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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第240話

エリスタルの王都では、騎鳥に騎乗して走り回る行為は原則禁じられている。なので隊列を組んだ俺達は、騎鳥を革紐で引きながら徒歩で王都の玄関口である巨大な門へと向かった。




俺は自然な流れを装って、自身を隊列の最後尾に付ける。すると案の定、往来から隊列に近付いた何処ぞの不埒者が、荷運び騎鳥を繋いだロープをいきなりナイフで切断しようとしやがった。騎鳥を旅の物資ごと掠め盗ろうってか。人通りの多いこんな場所で、しかも此の俺を前にして犯行に及ぶとは。危機管理がまるでなっとらんな。




俺は直ちに騎鳥を引く革紐を手放して、頑丈なロープに手を焼く不埒者に抜き足で歩み寄った。そして不埒者に並んで其の肩に手を置くと、振り向いた男の顔面に問答無用で裏拳を叩き込んだ。鼻骨と前歯を崩壊させた男は、声も無く其の場に崩れ落ちる。俺は昏倒した不埒者には委細構わず、再び革紐を手に取って歩き始めた。




其の様な些細な出来事は有ったものの。その後も立ち止まる事無く歩き続けた俺達は、目測で高さ10メートルに届こうかと思われる、王都を護る防壁に設けられた巨大な門に辿り着いた。見れば門の右側の防壁は単なる壁では無く、故郷の櫓に似た構造物となっており、外敵に攻められた際の防衛拠点として機能するようだ。




それから出門の手続きの順番待ちで暫くの間待たされたものの、俺達は門を潜り抜けて漸く王都の外へ出ることが出来た。




にしてもだ。以前漁師に与力する仕事で一時的に王都を離れた時も思ったが、坊や達と一緒だと王都への出入りが非常に楽で助かる。特に坊やとナヨ雄が所持する騎士学院の身分証は、門兵達にとっては随分と馴染み深い代物らしく、俺達は疑いの目を向けられる事無く円滑に手続きを済ませる事が叶った。俺が普段出来る限り王都の中だけで活動してた理由は、単純に王都が広大なだけで無く、出入りが非常に煩わしかったからでもあるのだ。




門を出た俺達は、一旦人気の少ない場所まで移動した。そして金パツ坊やの号令と共に、各々騎鳥の背に跨った。(但し、ションベンと乳白色はナヨ雄の補助付きで)此処から先は、いよいよ騎鳥を転がしてヒャッハーと街道をカッ飛ばしてやんぜ・・・と、激しく言いたいトコロなのだが。




王都周辺の街道は人や荷車の往来が激しく、騎鳥で下手につっ走れば忽ち他の旅人に激突するか、下手すりゃ轢き殺す事態に陥りかねん。なので当面の間は軽挙妄動は謹んで、速足で歩く程度に留めねばならんのだ。ハァ~つまんねぇ。まあしゃーないけど。などとチョットだけ落胆しつつ、他の連中の様子を横目でチラ見すると。何とションベンの奴が見るからに気が逸っており、鳥具からケツを浮かせて超ソワソワしてやがる。オイオイお前は生まれて初めて単車に跨った田舎のヤンキーかよ。頼むから暴走して人身事故をカマすのだけは止めてくれよ。下手すりゃ出発してから小一時間も経たない内に、早くも俺達の旅が終わっちまう。




「それじゃあ出発するぞ。俺が先導するから、皆は後に付いて来てくれ。それと改めて確認するけど、シークゥで走ってる間は互いの声が届き辛い。なのでもし何かを伝えたい場合は、先ずは皆に渡した笛で合図を送る事。いいね」




金パツ坊やは騎乗に慣れた身のこなしで騎首を此方に向けると、一同を見渡して出発前の確認事項を口にした。そして俺達が問い掛けに応じると、一つ頷いた坊やは騎鳥の腹を足で軽く蹴って、俺達の先頭に立って歩き始めた。俺は他の連中が坊やの後に続くのを見届けると、乗騎である黒羽の騎鳥の腹を叩いて慎重に一歩を踏み出した。




王都は赤の街道最大の分岐点である。またエリスタルの最も多くの旅人にとっての出発点であり、最後に辿り着く到達点でもある。そして旅人達と赤の街道が紡いだ数多の物語は、吟遊詩人が奏でる持ち歌の定番ともなっている。




