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第35話「富田さんからの連絡」

第35話「富田さんからの連絡」です。


そして今回で、

第2部「日常編」が完結します。


玲奈とレオスが出会い、

よろずやで働き、

健太や美咲、そしてたくさんの人たちと出会った一年。


笑って、食べて、働いて。

何気ない毎日を重ねてきました。


でも、玲奈にはまだ、

二十年前の「死」という問題が残っています。


そして今回、

富田さんから届いた一本の連絡。


玲奈を知る人物が、

「会いたい」と言っている。


止まっていた調査が、

再び動き始めます。


ただ、以前とは違います。


玲奈には、もう一人じゃない。


「前は一人やった。今は、みんながいるから」


そして玲奈自身が、

これからを「第三章」と呼び始めます。


生きていた頃。

山にいた二十年間。

そして、これから。


第3部「記憶編」。


玲奈が忘れていた二十年前の記憶が、

少しずつ動き始めます。


ここから物語は、

日常の中に眠っていた過去へと進んでいきます。


第2部の最後まで、

どうぞお楽しみください。

 一月。


 よろずやの、日常が、また、始まっていた。


 年が変わっても、店は、変わらなかった。おでんが、まだ、続いていた。富田さんが、また、来た。田村が、品出しをしていた。松本が、帳簿を、更新していた。草野が、レジを、打っていた。


 変わらなかった。


 それが、よかった。


「なんか、年が変わっても、一緒やな」


 玲奈が、言った。


「一緒だよ。変わらないよ」


「変わらんの、ええな」


「ええね」


「去年と、今年の、境目が、よくわからんな」


「どういう意味?」


「なんか、大晦日も、元旦も、ここにいて。そのまま、一月になってる感じがして。去年と今年の、切れ目が、ない感じがして」


「それは、いいことじゃないか。続いてるんだから」


「続いてる、か。そうやな」


 お昼。


 富田さんが、来た。


「あら、明けましておめでとう」


「おめでとうございます」


「今年も、よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 富田さんが、お茶を、買った。それから、少し、迷うように、言った。


「玲奈ちゃん、一個、聞いていいかしら」


「なんでも」


「あの、去年、玲奈ちゃんの、昔のことを、調べてた、って言ってたでしょ」


「はい」


「最近、また、話を聞いたのよ」


「話?」


「うん。私の知り合いで、二十年前、あの山の近くに住んでた人がいて。その人から、ちょっと、話を聞いたんだけど」


 玲奈が、少し、止まった。


「どんな話ですか」


「詳しくは、今日は言えないんだけど。あなたのことを、知ってる人が、もう一人、いるって、わかって。その人が、会いたいって言ってるの」


「会いたい?」


「うん。あなたを、知ってる人が、あなたに、伝えたいことがある、って」


 玲奈は、少し、黙った。


「……どんな人ですか」


「それが、詳しくは、まだ、聞けてなくて。でも、悪い人じゃないと思う。私の、知り合いの、知り合いだから」


「そっか」


「どうする? 会いたければ、セッティングするけど」


 玲奈が、考えた。


「少し、考えさせてください」


「もちろん。急がなくていいからね」


「ありがとうございます、富田さん」


「いいえ。あなたのことが、心配だから」


 富田さんが、出ていった。


 レオスが、頭の中で、言った。


「玲奈」


「ん?」


「聞いてた?」


「聞いてた」


「どう思う?」


「……また、動き始めるのかな、と思って」


「動き始める、って、調査が?」


「うん。一回、止めたけど。また、動くかもしれない」


「怖い?」


「少し。でも」


「でも?」


「富田さんが、持ってきてくれた話やから。信じていいかな、って思って」


「富田さんを、信じてるから」


「そう。あの人、あたしのこと、ちゃんと、思ってくれてる人やから」


「……そうだね」


「会ってみようか、その人に」


「……いいと思う」


「でも、みんなと、一緒に」


「当然でしょ」


「当然やな。一人では、行かない」


 夜、アパートで。


「富田さんから、連絡があって」


 玲奈が、健太と美咲に、話した。


「新しい情報が、あるって」


「ほんまに?」


 健太が、前のめりに、なった。


「うん。あたしのことを、知ってる人が、もう一人、いるらしくて。会いたいって言ってるって」


「それ、誰ですか」


「わからん。富田さんの、知り合いの、知り合いらしくて」


「……会いますか」


「会おうと思う。怖いけど」


「一緒に行きますよ」


「うん。一緒に行って」


「もちろんです」


 美咲が、少し、考えて、言った。


「一回、止めた調査が、また、動くな」


「そうやな」


「……それでいいと思う。玲奈が、いいなら」


「いい。知りたいから。でも、今の生活は、変えたくない」


「変えなくていいよ」


「そうやろ。調べながら、こたつで、みかん食べながら、よろずやでおでん食べながら、同じ感じで、やっていけたら、ええな」


「できると思いますよ」


「できるかな」


「できます。俺が、保証します」


「健太、ええこと言うな」


「たまには」


「たまに、って、つけんでいいって」


「……ついつい」


 玲奈が、笑った。


「ありがとな、みんな。また、お世話になります」


「お世話になります、じゃないですよ」


「じゃあ、何?」


「……よろしくお願いします、でしょ」


「どう違うの」


「お世話になります、は、受け身すぎる。よろしくお願いします、は、一緒にやる感じがある」


「……健太、細かいな」


「細かいですか」


「でも、まあ、そっちの方が、ええな」


「でしょ」


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 レオスが、頭の中で、言った。


「玲奈」


「ん?」


「よろしくお願いします」


「あんたも」


「……一緒に、やる感じがある、方が、いいから」


「成長やで」


「……成長したかもしれない」


「したって」


「……うん」


 窓の外、冬の夜が、続いていた。


 でも、明日から、また、動き始める。


 調査が、再開される。


 玲奈の、死の真相に、近づいていく。


 それが、怖くもあり、でも、待ち遠しくもあった。


---


【第2部・日常編、了】

(第36話・記憶編へ続く)

