表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/11

第5話「面接」

第5話です。


今回は、玲奈とレオスが初めて仕事を探しに行きます。

派手な展開はありませんが、この作品らしい、ゆるくて少し不思議な日常を楽しんでいただければ嬉しいです。


よろしくお願いいたします。


 健太が、スマホで、調べた。


「この近く、個人経営で、コンビニみたいに、やってる店、ありますよ。『よろずや・タカハシ』って」


「よろずや」


「何でも、売ってる、小さい店です。コンビニより、もっと、小さい感じの」


「行ってみよう」


「バイト、募集してるか、わからないですよ」


「行ってみよう」


「……まあ、行ってみましょか」


 四人は、歩いた。商店街の、奥。古いシャッターが、並んでいる中に、一軒だけ、明かりが、ついていた。


 手書きの看板。「よろずや・タカハシ」。窓に、「アルバイト急募」と、貼ってあった。


「急募」


 玲奈が、言った。


「急いでるんや」


「運がいいですね」


「運やなくて、縁やと、思う」


「同じじゃないですか」


「ちゃうねん」


 店に、入った。


 古い。狭い。棚に、缶詰と、レトルトと、お菓子と、日用品が、混在していた。レジの前に、六十代くらいの、男性が、立っていた。店長だった。


「いらっしゃい」


「あの、アルバイトの、件で」


「ああ、来てくれたの。助かるわあ。最近、人が、来なくてねえ」


 店長が、言った。話し方が、ゆっくりだった。


「うちはね、コンビニとは、違うのよ。コンビニっていうのは、効率のために、作られた場所でしょ。でもね、うちは、違う。うちはね、人のために、ある場所なの。お客さんが、来た時に、ちょっと、話せる場所。それが、よろずや、だと、思ってるのよ、私は」


