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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第236話

狩人ギルドの仕事を完遂した打ち上げと称して杯を酌み交わした俺達は、アホ程飲み食い(主に女二人が)した末に酒場を出ると、各々酩酊した状態で帰途に就いた。




と言っても俺が口にした酒量は、僅かに酔いを感じる程度である。それに金パツ坊やとナヨ雄は、頭からローブで身を包んだ女子二人組を巨壁の先に在る上流階級の居住区迄送り届けるそうなので、俺独りが他の連中に背を向けて別れる形となった。




坊やの話では、明後日から始まる騎士学院の試験が無事終わったら、取次ぎ役であるあのビビリな小動物を再び俺の下へ寄越すそうだ。しかしあのビビリ具合を何度も目の当たりにしてしまうと、坊やが微妙にペットの虐待をしてる気がしないでも無い。が、まあ良いや。どの道俺は何も悪くねぇ。




一方で魔法学院だかに通う女子二人組は、特に此れと言った用事も無く暇そうだが、俺は別段連中と顔を合わせる用向きも無ければする気も全く無い。それに仮に俺が突如煩悩から解脱した聖人と化して下心無く交流を熱望したとて、100パー先方から断固お断りを言い渡されるだろうて。




今から俺が向かう先は、目下の拠点である宿泊先・・では無く王都を護る巨大な防壁群の一つだ。近頃の俺は、脚だけで垂直な巨壁を駆け登る我が金の玉も仰天な鍛錬に勤しんでる(勿論無許可だっ)が、事前に付近の衛兵の奴等の監視網や巡回ルートを探ってある程度把握しておかないと、色々と面倒な事態に陥りかねんからな。




にしても、人里じゃ鍛錬すら人目を盗んでコソコソやらにゃならんとは。こんな時、何時だってFreedomだった山や森がマジで恋しいぜ。例え愚息やケツ穴を清涼なる大気に全開放しても、無粋な連中に咎められたり通報される事も無いしな。但し、虫に刺されるリスクとトレードオフだが。




其の日から地球感覚で丁度一週間の間、俺はフィジカル、剣と拳、そして魔法と連日連夜肉体を徹底的に虐め抜き、大いに充実した鍛錬漬けの日々を過ごした。そう、文字通りの鍛錬漬けだ。




実の所狩人ギルドの昇級目指して、最下級に見合ったカスみてえな報酬の仕事をシコシコこなす事も出来た。例えば建設系の下働きとか、ペットの捜索とか、何処ぞの草毟りとか、水路の泥浚いとかそんなのだ。しかし先日の仕事で貴族の小娘を救助した後、彼女のパッパから気前良く振る舞われた追加報酬がなあ。ギルドの底辺ワークで貰える報酬の、軽く200倍を超えてたからな。心の片隅ではイケナイとは思いつつも、正直シコシコ底辺仕事に従事するのがアホらしくなった感は否めない。矢張り野心に溢れた野郎の夢は、一発ガツンと莫大なマネーを稼ぐ事だと思い知らされたぜ。




それにどうせトールⅡ号の奴が吹聴しまくった悪評のせいで、俺は王都のギルド職員達から滅茶糞嫌われまくってるからな。しかも先日受付の余りにふざけた態度に一度ガチギレしそうになって以来、俺への風当たりはクソガキにDDT制裁をカマした熱血教師に対するモンペ並みに悪辣だ。なので例え真面に働きまくったとしても、果たして真っ当に昇級させて貰えるかは相当に怪しい。




てな訳で。騎士学院の特例で準5級扱いの金パツ坊や達がオイシイ仕事を受注するまでの間、最底辺の10級狩人たる俺は、ギルドの底辺仕事はガン無視する事に決め込んだ。底辺狩人と他者から舐められるのは確かに腹は立つが、あくせく働かなくても別に金には困って無えし。それに王都のギルドの職員達が俺を滅茶糞嫌うのと同様に、俺とてムカ付くギルドの奴等に利する行為なんて率先してやりたく無えし。




また鍛錬と並行して、読み書きの勉強も地道に継続している。しかし成果は芳しくない。何せ街の到る所に文字が溢れていた故郷と違い、此の異界では教材として日常で視界に入る文字が極端に少ないのだ。以前購入した本は大山脈で薪代わりになっちまったし、新たに高価な手書きの写本を購入するのは博打要素が強過ぎる。