王都最端の防壁と門を潜り抜け、そんな赤の街道に足を踏み入れた俺達を待って居たのは、人、人、人。精力的に街道を往来する、数え切れぬ人々の群れだ。そして人が集まれば自ずと周囲は活気に満ち、飛び交う喧騒が超五月蠅い。また門から外に出たにも拘らず、街道の脇には無数の建物が立ち並ぶ。流石に王都内部の建築物と比べると総じて粗末な造りながら、まるで未だに王都の中を歩いてるみたいだ。




それ程人で溢れた往来の中に在っても、騎鳥で旅する俺達の姿は相当に珍しいらしい。俺達は街道を行き交う連中に、特級エロ動画にむしゃぶり付く男子中学生並みに節度ゼロで無遠慮な視線でガン見された。




此奴等揃いも揃ってジロジロ見過ぎだろ。まあ俺は街道ですれ違う連中にガン見されるのは毎度の事なので、ある程度慣れては居る。と言っても、愉快では無い事に変わりは無い。余りに酷いのなら、急に錯乱した態で適当に其の辺の奴等をシバいても許されるんじゃなかろうか。




そして俺は騎鳥の背に揺られながら、胸に抱いた素直な気持ちを何気無く口にした。




「ったくウザいなあ。やっちまえ」




特に何かを仕向ける意図も無く、俺が小声で呟くと。




ゴギエェェッ!




突然、俺を乗せた黒羽が耳障りな奇声を上げた。そして次の瞬間、俺をガン見してた見知らぬガキの頭に、猛烈な勢いでかぶり付こうとした、其の間際。




俺は仰天しながらも、咄嗟に握った黒羽の羽根を全力で引っ張った。




ブチィッ 




頑丈な首筋の羽毛が数本ブチ抜け、そして黒羽の巨大な嘴がガキの頭部をギリギリ掠めて間一髪止まった。




あ、あぶ、あぶ、危っぶねえええっ!全身から冷や汗がブワッと噴き出す。




お前俺に対して従順になったのは良いけど、そんな余計なお気持ちまで察して、しかもノータイムで動いてくれなくても良いのよ?あと0.1歩俺の反応が遅れてたら、其のガキの頭が胴体とサヨナラだったじゃあねえか。思い描いてた事故の光景とは少々異なるが、危うく俺の方がグロい人身事故をカマす所だったぜ。




巨大な怪鳥からの突如の襲撃を受けて、目玉が飛び出しそうな程に目を見開いたガキは、其の場で完全にフリーズしたままピクリとも動かない。俺は黒羽の奇声に驚いて振り向いた金パツ坊や達を促して、逃げる様にその場を後にした。





走るのを控えて騎鳥を速足で歩かせ続けた俺達だったが、騎鳥の歩く速度は一般的な人間が歩く速度よりも遥かに速い。幾つかの分かれ道を経て、体感で凡そ1時間も騎鳥を歩かせ続けると、街道を往来する人の姿は既に疎らだ。




「もう少し歩いたら、シークゥを休ませられる水場に着く。俺達も其処で一旦休憩を取ろう。街道を実際に歩いてシーリン達も騎乗にある程度慣れたろうし、其の後はシークゥを走らせて移動してみようか」




先頭を歩く金パツ坊やは速度を緩めて俺達に近付くと、此方に顔を向けて宣告した。特に拒否する理由も無いので、俺は坊やに頷き返す。他の皆も異存は無い様子だ。




それから暫く経つと、街道の傍にちょっとした池が見えて来た。どうやらあそこが坊やが話してた水場らしい。赤の街道には宿場町以外にもああいった水場が各所に点在しており、騎鳥に休息と水分補給させることが出来るそうな。尤も、騎鳥は飢えや渇きに非常に強い上、水場は元々荷鳥や荷蜥蜴の為に設けられた代物らしいが。




水場に到着した俺達は、坊やの合図で一旦足を止めて騎鳥から下りた。騎鳥達は流石良く訓練されてるらしく、誘導せずとも大人しく池に設けられた水飲み場に向かう・・と思いきや。黒羽だけは他の騎鳥をハネ飛ばしながら、猛ダッシュで池に突進して行った。おいコラお前行儀が悪過ぎるぞ。仲間の騎鳥がビビってんじゃねえか。




