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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
282/287

第226話

俺達の探し人である誘拐された貴族の娘は、無残な姿と成り果てて地下遺跡のゴミ捨て場に投棄されていた。瀕死に見える彼女の声無き懸命な願いを受けた俺は、出来る限りの治療を施す事にしたのだが。




俺はゴミ捨て場の床に横たえた彼女の脇に腰を下ろして座禅を組んだ。治療には勿論、我が自慢の回復魔法を用いる。そしてどうにかして命を繋ぐ事を、此の場での治療の目標としようか。




視診で一通り確認した結果、彼女の身体には数え切れぬ程の外傷が刻まれ、各所に骨折してると思しき患部も見受けられる。が、一先ず其れ等はスルーする。特に骨折については、俺自身がクランケならば委細構わず強引に繋げて魔法をぶっ放すのだが。相手が貴族のガキで、しかも女となると些か躊躇いがある。何せ山暮らしで培った経験測や嘗てビタの村で教わった薬草や応急手当等の幾らかの知識を除けば、俺なんぞ所詮医学的知識ほぼ皆無な素人である。そんな俺が下手に骨をくっつけると、後々面倒な事態に陥る可能性が否定出来んからな。なので細部の治療に関しては、餅は餅屋。出来れば治療師や薬師に一任したい。医療知識や技術は地球の現代医学には及ぶべくも無いだろうが、薬効だけは話が別。此の異界には傷薬を始めとしてヤバイ効能の治療薬が幾つも存在すると聞くしな。自分では虫下し位しか使った事無いけど。




そんな事を考えながら改めてガキを診れば、確かに全身酷い有様ではある。しかし以前力及ばず命を拾えなかったルエン少年の時と比べ、致命的に深い外傷は見受けられ無い。とは言え、出血量は相当なものと推測される。少なくとも此の場では輸血なんぞ到底望めない以上、出血性ショックで命を落とすリスクは避けられ無いだろう。だが、成算はある。捨てられてからどれ程の時間が経過したのか定かでは無いが、発見時の状況から鑑みて、もし致命的な損傷が内臓や血管にあったならば、此奴はとうにくたばってる可能性が高い。そう考えれば見た目こそ確かに酷いが、助かる可能性は十分にあると見た。




となると目下治療が急務と考えられるのは内臓全般、そして中枢神経だろう。しかし脳は下手に回復魔法をぶち込んで頭がパーになってしまうと元も子も無いので、今は無事である事を祈ろう。てな訳で、先ずは腹腔内に回復魔法をぶち込もうか。




方針を定めた俺は腰の雑嚢から偽装用の塗り薬を取り出すと、内出血で黒ずんだガキの腹に塗りたくった。俺の回復魔法は秘匿技術である。此奴には朧気ながらも一応意識があるみたいなので、体裁て奴は整えておかないとな。




次いで俺はガキを寝かせたまま身体の中心、丁度水月の辺りに掌を当てると、魔力を練り上げて回復魔法を注ぎ込み始めた。但し、今回はルエン少年を治療した時の様な、後先考えない全力全開のフルパワーて訳では無い。此の場所は敵地の真っ只中だし、また出口までの距離を考えれば余力は充分残しておく必要が有るからな。まあルエンを治療した時も安全とは到底言い難い状況ではあったが、アイツは俺の大恩人だからな。リスク何ぞ糞食らえだ。




また、今行使しているのはあの時の様な無制限の回復魔法では無く、掌から発動する偽装回復魔法だ。但し制限付きとは言っても、今の俺の回復魔法の技術は以前よりも更に洗練されている。具体的に言うと足から発動する回復魔法が、発動時間は兎も角効果が実用レベルに達しつつあったり、掌のみならず指先から回復魔法を放射出来たりもする。尤も、使い道は殆ど無いが。加えて普段使い倒している偽装回復魔法の効能が、無制限の回復魔法と余り差が無くなって来ている。




そんな訳で、例え加減をしたとて致命傷さえ無ければ充分な効果が期待できる筈だ。




因みに回復魔法は致命傷には効果が無い・・てのは飽く迄俺の主観に過ぎない。実際にはどの程度の怪我にまで効能が有るのかはあやふやだし、過去に動物実験を行った際には同程度の怪我でも治ったり治らなかったりしたので、個体差も結構有るみたいだ。まあ実験したと言っても、充分な実験と検証を積み重ねた訳では無い。流石に人体実験ともなると、おいそれと敢行する訳には行かんからな。なので自ずと手頃な人体実験の被検体は俺自身の肉体となるのだが、大切なマイボディで余り無茶な真似は出来んし。




