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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第238話

大国エリスタルの王都に在るとある畜舎にて。俺達が参加を目論む狩人ギルドの遠方の仕事に対して、金パツ坊や達がシークゥこと騎鳥に騎乗して遠征先へ赴く意向である事を明かされた俺は、其の日の内から遠征の準備を急ピッチで進める運びとなった。騎鳥を披露された後に坊やから告げられたのだが、今回の仕事は実施日が予め告知されている為、俺達が王都でモタ付く猶予は余り無いからだ。




また件の遠方の仕事とは、今俺達が居る王都から北東方向に遠く離れた鉱山都市ギリンガム・・から更に北方へと足を延ばした先に在る、鉱山群近辺に跋扈する危険な魔物及び猛獣の討伐である。まあ猶予が無いとは言っても、此の異界の庶民の時間感覚は、朝から晩までカリー食って踊ってるインド人並に適当である。その為、決行が延期になる可能性は充分に有るのだが。




具体的に遠征の準備で俺がやる事と言えば、主に物資の調達、情報収集、そして打ち合わせである。あと俺は騎鳥に騎乗した事が無いので、あの畜舎を再び訪れて練習をさせて貰えるそうだ。また金パツ坊やとナヨ雄は騎士学院で騎乗の訓練をした経験が有るので問題無いが、女子二人組は俺と同じく騎鳥に乗って操る練習が必要との事。




金パツ坊やは実家や所属する騎士学院で諸々の手続きを行ったり、騎鳥の貸与の件で便宜を図ってくれたとある貴族のパッパと面会したり、今回の遠征の計画を練ったり、其の間にも学生としての課題をこなしたりと何くれと忙しそうだ。




しかしナヨ雄の提案で、物資の調達は野郎三人で集まって一緒に行う事になった。聞けば学生組は少人数で長旅をした経験が無いので、旅慣れた俺に色々と意見を求めたいらしい。




しかしナヨ雄は知らぬのだ。マラソン会場で突然百人組手を始めてしまうくらいに、俺の旅が此の世界の旅人の一般常識から逸脱しまくっていた事を。




大山脈での過酷過ぎる旅や、野盗どころか余所の旅人から襲われまくった独り旅、そしてストイケとの二人旅が克明に思い出される。特にストイケとの旅の後半では、俺達は旅そっちのけで棒切れや拳で一日中殴り合ってたからな。普通の旅人から見たら、完全に気が狂っとるだろ。




しかも食料はほぼ現地調達。飲料水は俺由来の水だったからな。俺が魔法を使える事は、坊や達には未だ何も話してない。回復魔法は兎も角、日属性や水属性魔法については、別段秘匿してる訳では無いんだがな。理由は・・・特に無い。例えば俺が急に思い立ってションベンを張り倒したとして、理由が必要か?・・と言っても俺はゾルゲじゃ無いので、思い立っても実行に移したりはしないが。多分。まぁ強いて黙秘する理由を挙げるならば、もし俺が魔法を使える事が露呈したら、ションベンや乳白色が糞五月蠅そうだって事くらいか。




其のションベンと乳白色だが、ヒマだと思われる癖に全く俺の前にツラを見せる気配が無い。どうやら二人は独自に、人を使って旅の準備をやらせてるみたいだ。ケッ。その位自分の足を使ってやれよな。それによく他人が選んだ装備や物資に己の身を預ける気になれるな。自殺願望でも有るのかよ。




どうでも良いメスガキ組の事はさておき。誠に不本意ながら、何時も何処かぶっ飛んでた我が旅路だったのだが。幸いにも旅の道連れに、常識のお手本となる人物が居た。古株の行商人であるモックのおっちゃんだ。とは言えおっちゃんも、山で魔物や野生動物とチョットばかり触れ合い体験をさせたら若干野生化してたが、あの程度なら誤差範囲内であろう。て事でおっちゃんの薫陶を胸に、キッチリと物資を揃えようではないか。





