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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
283/286

第227話

俺らしくもない。


頭の中で、醒めた自分に言われたような気がした。




確かにらしく無いのかも知れない。俺が赤の他人の為に、積極的に人間相手の殺し合いに身を投じようなどと。チョツトだけ侠客を気取ってみたくなっちまったのか、或いはあの小さな命の耀きに当てられたのか・・・まあ良いさ。もう決めた事だ。何れにせよ、目の前の奴等が死ぬ程胸糞悪い事に変わりは無い。




俺は既に随分と手に馴染んだ、丸太剣βのグリップの感触を確かめる。敢えて相棒では無く丸太剣βを手にしたのは、刀身だけで4尺(約120cm)を越える相棒は閉所でブン回すのに適さないからだ。尤も、其れは最たる理由では無い。此のゴミ捨て場の広い空間に限れば、長物を振り回すのに左程支障は無いからだ。




では何故相棒の使用を控えるのかと言えば、ゴロツキ共を景気良くぶった斬った結果、連中に怖気付いて逃げ腰になられると面倒だからだ。俺は此奴等を一匹たりとも逃す気は無いが、恐らく此の辺りに退路が複数存在するであろう事実は、何も俺達だけに都合良く働く訳じゃない。しかも地下の構造には、俺達より近辺を根城にしてる奴等の方が明るいだろうしな。




その点丸太剣βは見てくれが非常に地味なので、良い感じに貧相さを演出するのに好都合だ。但し、もし演出抜きでガチで丸太剣では手に負えないと感じたなら、即座に得物を相棒に差し替える腹積りではある。まあこんな場所でゴロツキやってる連中に、それ程の凄腕が居るとは思えんが。




更に付け加えるならば、此奴等を景気良くぶっ殺したとして、ハイそれで終いて訳にはいかんだろう。ちゃんと後始末しないと、下手すりゃヤバい病気が蔓延する元凶ともなりかねん。そして其の際、相棒でぶった斬った身体のパーツや臓物が周囲に散乱していては、色々な意味で大変だからな。




デキる男は殺伐とした殺し合いですら、アフターケアの事もきっちりと配慮するモノなのだ・・・まぁ本当は面倒臭えから出来上がった死体は丁度目の前に在るゴミ山に適当にポイするか、地下遺跡を管理してるらしいブィキャルの連中に丸投げするつもりだけどな。




・・・などと高速で思考を巡らせつつ、俺は抜いた丸太剣βを肩に担いだ。ゴロツキ共は尚も愉悦に浸り切って胸糞話に興じている。ゴミ捨て場に現れた奴等の頭数は、総勢12人。先刻お持ち帰りした男に吐かせた情報が正しいと仮定すれば、奴等の構成員の半数近い人数が此の場に集まった事になる。見た目の戦力差を考慮すれば、此奴等がニヤ付きながら余裕カマすのも納得か。




辛うじて命を繋いだ要救助者のガキは、ゴロツキ共が姿を見せる前に部屋の壁を背にして寝かせてある。そんな彼女を女子二人が守り、二人の前にはナヨ雄が陣取る。そして俺と金パツ坊やが、先頭で前衛を勤める陣形である。当初はナヨ雄では無く俺が女子二人を守るよう金パツ坊やに提案されたのだが、「こんな奴に守られたくない」とか「どさくさ紛れに私達を犯す気」とか言われて激しく拒否られた。お前等良い加減にしねえとマジでゴロツキ共と纏めてシバくぞ。




さて。大雑把な目付も済んだし、此奴等の胸糞話も下卑た間抜け面を眺めるのも良い加減ウンザリだな。てな訳で、速やかにブチ殺すか。俺は金パツ坊やと一瞬目を合わせると、互いに頷き合った。そして、俺が先頭の男を黙らせようと一声、




「もういい。黙れ」




掛けようとしたのだが。寸前に金パツ坊やが男に向けて、普段とは掛け離れた低いトーンだが、非常に良く通る声で言い放った。




「あ!?」




すると、ゴロツキ共の耳障りな喧騒が一斉に止まった。むう・・微妙にアイコンタクトに失敗した俺達よりも、ある意味連携が取れてやがんな。




「お前達の下劣な所業は、耳に入れるだけで虫唾が走る。世に蔓延る外道共。今より俺の剣は、逃れ得ぬ死の神の腕。穢れた魂を悉く地の底へ送ってやるから、覚悟しろ」




「覚・・悟?ア~・・・お前が、俺達を、殺る?」




「そうだ」




「プ~~ッ、ギャハハハッ!フ・・フヒッ。面白ぉ。な~に夢見てんだ此の糞餓鬼はよ。俺達の数が見えてねえのかよ・・・まあいいや。お前等纏めて細かく切り刻んで、糞と混ぜてチーチクの餌にしてやるぜぇ。フヒッ」




