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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第233話

ノックアウトされたメスゴリラを介抱する鎧男に背を向けた俺は、後方で決闘を見物していた金パツ坊や達と合流した。一歩前に進み出た金パツ坊やは、何故だか微妙な表情を浮かべて俺を出迎えた。




「カトゥー、見事な戦いだった・・・凄いな君は。騎士団の隊長相手に」




「先程預けた俺の装備を返してもらおう」




DOYEAHAAAッ!ですよねっ。どちゃクソ凄えだろ俺っ。心のドヤ値を限界突破させつつも、俺は先程迄の流れに乗って澄ましたキメ顔で右手を差し出した。




「フッそれ程大したモノでは無い。連中は騎士団と言っても、自称してるだけやも知れん。それに幾らデカくても、所詮は女だしな」




俺は受け取った装備を、強者(つわもの)感を演出する為に殊更丁寧な仕草で装着しながら、心にも無い謙遜をしてみる。勿論アホみたいにドヤるより、其の方がより格好良いからだ。YES!凄いだろ。大したモノだろっ。ああんもっと褒めてっ。近頃は漁師の髭モジャ船長にちょっと褒められたくらいで大概罵声ばかり浴びて来たので、俺は称賛の言葉に飢えてたのだ。




「いいや、そんな事無いさ。彼女達の甲冑に刻印されたあの意匠は、間違い無く正規の騎士団のものだよ」




ほ~んそうなんだ。




実の所、先程披露した俺の拳闘の技術は、嘗て故郷で空手部の先輩(プロを目指してたけど、学校にボクシング部が無かったので空手部に入った人だ。今でも元気にしてるかなあ。)から少し齧った程度の代物である。とは言え単純な体力や筋力、瞬発力なら最早地球人類で俺を上回る者は居ないだろう。多分。




そんな俺から見れば、如何に騎士団の隊長と言えど、その腕前が他愛も無く感じられるのは自明なのかも知れん。まあ此の国の騎士団の隊長が、実力的に一体どれ程の立ち位置なのか知らんけど。其れでもあのストイケ並の化け物がゴロゴロ居る、なんてぶっ飛んだ事は流石に有り得ないだろうし。




「中々やるわね平民っ!最後の辺りは何してるか良く分からなかったけど」




などと考えて居ると、今度は上機嫌なションベンに声を掛けられた。




ぬおあぁっ!?う、嘘だろ。俺は余りの驚愕に、思わずションベンのツラを二度見してしまった。此奴と罵倒以外の口を利いたのも、笑顔を向けられたのもひょっとして初見以来初めてじゃなかろうか。う~む、しかし見た目だけなら地球基準でも相当な美形なんだよな此奴。コレで頭の中身さえマトモならなあ。つくづく惜しいぜ・・・まあいっか。お陰で俺はセクハラと無縁で居られるし。まあセクハラの代わりにそのうち怒りのPower腹パンチが炸裂するやも知れんが。




「・・・女性をあんなに酷く殴り倒すなんて、最低」




しかして乳白色からは、聞き慣れた罵声と併せて普通に睨まれた。




まぁ今更此奴の拒否反応に一々驚いたりはしない。もしかすると、所詮は女などと宣った事が癇に障ったやも知れんし。だが勿論俺には、お前の癇なんぞ知った事では無いがな。何ならW中指をピン勃ちさせながら、ゲハハハザ~コザ~コ糞雑魚女~と、お前の癇をペロペロ舐め回して煽り倒してやっても良いぞ。余りに格好悪過ぎるから、今はやらんけど。




そしてガキを背負って此方を見るナヨ雄は、何だか反応が薄いな。お前も気が狂ったションベンみたいに、俺に拍手喝采してくれても良いんだぜ。なので軽く流し目をくれながら、格好良くアドミナブル・アンド・サイのポージングをキメて催促してみたのだが。公園でマッパな変質者と目が合った青少年の如く、サッと目を逸らされた。俺のハートは、密かに今日イチ傷付いた。そして。




「さて。予定外の事態も片付いたし、俺達が果たすべき要件は済んだ。賊の後始末はあの連中に任せたので、さっさと此処から撤収しよう」




「ああ、そうだね」




有頂天、驚愕、冷淡、そしてハートブレイク。俺は様々な心の叫びを一切表に出す事無く、金パツ坊やに向けて遺跡からの帰還をSo Coolに促した。フッ。




「では、我々の任務は賊に攫われた彼女の捜索と救出なので、一足先に地上に戻らせて頂く。後の事は宜しく頼みます」




「う・・む。此れ以上の詮索は無用、か。承知した。口頭とは言え隊長と約定を交わした以上、やむを得まい。しかし未だ賊の残党が居らぬとも限らぬ。貴君らも道中油断せぬ事だ」




