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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第228話

暗闇に覆われた地下遺跡の空間の只中で。淡く光る松明の灯りが目紛しく踊り、怒号と、そして剣戟の音色が壁に反響する。




相手は多勢、しかして容易に劣勢とはならぬ。金パツ坊やはゴロツキの集団に半包囲されながらも、明らかに善戦している。個の腕前では坊やが相手を圧倒している事、ゴロツキ共の連携が見るからに拙い事、背後のナヨ雄が坊やの背中を守りつつ上手く立ち回ってる事など、善戦の要因は幾つか考えられるが。




俺は金パツ坊やとの戦闘に夢中なゴロツキ集団の背後から忍び足で近付くと、集団から僅かに間隔を置いて立つ男の口を背後から掌で塞ぎ、顎の下に腕を滑り込ませて頸を極めた。そして、死角となる足元へと一息に引き摺り込んだ。




そもそも甲冑と盾で身を固めた坊やに深手を負わせるのは容易な事では無いからな。




俺は一切の抵抗する間を許さず、引き摺り込んだ男の頸椎を力任せに捩じり折る。ま、首をボキッちまえば盾だろうが鎧だろうが関係無いんだが。




しかも加減する必要が無いので、此の方が失神させるよりも技術的に随分と楽だな。俺は地面に転がった松明を身体を被せて強引に消火すると、ビクビクと痙攣する男の身体を抱えて更に後方の闇の奥へと引っ張り込む。




その後も俺は隙を見ては目に付いた奴の背後からそっと抱き締めて、暗闇へ引き込んでは頸椎をブチ折り続ける。丸太剣βの回収は、面倒臭ぇので一旦保留だ。己の五体を駆使してゴリゴリ逝かせてやるぜ。




なお此の一連の奇襲は、奴等にバレても一向に構わん。其の場合は大っぴらに挟撃に移るだけだ。なので、今は隠密性よりスピード感重視だ。にしてもゴロツキ共や奴等と直接剣を交える金パツ坊やとナヨ雄は兎も角、背後のションベン達も坊や達の戦闘に見入って俺の方を一瞥すらしないのはちょっとどうかと思うが。特にションベン達は、ボケッと見てねえでせめて坊やの援護くらいしろと。




そして先に倒した二人と合わせて五人目を背後から拘束した際、漸く此方を見て目を見張るナヨ雄と視線が合った。おうナヨ雄よ。俺の事は心配無用だぜ。此の調子で奴等を背後からゴリゴリ削ってやるかんな。俺はイケメンアイドルを目前にした小娘の如く、ナヨ雄に最高のスマイルをプレゼントした・・が、何故か強張った表情のまま目を逸らされた。




まあいっか。そらナヨ雄は俺を気に掛けてる場合じゃ無いだろうし。俺は脳への血流を遮断され、失神したゴロツキの頸椎を破壊してトドメを刺した。




こうして立て続けにゴロツキ共を始末すると、あっという間に連中の生き残りは僅か5人まで数を減らした。そして此処に至り、奴等は本格的に異変に気付いて狼狽え始めた。鈍い、などとは言うまい。暗闇で視界が著しく制限されてる上、俺が最初に男の頸をへし折ってから体感で恐らく2分も経って無いからな。




「あれ?あれ?」




「オイ!一体何が起きてんだ!」




「トールの奴も居ねえぞ!おおぉい何処行きやがった!」




「ばっ手前等、余所見するな!」




「グエエッ!?」




すると馬鹿がパニクった絶好の隙を突いて、金パツ坊やが其の腹に剣先を深々と突き立てた。ふむ、漸くか。坊やの腕を考慮すれば些か物足りない戦果だが、慣れぬ環境と数的不利に加え、背後の守りを気に掛ける余りどうにも攻めに転じられなかった感が有るので致し方無し、か。




