本幕 其ノ拾
電撃大賞長編小説部門に投稿した小説です。
江戸時代と妖怪をイメージしたものを書いてみました。
江戸時代のことを色々と調べていたのですが、はっきりとしたことはなかなか把握できなかったので、その大部分はイメージとなっています。
今後の参考にしますので、感想をいただければとても嬉しいです。
その女は声にならぬ悲鳴を上げ、襤褸布団の中で大きく体を仰け反らせた。
獰猛な獣に骨肉を喰い千切られたかのような苦痛が全身を冒す。正気を逸してしまえば、せめて気絶できれば楽になれると思うも、その慈悲が訪れる気配はなく、ざんばらな白髪を掻き毟り、頭を布団に何度も叩きつけた。
激情に翻弄されたとはいえ、下してしまった思慮浅い決断が悔やまれてならない。
最初の一歩を踏み出せばもう止まれず、そして後戻りできないと知ってさえいればこんな有様にならなかったと言い訳をせずにいられないが、それを重ねたところで事態は一片たりとも好転しない。
分不相応なものなど望んでなどいなかったと思う。
しかしそれは端から見れば、世間知らずと嗤われるほど甘いものだったのか。
そのようなものを欲してしまった罰がこれなのか。
斬レ
どす黒い瘴気が耳元で甘く囁いた。
前門には破滅が、そして後門には死が待ち構えており、どちらも嘲笑しながら早く来いと手招きしている。いかに頭を悩まし、泣き、喚き、平伏して赦罪を請おうにも、新たな道が開けるという可能性にすら触れられないのだ。
襤褸蒲団の中で長刀が納められた鞘を強く抱え込み、女は嗚咽を噛み殺した。
斬レ
長刀は鞘の中で、かたかたと音を立てて嗤った。




