第33話「大晦日」
第33話「大晦日」です。
大晦日といえば、年越しそば。
紅白。
カウントダウン。
そして、「来年もよろしく」。
人間にとっては毎年やってくる、
ごく普通の年越しです。
ところが今回は、
宇宙人と幽霊がいる。
「なぜ紅と白なんですか?」
「なぜ縁起がいいんですか?」
「そもそも福って何ですか?」
大晦日にまで理屈をこねるレオス。
一方の玲奈は、
二十年ぶりに誰かと年を越します。
笑って、
食べて、
話して、
「来年も一緒にいたい」と言える。
そんな四人の大晦日。
そして最後には、
一年の始まりを告げる朝日が待っています。
今年最後の一話、
どうぞゆっくりお楽しみください。
大晦日。
よろずやに、年越しそばが、出た。
「いらっしゃいませ。今年も、ありがとうございました」
玲奈が、言った。
「こちらこそ」
富田さんが、来た。
「年越しそば、いいわね。毎年、コンビニで買ってたけど、ここで食べようかしら」
「どうぞ、どうぞ」
「ここで食べれるの?」
「テーブル、一個だけやけど。どうぞ、座ってください」
「ありがとう」
富田さんが、座った。そばを、食べながら、言った。
「今年、ここに来てよかったわ」
「そうですか」
「うん。玲奈ちゃんに、また会えたし。松本くんも、草野くんも、田村くんも、みんな、いい子やし」
「ええ子ばかりですよね、ほんまに」
「玲奈ちゃんが、集めてくるんやろうけど」
「集めてないですよ」
「集めてるって。人を、引き付けるから」
「富田さんも、よく言いますね、それ」
「だって、本当のことやもん」
そばの、湯気が、上がっていた。
玲奈が、見ていた。
「富田さん」
「ん?」
「来年も、来てください」
「来るよ、もちろん」
「毎年、来てください」
「来るわよ」
「毎年、来てくれたら、嬉しいです」
「……玲奈ちゃん」
「ん?」
「あなたも、来年も、ここにいてね」
「……います。いるつもりです」
「いるつもり、か」
「幽霊やから、確信は、持てないけど」
「まあ、そうね。でも、いてほしいわ」
「いたいです、あたしも」
夜。
よろずやが、閉まった。
五人と、店長で、大晦日を、過ごした。草野も、田村も、松本も、来てくれた。
テレビで、紅白が、流れていた。
「これ、紅白?」
玲奈が、聞いた。
「そうですよ。毎年、大晦日に、やってますよ」
「知ってる。でも、二十年ぶりやから。なんか、変わった?」
「変わりましたよ。出てる人とか、ルールとか」
「そっか。でも、雰囲気は、一緒やな」
「一緒ですね」
「よかった。変わってたら、淋しかったから」
「変わらないものも、ありますよ」
「ええな、それ」
レオスが、テレビを、見ていた。
「これ、なぜ、紅と、白に、分かれてるの」
「伝統です」
「伝統って、最初に、誰かが、決めたんでしょ。なぜ、紅と、白なの」
「なんか、めでたい色、らしいですよ」
「めでたい色、って、意味は、何」
「縁起がいいって感じで」
「縁起、って、何」
「なんか……福を呼ぶ、みたいな」
「福って、何」
「ええことが、起きること」
「なぜ、色で、福が、決まるの」
「レオス、そこから、考えるんや」
「……大晦日は、そういう話を、するものじゃないの?」
「大晦日は、ゆっくりするねん」
「ゆっくり、か。難しいな」
「ゆっくりすることが、難しいの?」
「何も、しないで、ただ、いる、って、難しい。何かを、しなきゃ、って、思ってしまう」
「それが、宇宙人やな」
「そうかもね。でも」
「でも?」
「最近、少し、わかってきた気がする。ただ、いること、の、意味が」
「どういうこと?」
「ただ、いるだけで、誰かが、安心する。玲奈が、いてくれるだけで、僕は、なんか、落ち着く。それが、いることの、意味かと」
玲奈が、少し、黙った。
「あんた、ええこと言うな」
「事実を——」
「ええこと言うって言ったら、ええことやって」
「……ありがとう」
「ふふ。来年も、よろしくな、レオス」
「よろしく」
玲奈が、笑った。それから、ふっと、つぶやいた。
「なんか、来年が来ないかもしれんな」
「え」
「いや、冗談やけど。幽霊やから、いつ、どうなるか、わからんな、って」
「……玲奈」
「でも、来たらええな、来年。みんなで、また、一緒に、新年を、迎えたいな」
「来るよ、来年」
「ほんまに?」
「ほんまに。来る。来年も、ここで、みんなと、いる」
「確信、あるの?」
「……ある。今は、ある」
「今は、か」
「今は、確信がある」
「それで、十分やで」
カウントダウンが、始まった。
テレビの中で、人々が、叫んでいた。
十、九、八、七……
「なんか、ドキドキするな」
「なんで」
「年が、変わるから」
「毎年、変わってるよ」
「でも、こうやって、みんなで、カウントダウンするの、初めてやから」
「そっか」
「三、二、一……」
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