さて、残る戦闘可能なゴロツキは四人。此れだけ削れば後はどうとでも対処出来るだろう。頃合いを見計らった俺はさり気無い風を装って、ぬるりと坊や達が照らす松明の灯りへと姿を晒した。フッもしや間抜けなゴロツキ共の目には、俺がずっとビビッて動けずに居た・・・てな感じに見えたりするのだろうか。




因みにゴミ捨て場の出入口は、既に撒き菱をバラ撒いて封鎖してある。撒き菱は何も逃走の時だけに使える道具では無いのだ。




「カトゥー!良かった。無事だったか」




すると、金パツ坊が動揺するゴロツキ共と睨み合いながら、安堵の声を上げた。




「うむ。問題無い」




「て、手前糞餓鬼。一体何をしやがった!」




「フッ、貴様等の仲間は、俺が全員・・」




「ちょっと平民っ。フェルが命懸けで戦ってるのに、遊んでんじゃないわよ!」




「・・・・」




えぇ・・おいコラションベン。俺結構頑張ったと思うんだけど。よもや味方からそんな罵声をブン投げられるとは。いやまあ確かに坊や達と違って俺には着衣の乱れや返り血の一つも無いし、その上手ぶら。しかも女子組は俺の超活躍を全く見て無かったと思われるので、万歩譲って遊んでたと取られても仕方無い・・・のか?




う~む、まあ良いや。此奴から急に褒め称えられても気色悪いだけだし。




「おい、お前等。ボケっと見てないで、少しは働け。其の手の棒は只の飾りか」




俺はゴロツキとついでにションベンの不愉快な囀りを無視すると、背後に立つ糞の役にも立たん雌ガキ共を一瞥して軽く煽ってやった。俺がゴロツキ共の背後では無くワザワザ此方側に姿を晒したのは、約二名のボンクラをどうにかする為だ。俺はお前等が終始及び腰な様をしっかり観察してたかんな。少しは仕事しろや。




「な、何ですってぇ・・」




「・・・口では何とでも言える」




「フ~ッやれやれ」




唇を蛸の様に突き出してチョットだけボンクラーズの方へ振り向いた俺は、強靭な体幹を生かして身体を30°程傾斜し、両手を上げて肩を竦めながら実にワザとらしく盛大な溜息を吐いた。




「五月蠅いっ!今あいつ等を魔法で燃やしたら、フェルも巻き込んじゃうでしょ!」




あ、馬鹿。迂闊に魔法の事を口に出すなよ。ゴロツキ共がザワ付いてんじゃねえか。




「お前の手札は、何も燃やすだけじゃあるまい。少しは無い頭を捻って、自分の判断で動け。お前等今のままなら、邪魔だから居ない方がマシだ」




「ぐぎぎいぃっ!お前なんかにっ」




「・・・っ!!」




碌に実戦経験なんぞ無さそうな事を考慮するにせよ、ションベンと乳白色の奴は性根に指示待ちの姿勢が染み付いてやがんな。逆に騎士学院で軍隊教育を受けてそうなのに、坊やとナヨ雄は己の裁量でかなり臨機応変に動けてる。野郎二人は思いの外、此の手の荒事には慣れてるのやも知れんな。




「クソォ。もしやアイツ等逃げやがったな!」




「ど、どうしよう」




「うるせえっ!此のガキさえ殺れば!」




気付けば一変していた戦局に加えて魔法の存在に恐れを成したのか、生き残ったゴロツキ共は完全に逃げ腰だ。まあ絶対に逃がさんがな。両手に手早く石礫を潜ませた俺は、身体を軽く脱力して追走の態勢に移行する。主だった残敵は坊や達に任せて、俺は逃げに回る奴を確実に仕留めるつもりだ。




「フェル、私に任せて!」




すると、後方でションベンが一つ宣告をした。ほう、何かやる気か。肩越しに振り返ると、目が合ったションベンに凄え睨まれた。




「ルゥ ブラム ルキシィ・・」




次いで朗々とした魔法の詠唱が耳に入って来る。俺は密かに集中を高め、周囲の魔力の流れとクセを探る。他人が間近で安全(多分)に魔法を行使する機会はとても貴重だ。魔力感知を磨く絶好の機会を逃す手は無い。また、盗める技術は全て盗む。勿論、全ては魔法の師である婆センパイからの有難い薫陶である。




