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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第246話

金髪パツ坊やが受けた喧嘩への余計な手出しを阻んだ俺に対して、ションベンは案の定喰い掛けのバナナを没収されたモンキーの如くキレ散らかしやがった。


そんなションベンに成り行きで意に沿わぬ説教をカマしてしまった俺は、何ともむず痒い気分のまま宿の食堂で不味い間食を腹に押し込むと、一時中断した情報収集を再開すべく厨房の影で目を光らせる宿のおばちゃんにひと声掛けて食堂を後にした。


今迄の情報収集の成果は芳しく無かった為、俺は少々趣向を変える事にした。目に付いた者に声を掛けて情報提供を求める代わりに、心付けとして街の露店で購入した食い物を提供する事にしたのだ。故郷とは違い、此の異界の庶民には初対面の人間から差し出された食い物を口にするのに警戒だの遠慮はほぼ無い。それに露店で購入した現物であれば、少々嵩張るものの現金を掴ませるよりは安く済むし、強欲な奴からおかわりを要求される事も基本無いからだ。


貢物の効果は覿面で、其れからの聞き込みは充分とは言い難いものの、一定の成果を挙げる事が叶った。人間が欲深なのは、何処の世界でも大して変わらないらしい。勿論、現金の提供をケチった俺も同じ穴の狢だ。


情報の代価たる露店の食品選びは、街のちょっとした観光と食い歩きを兼ねて極めて慎重に行った。慎重になった元凶はギリンガムの名物らしい、やたら長ったらしい名前の腸詰め料理だ。因みに何の動物の腸なのかは、誰も彼も口を閉ざして語ってくれなかったので一切不明だ。


腹五分目程度の間食を済ませて宿を離れた後、何気無く最初に立ち寄った道端の露店にて。俺は些か怪しげな身形の店主と思しきジジイから、ギリンガム名物と称する件の料理を執拗に勧められた。しかし微妙な見た目の割にはやたら強気な価格設定を告げられた俺が、煮え切らぬまま購入を渋っていると。終いにはジジイが


「ハァ~これだから図体だけデカくなった、物を知らぬ鼻垂れ小僧はのぉ」


だの


「もしかして、ボクは今まで蜜がタップリ入ったママの乳しか口に入れた事が無いのかの?」


だの謎の上から目線で煽り倒して来たので、ええい物は試しと半ば押し付けられた謎料理を口にした俺は、危うく手加減抜きでジジイの小汚い顔面をブン殴りそうになった。手に取ったブツを一噛みした其の瞬間、口腔内と鼻腔を突き抜けたあの名状し難い生臭さと鉄臭い血の味は・・・。先程宿で食ったやや不味なムリュの事もあり、其の瞬間を以って俺の中でギリンガムはメシマズ都市に決定した。貴様等にお肉の調理何ぞ100年早え。牛や山羊みたくその辺に生えてる草でも食ってろ。


γ線がバーストするが如く憤怒に煮え滾った俺は、ジジイの顎を掴んでエゲつない口臭を放つ其の口腔内にゲロマズソーセージ擬きの残飯を力任せに捻じ込むと、代金をカウンターに叩き付けて其の場を立ち去った。そして去る間際に背後をチラ見すると、ジジイは俺に向けてあれ程ゲロマズソーセージ擬きをゴリ押した癖に、ぐええ臭っなどと喚きながら盛大にゲロを吐き散らかしていた。マジで糞ふざけやがって。


あのゲロマズがギリンガムの名物料理とか、実はあのジジイの吹かしなんじゃないかと激しく疑った俺だが。他の露店でも同様のブツが普通に売ってたので、一応間違いでは無いらしい。勿論、俺は二度と手を出さなかったが。


初手からとんでもねえ地雷を踏み抜いてしまった俺だが、それから幾つかの別の露店を当たった結果、幸いにもそれなりに食える茹で芋・・らしき根菜を販売する露店が見付かった。その為、後の情報収集が頓挫する事態はどうにか免れた。


