↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
PR
291/307

第235話

上流階級の学徒と胡散臭い風来坊から成る珍妙なPTの一同が再び雁首を揃えた、大衆酒場『骨と大地の恵み亭』で催された酒宴にて。




坊やの言に拠れば、此度の酒宴はどうやら先日完遂した狩人ギルドの仕事の打ち上げ(意訳)も兼ねてるらしい。へぇ。此の異界でも部活の試合後の打ち上げみたいな概念あったんだ。聞けば坊やとナヨ雄が所属する騎士学院のローカルな慣習らしいが。




まぁ俺としては正直なトコロ、先に取り組んだ漁師や農家を手助けをした仕事の方が余程体力を使った気がするが。しかし坊や達としては、恐らくは未だ不慣れな実戦を経て賊を見事殲滅して、攫われた小娘を無事?助け出せた事に色々と思う所が有ったのかも知れんな。




猛獣、魔物、ゾルゲ、空腹、人、そして自然。此の異界に飛ばされて以来、俺は星の数程の難敵強敵仇敵を相手取ってゲロ吐く程実戦を体験して来たので、今更弱っちいゴロツキ共を駆除したり、生意気なメスゴリラをウホッと軽くシバいた程度じゃ思う所なんぞ何も無い。が、折角坊や達の気分が盛り上がってるのに、ワザワザ冷や水をぶっかけるのは無粋であろう。




ゴロツキ共の根城から俺達が救出したあの貴族の小娘は、未だ治療院で怪我の治療を続けている。しかし幸いにも、金パツ坊や達の手で彼女が運び込まれたのは、常日頃から重軽傷者の学徒が絶えない騎士学院の治療院である。整った設備と豊富な医薬品、そして腕の良い治療師の手に拠る適切な治療のお陰で、彼女の容体は順調に快方に向かっているそうだ。尤も、あの状況では単なる身体の傷のみならず、重いPTSDとか患ってるやも知れんが、其処までは俺の知る由も無い。




また彼女の今後の処遇についてだが、正室(彼女のオカンでは無い)を始めとする家中の一部の者達との軋轢や、貴族家としての外聞を考慮すると、流石に其のまま何事も無く当主である彼女のパッパの娘として屋敷に迎え入れる訳にはいかないそうだ。そこで彼女を大層可愛がってたらしいパッパの計らいと金パツ坊やの入れ知恵で、傷が癒えた後は神職見習いとして何処ぞの神殿に入る運びとなったそうな。




己で便宜を図ったとは言え、パッパとしては酷く傷付いた愛娘を手放すのは本意では無かったらしく、当初は己の腹心達や娘の恩人である坊やからの提案に対して相当に渋ったそうだ。しかし父親としてはさておき、貴族家の当主としては丁度神殿勢力とのパイプ役を欲していたらしく、状況としては正に渡りに船であったらしい。




また彼女の才覚と努力、そして神殿での今後の働き如何では、将来高度な浄化の奇跡を授かって、賊共に汚された身体を魔改、もとい綺麗に清める機会が訪れるかも知れない・・と、俺の間近まで顔を寄せた坊やが、耳元でコソっと囁いた。が、しかし実は地下遺跡から帰還する途中に隙を見て、俺は小娘の腹の辺りにもチョイとばかり回復魔法をぶっこんどいたんで、ワンチャン膜とか再生しとるやも知れんけどな。まあ俺としては、今更どう転ぼうが割とどうでも良いけど。




そんな事よりも、今回の件では余程ハッピーサプライズな出来事があった。救出した小娘のパッパの懐から、ギルドの報酬とは別に結構な額の追加報酬が貰えたのだ。俺は現状金には困って無いが、辛い実体験から金銭の大切さは骨身に染みている。なので頬が緩むのを抑え切れ無いぜ。




そして勿論、追加報酬の事を馬鹿正直にギルドに申告する気は全く無い。そんな間抜けな行為をした日には、ギルドの奴等に幾ら中抜きされるか知れたモンんじゃ無いからな。一応、其の旨はPTリーダーである坊やから許可を得た。いや例え坊やが許可しなかろうが、問答無用で全額懐に突っ込むけどな。




「しかしフェルよ。お前は今回の件で随分と人を動かしたみたいだし、物入りも相当な額だったんじゃないか。俺の見立てでは幾ら追加報酬を貰ったにせよ、使った分を踏まえると今回の依頼は割に合わなかっただろう」




