只中の作品の予告映像が繰り返しめぐっていく。そして最後に、この番組でだけ特別にイチオシシーンを独占放映された。
鼻の穴を膨らませていたキャスターの顔が、暗転後、美しく生まれ変わった。真っ黒な瞳孔を拡張させた、幼き少女――ひさ子が、俺をねめつける。興奮した。
『わたしらしさって、何。恋って何?』
体育祭が過ぎ、変に浮かれたままの教室。少年ミチとの関係を執拗に冷やかされ、ためてきた苦痛が爆発する。
彼女は泣いていた。その感覚もないのだろう、表情とまるで合っていなかった。それがかえって苦痛を最大限に視覚化させていた。
クラスメイトたちは彼女を他人ごとのように見ている。いや、恐れている。唯一、親友のヒマリが『アオイ……』と手を伸ばす。が、吐き捨てられた冷笑に、その手を引っこめてしまう。
『決めつけられなくちゃいけないの? しなくちゃいけないものなの?』
『……っ』
『どうして、みんな、ふつうにしていられるの。わたしは、ずっと、わたしのままなのに』
深まる眼光が、卑しくぎらついた。
『決めつけるなよ……!』
わざとこの作品を見ないようにしていた。それでも好奇心はうずく一方で、ついに先週、京志郎とともに映画館で観てきたばかりだった。
何も言えなかった。映画館を出たあとに感想を語らう予定で予約していた、半個室タイプのカフェでは、別れ話を切り出すカップルよりもはるかに重く沈んでいた。撮影現場を生で見届けた京志郎でさえ、何時間もため息しか吐けなかった。
ずっと痛かった。
彼女がアオイとして叫び散らしたあの苦痛は、結局何の解決もされなかった。映画では、『わたしは、まだ、このままでいいや』と彼女がつぶやいて終わってしまう。あきらめのような、執着のような、けれどたしかに異質な情を匂わせて。
あれは、セリフだったのか。彼女の本音だったのか。
――ふつうに見えるように自分を慣らしただけですよ。
そう言っていた2年前とは、ちぐはぐしている。共感もしてる。自分の感情ほど、慣れないものはない。
だから山ほど後悔する。
だから、生かされている。
いずれ、ほとぼりは冷めていく。彼女の存在が忘れ去られていく。それに慣れることはない。認めることすらできない。そんなの、させない。
これを愛と呼べなくなる日が来ても、俺は好きにやっていくよ。
「またな、ひさ子」
裏路地を通り抜けると、ちょうど高校生らしき男女に出くわした。大げさにびっくりされる。あ、バレたかも。
カップルか、兄妹なのか、おんなじ大きさに口を開けて、おんなじポーズで固まっていた。
どうしようかな、目立つのはちょっとな。裏路地に引き返そうとすれば、急にぐっと押し迫られた。
「あ、雨ヶ谷丈!?」
「ですか!?」
テンション感までおんなじだ。しかもちゃんと小声で、配慮まであるときた。いっそ感心する。
マスクをずらしてやった。ふたりそろって身を反らし、噛みしめる。ほんと仲良しだな。
「ヤクザくん見てます!」
「ああ、ありがとう」
「握手してください!」
若者は元気がいい。圧倒されながらも、握手に応じる。
熱愛報道で一度評判が落ちてしまったものの、『星のない夜』の最終回の放送で、逆転サヨナラホームラン。ハッピーにもバッドにも転びきれないエンディングが、特に原作ファンに受けがよかったのが功を奏した。
まったくテイストの異なる『1のAのヤクザくん』は、王道路線を行き、最高のハッピーエンドが確約されている。薬として癒してくれたし、毒としても、俺を戒めてくれた。
きっと、俺は、死ぬまでこうなんだろう。
「先週の、愛の告白しびれました!」
「あれ、アドリブって聞いたんですけど、もしかしておひいちゃ――」
しっ、と口に指を添わせる。不敵にほほえんでみせた。
「ご想像にお任せします」
ごめんな。この話の続きは、また今度。