その後、聞き込みに区切りを付けた俺が日が落ちる前に宿に戻ると、食堂からひょっこりと顔を出した金パツ坊やに出迎えられた。見れば食堂の奥には他の宿泊客と混ざって、PTの他の連中の姿も見受けられる。どうやら皆俺よりも一足先に戻って来たらしいな。


てな訳で。宿の食堂に集まった俺達は卓を囲んで、微妙な味の夕餉で腹ごしらえをしつつ互いの情報共有と、明日の方針を話し合う運びとなった。


すると驚いた事に、先程迄あれ程意気消沈して項垂れてたションベンと、キレる時と不平不満をブー垂れる時を除けば常に無表情な乳白色が、両者共それはそれはもう大層ゴキゲンで、薄気味悪い笑顔を惜しげも無く振り撒いている。其の様子から察するに、どうやら俺の勧めに従って金パツ坊やに昨日の醜態を謝罪するなりした結果、坊やから余程良い反応が得られたのだろう。


まあ実際のところ坊やは喧嘩に首を突っ込もうとした二人の行為に対して、要らぬ世話とは言え己の身を案じての事だと重々承知していたと思われる。其の為か介入を阻止した俺に対して逆上する二人を取りなす際にも、坊やは不機嫌な雰囲気を滲ませながらも本気でキレてる様には見えなかったからな。まあ何れにせよ、討伐の仕事の前に糞煩わしい面倒事が一つ解消されたなら何よりだ。


そうして普段より頭の中身が当社比二倍くらいハッピーで、重量は五分の一くらいに見えるションベンと乳白色の口から語られた、ギリンガムに居を構える何某とか呼ばれる魔術師を尋ねた話は、割とどうでも良いので適当に聞き流した。まぁ軽く聞いた限りでは、俺の魔法の師である婆センパイと比べると随分とヘボそうな奴だしな。尤も、仮にあの婆さんに匹敵すると言われたトコロで、それはそれでどうか面会は御遠慮させて下さいと成りそうだけどな。


一方で金パツ坊やの話を聞くと、どうやら俺と違って情報収集が随分と捗った御様子。見れば坊やの顔は昨夜傷口に塗布した高級(そうな容器に入った)傷薬が効いたのか、内出血や腫れが随分と引いてイケメンパラメータが早くも俺を余裕でぶっちぎってるのでさもありなん。こんな見るからに高貴で爽やかな容貌と身形で口説かれたら、野郎共はまだしも下々を徘徊する色ボケBBAや喋る山芋みてえな田舎の小娘じゃコンマ秒で知ってる事洗い浚いゲロっちまうだろうて。


糞っ許すまじファッキンルッキズム。くたばれイケメンDNA。世界は何故此れ程にアンフェアなのであろうか。折角坊やの顔面が親近感溢れるフォルムに成形されたので、俺は内心ほっこりと腕組みしながら首を縦に振ってたのに。荒んだハートを癒してくれるウキウキな顔面デバフが、僅か一夜で儚い夢の如く消えちまうとは。


とは言え、再デバフじゃ~い!とかいきなり叫んで坊やの顔面をタコ殴りにする訳にもいくまい。流石にそんな不毛で不条理で意味不明過ぎる暴挙を唐突に炸裂させたら、俺は其れこそあのゾルゲをも凌駕するクレイジー野郎になっちまう。


・・・などと内心で好き勝手に燃え上がったり葛藤してる事などおくびにも出さず。俺は澄まし顔と泰然自若とした物腰で、荒ぶる本心をブ厚くコーティングした。そして年長者としての余裕と威厳を取り繕いながら、坊や達と今日一日で仕入れた情報を互いに交換し合った。



そして翌日。


俺達は聞き込みに拠る情報収集は程々に区切りを付けて、討伐の仕事に赴く前に改めて準備を整える運びとなった。


金パツ坊やが昨日仕入れた情報に拠れば、今回の仕事の拠点となる北方の町には、所謂民宿みたいな宿泊所が二軒在るだけらしく、俺達が今から町を訪れたとて寝泊まりする部屋の確保は非常に難しいとの事。なのでギリンガムを出立してから先の寝泊まりは、基本野営になると思われる。そこで其の為に追加で必要な物資を、予めギリンガムで買い揃えておこうと言う訳だ。