臨時収入でホクホクな俺と違って、金パツ坊やは今回の件でかなり出費が嵩んだと思われる。気になったので訊ねてみると。




「いや、そうでもないさ」




「ん?何故だ」




「俺個人として、彼女の御父上に恩を売る事が出来たのは非常に大きな価値を持つ。あの家は所有する領地こそ僅かだけど、手広く商売をしていて裕福な上に、人脈も太いからね。それに今回の件を通じて、彼女を慕う家中の者達と親交を深めて色々と伝手を築く事も出来た。公の社交の場が数多く有る王都の貴族と言えど、例えば古くから縁が深い家同士だったり、戦場で苦楽を共にしたり、婚姻関係を結んだりでもしない限り、他家の内側に入り込んで当主や家人と個人的に友誼を結ぶ機会なんて滅多に無いんだよ。其れを思えば、貰った報酬や出費なんて所詮端金でしかないのさ」




「ふむ」




金パツ坊やは、涼しい顔で俺の疑念に応えた。




成る程なあ。中々に抜け目の無い奴だ。俺には到底真似出来ない芸当だな。コミュ力だったり機転だ聡明さだの以前に、恐らくは見た目だけで箸にも棒にも掛からないだろう。そういった上流階級の交流の場では、坊やみたいに爽やかでハイレベルなイケメンである事は、其れだけで途轍もなく強力な武器になると思われる。まあだからと言って其の程度の容姿の格差で、俺を産んでくれた親父やお袋を恨んだりはしないけどな・・・いや、遺伝子の暴力が回復魔法の効能すら叩き潰して将来禿げ散らかしたら、2、3発くらいはブン殴りたくなるやも知れん。前言は撤回しよう。




「折角だから、カトゥーも俺に同行して顔を覚えて貰えば良かったのに」




「いや、結構だ。何処ぞのムサ苦しい中年親父からの感謝など、俺にとっては路傍に転がる糞程の価値も無い。追加で貰った報酬のように、感謝の気持ちを金銭やおん・・・金銭で示すのなら、話は別だがな」




「そ、そうか」




糞うるせえ女子共を一瞥しつつ坊やの妄言を軽く一蹴した俺は、今迄逢えて手を出さず手元にキープしておいたカカバム(下味を付けて焼いた肉団子にトロ味を付けた野菜入りの餡?をぶっかけた、俺のお気に入りの料理の一つだっ)を堪能すべく鉄串を伸ばした。ところが。




其処に在るべき俺の肉団子達は、目を離して坊やと話し込む僅かな間に残らず行方を晦ませており、鉄串が木皿を叩く音が空しく俺の耳朶を打った。




余りの事態に一瞬フリーズした俺は、消えた子達を探し求めて周囲に視線を奔らせたところ。俺の目の前で何やら幸せそうなツラで口をモグモグ動かすションベンの口元に、間違い無く俺の所有物である筈のカカバムの餡が付着していた。




「おい」




「・・・・」




「おいシーリン」




思わず声のトーンが下がり、声色に怨恨が宿る。




「ム、ムグッ、何よ平民。気安く呼ばないでよね。平民の癖に」




普段なら呼び捨てるだけでブチ切れそうなションベンだが、今に限っては上機嫌に目を細めたまま俺の詰問に応じた。但し、咀嚼する口は一時も止まらない。




「貴様、俺のカカバムを盗み食ったな」




「ケプッ・・・ああその皿ね。盗んだ何て人聞きが悪いわね。アンタが手を出さないから、もう食べる気が無いと判断して私が頂いたのよ」




「アレは俺が注文して、俺の手元で大切に確保しておいた一皿だぞ。どう責任を取るつもりだ」




「たかが安物の料理一皿の事で、一々五月蠅いわね~。そんなに食べたいのなら、私に愚痴ってないでもう一皿頼めば良いでしょ」




「・・・器が小さい。背も小さい。我慢袋も小さい。身の程も小さい。全てが小さい男」




すると、すかさず乳白色がションベンとの口論に乗っかってくる。しかし其の口元から微かに漂ってくる香りは、たった今ションベンに奪われたモノと同じ・・・。




「品切れだ」




「うん?」




「品切れだから、俺が注文したアレが最後の一皿なんだとよ。つまりお前が俺から奪ったカカバムは、もう二度と頼めない一品だ」




「あっそ。残念だったわね。平民の癖に、アンタがフェルと馴れ馴れしくするのが悪いのよ」




ぬぁああああっ。一体何なんだよ此奴等はよぉ。金パツ坊やは料理に舌鼓を打つのは程々に、既に会話を楽しむ方向にシフトし始めてたし、ナヨ雄に至っては初めから飲み主体で、食い物にがっつく事なんて無かったのに。




食い意地何ぞ見栄張る為にうっちゃって、しょーもない井戸端話や他人の悪口にエンドレスで興じるのが、女という生き物の本来在るべき姿だろうが。黙って見てりゃ頭悪そうな欠食小僧みたく、食い気全振りで他人の飯を貪り喰ってんじゃねえぞボケッ。




