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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第247話

顔を合わせるなりファッキンな暴言をカマした荷物持ちの年増BBA3名を加えて、俺達のPTは暫定的に総勢8名の所帯となった。各々割り当てられた旅荷を担いで出立した俺達は、日が高くなる前に都市の防壁に築かれた門で手続きを済ませ、鉱山都市改めメシマズ都市ギリンガムを後にした。


目指すはギリンガムから更に北方に在る、大国エリスタルの北端に程近い町である。其の町を拠点として、俺達は町の近隣に在る鉱山周辺の魔物や猛獣を大規模討伐する仕事に参戦する計画だ。


エリスタルの王都からギリンガム迄の長旅は、其の殆どの道程で高名な赤の街道を通り抜けて来た。しかし此処から先の道は、一応何とか言う名の付いた街道ではあるらしいのだが。暫く歩いてみた感じとしては、赤の街道と比べて規模も、見栄えも、賑わいも明らかにショボい。一応道に轍の跡は在るが、勿論舗装何ぞされてるハズも無い。つうか歩いてると時折道が雑草に酷く浸食されており、暫く放って置いたら常人には見分けが付かなくなりそうだ。


そんなショボい道を俺達は黙々と歩く・・事は叶わなかった。ひたすら喋り続ける三名のBBAズのせいで。彼女等は女としては無暗にゴツい体格に相応しいパワーを如何無く発揮して、水樽を始めとする重くて嵩張る旅荷を苦も無く担ぎ上げ、歩みも非常に力強い。ソイツは大変結構なのだが、ベラベラベラベラとマジで度し難い程に糞五月蠅い。よくもまあそんなに絶えず喋り続けて居られるもんだ。


しかしまあ此のおばちゃん達。確かに口は悪いし、図々しくて色々と配慮が欠けてるし、そして何より糞五月蠅くは在るのだが。ベラベラ喋り倒す話に耳を傾けたり、揃いも揃って矢鱈世話焼きな様子を観察するに、どうやら性根は悪い人達では無いらしい。なので初対面の際に、迸る衝動に任せてブン殴らなくて本当に良かったと思う。


てな訳で、短気は損気。猛省せねば・・・と、普通なら懺悔室にでも籠ってアーメン拉麺と祈りながら深く悔い改めるトコロなのだが。実の所、其れが正解と一概には言えないのが中々に難しい。


何故なら諸々な意味で荒々しい此の世界では故郷と違い、思い立ったら即座にぶちのめすスピード感が肝要なケースが往々に有るからだ。逆に変に耐え忍んだり、気取って冷静沈着に振る舞おうとすると、時と場合に拠っては却って被害が泥沼化したり、過度に舐められたりする事態に陥りかねん。


例えば暗黒面に堕ちたクソガキ共を相手する時とかな。奴等の恐るべき凶暴さと邪悪さは、故郷の所詮飼い慣らされた悪ガキとはレベチもレベチだからな。こら~ナイフで寝首を掻こうとするの、止めなさ~い・・とかアホみたく口頭で言い聞かせたトコロで、奴等がそんな寝言聞くわきゃねえし。


まあ相手は餓鬼に限った話じゃ無いが、もしそういった手合いから舐めた真似をカマされたら、即座にプッツンして(或いはしたフリして)水月なり肝臓《レバー》なりに制裁ブローを叩き込むのが、此の異界での経験則から捻り出された正道の一つなのだ。更生?出来る訳ねぇだろ。くたばれ。


なのであの婆センパイのように常時ノータイムでブチ切れブン殴りとは言わぬまでも、ここぞと言う時の暴力のスピード感は出来る限り損なわないでおきたいものだ。



朝方は一面灰色の雲に覆われていた空だが、ギリンガムを出立してから間も無く青空と太陽が顔を覗かせた。荒野に辛うじて刻まれた勾配のある道を歩き続けた俺達だったが、体感で二時間程も歩いた頃合いだろうか。俺達の中で最も軽い荷を担ぐションベンと乳白色が、ヒーヒーと喘ぎながら盛大に音を上げた。俺の見立ては異なるが、二人の自己申告に拠れば、どうやら体力の限界・・らしい。