「オイッ。女は殺すんじゃねぇぞ!」




「うるせぇ!分かってんよぉ」




金パツ坊やの宣告を受けたゴロツキ共は、見るからに薄汚い顔面に変わらず下卑た笑みを張り付けながらも、各々得物を手に急速に戦意を漲らせ始めた。多人数相手に坊やの挑発じみた言動は迂闊・・と言えなくもないが、どの道奇襲を仕掛ける状況では無いので、大した問題では無かろう。




胸糞話を中断したゴロツキ共は、各々が統一感の無い得物を得意気に誇示したり、舌なめずりをしながら此方へとにじり寄って来る。しかしその間も何かとギャースカ喚き散らしており、一々騒々しい。黙って動けねえのかよ。




「おいっ。囲めっ!囲めっ!」




「ソコ退けっ。邪魔だ!」




「女ァ!」




「おいヂルゥ。お前らはソッチの餓鬼を殺れ」




ゴロツキ共は、しかし意外にも即座に襲い掛かって来る事は無く、数的有利を生かして前衛の俺達を分断する動きを見せた。と、言うより金パツ坊やの周りを取り囲んで、俺に対しては鉈みたいな得物を手にした二人の男が立ち塞がった。




「プッ、オイオイ何だその棒はよぉ。マトモな武器も買えない餓鬼かよ」




「・・・・」




「お前もしかして、俺達にビビッて動けねえの?ケケッ。まあ、今更泣き喚いても絶対逃がさねえけどなぁ」




むう・・俺ってそんなに弱そうに見えるんだろうか。確かに金パツ坊やナヨ雄と比べても体格は一回り小柄だし、二人の派手で高価そうな装具と違って、身に纏うのは見た目只のボロい外套ではあるが。




にしても此奴等、些か予想外の動きをしてくれる。もし俺が悪党の立場ならば、真っ先に一番弱そうな奴を囲んでぶち殺して守りを突破。そして後方の女を人質に取って戦力の無力化を図るトコロなのだが。よもや俺よりも強い判定を下したらしい金パツ坊やを先に狙うとはな。しかし奴等の表情を一瞥して腑に落ちた。どうやら連中、糞生意気で裕福そうな餓鬼を真っ先に嬲り殺して分からせて遣りたいらしい。或いは歩く宝物庫然とした坊やの、如何にも高価そうな装具に目が眩んだか。随分とまあ、目先の欲望に忠実なこって。




何れにせよ、半包囲された金パツ坊やは些か不味い状況やも知れん。俺の見立てでは坊やは相当に腕が立つものの、其の強さは飽く迄常識的な範疇に留まっており、あのストイケの様な非常識な水準では無い。つうかアイツならゴロツキ十人処か、百人の武装した兵士に包囲されても普通に返り討ちにしそうだし。




とは言っても、俺は無理して坊やの介護をするつもりはサラサラ無い。俺はお前のオカンでもお守りでも無いのだ。騎士だか何だか知らんが、お前も一端の戦士として身を立てるつもりなら、其の程度の雑魚共手前で何とかして見せろ。もし力及ばずくたばっちまったら、ちゃんと丹精込めた墓を建てて供養してやっから。




「死ねぇ!」




などと思いながら金パツ坊やの様子をチラ見してると、目の前の二人の男が濁った奇声を上げながら斬り掛かって来た。




俺は充分な余裕を以って半身になって一撃を躱し、丸太剣βでもう一人の攻撃を受ける。丸太剣βは見た目に依らず、鍛鉄すら遥かに凌駕する馬鹿げた強度を誇る。貧弱な手応えと共に、木製にあるまじき擦過音が耳朶に響く。




ふむ。遅過ぎるな。




俺は続けてゴロツキ共からの攻めを処理しながら、相手の力量を査定する。遅いとは言っても、今は俺のアタマの中で脳内物質がドバドバ放出されて、周りの景色がスローに感じてる訳では無い。確かに此奴等の瞬発力が貧弱なせいもある。が、それ以上に所作や身の置き所から、今の俺には此奴等の先の動きが手に取る様に見えるのだ。お陰様で俺は常に一手、二手と攻守を先取りし、待ち構える事が出来る。何なら先の先を取って、此奴等の動きの枕を抑えるのも容易だろう。結果として、俺には此奴等の動きが恐ろしく鈍く感じられてしまう。




此奴等は人を斬り付けるのに躊躇いが無いので喧嘩、いや殺し合いに慣れてはいるのだろう。しかし所詮は素人て事か。間合いの駆け引きも杜撰に過ぎる。余りに不用意に斬り掛かるので、ブラフで無ければ早くもお前等の手が届く間合いは掴んじまったぞ。