そう考えると、以前大山脈越えの旅を共にした樽は実験動物モルモットとして素晴らしく貴重な存在だった。彼奴相手なら躊躇ゼロで倫理観の禁忌ラインをカッ飛ばした人体実験に踏み込む事が出来たので、結果として幾つもの貴重な検証結果を得る事が叶ったのだ。




・・・さて、どんなもんかな。




たっぷり時間を掛けて回復魔法を注ぎ込んだ俺は、一旦発動を中断して再度ガキの容態を確かめてみる。すると、掌を当てていた箇所の内出血が綺麗に消えており、今にも絶えそうだった不規則な呼吸が比較的安定している。




おぉ、効いてるぞ。ほぼ死人にしか見えなかった土器色な顔色も、心なしか改善したような気がするぜ。よぉし此の調子で次の処置に移行するか・・・と、本来ならなるトコロなのだが。




イラアァッ。先程から視診する度に、マジで胸糞過ぎるわ。コレは精神衛生上非常に宜しく無い。てな訳で、急遽予定変更だ。全身は兎も角、酷い有様なデリケートゾーンだけでも洗浄してやるか。




俺はガキの足首を掴んで持ち上げると、尻洗魔法アスクリンを発動して汚れ切った部分の洗浄を開始した。もしションベンが相手なら生涯憎まれそうなポーズだが、今は悠長な事を言ってる場合では無い。




暫し洗浄を続けると、程なく何とか見られる程度には綺麗になった。流石はホカホカの温水洗浄である。単なる水洗いではこうはいかないであろう。正に500年は未来(さき)を行く温水便座の先取りだ。もし残念ながら此のままくたばったとしても、冥土の良い土産になるだろう。多分。しかし一応綺麗にはなったが、何だか盛大にお漏らししたみたいになっちまったな。此奴の名誉の為にも、少し移動しとくか。




俺は取り出したボロ布で濡れた箇所を拭いた後、出来るだけ負担を掛けないようにガキの身体をそっと抱き上げて場所を少しだけ移動した。




再びガキを床に寝かせた俺は、指で瞼を開いて中身を確認してみる。ふむ、正に不幸中の幸いと言うべきか。眼球は両方共潰されているものの、どうやら抉り取られてはいないみたいだ。と、なれば実績アリだ。俺の回復魔法で治療可能やも知れん。潰れた眼球の再生となると、此の世界の傷薬でも治療の成否はかなり怪しいからな。なので優先的に治療を試みてみよう。




俺はガキの上半身を起こすと、背後から目隠しをする様に両眼を掌で覆った。そして、先ずは右目に対して回復魔法を発動する。




「ア、ウ・・アアッ!」




すると、ガキは弱々しく呻きながら苦しそうに身を捩り始めた。そらそうなるわな。俺の回復魔法には優しさだの慈愛的な成分はほぼ無いし。まあ俺としては、優しさと引き換えにゴリゴリ効いてくれりゃ特に何の不満も無いが。




そこで俺は両脚を使って文字通りの蟹鋏みの体勢で、身悶えるガキの両腕ごと身体をガッチリとホールドした。ううむ、(激痛で)悶える全裸の女子を背後から固める此の絵面。故郷ならばポリスメンの熱いコールで即トリプルプレーの3アウトか、グリコのポーズで両手にダブルレッドカードが掲げられそうなヤバ過ぎる見た目である。もしゴミ捨て場の入口に他の誰かが現れたらと思うと、正直キャン玉がヒヤヒヤしちまうぜ。




すると間も無く、苦しそうに暴れるガキの身体から突如クタリと力が抜けた。焦った俺が治療を中断して頸動脈の脈拍を確認すると、どうやら失神しただけの様子。となれば此のまま大人しくしてくれた方が好都合なので、俺は其のまま治療を続行した。




幸いにも俺の重度の性犯罪的な絵面は誰にも見咎められる事無く、ガキの両眼に回復魔法を存分に注ぎ込む事が出来た。試しに指で瞼を持ち上げてみると、翡翠色の瞳の眼球が見事再生された様子が見て取れる。但し、実際に視力迄回復してるか否かは本人じゃないと分からんな。まあ俺に出来るのは此処までだし、もし駄目ならご愁傷様て事で。




