第5話「面接」
第5話です。
今回は、玲奈とレオスが初めて仕事を探しに行きます。
派手な展開はありませんが、この作品らしい、ゆるくて少し不思議な日常を楽しんでいただければ嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
健太が、スマホで、調べた。
「この近く、個人経営で、コンビニみたいに、やってる店、ありますよ。『よろずや・タカハシ』って」
「よろずや」
「何でも、売ってる、小さい店です。コンビニより、もっと、小さい感じの」
「行ってみよう」
「バイト、募集してるか、わからないですよ」
「行ってみよう」
「……まあ、行ってみましょか」
四人は、歩いた。商店街の、奥。古いシャッターが、並んでいる中に、一軒だけ、明かりが、ついていた。
手書きの看板。「よろずや・タカハシ」。窓に、「アルバイト急募」と、貼ってあった。
「急募」
玲奈が、言った。
「急いでるんや」
「運がいいですね」
「運やなくて、縁やと、思う」
「同じじゃないですか」
「ちゃうねん」
店に、入った。
古い。狭い。棚に、缶詰と、レトルトと、お菓子と、日用品が、混在していた。レジの前に、六十代くらいの、男性が、立っていた。店長だった。
「いらっしゃい」
「あの、アルバイトの、件で」
「ああ、来てくれたの。助かるわあ。最近、人が、来なくてねえ」
店長が、言った。話し方が、ゆっくりだった。
「うちはね、コンビニとは、違うのよ。コンビニっていうのは、効率のために、作られた場所でしょ。でもね、うちは、違う。うちはね、人のために、ある場所なの。お客さんが、来た時に、ちょっと、話せる場所。それが、よろずや、だと、思ってるのよ、私は」
「……素敵な、考えですね」
玲奈が、言った。
「でしょ。だからね、うちのアルバイトはね、レジを、打てるだけじゃ、ダメなの。お客さんと、話せないと。それが、うちの、条件なの」
「わかりました」
「で、君は、どんな人?」
「玲奈、といいます。コンビニで、働いてたことが、あって。また、やりたくて」
「コンビニ。いつ頃?」
「二十年くらい、前に」
「二十年。それは、ベテランだ」
「まあ、そうですね」
「で、この体に、もう一人、いるの?」
店長が、レオスを、じっと、見て、言った。
「……なんで、わかるんですか」
「雰囲気。なんか、二人分の、気配がするから」
「……レオスと、いいます。宇宙人です」
「宇宙人。ふうん」
店長は、特に、驚かなかった。
「宇宙人でも、幽霊でも、いいよ。うちは。ちゃんと、レジ、打てる?」
「計算は、得意です」
「じゃあ、試してみて。千四百二十八円の、お会計で、お客さんが、二千円、出したら」
「五百七十二円です」
「速いね」
「三千円、出したら」
「千五百七十二円です」
「千円札と、五百円玉と、小銭を、混ぜて、二千三百円、出してきたら」
「八百七十二円です」
「……採用」
「早い」
レオスが、言った。
「だって、計算、速いじゃない。最近の子、計算、できないから。電卓ないと、お釣り、出せない子、多くて」
「地球人は、数値処理が、苦手なんですよね」
「そうそう。だから、ありがたいわ。で、もう一個、聞いていい?」
「何でしょう」
「なんで、この星に、来たの」
「移住先の、調査です。母星が、滅びそうなので」
「大変だねえ。じゃあ、急がないと、ね」
「そうなんですが、なかなか、進まなくて」
「なんで」
「いろいろ、ありまして」
「まあ、急いでも、いいことばかりじゃないから。ゆっくり、やったら、いいよ」
レオスは、何も、言えなかった。
任務。急がなければ、ならない、任務。なのに、ゆっくり、やったら、いい、と言われた。
その言葉が、なぜか、少し、刺さった。
「明日から、来れる?」
「来れます」
「よかった。じゃあ、よろしくね」
店長が、にこっと、笑った。どこか、のんびりしていた。
「あの」
玲奈が、言った。
「なんで、書類なし、でも、いいんですか。普通、必要やと、思うんですけど」
「そうだねえ」
店長が、少し、考えた。
「私はね、人を、信じたいの。書類で、信じるんじゃなくて。会って、話して、信じる。それだけ」
「でも、それ、騙されることも、あるんじゃないですか」
「あるよ。あった。昔」
「怖くないですか」
「怖いよ。でもね、書類で、信じた人に、裏切られたことも、あるから。どっちも、変わらないんだよね、結局」
玲奈は、しばらく、黙った。
「……ええ人ですね、あなた」
「どうかな。めんどくさい人間だよ、私は。家族にも、そう言われてる」