ところが、物資の選定は非常に難航した。


重い旅荷の大方を騎鳥に乗せて運ばせた今迄の道程とは違い、徒歩で運搬出来る物資の量には限りがある。拠点の町迄大した距離は無いとは言え、到着後も基本野営による寝泊まりとなると、必要な生活物資も其れなりの量となる。まあ暑い季節という事も相まって、俺独りなら最悪裸一貫でもどうとでもなるだろうが。


それに金パツ坊やとナヨ雄は、よもや戦闘で命を預ける己の武装を放棄する訳にはいかないからな。此の先二人は常に重い鎧を身に付けて、更には得物や盾を担いで歩く事になる。となれば両名の体力や筋力を考慮すると、携行する旅荷は慎重に選別せねばならん。


しかもギリンガムの物価は、王都と比べて存外に高い。なので俺としては、出来る限り此の都市での仕入れは避けたい。それに此処は俺公認のメシマズ都市だからな。まあ物価高に関しては、ギリンガムは拠点の町よりは幾らかマシらしいが。


そしてションベンと乳白色。お前等は非力な癖に無駄な荷物多過ぎィ。予備のローブだの嵩張りまくる着替えだの化粧道具だの髪飾りだの香り袋だの。邪魔臭えから厩舎の預かり所に全部置いてくか、誰かに売り飛ばすか、其の辺に穴掘って埋めちまえよ。お前等一体何しに来たんだよボケッ。


と、言う訳で。買い出しで街を歩き回る俺達の間で、購入したり携行する物資を巡って決して折り合わぬ押し問答が繰り広げられた。そして遂には金パツ坊やが此の出発の土壇場にあって、ならば荷物持ちを雇おうなどと言い出しやがった。


チイッ、此れだから貴族のボンボンはよぉ。勿論俺は坊やの提案には大反対だ。唯でさえ此の仕事における我が純利益の確保が若干怪しくなってんのに、更に人なんぞ雇ったら一体どんだけ経費が上乗せされるか。つうかそもそも荷物持ち何てそう易々と雇えるのかよ。


だいたい手前の旅荷くらい自分で担げよ。などと憤慨してみたものの。よくよく考えてみれば、必要な物資の中で最も重くて嵩張る飲料水と食料を、ほぼ全て自前か現地調達で賄っていた俺が少しばかり可笑しいのやもしれん。


そして結局、必要経費は全て坊や達のポケットマネーから拠出することを条件に、俺は荷物持ちの雇用を渋々承諾した。


どうやら言い出しっぺの金パツ坊やには、何かしら成算があるらしい。坊やは逡巡する事無く俺達を率いて狩人ギルドを訪れ、受付の丸嬢に対して俺達が荷物持ちを探してる旨を打ち明けた。すると丸嬢は、突然の申し出に対しても渋る事無く心得たとばかりに頷き、とんとん拍子に荷物持ちを斡旋してくれた。聞けばどうやら定期的に行われる鉱山地帯の討伐の際には、小遣い稼ぎ目当てで一時的に荷運びに従事する連中が大勢居るらしい。


ギルドが斡旋した荷物持ちは、何事も無ければ明日の朝にはギルド迄連れて来てくれるそうだ。何せ急な話なのでどんな奴が姿を見せるのか不明ではあるが、ギルドと交渉した坊やの話に拠れば、代わりの人夫は幾らでも居るので、顔を合わせてもし気に入らなければ其の場で容赦無く解雇する事が出来るそうな。う~む・・元荷物持ちとしては、少々身につまされる話だな。