そう来る事は予想はしてたが、思いの外早かったな。つうかお前等、今迄の旅路で平気な顔で騎鳥に乗ってたにしては、些か貧弱過ぎやしないか。俺が黒羽を乗り回す際には、結構な体力と筋力を要求されたのだが。いや、もしやアイツが他の騎鳥と比べて普通じゃ無かったのだろうか・・・まあいっか。


何れにせよ、此のままでは先へ進めない。そこで俺達はPTリーダーである金パツ坊やの指示で、暫し休息を取る事にした。そして休憩の間にPTの五名&オバチャンズの一同でひとしきり協議した結果、ションベンと乳白色の荷物を他の皆で分担して担ぐ事に相成った。


本来ならばそんな甘ったれた所業を許す俺では無いし、二人のケツをドラムみてえに高速連打してでも荷を担いだままキリキリ歩かせるトコロなのだが。今はチンタラと歩みが停滞する方が我がストレスゲージの伸び具合がヤバそうなので、俺は内心憤懣やるかたないものの、渋々荷の分配を承諾した。


其の後は幸いにも大きなトラブルは無く、空荷になった貧弱コンビもピーピーと泣き言をホザく頻度が少なくなり、俺達は時折小休止を挟みつつも粗末な道をひたすら歩き続けた。


そして日が随分と傾いた頃合い。俺達は具合の良さそうな岩陰で担いだ荷を降ろし、野営の支度を始めた。近隣に人族の居住地が無い為、今夜は此処で野宿だ。


即席の竈造りはナヨ雄に一任して、雨避けの天幕を手早く張った俺がやたら騒々しい方へ目を向けると。車座になって地面に胡坐をかいた荷物持ちのおばちゃんズが、アホ程陽気に騒ぎながら瓢箪みたいな器を傾けて何やら喉奥に流し込んでいる光景が目に留まった。俺の鼻腔に漂う微かな臭気から判断するに、アレはもしや酒か!?


オイオイオイッあのBBA共は何でいきなり酒盛りしてんだYO。しかもBBAの内の一人は、酒器を片手に真っ黒な骨付き肉ぽい物体に齧り付いている。俺達は此れから夕餉の支度だってのに、早くも抜け駆けしやがって。てか其の酒は一体何処から湧いて出た・・・て、いや待て。そう言えば初顔合わせの時に連中が唯一持参してた、腰巻きに吊り下げられてた革袋の中身がアレか。


しかも早くも出来上がってるぽいおばちゃんズは、三人三様の有様で金パツ坊やとナヨ雄に絡みまくっている。つうかおばちゃんよ、そんなに馴れ馴れしくして大丈夫なのか?おばちゃん達に対しては未だ明言して無いみたいだけど、ソイツ等一応貴族様の一員なんだぜ。


とは言え、俺も偉そうに他人の事を言えたモンじゃねえか。いや寧ろ、おばちゃんズは身形や言動から坊や達が上流階級である事を薄々察しているのか、注意深く観察すると不躾な態度や会話が何処まで許されるかのラインを探ってる節がある。そう考えると、初手からタメ口で遜る気ゼロな俺よりは幾らかマシなのやも知れん。まぁだからと言って今更低姿勢になるのも何だし、其れに定住者と違って身一つの風来坊な俺には、最悪脱兎の如く逃亡という切り札が有るからな。


おばちゃんズの様子を眺めた限りでは、差し当たって問題は無さそうだ。なので俺は一先ず連中の事は放置して、早々に野営と夕餉の準備を済ませる事にした。


で、今度はナヨ雄が拵えた竈の前に座るションベンなんだが・・・。


「おいショ、シーリン。何時までグズグズやってる。早く火を起こせ」


保存食を使用した夕餉の軽い仕込みを済ませた後。ナヨ雄謹製の不格好な竈の傍に歩み寄った俺は、先程から火起こしに手間取るションベンを見下ろして、焚火の準備を急かした。