みんなが、言った。
レオスも、言った。
「……あけましておめでとう」
「言えた」
「言えた。なんか、不思議な言葉だね。去年まで、良かった、今年も、よろしく、って、一緒に言う」
「そういうものやで」
「……いいな、それ」
「いいやろ」
「うん。来年、また、言えるといいな」
「来年も、言えるよ」
「……そうね」
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(第34話へ続く)
カウントダウンが終わって、少し経った。
「なあ」
玲奈が、言った。
「去年、この時間、何してたっけ」
「去年の大晦日?」
「うん」
「去年は、まだ、レオスに、会ってなかったな」
「そうやな。去年の今頃、あたし、山にいたんや」
「山で、年越しを、してたんだね」
「してたな。一人で。音もなく、ただ、時間だけが変わって」
「……寂しかった?」
「寂しい、って感じるのも、難しかったかな。何かを感じるのが、薄くなってたから」
「今は?」
「今は、全部、感じる。うるさいくらい」
「うるさい?」
「うん。楽しいとか、嬉しいとか、美味しいとか。全部、ちゃんと、来るから」
「それは、いいこと?」
「ええことやで。全部、ちゃんと、感じられるのが、ええ」
「……そっか」
「あんたも、感じるようになってきたやろ」
「うん。少しずつ」
「どんなん、感じてる?」
「……楽しいとか、悲しいとか、まだ、名前がうまくつかないけど。でも、何かが、ある」
「名前がつかなくても、ええねん」
「そう?」
「そう。感じてたら、それで、ええねん。名前は、あとからつくから」
「……そっか」
「うん。感じることを、やめんといて」
「……やめない」
健太が、あくびを、した。
「眠いですね」
「そうやな。新年早々、眠い」
「でも、起きてます。元旦の、朝日が見たいから」
「朝日、見えるんですか、ここから」
「近所の、小さい丘から、見えますよ。行きませんか」
「行く行く」
「寒いけど」
「寒くても、行く」
「美咲は?」
「……行く」
「レオスは?」
「……行く」
「じゃあ、みんなで」
夜が、明けていく。
四人は、丘へ、向かった。
冷たい、空気の中、歩いた。
地平線が、少しずつ、赤くなってきた。
「あ」
玲奈が、言った。
「来た」
太陽が、昇ってきた。
オレンジ色の、光が、広がった。
玲奈が、黙って、見ていた。
「……きれい」
「きれいだね」
「今年も、きれいやな」
「今年も、って、去年も、見たの?」
「去年は、山から、見てた。一人で。同じ太陽なのに、今年は、違うな」
「何が違うの?」
「一人じゃないから」
「……うん」
「来年も、見よな」
「見よう」
「約束な」
「……約束」
その夜、こたつで。
「なあ」
玲奈が、言った。
「ん?」
「最近、毎日、ええな、って思いながら、寝てる」
「ええな、って?」
「今日も、ええ一日やった、って。そう思いながら、眠れるのが、ええなって」
「そっか」
「あんたは、そういうこと、思う?」
「……最近、少し、思う」
「何が、ええの?」
「……わからないけど。なんか、ある。ええな、っていう感覚が」
「それでええ。わからんでも、感じてたら、ええから」
「……うん」
「おやすみ、レオス」
「おやすみ」
翌朝、また、玲奈が、言った。
「なあ、レオス」
「ん?」
「今日も、ええ天気やな」
「そうだね」
「こういう日は、外、出たくなる」
「出よう」
「バイトあるけど」
「バイトの前に、少し」
「……行こう」
「あんた、最近、誘ったら、すぐ来るな」
「来てもいいでしょ」
「ええよ。嬉しいから」
「……そっか」
第33話「大晦日」、いかがでしたでしょうか。
大晦日というのは、
何とも不思議な日です。
昨日と今日で、
人間そのものが変わるわけでもない。
時計が一つ進むだけ。
なのに、
「今年が終わる」
「来年が始まる」
と言うだけで、少し特別になる。
玲奈にとっては、
その「来年」が二十年ぶりに、
ちゃんと自分の前にある。
去年は山で一人。
今年は、みんなと一緒。
同じ太陽でも、
見る場所と隣にいる人が違えば、
見え方は変わる。
そしてレオスも、
少しずつ変わってきました。
「ただ、いること」に意味を見つけ、
「楽しい」と言えるようになり、
「一緒にいたい」と言えるようになった。
最初は、
地球を調査するために来た宇宙人。
今では、
地球の大晦日にこたつで座っている。
……だいぶ馴染みました。
もはや調査員というより、
ただのこたつ要員です。
そんな冗談を言えるくらい、
四人の日常が積み重なってきました。
でも、玲奈の二十年前の死。
レオスの任務。
まだ終わっていないこともあります。
それでも今は、
「来年も一緒にいる」という約束がある。
それだけで十分なのかもしれません。
そして次回は、
いよいよ新しい年へ。
四人の物語は、
まだまだ続きます。