そしてお次は、ぶった斬られた両足首の腱か。逃走防止の為にやられたんだろうが、此処も薬で対処出来るか怪しいからな。念の為回復魔法で治療しておこう。ともかくガキの容態を見る限り、生死の際からは辛うじて脱したと思われる。なので足首の治療が済んだら、一先ず此奴を連れて金パツ坊やと合流すっかな。




そんな事を考えた矢先。俺の発達した聴覚が、此の場所に近付いて来る微かな足音を捕らえた。もしや、コロツキ共の新手だろうか。先程生ごみを捨てたばかりなのに。




ううむ、どうすっか。何処かに身を隠そうにも、折角治療を施したガキの身体を今は雑に扱いたくは無い。次第に明瞭になる足音は複数。しかし此処を根城にするゴロツキ共にしては、妙に足音に迷いが有るな・・・コイツはもしや。




素早く松明の火を消した俺は、何となしに正体を察した足音の主に対処すべく、ガキの前に立ち塞がってゴミ捨て場の出入口に向けて身構えた。すると。




松明の灯りと共にゴミ捨て場の入口に姿を現したのは、大方の予想通り金パツ坊やであった。次いでションベンと乳白色、更にはナヨ雄まで姿を見せる。




先頭を歩く金パツ坊やは顔を顰めながらゴミ捨て場に足を踏み入れると、松明の灯りで俺の姿を視認したのか、弾かれた様に武器を構えた。




「待て、フェル。攻撃をするな。俺だ。加藤だ」




俺は今にも斬り掛かって来そうな金パツ坊やに向けて声を掛けた。




「うおっ。カトゥーか。驚かさないでくれよ・・・まあ兎に角無事で良かった。随分と心配したんだぞ。あの男が戻って来てから随分経つのに、君だけ何時まで経っても戻って来ないから・・」




「もうっ、だからこんな奴放って置けば良いって言ったでしょ!」




すると、慌てて剣を収めた金パツ坊やが眉を顰めて俺を咎めた。おっと、確かに此処に来てから随分と時が経ってしまったな。ションベンの戯言は無視するとして。




「済まない。どうやら随分と心配を掛けてしまったみたいだな。しかし、あの見張りはどうした。上手く遣り過ごせたのか」




「いや、ロディ達が見付かりそうになったから、俺が奇襲を仕掛けて倒したよ。他の奴等には、う~ん・・多分見付かってないとは思うけど」




コレは余り期待しない方が良さそうか。まあ例えバレたにせよ、坊やを責める気はサラサラ無い。此処で時間を掛け過ぎた俺にも非は有るからな。しかし無断で待機場所を離れたナヨ雄達の方は・・まあ良いか。下手に咎めたらションベンがブチ切れそうだし。ハァ~糞面倒臭ぇ。




「聞いてくれ。俺がフェルの所に戻らなかったのには訳がある。俺達が探していた貴族の娘なんだが、実はそれらしき子供を偶然此処で見付けたのだ」




「えっ、本当か!?」




「ああ。但し彼女の状態はまあ・・見れば分かるだろう。松明を貸してくれ」




俺は金パツ坊やから松明を受け取ると、後方に横たわるガキの傍に歩み寄った。そして、彼女の姿が松明の灯りに照らされると・・。




「あっ!」




金パツ坊やの驚嘆の声が、ゴミ捨て場の空間に響いた。そして、其の直後。




「退きなさいっ平民っ!・・ぎゃんっ」




物凄い形相で此方に駆け寄ったションベンが、怒声と共に俺に向けて体当たりをカマし・・逆に派手に吹っ飛ばされて地面に転がった。オイオイアホかお前は。そんなピーピー五月蠅いだけのヒヨコの如き貧弱なタックルで、此の俺からテイクダウンを奪える訳無えだろ。




しかし直ぐに跳ね起きたションベンは、眉間に皺を寄せて物凄い眼光で俺をひと睨みした後、地面に横たわるガキの傍に猛然と駆け寄った。次いでその場で屈み込むと、身に纏ったローブを躊躇い無く脱ぎ捨てた。そしてローブをガキの身体に被せると、其の上半身を恐る恐る抱え起こした。そして、




「ごめん。ごめんね。助けに来るのが遅くなってしまって。でも、もう大丈夫だから・・・」




目からポロポロと涙を零しながら、意識の無いガキに向けて謝罪の言葉を口にした。




いや、何処からどう見ても全然大丈夫じゃねえだろ。まあ確かにマジで死に掛けだった先程よりは全然マシだし、俺の犯罪臭半端無い絵面と比べれば、傷だらけの少女を抱き留める姿の見てくれは全然良いんだけどさあ。




