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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第239話

金パツ坊やとナヨ雄が在籍する騎士学院の長期休暇を利用して、俺達は狩人ギルドの遠方の討伐依頼を受注する計画を立てた。


魔物や猛獣が殆ど居ない王都近辺で討伐と言えば、基本マンハントの仕事しか無いからな。かと言って人族相手の血生臭い仕事は、正直言って余り気が進まない。まあ死屍累々て感じのヤバ目な仕事は、基本狩人より傭兵ギルドの方に回るらしいが。


てな訳で、今回の遠征計画は俺としても望む所だ。


数日の時を費やして慌しく旅の準備を整えた俺達は、いよいよ遠征の仕事に向けて出立する運びとなった。旅の足代わりとなる騎鳥を牧場で借り受けた俺達は、金パツ坊やの案内で騎士学院の屋外鍛錬場へと場所を移し、事前に調達した旅の物資と装備の点検を行った。


レンタルした騎鳥は、騎乗用と荷運び用を合わせて計8羽。そして俺に宛がわれたのは、乗ろうとしたら散々暴れ散らかしたあの黒羽である。あの後散々俺達に詰められたにも拘らず、よもや再び此奴を寄越すとは。牧場のおっさんええ度胸してやがるな。妙な仏心を出さずに、あの髭面を俺の鉄拳で2、3発くらいシバいてやるべきだったか。まあ黒羽は軽く〆てやった結果、今は俺に絶対服従なので別に良いけど。


俺達の旅の主な道程は、陸路にて交易の大動脈と名高い赤の街道を通り、街道上の各宿場町を経由して鉱山都市ギリンガムへと至るルートである。俊足な騎鳥に騎乗して街道を移動する事もあって、ギリンガム迄の道中では野営は最低限で済ませられる予定だ。その後、騎鳥はギリンガムで一旦専門の業者に預けて、其の後は徒歩で更に北方の鉱山群に程近い町へ向かい、其処で今回の仕事の拠点を置く手筈となる。


騎鳥を傍の立ち木に繋留し、更に荷物の点検を一通り終えた俺達は、坊やが何処からか入手した街道の地図を囲んで地面に腰を落ち着けた。そしてナヨ雄が持参した塩辛い干し芋擬きを齧りながら、顔を突き合わせて旅の段取りや王都で集めた宿場町とギリンガムの情報を整理していると。


荷物を担いだ数名の従者っぽい連中と、腰に剣を差した護衛らしき男を引き連れた、ションベンと乳白色が姿を現した。


宿場町を経由するので、ある程度は町で調達するとは言え。旅の物資で最も重くて嵩張るのは勿論飲料水であり、次点で食料である。飲料水は幾つかの頑丈な水樽に満載して揃えてあり、保存食も一通り荷造りを終えている。そして他の生活用品は、出来る限り効率良く纏めてある。


そんな俺の目には、ションベン達の荷物の量はどう見繕っても過剰に見える。しかもアレってどう見ても、食料や飲料水なんぞ含まれて無さそうだし。


しかし俺の耳元で小声で囁くナヨ雄の話では、此れでも荷物の量は相当に削ったらしい。当初山積みになった膨大な量の荷物を見せられた金パツ坊やは、珍しく二人と大揉めに揉めたそうだ。しかし結局坊やは、二人を旅に同行させる絶対条件として余分な荷物を大幅に減らす事を了承させ、また女子組が荷運び用の騎鳥1羽分のレンタル料を余分に出す事で、不毛な討論はどうにか決着した模様だ。なので同行する騎鳥の内の一羽は、女子二人の荷運び専用である。何とも贅沢なハナシだ。


そんなションベンと乳白色はと言えば。


ションベンは俺達に気付くなりお供を置き去りにして金パツ坊やの前に駆け寄ると、両手を拡げてくるくると身体を回転させた。


「見て見て。どう?フェル。可愛いでしょ!」


すると乳白色も負けじと坊やの前に歩み寄り、腰を捻って可笑しなポーズをキメる。


「・・・シーリンのは品位に欠ける。私の方が可愛い」


そんな奴等の姿を見て、俺は脳に酷く衝撃を受けて呆然となった。


二人のローブには、何と各々ド派手な花柄が刺繍されていたのだ。おいおいおいマジかよ。俺とて今迄此の異界で何人もの魔術師を見て来たが、あんなイカれた柄付きローブ着てる奴なんぞ一人も見た事無ぇぞ。俺の魔法の師匠があらゆる意味でブッ飛び過ぎてたんで、今迄余り気にならなかったけど・・もしかして此奴等て相当ヤバい奴等なんじゃ・・・。


い、いやせめてもの慰めは、二人のローブの柄は如何にもガキが喜びそうな稚拙な代物では無く、何方かと言えば非常に芸術点が高そうな絵柄という点か。しかも滅茶糞無駄にクオリティ高えなっ。


