第32話「年越し準備」
第32話「年越し準備」です。
今年も、もうすぐ終わり。
玲奈にとっては、
二十年ぶりに「来年」を考えられる年末です。
健太は警察官を目指し、
美咲は就活を始める。
そしてレオスは、
「来年も一緒にいたい」と言えるようになりました。
クリスマスを越えて、
さらに素直になっていくレオス。
そして玲奈自身も、
二十年分の過去と向き合おうとしています。
年越しを前に、
四人が交わす約束。
今回も、ゆっくり楽しんでください。
十二月の終わり。
「もうすぐ、年が、変わるな」
玲奈が、言った。
「そうだね」
「去年の年越し、山にいたな」
「二十年、ずっと、山にいたんだね」
「ずっと。でも、今年は、違う」
「違うね」
「年越しそば、食べたい」
「食べよう」
「年越しそば、ってあるやろ、大晦日に食べるやつ」
「知ってるよ」
「あたし、好きやってん。細くて、長いから、長生きできる、みたいな意味があって」
「あるね、そういう意味が」
「長生き、か。あたし、長生きできんかったけど」
「……でも、長くなってるじゃないか、今」
「今は?」
「二十年分、延びてる、とも、言えるんじゃないか」
「……そうかな」
「そうだよ。今年も、元気だったから」
「元気、か。幽霊やのに」
「幽霊でも、元気だよ」
「……そっかな。まあ、そっかな」
よろずやで、年越し準備が、進んでいた。
店長が、特別なメニューを、考えていた。
「年越しそば、やろか」
「やりますか」
「うん。うちで、年越しそば、出したら、喜んでくれそうやし」
「いいですね。具は、何にしますか」
「かまぼこと、天ぷらと、ねぎかな。シンプルが、一番」
「そうですね」
「玲奈ちゃん、そば、好きやって言うてたし」
「言ってましたね」
「一番、うまいと思うものを、出したいわな、やっぱり」
「店長、ええこと言いますね」
「ええこと、ちゃうで。当たり前のことやで」
夜。
四人が、こたつで、話していた。
「来年、どうする?」
玲奈が、聞いた。
「どうするって、何を?」
「何でも。健太は、採用試験やな」
「はい。来年、受けます」
「頑張り」
「頑張ります。美咲は?」
「うち?」
「うん。来年、どうする?」
「……就活、始める」
「ええやん」
「やりたいこと、まだわからんけど。でも、動かな、わからんままやから」
「そうやな。動いたら、見えてくるもん、あるから」
「そう思ってる」
「レオスは?」
みんなが、レオスを、見た。
「来年、どうするの?」
レオスが、少し、黙った。
「……考え中」
「考え中、か」
「うん。色々、あって」
「色々って、何?」
「……任務のこと、とか」
「任務?」
「母星の、こと。いつかは、戻らなきゃ、いけない、とか、そういう」
「あ、そっか。あんた、移住先探しに来てたんやったな。忘れてた」
「忘れてたんだ」
「忘れてた。普通に、一緒におったから」
「……そっか」
「でも、来年も、ここにいて」
「……いるよ」
「ほんまに?」
「……今のところ、いる予定だよ」
「今のところ、か」
「……うん」
「ええよ、それで。今のところ、おったら、ええから」
「……わかった」
「来年も、みんなで、年越しそば食べよな」
「食べよう」
「来年も、こたつで、みかん食べよな」
「食べよう」
「来年も、よろずや、みんなで行こな」
「行こう」
「……全部、即答やな」
「全部、答えは出てるから」
「ええやん、それ」
「うん」
玲奈が、少し、黙った。
「なんか、こういう話、できるのが、嬉しいわ」
「こういう話?」
「来年のこと。山にいた時、来年なんて、考えられへんかったから。来年も、ここにいられるか、わからんかったから」
「今は?」
「今は、来年も、一緒にいたい、って思える。それが、嬉しい」
「……僕も、そう思う」
「レオスも?」
「うん。来年も、一緒にいたい、って、思う」
「それ、素直やな」
「年末やから」
「年末やったら、素直になるの?」
「……なるのかもしれない。クリスマスに続いて」
「イベントごとに、素直になるんやな」
「……そうかもしれない」
「かわいいな」
「かわいくないよ」
「かわいいって」
「……まあ、いいんだけど」
