↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/40

第33話「大晦日」

第33話「大晦日」です。


大晦日といえば、年越しそば。

紅白。

カウントダウン。

そして、「来年もよろしく」。


人間にとっては毎年やってくる、

ごく普通の年越しです。


ところが今回は、

宇宙人と幽霊がいる。


「なぜ紅と白なんですか?」

「なぜ縁起がいいんですか?」

「そもそも福って何ですか?」


大晦日にまで理屈をこねるレオス。


一方の玲奈は、

二十年ぶりに誰かと年を越します。


笑って、

食べて、

話して、

「来年も一緒にいたい」と言える。


そんな四人の大晦日。


そして最後には、

一年の始まりを告げる朝日が待っています。


今年最後の一話、

どうぞゆっくりお楽しみください。

 大晦日。


 よろずやに、年越しそばが、出た。


「いらっしゃいませ。今年も、ありがとうございました」


 玲奈が、言った。


「こちらこそ」


 富田さんが、来た。


「年越しそば、いいわね。毎年、コンビニで買ってたけど、ここで食べようかしら」


「どうぞ、どうぞ」


「ここで食べれるの?」


「テーブル、一個だけやけど。どうぞ、座ってください」


「ありがとう」


 富田さんが、座った。そばを、食べながら、言った。


「今年、ここに来てよかったわ」


「そうですか」


「うん。玲奈ちゃんに、また会えたし。松本くんも、草野くんも、田村くんも、みんな、いい子やし」


「ええ子ばかりですよね、ほんまに」


「玲奈ちゃんが、集めてくるんやろうけど」


「集めてないですよ」


「集めてるって。人を、引き付けるから」


「富田さんも、よく言いますね、それ」


「だって、本当のことやもん」


 そばの、湯気が、上がっていた。


 玲奈が、見ていた。


「富田さん」


「ん?」


「来年も、来てください」


「来るよ、もちろん」


「毎年、来てください」


「来るわよ」


「毎年、来てくれたら、嬉しいです」


「……玲奈ちゃん」


「ん?」


「あなたも、来年も、ここにいてね」


「……います。いるつもりです」


「いるつもり、か」


「幽霊やから、確信は、持てないけど」


「まあ、そうね。でも、いてほしいわ」


「いたいです、あたしも」


 夜。


 よろずやが、閉まった。


 五人と、店長で、大晦日を、過ごした。草野も、田村も、松本も、来てくれた。


 テレビで、紅白が、流れていた。


「これ、紅白?」


 玲奈が、聞いた。


「そうですよ。毎年、大晦日に、やってますよ」


「知ってる。でも、二十年ぶりやから。なんか、変わった?」


「変わりましたよ。出てる人とか、ルールとか」


「そっか。でも、雰囲気は、一緒やな」


「一緒ですね」


「よかった。変わってたら、淋しかったから」


「変わらないものも、ありますよ」


「ええな、それ」


 レオスが、テレビを、見ていた。


「これ、なぜ、紅と、白に、分かれてるの」


「伝統です」


「伝統って、最初に、誰かが、決めたんでしょ。なぜ、紅と、白なの」


「なんか、めでたい色、らしいですよ」


「めでたい色、って、意味は、何」


「縁起がいいって感じで」


「縁起、って、何」


「なんか……福を呼ぶ、みたいな」


「福って、何」


「ええことが、起きること」


「なぜ、色で、福が、決まるの」


「レオス、そこから、考えるんや」


「……大晦日は、そういう話を、するものじゃないの?」


「大晦日は、ゆっくりするねん」


「ゆっくり、か。難しいな」


「ゆっくりすることが、難しいの?」


「何も、しないで、ただ、いる、って、難しい。何かを、しなきゃ、って、思ってしまう」


「それが、宇宙人やな」


「そうかもね。でも」


「でも?」


「最近、少し、わかってきた気がする。ただ、いること、の、意味が」


「どういうこと?」


「ただ、いるだけで、誰かが、安心する。玲奈が、いてくれるだけで、僕は、なんか、落ち着く。それが、いることの、意味かと」


 玲奈が、少し、黙った。


「あんた、ええこと言うな」


「事実を——」


「ええこと言うって言ったら、ええことやって」


「……ありがとう」


「ふふ。来年も、よろしくな、レオス」


「よろしく」


 玲奈が、笑った。それから、ふっと、つぶやいた。


「なんか、来年が来ないかもしれんな」


「え」


「いや、冗談やけど。幽霊やから、いつ、どうなるか、わからんな、って」


「……玲奈」


「でも、来たらええな、来年。みんなで、また、一緒に、新年を、迎えたいな」


「来るよ、来年」


「ほんまに?」


「ほんまに。来る。来年も、ここで、みんなと、いる」


「確信、あるの?」


「……ある。今は、ある」


「今は、か」


「今は、確信がある」


「それで、十分やで」


 カウントダウンが、始まった。


 テレビの中で、人々が、叫んでいた。


 十、九、八、七……


「なんか、ドキドキするな」


「なんで」


「年が、変わるから」


「毎年、変わってるよ」


「でも、こうやって、みんなで、カウントダウンするの、初めてやから」


「そっか」


「三、二、一……」


「あけましておめでとう」


「あけましておめでとうございます」


「あけましておめでとうございます」


 みんなが、言った。


 レオスも、言った。


「……あけましておめでとう」


「言えた」


「言えた。なんか、不思議な言葉だね。去年まで、良かった、今年も、よろしく、って、一緒に言う」


「そういうものやで」


「……いいな、それ」


「いいやろ」


「うん。来年、また、言えるといいな」


「来年も、言えるよ」


「……そうね」


---


(第34話へ続く)