「うるさいわね!今やってるでしょ。もう少し待ちなさいよ!」


すると此方を振り向いたションベンが、キーキー喚きながら俺を睨み付ける。が、もう十分過ぎる程待ったぞ。こちとら夕餉の支度は無論、季節がら虫除けの燻煙も炊きたいんだよ。つうか火起こしの役目はお前から志願したんだろうが。さっさと火を起こして、此方にも火種を寄越せ。


「チッ。火魔法を使う癖に、火起こしすら碌に出来んのか。使えない奴だな」


「な、何ですってえ!?」


おっといけねえ。イライラが募る余り、素直なお気持ちが我知らず口から溢れ出してしまったぜ。


「見てるだけの癖に偉そうに口出して!だったらアンタがやってみなさいよ!」


・・・は?舐めんなド素人が。


俺は腰に携帯した小物入れから愛用の火打石と、木綿の様な物体を素早く取り出した。木綿擬きは王都の雑貨屋で偶然手に入れた代物で、滅茶糞良く燃えるので火口としてお誂え向きなのだ。故郷の木綿と違って色はグレーだが、同じく糸の原料にもなるらしい。


竈の石の上に木綿擬きを設置した俺は、


「アラララララララァイッ!」


超スピードで石を打ちまくり、六身合体した線香花火の如く木綿擬きに猛烈な火花のシャワーを浴びせかけた。但し、余りやり過ぎると石が割れるので、力加減には細心の注意を払わねばならん。


そして首尾良く火花が着火すると、俺は木綿擬きを両掌で包んで持ち上げた。次いで口をタコの如くすぼめて、優しく空気を送り込んでやる。


すると手の中の木綿擬きからあっという間に煙が立ち、そして火の手が上がった。


「フンッ、まあこんなモンだ」


「ぐぎぎぎっ」


俺は普段よりドヤ値二十割増しの笑顔を浮かべて、アホ面で目を剥くションベンに向けて両手の中から立ち上がる炎を見せ付けてやった。


此の間の推定時間は僅か3分足らず。人里から遠く離れた山奥で、たった独りで何年も生き抜いた俺だぞ。苦労知らずの貴族の小娘如きが、生存術で勝てるとでも思っとんのか。


「あっ!?何するのよ!」


それからションベンを見下ろしてひとしきり着火カーストのヒエラルキーを楽しんだ俺は、両手を握り合わせて木綿擬きの火を揉み消した。因みに掌はしっかり耐火の魔法で保護しているので、火傷の心配は全く無い。


「今日の火起こしはお前の仕事だろう。なら、お前が責任を持ってやれ」


「うっ・・分かったわよ。平民の癖に一々偉そうに・・・」


ションベンが厚かましくも今起こした火種に乗っかる素振りを見せたので、俺はきっちり釘を刺してやった。とは言え此のままモタモタ独りでやらせては、野営の準備にも色々支障が出そうだ。なので誠に不本意ながら、少しばかり助け舟を出してやる事にした。


俺は小物入れから今度は乾燥した木片を取り出し、次いでホルダーからナイフを引き抜いて木片を削り始めた。手慣れた作業なので、さしたる時間は掛からない。それから間も無く、薄く削り重ねた俺特製のフェザースティックが完成した。


そして俺は拵えたフェザースティックを、ションベンに向けて放り投げた。


「コイツを使え」


「何よ。これ」


受け取ったフェザースティックに目を落としたションベンは、戸惑った声を上げた。


「あの焦げ跡を見る限り、お前は発火の魔法で薪に火を付けようとしたんだろう。しかし幾ら発火の魔法を使ったトコロで、そう簡単に薪に火が付く訳が無いだろ。まして湿った薪や生木なら猶更だ」


此奴は炎の舌の魔法に加えて、俺と同じく炎の飛沫も扱える。なので火力に任せてゴリ押す事も、恐らく可能ではある。しかし其れでは場所や風次第で思わぬ延焼をして火災の原因となるやも知れんし、必要とされる魔力や集中力も桁違いだ。それに何より、全然スマートじゃ無い。もし婆センパイにそんなお粗末な魔法の手管を披露したら、コンマ秒でハードパンチがカッ飛んで来るだろうよ。