その為、今は目に付いた道案内や看板に刻まれた文字ばかり学習してるので、覚える単語が極端に偏ってしまう。加えて、文法が皆目分からん。まあ今やトークには全く不自由して無いので、良い教師や教材が手に入れば其処の所は早々に習得出来そうな気はするが。




因みに教師と言えば、婆センパイに読み書きの指導をお願いしたらふざけるなよ糞餓鬼と罵られ、モックのおっちゃんに頼んだ時は微妙な返答で結局学習どころじゃ無くなり、ストイケに頼んだ時は即答でキッパリと断られた。けんもほろろな反応だった婆センパイやストイケには少々腹が立ったが、まあしゃーなしか。他人から急に読み書きを教えてと請われたとして、二つ返事で引き受ける面倒見が良い奴なんて滅多に居ないわな。俺が逆の立場だったとしても、糞面倒だから絶対嫌だし。




まあ読み書きの習得に関しては、今後も焦らず地道にやっていこうと考えている。勿論習得出来れば何かと便利であろうが、此ればかりは一朝一夕でどうにか成る代物では無いし。其れに一般的に此の異界の庶民は、識字率がかなり低い。此れはかなり重要な事で、例え読み書き出来なくとも、故郷と違い他の皆も同じだからな。周りに申告すれば普通に理解して貰えるし、基本馬鹿にされたり赤面して恥じ入る事も無い。少なくとも表向きは。なので実際のところ、文盲でも日常生活に限れば不自由する場面なんて殆ど無いからな。





____そんなこんなであっという間に日時は流れ。




金パツ坊や達と一旦別れてから丁度七日後。購入して間も無い鍛錬用の一振りが早くも鞘ごとぶっ壊れて超不機嫌な俺の前に、金パツ坊やとの取次ぎ役であるクッルルーが再び姿を現した。そして虫の居所が悪い俺がほんのチョットだけ睨むと、踵を返して即座に姿を消した。




更に翌日。俺は鍛え上げた反射神経と身体能力を存分に生かして、ビビりな小動物が姿を見せるや否や速攻でとっ捕まえた。そして手の中でキーキーと藻掻く小動物を一喝して黙らせると、首輪に据え付けられた木筒を雑に毟り取る。全く、畜生とは言え簡単なお使いすら碌に出来ねえのか手前は。余りに度を越すなら、マジで坊やに許可貰って鍛錬後の補給食にしてやんぞ。




クッルルーの拘束を解いて脱兎の如く姿を消す様子を見送った後。木筒から取り出した小さな皮紙には、金パツ坊やの筆跡で落ち合う場所と日時の符丁が簡潔に記載してあった。ふむ、日時は明日午前の二の刻。場所は何時もの牛舎隣の酒場か。どうやら学院の試験は無事終わったみたいだな。





「やあ、カトゥー。暫くぶりだね」




其れから一夜明けて。俺が狩人御用達の酒場で高級果実水に舌鼓を打っていると、金パツ坊やとナヨ雄が店に姿を現した。坊やは俺に気付くと目の前迄歩み寄って気さくに声を上げ、そして背後に立つナヨ雄は、精悍な顔付に全く似合わぬ所作でペコリと頭を下げた。




「ああ。席は空けておいたから、お前達も座ったらどうだ」




俺が促すと、二人は俺と同じ卓の椅子に腰を下ろす。次いで俺は給仕を呼んだ。今日の給仕は、稀に顔を見せる若いおねえちゃんだ。鼻と顎が太くて美人とは言い難いが、愛嬌が有って人気者だ。二人は彼女に高級果実水を注文して硬貨を手渡した。