「忠告の言葉、感謝致します。それでは」




金パツ坊やは胸に拳を当てた後、鎧集団に向けて優雅な所作で一礼した。そして気絶したメスゴリラを背負った鎧男からの承諾を得ると、俺達の先頭に立って此の場を後にした。




遺跡の通路を引き返した俺達は、心底安堵した表情で俺達を出迎えた案内人と再び合流した。そして此処に至る迄の大雑把な経緯と、要救助者を一応生きて確保した事を彼に説明した。其れから荷物を纏めて一通り確認を済ませると、俺は縛られたまま藻掻くゴロツキの生き残りを軽く絞め落とし、其のまま肩に担いだ。速やかに仕度を済ませた俺達は、金パツ坊やの号令と共に遺跡の出口に向けて出発した。





松明を掲げる金パツ坊やを先頭に遺跡の通路を暫く歩き続けると、どうやらガキが意識を取り戻したらしく、時折ナヨ雄が背中に向けて励ましの言葉を囁く声が聞こえて来る。そして今度は最後尾を歩く俺は、お持ち帰りのゴロツキが目を覚ます度に皆に一旦足を止めて貰い、俺の知る限りの締め技のお試しと練習を兼ねて、キュッと其の頸を絞め直す。此奴は推定前科多数の凶悪犯な上、どうせ100パー死刑だから遠慮はいらん。証言者の確保と素晴らしい実験台を兼ねた、正に一石二鳥で俺もホクホクだ。ウホホッ。今度はギロチンチョークでも試すか。加減を間違って殺っちまわないよう気を付けねえとな。




ナヨ雄の囁きとゴロツキが発する悲鳴を除けば、俺達は無言でひたすら歩き続ける。ガキの容態の事も有るし、早く地上に戻りたいのは山々だろう。しかし、あれだけの戦闘を経た後である。如何に休憩を挟んだとは言え、皆心身共に疲労が隠し切れない様子。俺の前を歩く面々の足取りは、一様に重い。まあ俺は全く疲れて無いが。




此の先は地上に戻って、後の事は金パツ坊や達に一任する予定だ。坊やの話に拠れば、よもやこんな有様のガキを担いで狩人ギルドに乗り込む訳にはいかないので、先ずは坊や達が懇意にしている騎士学院の治療院に彼女を内々に担ぎ込んで、その後改めて依頼主やギルドと連絡を取り合うつもりなのだそうだ。




まあ其れは良いんだけど。実は俺には地上に戻る前に、是が非でもやっておきたい事が一つ有る。どの道此の先幾度か休憩を挟まないと、疲労困憊な貧弱組と小柄とは言え人一人背負ったナヨ雄、そして何より重篤な怪我を負って尚且つ衰弱したガキが地上まで持ち堪えられそうに無いので、其の時が狙い目だな。




そして俺の目論見通り、道中時折振り返って皆の様子を伺っていた金パツ坊やからの指示で、俺達は一旦食事と併せて休息を取る運びと相成った。




「フェル。お前に少し話したい事が有る」




休憩の最中。通路の床に腰を下ろした俺は、ゴロツキ共の拠点でガメた干し肉を頬張りながら、金パツ坊やに話し掛けた。




「何だい?」




「うむ。実はあの子供の事だ。先程から彼女の怪我の具合を見ていると、俺にはどうにも気になる箇所が有る。其処でだ」




俺は女子組の手で地面に寝かされたガキを指差した後、小物入れから木筒を取り出した。そう、獣脂と磨り潰した幾つかの薬草から作成した、回復魔法偽装用の傷薬である。(偽装用と言っても、実際ある程度薬効があるぞ)




「コイツは俺の故郷に古くから伝わる秘薬だ。傷にとても良く効く。応急手当ではあるが、僅かでも容態が改善するのであれば、一度試してみたいのだが」




すると案の定ションベンと乳白色が、俺の提案に強硬に異を唱えやがったのだが。俺が自分の腕や顔に塗りたくって秘薬が無害な事をアピールしたにも拘らず、尚も喧しく喚く二人を金パツ坊やが珍しくもマジギレした低い声で嗜めると、両者共あっさりと沈黙した。代りに殺人光線でもぶっ放しそうな目で滅茶糞睨まれたが。