何れにせよ、雑魚相手にチンタラ時間を費やすつもりは無い。俺は髭が長い方のゴロツキが放った鈍重な突きに対して、間合いを半歩切って遣り過ごす。そして引き手に合わせて踏み込み、男の腹に一撃をぶち込んだ。




拳に拠る突きの延長。狙いは人体を支える、腰椎である。身体の表面を叩くのでは無く、重心を貫き通すイメージだ。




ボンッ




鈍い音と共に、男は声も無く前屈みに崩れ落ちた。絵面は非常に地味だが、内実は悲惨の一言である。俺の手には男の腰椎が粉砕したか、或いは破裂した嫌な手応えが確かに感じられた。無論、手前の臓器がどうなったかは言わずもがなである。




ほぼ同時に斬り掛かって来た残りの一人に対しては、左手に持った松明を顔に向けて投擲する。と、同時に松明を隠れ蓑にして高速で唾を飛ばす。本命は此方だ。そして男の目元への唾の着弾に合わせて、俺はほぼ無音で空中へと身を躍らせた。




「熱アアァ!?クソッ野郎おぉ!」




が、しかし男には唾どころか、囮の松明も普通に直撃していた。ウ~ム、ワザワザ頭上に跳んで、姿を眩ませる迄も無かったかも。




直前まで俺が立って居た場所に残された丸太剣βが、ゴンと鈍い音を立てて倒れた。コイツも頭上の俺から気を逸らす為の仕込みなのだが、ゴロツキは全然気に掛ける余裕は無さそうだ。何だか無駄骨感が。普通に正面からブン殴っときゃ良かった。




動転して目を擦る男は視界が不明瞭なのか、完全に俺の姿を見失っている。何せ俺が飛ばした唾は、唯の唾では無い。水属性魔法で予め仕込んでおいた、粘度強めの特別製だ。魔法の師である婆センパイから教わった、口腔内で残存魔力を測る技術の応用である。




空中で逆さの体勢の俺は、此のまま自由落下すれば頭から地面に激突だ。なので俺は体操選手の如く空中で身体を捻ると、男の背後に足から着地する姿勢に移行する。眼下のゴロツキもよもや目の前の相手が、あの一瞬で自分の遥か頭上まで跳び上がるとは思うまい。垂直跳び推定4メートル越えの超人にのみ許された芸当だ。




そして男の背後に向けて自由落下した俺は、目前に迫った男の髪を掴むと、




グジィッ




重力加速と自重を利用して、男の頸を一息にへし折った。次いで着地した俺は音を立てぬよう、崩れ落ちる男の身体を背後から支える。次いでほぼ即死した男を地面に横たえた俺は、地面に落ちた松明を己の身体を被せて素早く消火した。発達した今の俺の視力ならば、ゴロツキ共が手に持つ松明の灯りだけで充分事足りる。




結局、二人のゴロツキを始末するのに掛かった所要時間は、凡そ20秒程度か。しかしこうしてシバくと改めて感じるが、魔物は無論の事、其処等の野生の獣と比べても矢張り人族の身体は随分と脆いな。となると、俺が全力でぶん殴っても平然と殴り返してくるストイケの野郎は一体何なんだとなるが・・・。




雑魚二人は其の気になれば瞬殺も出来たろうが、今はまあ良しとしよう。松明の火を消して闇に溶け込んだ俺はベストから石礫を取り出し、立て続けに投擲する。




「ギャッ」




「痛ぇ!」




石礫は人目を避けて背後に回り込もうとした男の膝を粉砕し、複数名で金パツ坊やに斬り掛かった男の一人から得物を弾き飛ばした。見た感じゴロツキ共の半数程は防具を身に纏わぬ軽装な為、ほぼ急所が剥き出しだ。此のまま石礫で皆殺しにする事も不可能では無いだろうが、下手を打つとパニックを起こして逃げられる可能性がある。それに、少しは坊や達にも花を持たせてやるか。




にしても坊やの方は兎も角、此の辺りを根城にしてるゴロツキ共が暗闇での戦闘に不慣れに見えるのは少し意外だ。お陰で互いに若干攻めあぐねてる感じだな。




俺は松明の灯りが生み出す濃い影に沿って、忍び足でゴロツキ共の後背へと近付いた。狙いは群れの最後尾にボケッと立つ男。如何に人数を揃えたとて、一度に斬り掛かれる人数は限られてるからな。

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― 新着の感想 ―
つかぬことをお伺いしますが、チーチクとはどのような動物なのでしょうか?私は勝手にスズメみたいなものかなと思っておるのですが
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