「で、試験の結果はどうだったんだ。其の様子だと無事終わったみたいだが」




俺は卓を挟んで向かい合う坊やに訊ねてみた。正直に言うと、試験云々には大して興味は無いが。まあ社交辞令て奴だ。




「まあね。俺の方は可も無く不可も無くと言ったトコロかな。其れよりもロディが素晴らしい評価を得て、俺は鼻が高いよ」




「そう言うフェル様も、座学は元より実技も危なげ無く三戦全勝だったじゃないですか。試験官も皆絶賛していましたよ」




「相手と優秀な後輩に恵まれただけさ。何れにせよ、試験が片付いて漸く一息付けたよ」




「ふ~ん」




おっといけねえ。我知らず気の無い返事が出てしまったぜ。




「そう言うカトゥーはあの日からどうしてたんだ。やはり狩人ギルドの仕事をしてたのかい?」




「いや。主に剣の鍛錬だな。アレ以来、ギルドの仕事は一度も受けて無い。10級の俺が受けられる仕事は、どうにも実入りが少な過ぎてな」




「成る程ねえ。でも昇級する為には、不満が有っても仕事をこなして成果を上げなきゃ。君だって、何時までも10級に留まる気は無いんだろう?」




「ああ、分かってる。しかしお前達と一緒なら、割の良い仕事を受けられるからな。当面は有難くお前達の背に乗せて貰うさ」




・・・いや~実に良いね。あのメスガキ二匹が居ないだけで、ベネズエラの最下層スラムと芦屋の高級住宅街くらい場の雰囲気が違うぜ。




すると先程の給仕が俺達の卓に近付いて来て、高級果実水で満たされた木杯が卓上に置かれた。心なしか、いや間違い無く俺の時より丁寧に。あと凄く近い。乙なパイが坊やの肩に触れそうなんだが。いや触れてね?ねえ触れてね?こんな些細な場面でも、顔面の格差って奴が俺のハートに鋭く突き刺さる。そして素知らぬ顔の金パツ坊やとナヨ雄は、各々杯を手に取って喉を潤した。




「それで?ギルドの仕事と言えば、次は何処ぞへ遠征するんだったか。どの仕事を受けるかは、もう決めたのか?」




ハートの震えと痛みを押し殺した俺は話題を変えて、坊やに対して今日の会談の本題について訊ねてみた。




「ああ。幾つか候補は有ったんだけど・・・」




金パツ坊やの話では、王都から北西に位置する2等貴族のナントカ(名前忘れた)領 のギリンガムとか言う都市の近郊で、そこそこ規模の大きい魔物討伐が行われる予定らしい。聞けばギリンガムはエリスタルでは比較的新しい都市で、都市の北方に在る鉱山群と共に発展した所謂鉱山都市だそうだ。そして鉱山地帯の周囲には広大な原生林が拡がっており、更に北へ進むと人族の侵入を寄せ付けぬ魔物領域となるそうだ。つまり広大なエリスタル領の北端である。




そして俺達の主な仕事は、鉱山周辺の野生動物や魔物の間引きである。鉱山周辺は平時より猛獣や魔物、ついでに不埒な人族に対して厳重な警備体制が敷かれているそうだ。しかし其れでも尚、猛獣や魔物を長く放置すると、特に繁殖力が旺盛な魔物が周辺の森を跋扈するようになり、周辺住民や鉱山労働者に深刻な被害が出てしまうのだそうだ。その為、大規模な間引きが定期的に行われているそうな。




危険を伴う間引きに従事する労働者は其の都度広く募集されており、荒事や魔物退治ならお家芸な狩人ギルドでも、例に漏れず参加する人員を募っているそうだ。




金パツ坊やとしては、依頼をこなして実績を得る事もさることながら、大規模な集団戦を経験しておきたい魂胆があるみたいだ。それに今受けられる他の遠征候補は拘束期間がやたら長く、騎士学院の休暇の期間中に王都に戻れない公算が高い。実の所其れが此の仕事を選んだ最大の決め手なのだそうだ。




「で、其のギリンガムとやらに行くには、王都からどの位かかるんだ?」




俺は目下最も知りたい事を、金パツ坊やに訊ねてみた。目的地までに掛かる日数に拠り、旅に必要な諸々の物資も変わってくるからな。




「そうだな。王都はエリスタルの北部域に位置してるけど、其れでも一般的な隊商なら、赤の街道を使って凡そ30日くらいの旅程は必要だろうね」




えぇ・・鈍足な隊商基準とは言え、幾ら何でも遠すぎやしないかソレ。今の俺の脚で全力を出せば、或いは往復10日も掛からんやも知れんが。しかし仮に貧弱なションベンとか連れて行ったら、往復するだけで騎士学院の休暇が終わりかねんぞ。




「フェルよ。幾ら何でも遠すぎないか。少人数の旅なら隊商の足よりは速いだろうが、其れでもお前の言った通りなら往復するだけで相当な日数が掛かるぞ」




「ハハッ、そう心配するなって。其の事に関しては、俺とロディにちょっとした考えがあるのさ」




俺の懸念に軽く応じると、金パツ坊やは其の端整な顔に不敵な笑みを浮かべた。

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