_____丸一日掛けて大雑把な物資の選定と調達を済ませた俺達は、其の翌日には金パツ坊やとナヨ雄が日々を過ごす騎士学院の男子寮を訪れた。




男子寮を正面から見上げると、随分と年季の入った石造りの建物である。しかし妙に風格があり、見るからに堅牢そうだ。まるで小規模な城みたいだな。寮に住む学徒の中には、既に長期休暇に入って一時的に退寮した者も多いらしく、寮の周りは数名のガキを見掛ける程度で閑散としている。




因みに女子寮の建物は男子寮とは別に存在するらしい。勿論どちゃくそ興味深々ではあるが、俺は性犯罪を犯す程異性に飢えてる訳でも、理性を便所の穴に投げ捨てた猿でも無いので、敢えて猪突猛進する愚を犯す気は・・・・・・無い。チクショウ。




俺達が何の為に騎士学院の寮を訪れたのかと言えば、金パツ坊やの提案で旅に不要な俺の荷物を預けに来たのだ。旅の荷物の預け先は、かねてより俺の頭を悩ます懸案事項だったので、坊やからの提案はマジで大助かりだ。




坊やとナヨ雄が騎士学院を卒業するまでという年数期限はあるものの、騎士学院寮のセキュリティは相当に強固らしく、貴重な荷物を預けるにはお誂え向きらしい。そして勿論、荷物の預かりなんて素晴らしい恩恵は、騎士学院の優等生である坊やとナヨ雄の口利きがあって初めて成立する。因みに昨日仕入れた遠征の物資は、二人の部屋に所狭しと放り込んであるそうだ。




金パツ坊やとナヨ雄の案内で寮の建物に入った俺は、受付の小部屋で寮の管理人と思しき厳ついおっさんに事情を説明し、荷の委託の手続きを済ませた。坊やの助けを借りて皮紙に必要事項を記入し、預け代金と引き換えに証書代わりの割符を受け取る。身元の照合は此の割符、保証人であるナヨ雄と金パツ坊や、そして管理人のおっさんの記憶に拠り行われる。




荷物を引き取る際は、坊やかナヨ雄に同行して貰えば円滑に済むが、仮に二人がくたばったとしても、割符を提示すれば受け取りが可能だ。また万が一二人共くたばった上に割符を紛失しても、おっさんの記憶次第で受け取り出来るかも知れないとの事。




預ける荷物の中身は一応チェックされたが、予想外に簡素な検査で拍子抜けした。強いて挙げるなら、多少なりとも詮索されたのは鼠顔の凶賊から奪い取った魔法の鉈くらいである。それだけ保証人である坊やとナヨ雄が信頼されてるという事だろうか。念の為、ハグレの魔石や文鎮と化した地球産のスマホ等は念入りに偽装しておいたのだが、或いは無駄骨だったかも知れんな。





_____騎士学院の寮に、遠征に不要な荷物を預けた翌々日。




俺達は再び狩人ギルドの牛舎に集合し、以前騎鳥を見せて貰った小さな牧場へと足を向けた。例の騎鳥の騎乗訓練を行う為である。その為、今日はションベンと乳白色も同行している。




実は本来訓練は昨日行う予定であったが、小雨が降ってたので女子二人が嫌だと駄々を捏ねた結果、仕方無く日程をズラしたそうだ。お前等マジでいい加減にしろよ。




俺達が牧場に辿り着くと話は既に通してあったらしく、臭い臭いと糞喧しい女子組の文句をBGMに釣り金を鳴らすと、間も無く髭のおっさんが姿を見せた。




初対面の時から髭のおっさんに対して貴族然と振る舞っていた俺だったが、本当は貴族で無い事は一瞬でバレた。露見した元凶は勿論ションベンの奴だ。お前は一体何時まで俺を平民呼ばわりするつもりだ。よもや俺の名前を憶えてない程の頭パーじゃあるまいな。