「その花は赤いロザーリアとル・キュキュだね。うん。意匠も技術も素晴らしい。それに二人共、凄く良く似合ってるよ」


「エヘヘ~」


「・・・フフンッ」


すると金パツ坊やは、澄まし顔で二人のクレイジーなローブ姿を褒め称えた。そして坊やの賞賛を受けたションベン達は、踏ん反り返って満足そうに顔を綻ばせた。


す、凄え。お前ソイツを目の当たりにして、よく微塵も動揺せずに其の返しが出来るな。内心はどうだか知らんけど。しかもホンの一瞥しただけでワケワカラン花の名前まで淀み無く口から出て来る辺り、流石はお貴族様と言ったトコロか。


「なあお前等、其のローブは一体何なんだ。何時ものローブはどうしたんだ」


俺はご満悦な二人に思わず訊ねてみた。見た目がクレイジーなのは勿論だが、そんなん着てたら中身女だってバレバレやんけ。身の安全なんぞドブに投げ捨ててでも可愛いを最優先する辺り、頭蓋骨の中身もしっかりクレイジーしてやがる。


「フンッ、凄いでしょ。王都から出れば、口煩い導師の監視の目も届かないからね。こんな時の為に、前もって作らせてあったのよ」


「・・・常用のローブは一応荷物に入れてある。地味で可愛く無いから、多分着ないだろうけど」


するとゴキゲンなションベン達は、踏ん反り返ったままペラペラと俺からの疑問に応えた。う~む何ともチョロい奴等だな。本音を言えば、其の下品な柄のローブは今直ぐ脱いで、便所の臭え穴にでも捨てちまえと言いたいトコロだが。もし素直なお気持ちを表明したら、ガチ切れして魔法の一つ二つ飛ばして来そうだな。


荷を下ろした女子組のお供の連中は、金パツ坊やと幾らか言葉を交わした後、ブンブン手を振るションベンと乳白色に見送られて元来た道を引き返していった。護衛っぽい男が坊やの手を取って何度も道中の無事を懇願してた辺り、あんなんでも周りからは結構慕われてるらしい。


俺は騎乗する黒羽の鳥具に、水樽と革製の雑嚢を革紐でキツく固定する。今回の旅では、使い慣れた手造りの背負い籠は携行しない。騎鳥の鳥具に上手く固定出来無いのと、少々サイズがデカ過ぎるからだ。で、代わりに坊やから借りた担げる雑嚢を使用する。勿論品質は入念にチェック済みだ。借りた雑嚢は背負い籠より容量は少ないものの、使い勝手は此方の方が上だ。


坊やとナヨ雄も各々が騎乗する騎鳥に荷物を据え付けた後、荷運び用の鳥具を装着した騎鳥の背に旅の物資を順次固定してゆく。勿論、俺も二人と連携して据え付けを行う。二人共旅慣れて無いと言たものの、騎士学院で揉まれたのか随分と手際が良いな。一方でオイ、ションベンに乳白色。お前等ボケっと見てないで少しは手伝えや。


「なあフェルよ」


俺は肩を並べて騎鳥に物資を据え付ける金パツ坊やに、一声を掛けてみた。


「ん?何だい」


「あの二人は一応貴族のお嬢様・・なんだろ?」


俺はアホ面でボケッと此方を眺めるションベン達を、親指で指し示した。


「ああ。一応じゃなく正しく貴族の令嬢だね」


「今更言うのも何だが、其の貴族の令嬢が狩人ギルドの魔物の討伐依頼を受けて、しかも王都を離れて遠征する何て事、普通有り得るのか?」


俺はかねてより思っていた疑問を、金パツ坊やに問うてみた。素直に言ってあの二人には、今から回れ右してお帰り頂いても俺は一向に構わないんだが。


「勿論、有り得ないね」


しかし坊やからの返答は、随分とあっさりとしていた。


「なら何故・・・」


「そりゃ、彼女達は普通じゃ無いからさ。二人は単なる貴族令嬢では無く、希少な魔動の素養がある魔術師見習いだからね。それに魔法学院に入学して魔術師見習いになった時点で、建前上彼女達は世俗とは切り離された立ち位置となっている。なので魔法の師である導師の許しさえ得られれば、討伐依頼に参加する事自体は何ら問題は無いのさ」


「ふむ」


「それでも建前上はともかく、年若い貴族令嬢が家の許可も無しに今回のような危険な旅に同行するなんて、実際はとても考えられない話なんだけど・・・」


「あら。私はお母様からの許可は貰ってるわよ」


すると、俺達の会話が聞こえていたのか、傍に近寄って来たションベンが話に割って入った。


「しかし肝心のお父様の許可はどうなんだ。家中で一番偉いのは父親なんだろう」


「ああ・・それはとても無理ね」


俺の質問に答えたションベンは此方に背を向けて、其の小さな手をヒラヒラ振った。えぇ・・親父の許可無しで大丈夫なのかよ。それってもし遠征先でお前がくたばったら、かなり不味いんじゃねえの。