怯えるゴロツキ共は各々叫びながら、まるで坊や達に取り縋る様に斬り掛かる。そして相対する坊やとナヨ雄が此処から先へは一歩たりとも通さぬとばかりに、身体を張って斬撃を受け止める。




「爆ぜよ 赤き光 闇を駆逐せよ!」




そして其の直後、ションベンの詠唱は完成した。すると次の瞬間、暗闇である筈のゴミ捨て場が眩い光に包まれた。




うお眩しっ!コイツは太陽け・・じゃなくて赤光の魔法か。ションベンに背を向けた俺達は兎も角、あの光を直視したゴロツキ共は堪らんだろう。




魔法に拠る発光現象の持続時間はほんの僅かであったが、其の効果は充分に発揮され、決着はあっと言う間に着いた。金パツ坊やとナヨ雄は、ションベンが導いた絶好の隙を見逃す事など勿論無く。二人は視力を奪われたゴロツキを各々斬り捨てると、坊やは間髪入れずに返す刀で二人目の首を刎ね飛ばした。






「此処から先は、行き止まりだ」




俺はゴミ捨て場の出入口から逃走を図るゴロツキの前に立ち塞がった。此の男は先程他の連中に合わせて坊や達に斬り掛かる素振りだけ見せて、此方に背を向けて逃げ出したのだ。お陰で間一髪、ションベンの魔法の光を直視せずに済んだと思われる。尤も、魔法の光を遣り過ごせても俺の脚力から逃れられるハズも無いし、此の先は既に撒き菱で封鎖済みだ。逃れる術は無い。




「オイ待てよ。いや、待ってくれよ。なあ兄弟」




すると男は無抵抗アピールのつもりなのか、武器を床に捨てて両手を拡げて歩み寄って来た。先程散々俺に胸糞話を聞かせてくれやがったツラに、今度は卑屈な笑みを張り付けて。よもやお前が最後迄生き残るとはな。




俺は無言で大きく一歩踏み出して男の間近に迫ると、其の頬にビンタを食らわせた。




パゴォッ




胸糞悪いツラを馴れ馴れしく近付けるな。あと誰が兄弟だボケッ。




幾らか加減したとは言え、今の俺のビンタは文字通りの殺人超級ビンタである。ゴロツキは冗談みたいな勢いで吹き飛んで、派手に地面に叩き付けられた。しかし俺は情け容赦無くゴロツキの髪をひっ掴んで引き起こすと、酷く変形した頬と併せて逆の頬に二度、三度目のビンタを叩き込む。




「か・・ヒュ・・た、たしゅけて」




「駄目だな」




ゴロツキの命乞いを一蹴した俺は、男の髪を離して地面に放り出した。同時に開いた掌から、パラパラと千切れた髪が床に零れ落ちる。




それから暫くの間、呻き声を上げる男は俺の足元で芋虫の如く床に這い蹲って居たのだが・・・。




「う゛お゛お゛おっ死ねえええっ!」




突如弾かれた様に撥ね起きると、隠し持った短剣を俺の腹に突き立てようとした。




バァンッ




そして俺は今度こそ本気で、男の頬に平手打ちを叩き込んだ。脆い人族の首はあっさりとへし折れて、男は不自然な体勢のまま床に崩れ落ちた。今迄平手打ちを加減したのは、別に男を甚振る為でも、まして慈悲を与えた訳でも無い。返り討ちという体裁で良心の呵責って奴を僅かでも軽減する、徹頭徹尾俺自身の為だ。




碌でも無い悪党共を完膚無き迄に成敗して、少しはスカッとするかと思ったんだが。結局後に残ったのは、何とも言えぬ胸糞悪さだけだったな。





後は根城に残った奴等を、一人残らず片付けるだけか。

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