それに俺が貴族だなんて出鱈目は、髭のおっさんが勝手に勘違いしただけで、俺は嘘偽りなど一切吐いて無い。ところがションベンに俺がNot貴族だと暴露されたおっさんは、こめかみにぶっ太い青筋を浮かべて分かり易く逆上しやがった。其の様子を目にした俺は、咄嗟に金パツ坊やの肩に手を回して過剰に馴れ馴れしく接してみた。




するとおっさんの憤怒はどこへやら。目に見えてキョドッた後、開き掛けた口を閉じてしょぼくれて引き下がった。いやあ虎の威って実に素晴らしいねっ。何度だって借りたくなっちまうぜ。




その後、代わりにションベンと乳白色が何やら盛大にキレ散らかしたが、勿論俺は知らんぷりである。つうかそもそも貴族ムーヴと言っても精々タメ口訊いた位で、それ程偉そうにした覚えは無いし、その他に何かしたって訳でも無いんだが。此奴等幾ら何でも沸点低過ぎだろ。




まあそれはさておき。髭のおっさんの説明に拠れば、騎鳥に騎乗すると言っても、俺達の場合はそれ程高度な技術が必要な訳では無い。勿論其れには理由が有る。牧場で騎鳥の側が充分に訓練されている為、乗り手の俺達は基礎的な技術だけで容易に騎鳥を操る事が出来るのだ。




それに、俺達は戦場で騎鳥を運用したり敵と交戦する訳では無く、基本街道を走らせるだけなので、複雑な操作は必要無い。勿論、本来騎鳥を乗り手の意のまま自在に操る為には、騎鳥騎手共に長期に渡る訓練を積み重ねる必要が有るのだが。




騎乗の訓練は二人一組で訓練用の特殊な鳥具を装着した一羽の騎鳥に騎乗して、後方の者が一対一で操作を教えるやり方だ。




俺に対して散々キレ散らかしたションベンと乳白色は、今度は何方が金パツ坊やの前に乗るかひとしきり揉めた後、乳白色が念願のシートを勝ち取った模様だ。ションベンはブツクサ文句を垂れながら、ナヨ雄に支えられて覚束ない動きで騎鳥に跨る。にしても、二人共乗るだけでギャーギャーと糞うるせえな。




一方の俺は、やたら体格の良い黒毛の騎鳥の前に突き出された。しかし見たところ、目の前の騎鳥には明らかに独り用の鳥具が装着されてるんだが。オイオイ俺だけいきなりソロで乗れってか。




訝しんだ俺が髭のおっさんに訊ねてみたところ、どうやら俺は見た目に依らず体重が重過ぎるので、訓練用の騎鳥にタンデムするのは難しいらしい。ああ、其れで初対面の時に俺を抱き上げたのか。あの時はちょいとばかし貞操の危機を感じちまったぜ。確かに今の俺のウエイトは推定90kg超か、下手すると三桁近くあるやも知れん。おっさんの主張は一応理解は出来る・・・が、しかし何だかなあ。此方を見るおっさんの視線に、妙に悪意を感じるんだが。




・・・まあいっか。俺は一通り騎乗の仕方と騎鳥の操り方を聞いた後、お試しに騎鳥の背に跨がってみる事にした。




黒毛の騎鳥に装着された革製の鳥具には、鐙のような足を置く装具が付属しており、其処に足を置いて騎乗する。騎鳥の背中に座るよりは、抱き付くと言った方が近い体勢だ。鳥具に手綱は付いておらず、代りに首筋の羽毛を掴んで操るのだそうだ。




見れば騎鳥の背中も鐙擬きの位置も、かなり高い。恐らくは地球の馬よりも。成る程な。地球に居た頃の俺ならば、視線が高過ぎて跨っただけでビビり倒してたろう。ションベン達がギャースカ喚くのも無理からぬ事か。