そして出立の日。


新たに雇い入れた荷物持ちの出迎えを金パツ坊やに任せて、俺とナヨ雄は荷物番兼ションベン達の護衛として宿の前で待機する事に相成った。既に旅荷は纏めてあるものの、万一雇用が不調に終わった場合を考慮して、不急不要な物資は分別して何時でも黒羽達を預けた厩舎に持ち込める様にしてある。因みに俺自身の旅荷は、全部俺が担ぐ。坊やとナヨ雄は荷物持ちに預けようと提案してくれたが、俺は金を払って無いので言葉に甘える気は無い。丁重に辞退した。


そして宿屋の前で待つ事凡そ半刻(地球時間で約40分)。坊やに率いられて俺達の前に現れたのは、三名のやたら体格の良い年嵩のおばちゃんだ。年の頃は見たところ四十から五十絡みと言ったトコロか。聞けば坊やの奴、どうやらションベン達の貞操の安全に配慮して野郎は雇わなかったらしい。ったくコイツ等の貞操なんぞ、俺の甘く瑞々しいチェリーと比べたら道端で腐った銀杏程度の価値しか無いわ。坊やでもナヨ雄でも良いから、勿体ぶらないでさっさと食わせとけよ。


見れば年嵩のおばちゃんズが身に纏う服装は、貧相な平服に革の靴という凡そ旅には相応しく無い格好だ。しかし今回は徒歩で二日程度離れた北方の町に同行するだけなので、左程問題は無いのだろう。其れよりも問題なのは・・・。


俺達の前に姿を見せて以降、おばちゃんズは一瞬たりとも間を置かずにひたすら喋り続けている。文字通り一瞬たりとも口を閉じる事無く、だ。グムム、其の異様な光景を見てるだけで、軽く眩暈がしてきたぜ。そして微妙な表情の坊やに紹介されたおばちゃんズは、俺達を一欠片の遠慮も無い視線でジロジロ舐め回して、そして。


「あらあらあらあら~そっちの坊やもイイ男ね。こりゃアタシ等もヤル気出るわぁ」


「そちらのお嬢さん達もとっても可愛らしいわねぇ。若いってイイわね~」


「ウヒッ、良ければウチにも馴れ初めを聞かせておくれよ」


「あら、平たい顔の坊やは余り者かい。可哀想にねえ」


「誰かの従者か何かかい?何だか一人だけ貧乏臭いし、冴えない顔してるわね」


「しかもこんなに男前な坊や達と一緒じゃ、一生女とは縁が無さそうねぇ」


「あの平たい顔じゃねぇ。可哀想にねぇ。まあ人生は女だけじゃないよ。元気出しな。何ならウチが慰めてあげようかい?ウヒヒッ」


・・・・主はおっしゃった。今直ぐ左の頬を張れ。右の方を張れ。張られる前に張り倒せ、と。今、啓示は下った。BBA誅すべし。アーメン。


俺がBBA共に天誅を下すべく一歩踏み出すと、絶妙なタイミングで背後から何者かによって羽交い絞めにされた。首を回して背後に視線を向けると、強張った形相のナヨ雄と目が合った。


「離せロディ」


「ちょっと待ってよカトゥー。一体何をするつもりなの」


「あの無礼なババア共を、少しばかり教育してやるだけだ。離せ」


「だ、駄目だよカトゥー。落ち着いて。今彼女達に何かしたら、色々と問題になっちゃうよ。ギルドの好意に泥を塗る事にもなるし」


「むぅ、しかし・・・」


「もうギルドには、フェル様が彼女達を雇う手付金を払ってるから。それにもし彼女達に怪我なんてさせたら、賃金どころか賠償金を請求されるかも知れないよ」


「ぐむう」


そう言った話を持ち出されると、とてもとても弱い。世の中何処迄行ってもマネー、マネー、マネー・・・か。


俺は天を見上げて大きく息を吐き出すと、辛うじて剥き出した矛先を引っ込めた。そうこうしてる間にも、BBAズは休む事無くひたすら喋り続けている。


其の後、気を取り直した俺達(取り乱したのは俺だけだが)は、坊やの指示に従って各々纏めた荷物を担ぐと、目的の町に向けて出立した。

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