王都に程近い此の辺りの道は、石畳で舗装された立派な造りなので迷う心配は無い。しかし金パツ坊やの説明に拠れば、此の先は太陽の位置と周りの地形で時間と現在地を確認しながら、折を見て休息を挟みつつ宿場町を目指すそうだ。あっハイそうですか。こうして坊やの合理的な旅程の説明を聞いてると、今迄の俺の旅が恐ろしく場当たり的だった様に思えてくる。まるで俺がアホの子みたいじゃないですか。チョットだけ惨めな気分。




また王都から離れ、しかも少人数で街道を旅するとなれば、野盗の類に狙われるリスクは当然懸念される。しかし其処いらの盗賊程度の脚力では、騎鳥の俊足を追い詰めるのは非常に困難だ。しかも騎鳥は元々魔物領域の魔物だけあって、非常に戦闘力が高い。全身を覆う強靭な羽根は、拙い斬撃や矢弾程度なら容易に弾き飛ばす。また鋭い足の爪は苦も無く人体を引き裂き、更には強靭なフィジカルも相まって、並みの賊なら複数を相手取っても蹴散らしてしまう、らしい。尤も、俺は弾みで黒羽の羽根を何本か毟っちまったけど。




しかも赤の主要な街道は、嘗てエリスタルの先代の王が執拗な盗賊狩りを敢行したお陰か、今でも高い水準の治安が保たれている。その上もし賊が現れた場合、最寄りの町に通報して情報に信憑性が有ると判断されれば、賊を討伐すべく怖い兵隊さん達がすっ飛んで来るらしい。但し其れは飽く迄、赤の主要街道に限った噂話ではあるが。




まあ賊の事はさておき。騎鳥に騎乗して走る際には、技術のみならず体力も必要だ。今迄は歩かせただけなので、俺達野郎共は言うまでも無く、女子二人組もまだまだ元気なものだが・・さて此の先はどうなる事やら。




幾らか時間を取って水分補給と休息を済ませた俺達は、再び騎鳥に跨って街道を歩き始めた。そして。




先頭の金パツ坊やは笛で後方の俺達に合図を送ると、徐々に歩く速度を上げ始めた。坊やとナヨ雄は縄で繋がった荷運び要員の騎鳥を引き連れているので、いきなり突っ走る事は出来ないのだ。




そして遂に、俺達は街道を疾る一陣の風となった。なんつって。隊列を組んで走る騎鳥は、中々のスピードだ。スマン、正直舐めてた。でも此れならば、徒歩なんぞとは比べ物にならぬ程短期間で目的地迄辿り着きそうだ。俺の前を走るションベンと乳白色は、時折挙動が危なっかしいものの、差し当たって大きな支障無く坊やに追随出来ている。後方から動きを観察すると、どうやら騎鳥の側で未熟な乗り手をフォローしてるみたいだな。




まあションベン達の事は兎も角。ウェ~イ!馬、じゃなかった鳥に乗ってパカパカ、じゃなかったダカダカ走るの滅茶糞楽しい~。




俺は最後尾である事をこれ幸いと、隊列をガン無視して好き放題走りまくる。そしてお次は、よっしゃあ飛べ!黒羽・・・は流石に無理だったか。にしてもお前だって俺と一緒に楽しくヒャッハーしまくってたのに、急にスン・・と成って立ち止まりやがって。最初から諦めんな。其の無駄にデカくてツヤツヤな翼は飾りかよ。





エリスタルの王都の近隣には、衛星都市とでも言うべき幾つかの大きな町が存在する。其れ等の町は王都への玄関口であり、農産物や産業品を上納する所謂植民地的な町でもあり、敵国からの侵攻に対して身を挺して王都を護る役割も有する。




時折休憩を挟みつつも赤の街道を走り続けた俺達は、日が沈む前にそんな衛星都市(仮)の一つへどうにか辿り着いた。しかし女子二人組は疲労の色が濃く、もし辿り付けなかったらまたぞろギャースカ騒いでた事だろう。アイツ等は例えどんだけ疲れてても、不平不満をブー垂れる時だけは超元気になりやがるからな。逆に俺は初日から野宿でも一向に構わんかったが。




今日は主に俺と女子二人組の騎乗への慣らしを兼ねていたので、結局大した距離は稼げ無かった。しかし金パツ坊やの話を信じるならば、明日からの俺達の旅は本格的な長距離行になるだろう。

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