 カウントダウンが終わって、少し経った。


「なあ」


 玲奈が、言った。


「去年、この時間、何してたっけ」


「去年の大晦日?」


「うん」


「去年は、まだ、レオスに、会ってなかったな」


「そうやな。去年の今頃、あたし、山にいたんや」


「山で、年越しを、してたんだね」


「してたな。一人で。音もなく、ただ、時間だけが変わって」


「……寂しかった?」


「寂しい、って感じるのも、難しかったかな。何かを感じるのが、薄くなってたから」


「今は?」


「今は、全部、感じる。うるさいくらい」


「うるさい?」


「うん。楽しいとか、嬉しいとか、美味しいとか。全部、ちゃんと、来るから」


「それは、いいこと?」


「ええことやで。全部、ちゃんと、感じられるのが、ええ」


「……そっか」


「あんたも、感じるようになってきたやろ」


「うん。少しずつ」


「どんなん、感じてる?」


「……楽しいとか、悲しいとか、まだ、名前がうまくつかないけど。でも、何かが、ある」


「名前がつかなくても、ええねん」


「そう?」


「そう。感じてたら、それで、ええねん。名前は、あとからつくから」


「……そっか」


「うん。感じることを、やめんといて」


「……やめない」


 健太が、あくびを、した。


「眠いですね」


「そうやな。新年早々、眠い」


「でも、起きてます。元旦の、朝日が見たいから」


「朝日、見えるんですか、ここから」


「近所の、小さい丘から、見えますよ。行きませんか」


「行く行く」


「寒いけど」


「寒くても、行く」


「美咲は?」


「……行く」


「レオスは?」


「……行く」


「じゃあ、みんなで」


 夜が、明けていく。


 四人は、丘へ、向かった。


 冷たい、空気の中、歩いた。


 地平線が、少しずつ、赤くなってきた。


「あ」


 玲奈が、言った。


「来た」


 太陽が、昇ってきた。


 オレンジ色の、光が、広がった。


 玲奈が、黙って、見ていた。


「……きれい」


「きれいだね」


「今年も、きれいやな」


「今年も、って、去年も、見たの?」


「去年は、山から、見てた。一人で。同じ太陽なのに、今年は、違うな」


「何が違うの?」


「一人じゃないから」


「……うん」


「来年も、見よな」


「見よう」


「約束な」


「……約束」



 その夜、こたつで。


「なあ」


 玲奈が、言った。


「ん?」


「最近、毎日、ええな、って思いながら、寝てる」


「ええな、って?」


「今日も、ええ一日やった、って。そう思いながら、眠れるのが、ええなって」


「そっか」


「あんたは、そういうこと、思う?」


「……最近、少し、思う」


「何が、ええの?」


「……わからないけど。なんか、ある。ええな、っていう感覚が」


「それでええ。わからんでも、感じてたら、ええから」


「……うん」


「おやすみ、レオス」


「おやすみ」



 翌朝、また、玲奈が、言った。


「なあ、レオス」


「ん?」


「今日も、ええ天気やな」


「そうだね」


「こういう日は、外、出たくなる」


「出よう」


「バイトあるけど」


「バイトの前に、少し」


「……行こう」


「あんた、最近、誘ったら、すぐ来るな」


「来てもいいでしょ」


「ええよ。嬉しいから」


「……そっか」


第33話「大晦日」、いかがでしたでしょうか。


大晦日というのは、

何とも不思議な日です。


昨日と今日で、

人間そのものが変わるわけでもない。


時計が一つ進むだけ。


なのに、

「今年が終わる」

「来年が始まる」

と言うだけで、少し特別になる。


玲奈にとっては、

その「来年」が二十年ぶりに、

ちゃんと自分の前にある。


去年は山で一人。


今年は、みんなと一緒。


同じ太陽でも、

見る場所と隣にいる人が違えば、

見え方は変わる。


そしてレオスも、

少しずつ変わってきました。


「ただ、いること」に意味を見つけ、

「楽しい」と言えるようになり、

「一緒にいたい」と言えるようになった。


最初は、

地球を調査するために来た宇宙人。


今では、

地球の大晦日にこたつで座っている。


……だいぶ馴染みました。


もはや調査員というより、

ただのこたつ要員です。


そんな冗談を言えるくらい、

四人の日常が積み重なってきました。


でも、玲奈の二十年前の死。

レオスの任務。

まだ終わっていないこともあります。


それでも今は、

「来年も一緒にいる」という約束がある。


それだけで十分なのかもしれません。


そして次回は、

いよいよ新しい年へ。


四人の物語は、

まだまだ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。