「……素敵な、考えですね」


 玲奈が、言った。


「でしょ。だからね、うちのアルバイトはね、レジを、打てるだけじゃ、ダメなの。お客さんと、話せないと。それが、うちの、条件なの」


「わかりました」


「で、君は、どんな人?」


「玲奈、といいます。コンビニで、働いてたことが、あって。また、やりたくて」


「コンビニ。いつ頃?」


「二十年くらい、前に」


「二十年。それは、ベテランだ」


「まあ、そうですね」


「で、この体に、もう一人、いるの?」


 店長が、レオスを、じっと、見て、言った。


「……なんで、わかるんですか」


「雰囲気。なんか、二人分の、気配がするから」


「……レオスと、いいます。宇宙人です」


「宇宙人。ふうん」


 店長は、特に、驚かなかった。


「宇宙人でも、幽霊でも、いいよ。うちは。ちゃんと、レジ、打てる?」


「計算は、得意です」


「じゃあ、試してみて。千四百二十八円の、お会計で、お客さんが、二千円、出したら」


「五百七十二円です」


「速いね」


「三千円、出したら」


「千五百七十二円です」


「千円札と、五百円玉と、小銭を、混ぜて、二千三百円、出してきたら」


「八百七十二円です」


「……採用」


「早い」


 レオスが、言った。


「だって、計算、速いじゃない。最近の子、計算、できないから。電卓ないと、お釣り、出せない子、多くて」


「地球人は、数値処理が、苦手なんですよね」


「そうそう。だから、ありがたいわ。で、もう一個、聞いていい?」


「何でしょう」


「なんで、この星に、来たの」


「移住先の、調査です。母星が、滅びそうなので」


「大変だねえ。じゃあ、急がないと、ね」


「そうなんですが、なかなか、進まなくて」


「なんで」


「いろいろ、ありまして」


「まあ、急いでも、いいことばかりじゃないから。ゆっくり、やったら、いいよ」


 レオスは、何も、言えなかった。


 任務。急がなければ、ならない、任務。なのに、ゆっくり、やったら、いい、と言われた。


 その言葉が、なぜか、少し、刺さった。


「明日から、来れる?」


「来れます」


「よかった。じゃあ、よろしくね」


 店長が、にこっと、笑った。どこか、のんびりしていた。


「あの」


 玲奈が、言った。


「なんで、書類なし、でも、いいんですか。普通、必要やと、思うんですけど」


「そうだねえ」


 店長が、少し、考えた。


「私はね、人を、信じたいの。書類で、信じるんじゃなくて。会って、話して、信じる。それだけ」


「でも、それ、騙されることも、あるんじゃないですか」


「あるよ。あった。昔」


「怖くないですか」


「怖いよ。でもね、書類で、信じた人に、裏切られたことも、あるから。どっちも、変わらないんだよね、結局」


 玲奈は、しばらく、黙った。


「……ええ人ですね、あなた」


「どうかな。めんどくさい人間だよ、私は。家族にも、そう言われてる」


「めんどくさくても、ええ人は、おる」


「君も、そうじゃないの」


「あたしは、めんどくさくない、と思うけど」


「そう? 幽霊が、コンビニで、働きたいっていうのは、めんどくさいと思うけど」


「……確かに」


 玲奈が、笑った。


「じゃあ、明日から、よろしく」


「よろしくお願いします」


 店を、出た。


 美咲が、健太に、小声で、言った。


「あの店長、なんか、変やったな」


「変やったね」


「悪い人じゃ、ないけど」


「なんか、哲学者みたいな」


「よろずや、の、哲学者」


「ええ言葉」


 玲奈が、言った。


「やった。バイト、できる」


「よかったですね」


「健太、ありがとな。調べてくれて」


「全然」


「明日から、また、働ける。二十年ぶりに、また、働ける」


 玲奈の声が、少し、弾んでいた。


「なあ、レオス」


「ん?」


「あんたも、働くことに、なったな」


「計算要員として、使われてる、だけだよ」


「働いてるやん」


「……まあ、そうだね」


「嫌?」


「……嫌じゃない」


「ええやん」


「ええ、とは、言ってないよ」


「顔が、ちょっと、嬉しそうやで」


「この顔は、君の顔だよ。君が、嬉しそうに、してるから、そう、見えてるだけ」


「一緒やん」


「違うよ」


「一緒やって」


 帰り道。商店街を、抜けた。


「あ」


 玲奈が、言った。


「ゲーセン、ある」


「ゲームセンターですね」


「UFOキャッチャー。懐かしい。二十年前も、あったわ」


「今も、ありますよ」


「変わらんなあ、ゲーセンは」


「まあ、基本は、変わらないですかね」


「入ってもいい?」


「え、今?」


「ちょっとだけ」


 四人は、ゲームセンターに、入った。


 UFOキャッチャーが、並んでいた。ぬいぐるみ。お菓子。雑貨。


「懐かしい。これ、よく、やってた。全然、取れへんかったけど」


「今も、取れない人、多いですよ」


「そうなの? 進化してないんや」


「あれは、取れにくいように、設定されてますから」


「そっか。あたしが、下手なんやなくて、仕組み上、取れへんのか」


「まあ、そうですね」


「なんか、スッキリした」


「二十年間、自分が、下手だと、思ってたの?」


「思ってた」


 玲奈が、機械の前に、立った。


「やってみよ」


「お金、いりますよ」


「あ。そっか」


「百円です」


 健太が、百円を、出した。


「ええの?」


「全然。一回くらい」


「ありがとな」


 玲奈が、操作した。アームが、動く。ぬいぐるみに、近づく。つかむ。落とす。


「あー」


「そんなもんですよ」


「あと、一回」


「また、百円いるよ」


「……まあ、いいか」


 レオスが、言った。


「その、アームの、角度と、対象物の、重心から、計算すると、この機械は、この力では、取れないようになってる」


「わかってても、やりたいんやけど」


「非効率だよ」


「非効率でも、やりたいねん」


「……なんで」


「楽しいから」


 レオスは、黙った。


 楽しいから、やる。非効率でも。取れなくても。それが、地球人の、やり方なのか。


「仕事帰りに、よく、寄ってたわ。クイズ!ヘキサゴンII、やってた頃かな」


「……それ、いつ頃ですか」


「知らんの? 島田紳助の。おバカキャラ、いっぱい出てた」


「……生まれてないと思います、俺」


 健太が、言った。


「え」


「クイズ!ヘキサゴンII、二〇〇六年とか、ですよね」


「そんくらいかな」


「俺、生まれてないです。その頃」


 玲奈が、止まった。


「……あんた、何歳」


「二十二です」


「……そっか」


 玲奈が、少し、黙った。


「私が、死んだ時、あんた、まだ、生まれてへんかったんや」


「そうですね」


「変な感じやな。なんか」


「そうですね」


「でも、今、一緒に、歩いてるな」


「そうですね」


 また、歩き始めた。


「レオス」


「ん?」


「クイズ!ヘキサゴンII、知ってる?」


「データにはある。なぜ、知識量の少ない出演者を、笑う番組なのか、理解できないけど」


「わからんでええ」


「また、わからんでええ、だよ」


「うん」


「……まあ、いいんだけど」



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


今回は「面接」と「働くこと」がテーマでした。


宇宙人と幽霊という普通ならあり得ない設定ですが、本人たちは意外と真面目に仕事を探しています。


これから始まる「よろずや」での日常は、この作品の中心になっていきます。


もし少しでも面白いと思っていただけましたら、

ブックマーク・評価・感想をいただけると、とても励みになります。


次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