 翌日。


「なあ、みんな」


 玲奈が、言った。


「富田さんの話、もう少し、聞いてきていい?」


「聞いてきていいですよ」


「今度、富田さんが来た時に、詳しく聞いて。それから、会うかどうか、決める」


「いいですね。まず、情報を集めてから」


「うん。前みたいに、急いで動かなくていいかな、と思って。ゆっくり、でも、ちゃんと、やりたい」


「それが、正しいと思います」


「健太、また、頼むな」


「もちろんです。採用試験の、勉強もしながら、ですけど」


「両方、できるよ」


「できますかね」


「できる。あんたなら」


「……ありがとうございます」


 レオスが、頭の中で、言った。


「玲奈」


「ん?」


「また、動くんだね」


「そうやな」


「怖い?」


「少し。でも、前より、怖くない」


「なんで」


「前は、一人やった。今は、みんながいるから」


「……そっか」


「あんたも、いてくれるやろ」


「いる。ずっと、いる」


「ずっと、か」


「……できるだけ、ずっと」


「できるだけ、やな」


「……ごめん。確信が、持てないから」


「ええねん。できるだけ、でええ。できるだけ、いてくれたら、十分やから」


「……わかった。できるだけ、いる」


「うん。それで、ええ」


 玲奈が、窓の外を、見た。


 冬の、空。青かった。


「なんか、第三章が、始まる感じがするな」


「第三章?」


「人生の、第三章。一章が、生きてた時。二章が、山にいた二十年。三章が、これから」


「これから、が、第三章か」


「うん。なんか、ええな、それ」


「ええね」


「第三章は、どんな章になるかな」


「……なってみないと、わからないよ」


「そうやな。でも、なんか、ええ章になりそうな、気がする」


「なると思う」


「なると思う、か。珍しいな、あんたが、そういうこと言うの」


「……思ったから、言った」


「それでええ。思ったことを、言えるようになったんやな」


「……少しだけ」


「十分やで。じゃあ、第三章、始めよか」


「始めよう」


「一緒に」


「一緒に」


---


【第2部・日常編、了】

(第36話・記憶編へ続く)



 その夜、こたつで。


「なあ」


 玲奈が、言った。


「ん?」


「最近、毎日、ええな、って思いながら、寝てる」


「ええな、って?」


「今日も、ええ一日やった、って。そう思いながら、眠れるのが、ええなって」


「そっか」


「あんたは、そういうこと、思う?」


「……最近、少し、思う」


「何が、ええの?」


「……わからないけど。なんか、ある。ええな、っていう感覚が」


「それでええ。わからんでも、感じてたら、ええから」


「……うん」


「おやすみ、レオス」


「おやすみ」



第35話「富田さんからの連絡」、

そして第2部「日常編」が終了しました。


ここまで読んでくださった皆さま、

本当にありがとうございます。


第2部では、

玲奈とレオスの「日常」を中心に描いてきました。


コンビニ。

よろずや。

おでん。

こたつ。

みかん。

ケーキ。

年越しそば。

初詣。


大きな事件が起きなくても、

一緒に過ごす時間が積み重なっていく。


その中で、

レオスは少しずつ変わっていきました。


「うまい」


から始まり、


「楽しかった」


「ええと思う」


「一緒にいたい」


そして今では、


「一緒にやる感じがある方が、いい」


と言えるようになりました。


最初は、

地球を「調査対象」として見ていた宇宙人。


それが今では、

この場所での生活そのものを

大切にするようになっています。


そして玲奈も変わりました。


二十年前の死から目を背けるのではなく、

自分から過去に向き合おうとするようになった。


それでも、

「今の生活は変えたくない」


と言える。


過去を知ることと、

今を大切にすること。


その両方を選ぼうとしているのだと思います。


そして今回、

物語は大きく動き始めます。


玲奈を知る人物。


二十年前を知る人物。


その人物が、

玲奈に伝えたいことがある。


一体、誰なのか。


何を知っているのか。


そして玲奈が忘れている、

二十年前の出来事とは何なのか。


第3部「記憶編」では、

これまで少しずつ出てきた

玲奈の過去に踏み込んでいきます。


もちろん、

よろずやでの日常も続きます。


こたつも、

おでんも、

みんなとの時間も。


その日常の中に、

少しずつ過去が入り込んできます。


第2部が「今を生きる話」なら、


第3部は、

「過去を知って、これからを選ぶ話」。


そんな章にしていきたいと思います。


玲奈の第三章が、

ここから始まります。

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