俺はピースカ泣きながら謝り続けるションベンと、膝立ちになってガキの手を取る乳白色の様子を若干醒めた目で眺めながら、隣に立つ険しい表情の金パツ坊やに小声で訊ねてみた。




「なあフェル。あの怪我、どうにかなるものだろうか」




俺は自分の足首を切断する身振りをしてから、ガキの足首の怪我を指し示した。




「うん。治療代(かね)はかかるだろうけど、治す事は出来ると思う」




すると金パツ坊やから返って来たのは、予想外の答えだ。え!?マジかよ凄え。俺が信奉する現代医学ですらちょっと無理ぽいと思ってたのに。勿論良い事なんだろうけど、少なからず敗北感を感じて動揺しちまったぜ。




「じゃあ、コッチはどうだ」




俺は今度は髪の毛と、骨折を身振りで示してみた。




「断言は出来ないけど、治療院か神殿に金を積めば恐らく治療は出来る・・と思う」




おおう。そいつは僥倖だ。流石にあのまま禿げ散らかしたんじゃ、余りに可哀想だからな。野郎ならスキンヘッドにすりゃ多少は体裁を整えられるかもだが、若い娘じゃ故郷の寺に出家でもせん限り色々と厳しかろう。もし駄目そうなら金パツ坊や達の隙を見て頭皮に回復魔法を注ぎ込んで毛根を大復活させてあげる腹積りだったのだが、その必要は無いかも知れん。




後気になるのはほぼ全部抜かれてしまった歯についてだが、残念ながら俺の回復魔法じゃ完全な欠損はどうにもならん。とは言え此の世界の人族は成長してからも何度か歯が生え変わるらしいので、恐らくは放置しても問題あるまい。当分はBBAみたいなフガフガ状態だろうが。




てな訳で、単純に怪我が治せるか否かの話であれば、断言は出来ぬまでも恐らくどうにかなりそうだ。が、しかし。其れよりも深刻な問題は。




「フェル。もう一つ訊くが、あの子供は適切な治療を受ける事が出来るだろうか。あの姿を見れば凡その想像は付くだろうが、貴族の娘としての価値はもう・・・」




地球の現代人たる俺にはあまりピンと来ないのだが、此の世界の貴族連中は婚姻相手の処女性を滅茶苦糞重要視するそうな。其れは荒唐無稽な処女信仰とかそういった話では無く、血統を半端無く重んじる貴族社会において、所謂托卵行為を未然に防いで我が子に間違い無く自分の血を受け継がせるというかなり切実な意味合いを孕む。なのでエリスタルでは貴族に対する托卵行為はとんでもない重罪らしく、例え相当に身分の高い貴族でも発覚したら情け容赦無く即刻首チョンパされると聞いた。




其の事を考慮すると、貴族の一員であるあのガキの将来は正に茨の道としか・・。




「格の高い神殿で浄化の儀式を受けられれば何とかなるとは思うけど・・恐らくあの子の立場じゃ難しいだろう」




そう応える金パツ坊やは、相変わらず険しい表情のままだ。




「せめて治療だけでもどうにかならないだろうか」




「そうだな。あの家はカピーダスと繋がりが有るから、家格とは不相応に裕福ではある。それに貴族としての体面もあるだろうし、状況次第で治療くらいなら受けさせてあげられるかも・・・彼女とは知らぬ仲じゃ無いし、俺からもどうにか彼女の父上に働き掛けてみよう」




「そうか。ならば、後の事はフェルに任せて良いか」




「ああ。経過が気になるのであれば、追って君に報せよう」




と言う訳で、一先ずあのガキの処遇は金パツ坊やに委ねる事にした。流石にアソコまでズタボロにされた状態を目の当たりにしてしまうと深く同情を禁じ得ないので、明るい報せを受け取る事が出来れば良いのだが。





さて。




既に俺の聴覚は、此方に近付きつつある複数の気配を捉えている。今度は金パツ坊や達の時と違い、殆ど迷いの無い足音だ。




「おいフェル。悪い知らせだ。もう直ぐ此処に来るぞ。招かざる客て奴だ」




俺は改めて坊やの方へ向き直ると、親指でゴミ捨て場の出入口を指し示した。






「おおおいっ!居やがったぞおぉ!」




男の銅鑼声が地下通路に響き渡ると、ゴミ捨て場の出入口にワラワラと武装した男達が姿を現した。その見るからに薄汚れた身なりに統一感は一切無く、手にした得物の種類も十人十色だ。まあ統一感の無さは俺らも他人の事は言えないが。