勿論、跨るだけで今の俺がビビる要素など皆無だ。俺は鐙擬きに左足を掛けると、身を躍らせて黒毛の背に一息に跨った。すると、次の瞬間。




黒毛の騎鳥が、物凄い勢いで暴れ始めた。




まあ、そう成るわな。今迄数え切れぬ程、魔物や野生動物を此の手で屠り去って来た身である。歩み寄った時の黒毛の気配で、凡そ察した。つうか、こんな奴によく鳥具を装着出来たな。




このままだと盛大に振り落とされる?吹っ飛ばされる?・・・んな訳ねえだろ。




俺は黒毛の背の上でガンガン揺られながら、ニヤニヤしながら此方を眺める髭のおっさんをチラリと一瞥する。既に髀肉は黒毛の胴を強固に挟み、右手のクローは黒毛の首筋の肉に、羽毛ごとガッチリと喰い込ませてある。度重なる部位鍛錬で超人的に鍛え抜かれた俺の指は、此の程度の負荷では微動もしない。景気良く暴れ回る黒毛の生死は、文字通り俺の掌の内に在る。




さて、どうすっかな。




此のまま黒毛をぶち殺すのは、当然NGである。明らかに俺に非は無いが、底辺狩人に過ぎない俺の言い分なんぞ通るとは思えんし。




或いはこのまま黒毛が疲れるのを待つか。試しに暫くの間流れに身を任せてみるも、黒毛は俺を振り落とそうとしてるのか、暴れっ放しで大人しくなる兆候すらない。話に聞いた通り、中々の持久力だ。




う~む・・正直あまり気は進まないが、此のままではキリが無いな。しゃーなし。いっちょやったるか。




俺は肉に喰い込ませた右手のクローは其のままに、左腕で黒毛の首を抱え込んだ。そして黒毛を絞め殺さぬよう加減しつつも、左腕と大腿部の筋肉を絞り上げる。




すると激しく跳ね廻る黒毛の動きはあっと言う間に緩慢となり、間も無く地面に蹲るように静止した。そして其の嘴からはギュー・・ギュー・・と悲鳴ともガス抜けとも判別が付かぬ、異様な音が漏れ始めた。




「おい。大人しく俺に従え。それとも此のまま首をブチ折られたいのか」




俺は黒毛の耳?元で囁くと、意味を理解したのかどうか定かで無いが、脱力した黒毛の身体を優しく拘束から解放してやった。





結果として、あれ程好き勝手に暴れ回った黒毛は、まるで別の騎鳥のように大変大人しくなった。そして俺の操作に絶対服従となった。




しかし今回はたまたま上手くいったが、魔物や野生動物に対して力で上下関係を分からせて従わせる手法は、少々分が悪い賭けである。例えば群れで序列や社会を形成するタイプの動物ならば、比較的上手く行く可能性が高い。しかし下手を打つと、逆効果となる場合も往々に有るからな。特に縄張りを持って単独行動する動物なんかは、力でねじ伏せてもボスどころか怨敵扱いされかねん。それに金パツ坊や達との取次ぎ役なあのクッルルーも、過剰にビビらせただけでとても懐柔出来たとは言い難いし。




また、初めての訓練であんなヤバい騎鳥を寄越した髭のおっさんを、俺は当然なあなあで済ませる気は無い。あれ常人なら下手したら死んでたからな。なので金パツ坊やと一緒に詰めまくって、結局俺の騎鳥の借用金を無償にさせた。しかしパッパとの交誼やおっさんの命を考慮して、他の連中の分を無償にさせるのは止めておいた。




ちょっとしたアクシデントは有ったものの、俺達は騎鳥の騎乗訓練を、結局変わらず継続する事にした。そして翌日には苦戦していたションベンと乳白色も、どうにか騎鳥に騎乗して走らせる程度は出来る様になった。時間に余裕が無いので、後は赤の街道で実践しながら練度を上げて貰う事にしよう。

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