「めんどくさくても、ええ人は、おる」
「君も、そうじゃないの」
「あたしは、めんどくさくない、と思うけど」
「そう? 幽霊が、コンビニで、働きたいっていうのは、めんどくさいと思うけど」
「……確かに」
玲奈が、笑った。
「じゃあ、明日から、よろしく」
「よろしくお願いします」
店を、出た。
美咲が、健太に、小声で、言った。
「あの店長、なんか、変やったな」
「変やったね」
「悪い人じゃ、ないけど」
「なんか、哲学者みたいな」
「よろずや、の、哲学者」
「ええ言葉」
玲奈が、言った。
「やった。バイト、できる」
「よかったですね」
「健太、ありがとな。調べてくれて」
「全然」
「明日から、また、働ける。二十年ぶりに、また、働ける」
玲奈の声が、少し、弾んでいた。
「なあ、レオス」
「ん?」
「あんたも、働くことに、なったな」
「計算要員として、使われてる、だけだよ」
「働いてるやん」
「……まあ、そうだね」
「嫌?」
「……嫌じゃない」
「ええやん」
「ええ、とは、言ってないよ」
「顔が、ちょっと、嬉しそうやで」
「この顔は、君の顔だよ。君が、嬉しそうに、してるから、そう、見えてるだけ」
「一緒やん」
「違うよ」
「一緒やって」
帰り道。商店街を、抜けた。
「あ」
玲奈が、言った。
「ゲーセン、ある」
「ゲームセンターですね」
「UFOキャッチャー。懐かしい。二十年前も、あったわ」
「今も、ありますよ」
「変わらんなあ、ゲーセンは」
「まあ、基本は、変わらないですかね」
「入ってもいい?」
「え、今?」
「ちょっとだけ」
四人は、ゲームセンターに、入った。
UFOキャッチャーが、並んでいた。ぬいぐるみ。お菓子。雑貨。
「懐かしい。これ、よく、やってた。全然、取れへんかったけど」
「今も、取れない人、多いですよ」
「そうなの? 進化してないんや」
「あれは、取れにくいように、設定されてますから」
「そっか。あたしが、下手なんやなくて、仕組み上、取れへんのか」
「まあ、そうですね」
「なんか、スッキリした」
「二十年間、自分が、下手だと、思ってたの?」
「思ってた」
玲奈が、機械の前に、立った。
「やってみよ」
「お金、いりますよ」
「あ。そっか」
「百円です」
健太が、百円を、出した。
「ええの?」
「全然。一回くらい」
「ありがとな」
玲奈が、操作した。アームが、動く。ぬいぐるみに、近づく。つかむ。落とす。
「あー」
「そんなもんですよ」
「あと、一回」
「また、百円いるよ」
「……まあ、いいか」
レオスが、言った。
「その、アームの、角度と、対象物の、重心から、計算すると、この機械は、この力では、取れないようになってる」
「わかってても、やりたいんやけど」
「非効率だよ」
「非効率でも、やりたいねん」
「……なんで」
「楽しいから」
レオスは、黙った。
楽しいから、やる。非効率でも。取れなくても。それが、地球人の、やり方なのか。
「仕事帰りに、よく、寄ってたわ。クイズ!ヘキサゴンII、やってた頃かな」
「……それ、いつ頃ですか」
「知らんの? 島田紳助の。おバカキャラ、いっぱい出てた」
「……生まれてないと思います、俺」
健太が、言った。
「え」
「クイズ!ヘキサゴンII、二〇〇六年とか、ですよね」
「そんくらいかな」
「俺、生まれてないです。その頃」
玲奈が、止まった。
「……あんた、何歳」
「二十二です」
「……そっか」
玲奈が、少し、黙った。
「私が、死んだ時、あんた、まだ、生まれてへんかったんや」
「そうですね」
「変な感じやな。なんか」
「そうですね」
「でも、今、一緒に、歩いてるな」
「そうですね」
また、歩き始めた。
「レオス」
「ん?」
「クイズ!ヘキサゴンII、知ってる?」
「データにはある。なぜ、知識量の少ない出演者を、笑う番組なのか、理解できないけど」
「わからんでええ」
「また、わからんでええ、だよ」
「うん」
「……まあ、いいんだけど」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回は「面接」と「働くこと」がテーマでした。
宇宙人と幽霊という普通ならあり得ない設定ですが、本人たちは意外と真面目に仕事を探しています。
これから始まる「よろずや」での日常は、この作品の中心になっていきます。
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次回もよろしくお願いいたします。