「良く見りゃコイツ等揃って餓鬼じゃねえか。手前等よくも舐めた真似してくれたな!ブチ殺・・・ケハアッ!おいっ!女だ!女が居るぞおおっ!」




「フオオオッ!本当に女じゃねえか!」




「しかもクソ美味そう。死ぬまで俺がしゃぶり尽くしてやるぜぇ!」




「あぁ!?手前ぶっ殺すぞ。あの雌は俺のモンだ!今決めた」




「ヒッ!?」




ゴミ捨て場に現れたゴロツキ共は、ローブを脱いだションベンの姿を見るなり大盛り上がりだ。松明に照らされた奴等の凶相と其の目から、粘っこい視線がギラギラと放たれる。つかションベンよ。お前は今更ビビッてんじゃねえよ。良い加減腹括れや。




「なあ、アンタに一つ聞いても良いかな」




俺は隣で武器を構える金パツ坊やを置いて数歩前に進み出ると、随分と機嫌が良さそうな様子を見計らって先頭の男に話し掛けてみた。




「あぁ?何だクソ餓鬼」




「アンタ等少し前に、貴族のガキを捕まえたろ。俺達と比べてもまだまだガキだったと思うんだが、何であんな事をしたんだ?」




話を聞いた男は一瞬呆けた様なツラをしたが、直ぐに顔をぐしゃりと歪ませて満面で破願した。とても粘っこい、実にムカ付く厭らしい笑いだ。




「ああ、あの餓鬼か。使えなくなる迄随分と楽しませて貰ったぜぇ。此れがまた具合が良くてなぁ。なぁお前等!」




「ハハハハハッ!」




するとゴロツキ共は頼んでも無いのにあのガキを集団で犯し、暴行を加える有様を事細かく、実に楽しそうに語り始めた。




ハア~ッ、聞くに堪えんな。心がス~ッと底冷えしてゆくのを感じるぜ。




俺は不快にも程がある雑音を即座に聞き流すと、忍び足で数歩下がって金パツ坊やの耳元で囁いた。




「なあ、奴等は捕まったらどうなるのだ」




「あ、ああ。処理の仕方は衛士か裁判官の裁量に拠るだろうな」




お、おう。既に処刑する事は前提なのかよ。てかお前凄え汗かいてんな。よもやお前もションベンと同じくビビってんのか。俺の目から見ても腕は随分と立つのに、もしかして未だ人を殺した事が無いとか?成る程、お前って見るからに良い家柄の坊ちゃんだもんな。先程格好付けて見張りを倒したとか言ってたのも、実はブラフだったり。充分に有り得る話だ。まあ俺も未だ一人しか殺ってないし、似たようなモンだ。気合入れてこうぜ。




「じゃあ俺がアイツ等を殺ったとして、何らかの罪に問われたりするのか?」




「はぁ?君は一体何を言ってるんだ」




「良いから答えろ」




「い、いや。そんな事はまず有り得ないだろう」




良し。言質は取った。




暗くて坊や達には見えなかったろうが、此処のゴミ山には俺が視認出来ただけでも腐乱した死体が幾つか転がっていた。しかもその中には明らかに小柄な体躯のモノも見受けられた。どうやら此奴等、余罪もタップリとあるみたいだな。




俺は餓鬼が嫌いだ。それに餓鬼が無条件で庇護される存在だなんて全く思って無い。なので俺に舐めた真似する奴は容赦無くブン殴るし、命を狙う輩ともなればぶった斬る事も厭わないだろう。




但し、其れは飽く迄此のクソッタレな異界で暗黒面に染まり切った糞餓鬼に対しての話だ。其処らに居る普通の餓鬼に対しては別に悪感情なんて無いし、もし目の前で悪党に酷い事をされたら、俺とて真っ当な人として普通に腹が立つだろうさ。




そして拉致されて滅茶苦茶されたあの貴族の娘は、そんな普通の餓鬼の一人なんだろう。それに恐らくはゴミ山に棄てられた、あの小さな死体も。目の前のゴロツキ共は、俺の前で明確に一線を踏み越えた。




俺はバカ笑いするゴロツキ共を眺めながら、丸太剣βを音も無く引き抜いた。





貴様等、一人残らず皆殺しだ。

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