不愉快なひと悶着はあったものの、てな訳で。俺は休憩中に再び眠りに落ちたらしいガキの上半身を抱き起こすと、その背後で胡坐をかいた。




身体中に刻まれた外傷や痣、切断された足の腱は、坊やの話では治せるらしいのでまあ割とどうでも良い。抜かれた歯も、その内生えてくるだろう。多分。あと潰された目は、回復魔法で治療済みだ。ガキの意識が未だ朦朧としてるので、見えてるか否かは分からんが。




其れ等よりも、俺がどうにも気になって仕方無いのは。一部髪が頭皮ごと引っこ抜かれ、禿げ散らかしたアタマである。いや、此処も一応治るとは聞いたんだけどさ。もし万が一治らなかったら、流石に可哀想過ぎるやろ。例えば野郎ならフッ、俺の此のスキンなヘッドは壮絶な過去の戦いで・・とかある程度誤魔化しが効くやも知れんが、まだ幼い上にしかも女子ではなあ。




てな訳で、今から人体実験を兼ねて回復魔法に拠る治療を試みるぜ。まあ実の所、此の治療は本来女如きに施す力では断じて無い。漲るホルモンと引き換えに、何物にも代え難い友を失った哀れで親愛なる男性諸兄にこそ与えられるべき慈悲と奇跡と希望の光なのだ。なので今回は超例外な特別大サービスだぜっ。




俺は背後からガキの頭に偽装薬をタップリ塗りたくりながら、掌から偽装回復魔法を注意深く発動させた。何故なら上手く加減しながら発動しないと、脳にまで魔法が染み渡ってしまうからな。尤も、俺自身何度も己の顔面を治療したり、眼球を治療した事も有るので、凡その匙加減は把握済みだ。なので治療は滞りなく進む・・かに見えた。だが、その時。




美容院でスキンヘッドに文字通り不毛なシャンプーをするかの如く、回復魔法をぶっ放しながら目の前の禿げ頭を撫で捲っていると。今迄大人しかったガキが、突如猛烈な勢いで藻掻き苦しみ始めた。あっ、ヤベッ。




俺は咄嗟にガキの口をフリーな左手で塞いで黙らせると、素早く身体をズラして煩わしい女子二人からの刺すような目線を背中で遮った。次いで即座にワンハンドチョークを極めてガキの頸をキュッと軽く締めてやると、間も無く其の身体からクタリと力が抜けた。ぬおおおセエエエェフッ!危っぶねええ。俺の回復魔法が基本滅茶糞痛いのをすっかり忘れてたぜ。にしても、早くもゴロツキ君との楽しいチョークの練習が役に立つとはな。お礼代わりに後で更に腕によりをかけて、キモチ良く落としまくってあげよう。




「俺の故郷には、こんな言葉が有る。良薬は口に苦し。この薬は傷に染みるのだ」




そして俺は大変胡乱な表情の金パツ坊やとナヨ雄に向き直ると、威風堂々と適当な出任せを放言して、一連のとてもヤバい気がする行為を力技で誤魔化した。




因みに魔法をある程度加減したのと、ベタベタに薬を塗りたくった事が相まってかなり判別し難いが、ガキの皮膚ごと毟られた毛根は無事再生したように見受けられる。ふむ、俺の回復魔法は完全な欠損には効果は無い筈なのだが、此の程度なら或いは欠損の内に入らないのだろうか。あと患部の突如皮膚が再生した箇所は、注意深く観察すると正直言ってかなり不自然なのだが、もし怪しまれても適当に知らんぷりしておこう。と言っても此処に居る面子が再生前と見比べでもしない限り、不自然だと気付かれる事はまず無いだろうが。




その後、何やらギャースカ五月蠅いションベン達に対して、東照宮の三猿と化した俺はガン無視を決め込んだ。にしてもついさっき迄疲れ切ってひーこら言ってた癖に、何でコイツ等は俺を責める時だけハッピーになる草を限界までキメたみたいに糞元気になるんだよ。マジでウッゼエエ。





・・・と、まあそんな感じで色々有ったものの。それからの俺達は、時折休息を挟みつつも遺跡の出入り口を目指して地下通路を歩き続けた。幸にも以後はゴロツキ共の残党や、その他行く手を遮る障害に遭遇する事も無く、俺達は全員無事に広大な地下遺跡から脱出する事が出来た。

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