「ならば遠征先で、もしお前に不測の事態が起きたらどうする。場合に拠っては、俺達を指揮するフェルが責任を問われるんじゃないか」


「大丈夫よ。私やロナに何かあった時には、フェルの代わりにロディが責任を負うよう、もう皆に話は通してあるから」


此方に背を向けたままトンでもない事をホザいたションベンは、俺達の傍を離れて乳白色の方へと歩いて行った。


えぇ・・マジかよナヨ雄。お前は本当にそれで良いのかナヨ雄よ。


「ロディ。お前は本当にそれで良いのか」


まるで俺の気持ちを代弁するかの如く、金パツ坊やが真剣な面持ちでナヨ雄に向けて問い質した。


「何度も申し上げた筈です。其の程度の事でフェル様をお守り出来るなら、僕にとっては寧ろ望む所だって。それに・・・」


精悍な顔に何やら幸薄そうな微笑みを浮かべたナヨ雄は、ションベン達の方に顔を向けた。俺の立ち位置からは其の表情は伺い知れないが、ナヨ雄もションベン達とは幼馴染と聞いた。なので何かしら思う所が有るのだろう。


ハァ~、しゃーないな。俺は正直アイツ等の事は、万が一くたばったとしても割とどうでも良いと思ってたんだがな。しかしナヨ雄よ。お前の献身と心意気に免じて、俺も遠征の間は出来る限りあの二人を守ってやる事にするぜ。


「ハァ。まあ良いさ。今は変に危惧するより、前向きに考えるとしよう。要は何事も無く、今回の遠征を成功させれば良いって事だろう。なら今迄学院で培った、俺達の力量を示す絶好の機会とでも考えようか」


努めて明るい声でそう口にした金パツ坊やは、一つ肩を竦めると、先程迄とは打って変わってナヨ雄に向けて不敵な笑みを浮かべた。


「それとカトゥー。先程の話なんだけど・・」


「ん?どの話だ」


「シーリンの御父上の事だ。実は当主だったシーリンの御父上は、今から三年前に急な病で亡くなってるんだ」


「む、ならば今は・・・」


「ああ。今は、彼女の兄上が後を継いでいる」


ほ~ん。成る程。それじゃ親父から遠征の承認なんて得られる訳無えわな。にしても、危険な魔物討伐に行くってのに護衛の一人も付けて貰えんとは。ションベンの奴、ああ見えて何やら複雑な家庭の事情でも有るんかね。例えば家督を継いだ兄貴から疎まれてるとか。まあ俺にとってはどうでも良いけど。


「何を言ってる。彼女の護衛なら此処に居るだろう」


俺が言葉を選んで思い浮かんだ疑念を口にすると、金パツ坊やはそう言って自身とナヨ雄を親指で指した。


「ああ、成る程。しかしお前とロディアルだって、立場は貴族のお坊ちゃんだろう。前々から疑問に思ってたが、普段から従者とか護衛は付けて貰えないのか」


「おいおいカトゥー。俺は騎士を目指してる男だぞ。将来誰かを護衛する立場になる男が、逆に守られててどうするよ。それに騎士学院の上級生は、立場に拠らず原則護衛を従える事は禁じられているからね」


「ふむ。ならば、ロナティアも似たような事情が有ったりするのか」


「ああ・・いや。彼女の御父上は健在だよ。でもあの方は彼女にはとても甘くてね。彼女にどうしてもとお願いされたら、多分断り切れ無いんじゃないかな。」


「ふむ」


そして雑談しながらも休まず手を動かし続けた俺達は、間も無く騎鳥に旅の物資を全て繋ぎ終えた。



「さて。準備も出来たし、そろそろ出発しようか」


金パツ坊やの号令に従って、俺達は各々の騎鳥を繋留した立ち木から解放した。


騎乗に不慣れなションベンと乳白色の騎鳥は、他の騎鳥よりも一回り小柄で性格も大人しい個体だ。荷運び用の騎鳥は、練度が高い坊やとナヨ雄の騎鳥とロープで繋いである。そして俺が騎乗する黒羽は、逆に金パツ坊や達の個体より一回りデカく、狂暴な魔物領域の魔物に先祖帰りしたのか牧場では誰も手が付けられない荒くれだったそうだ。ふざけんな。


王都内の通路では、基本騎鳥に騎乗して移動するのは禁止らしい。俺達は騎鳥を革紐で引きながら、騎士学院の鍛錬場に最も近い王都の東門に向けて歩き出した。

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