「ソイツの薄く削り出した先端の辺りに発火の魔法を使ってみろ。容易に火が点く筈だ」


「・・・・・・あ。点いた」


「おい、まだ気を抜くな。早く火を此処に移せ。慎重にな」


俺は今の隙に薪の一つをナイフで削ぎまくって拵えた木屑を、親指で指し示した。するとションベンは一つ頷いて、点火したフェザースティックを木屑の山に埋めるように設置した。


「おいロナティア。呆けて突っ立ってないで、魔法で此処に風を送れ」


「・・・偉そうに私に命令しないで」


そしてお次はコソコソと此方の様子を覗き見る乳白色の方を振り向いて、風属性の魔法を要求した。どうせ暇なんだろうから、お前も少しは手伝え。


乳白色はブツクサ文句を言いながらも、周囲に魔力を放出し始める。ところが。


「おい、風が強過ぎるぞ。火が消えるだろ。もっと優しく丁寧にやれよ下手糞」


「は?今何て言った。もう一度言ってみろ」


「良く聞け下手糞。風が強過ぎるんだよ下手糞。もっと優しくやれ下手糞」


「・・・五月蠅い。殺すぞ」


其の後も俺と乳白色は互いに声を荒げて口論しながらも、どうにか薪に火を移す事に成功した。


此奴等て炎の舌や太〇拳なんかを行使してた時は、それなりに上手く魔力を掌握出来てると思ったんだがな。なのに今みたいな定石外の繊細な魔力の掌握や操作は、なんつうか色々と雑だな。まあどうでも良いけど。


「俺が手を貸すのは今回だけだ。次からはもっと頭を使って、工夫して、自分で何とかするんだな。後はもっと数をこなして経験を積む事だ」


俺は良い感じに点火した焚火に追加の薪を焼べながら、背後に立つションベン達に声を掛けた。


「うん、分かった・・・・・・ありがと」


「礼など不要。それより精々魔法の力を過信しない事だ。所詮魔法だけで出来る事など限られてるからな」


俺はションベンの消え入りそうな感謝の言葉を一蹴した。荷物すら碌に運べない時点で、俺のお前等への評価は未だマイナス継続中だ。感謝の言葉なんぞどうでも良いから、もっとキリキリ働いて結果を示さんかい。


「・・・アンタ、何でそんなに魔法に詳しいのよ」


「俺の知り合いに、魔術師の老婆が居たのだ。その婆から魔法の事を色々教わった」


俺はションベンからの問い掛けに対して、適当に応じた。とは言え、俺は何一つ嘘は付いて無い。一から十まで説明すると途轍もなく面倒だし、元より詳細を話す気も無いので、色々と割愛しただけだ。



此の辺りには危険な魔物や猛獣が出没する事は滅多に無い、らしい。また、野盗の類も今の時期は屈強な討伐祭りの参加者が周辺の道をウロウロしてる為、姿を見せる事は基本無いそうだ。


唯一の懸念は、即席の野党と化した同業者だの傭兵だのに襲撃される事なのだが。俺独りなら兎も角、準5級の狩人扱いで更には上流階級な坊や達を襲撃するのは余りにリスクがデカ過ぎる。しかもギリンガムの狩人ギルドにおいて、図らずも先日のチンピラ騒動のせいで俺達の顔は一気に売れたからな。


俺が今迄見て来た此の世界の人族の共同体は、基本相互監視がエゲつない村社会である。勿論、狩人ギルドとて例外では無い。其の為、良くも悪くも内々の情報や噂話が広まるのが異常に早い。なので万一俺、というかひと際目を引く坊や達が同業者に襲われでもしたら、襲撃者の身元はあっと言う間にバレるだろう。そして誰しもがギルドのお尋ね者なんぞには成りたくあるまい。


てな訳で。夕餉を済ませた俺達は、酔い潰れて盛大なイビキをかくオバチャンズを雑に天幕に投げ込むと、野郎三人で交代で見張りを立てながら就寝する運びとなった。


そして翌日。


朝餉と旅支度を手早く済ませた俺達は、各々荷を担いで(但しションベン達を除く)野営地を出立した。


其の後も旅は何事も無く順調に進み、更に次の日には俺達は目的の町へ辿り着いた。

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