「騎士学院の寮に入った僕やフェル様と違って、シーリン達は普段暖かい料理を食べる機会があまり無いんだよ。だから出来れば大目に見てあげて」




俺が怒りに震えていると、隣席のナヨ雄が俺の耳元に口を寄せてコッソリと囁いた。冷めた料理、所謂貴族飯って奴か。良く知らんけど。




成る程。コイツ等普段微妙な飯しか食えねえから、此の店の料理を前に意地汚く食い気に走ってる訳だ。でもそんなの俺には関係ねぇ。大目に見ろ?アホか。大切な大切な我が一膳をむざむざ掠め取られて、俺が泣き寝入りで済ます男だと思っとんのか。




「おいフェル。其の焼いた茸は中々美味そうだな。俺に食わせてくれよ」




復讐に燃える俺は、金パツ坊やが金串で料理を取り上げたタイミングを見計らって一声かけると、坊やの手を取って強引に俺の前に誘導し、握られた串に刺さった茸にかぶり付いた。すると俺の目論見通り、ションベンと乳白色が目を見開いて硬直する。




今だっ。




間髪入れず食卓に身を乗り出した俺は、ゴロツキ共を殺った際の当社比3倍くらいの集中力とスピードを発揮して仇敵共の手元に置かれた赤い果物を引っ掴むと、両手に掴んだ獲物に交互に齧り付いた。




「ムグ。少しばかり酸っぱいが、悪くは無いな」




「お、お、お、お前えぇ!燃やしてやるっ黒焦げにしてやるっ!」




「・・・死ね。今直ぐ死ね」




「たかが安物の料理一皿の事で、一々五月蠅いぞ」




俺は発狂するアホ共を眺めながらこれ見よがしに再度果実を齧ると、澄まし顔で決め台詞を叩き付けてやった。ゲハハハッざまぁ見ろ。因みにたった今俺が強奪した果実も、品切れの為追加オーダーは不可である。と、此奴等が注文した際に店員が口にした台詞を、俺の発達した聴覚は聞き逃さなかったからな。お前らも俺と同じ怒りと苦しみを存分に味わうが良い。




そして高純度なサーモバリック爆弾の如く爆発炎上しまくった場の空気は、沈静化するのに少なからぬ時間と金パツ坊やの渾身の懐柔を必要とした。






「で、お前達は此れからどうするつもりなんだ」




未だ不貞腐れてソッポを向くションベン達を横目にしながら、俺は何だか酷く疲れた様子の金パツ坊やに向けて、今後の方針を訊ねてみた。




「ああ。俺とロディは、明後日から学院で生徒の序列を決める試験が始まる。そして全ての課題が無事終われば、いよいよ長期休暇に入る予定だ。なので俺は休暇に合わせて、狩人ギルドの遠征の仕事を請け負うつもりだ」




「ほう。試験とは具体的に何をするんだ」




「大雑把に言うと座学と実技に別れてる。座学は戦術、歴史、算術、天文学、地政学、他は選択科目が幾つか有るな。それと実技は・・慣例に倣えば俺達上級生は、何名かの下級生を率いての模擬戦になるだろうね」




「ふむ。其の模擬戦に勝てば、学院でのお前達の評価も上がる訳だ」




「必ずしもそうとは限らないさ。勿論、出来るものなら勝つに越した事は無いけれど。例えば状況設定が撤退戦だったり、敗北が前提の場合も有るしね。そして個の武力や戦術は勿論、状況の分析や判断力、統率力、兵站の構築、情報収集、果ては平時からの人心掌握まで。模擬戦を通じて複数の試験官の判断に拠って、総合的に実技の評価が下されるって寸法さ」




「ふ~ん。まあ怪我したり、死なない程度に頑張れよ」




「ああ。試験の対策と準備はもう済ませてあるから、俺とロディなら特に問題は無い筈だ。それよりも、其の後の遠征には勿論カトゥーも同行してくれるんだろう?」




「うむ。一応そのつもりだ。ところで、受けるギルドの仕事はもう決めたのか」




「いや。幾つか候補は有るけど、未だ確定はして無いな。でも先ずは試験に集中しなくちゃならないから、其方の件は決まり次第、改めてカトゥーに報せる事にするよ」




「うむ、承知した」




てな訳で。しこたま飲み食いして『骨と大地の恵み亭』を後にした俺達は、各々の思惑を胸に秘めて一旦解散する運びと相成ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>猛獣、魔物、ゾルゲ、空腹、人、そして自然。 ゾルゲだけ単発で並べられるのは笑う
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。