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(第33話へ続く)
よろずやで、年越しの準備が進む中。
草野と田村が、大掃除をしていた。
「年末って、なんで、掃除するんですかね」
田村が、言った。
「知らないですけど。習慣じゃないですか」
「習慣ですかね。でも、やりたくなりますよね、なんか」
「なりますね」
「これが、年末の、空気なのかな」
「空気、ですかね」
玲奈が、通りかかった。
「なんの話してるの?」
「なんで、年末に、掃除したくなるか、の話です」
「あー。なんか、新しい年を、きれいな状態で、迎えたいからやない?」
「そういうことですか」
「知らんけど。でも、そんな感じがする。去年のものを、ちゃんと、片付けて、新しく始めたい感じ」
「玲奈さんも、そう思いますか」
「思う。でも、あたしは、二十年分、たまってるから」
「二十年分、片付けるんですか」
「無理やけど。少しずつでも、片付けていけたら、ええな、と思って」
「片付けるって、どういうこと?」
「自分の死のこと、とか。なんで、死んだか、とか。それを、ちゃんと、知って、整理して。それが、あたしの、年末大掃除やな」
「……玲奈さん、かっこいいですね」
「かっこよくないって」
「かっこいいですよ。そういうこと、ちゃんと考えてるから」
「まあ、考えてるだけで、まだ、何もできてへんけど」
「でも、考えてることが、大事やと思います」
「ありがとな、田村くん」
「いえ。来年も、よろしくお願いします、玲奈さん」
「こちらこそ、よろしく」
レオスが、頭の中で、言った。
「玲奈」
「ん?」
「田村、成長したな」
「したやろ。ほんまに」
「最初、クレームつけに来てたのに」
「来てたな。でも、今は、あんな話ができるように、なった」
「玲奈の、影響だよ」
「あたしは、何もしてへんって」
「してるよ。データで見たら、明らかに——」
「データで見んでええって」
「……でも、してる。それは、確かだよ」
「……ありがとな、レオス」
「どういたしまして」
「また、どういたしまして、って言えた」
「……言えるようになってきた」
「成長やな」
「……うん。成長したかもしれない」
「したって。もう、かも、はいらんで」
「……した」
「それでええ」
夜、こたつで。
「なあ、来年、旅行、行きたいな」
「旅行?」
「うん。あたし、行ったことない場所、多いから。沖縄とか、北海道とか」
「行けますかね、幽霊が」
「行けるやろ。体は、レオスのやから、普通に、乗れるやろし」
「……そっか。行けるかもしれないね」
「レオス、行きたい?」
「……行ってみたい。この星の、色んな場所を、見てみたい」
「調査員やもんな、一応」
「一応じゃないよ」
「でも、調査より、観光が目的になりそうやな」
「……そうかもしれない。でも、それでも、いいと思ってきた」
「成長やな」
「……成長したかも」
「した、やって」
「……した」
「そっちやで」
「……うん。来年、色々、行ってみよう」
「約束やで」
「約束」
「あんた、約束、増えてきたな」
「増えてきた。でも、守りたいから、できる約束しか、しないようにしてる」
「ええな、それ。守れる約束だけする」
「うん」
「ほんまに、成長したな」
「……うん。成長した」
「かも、がなくなった」
「なくなった」
「ええやん」
翌朝、また、玲奈が、言った。
「なあ、レオス」
「ん?」
「今日も、ええ天気やな」
「そうだね」
「こういう日は、外、出たくなる」
「出よう」
「バイトあるけど」
「バイトの前に、少し」
「……行こう」
「あんた、最近、誘ったら、すぐ来るな」
「来てもいいでしょ」
「ええよ。嬉しいから」
「……そっか」
よろずやへの道。
「なあ、今年、終わるな」
「終わるね」
「あっという間やったな」
「そう?」
「そう。レオスに会ってから、もう、一年近く経つやろ」
「そうだね。君に、憑かれてから」
「憑かれたっていうな」
「……会ってから」
「そっちやで。でも、早かったな」
「早かった。色々、あった気がするけど」
「色々あったな。コンビニ行って、住民票取りに行って、バイト始めて、夏祭り行って、カラオケ行って」
「山にも、行ったね」
「行ったな。図書館も」
「新聞も、調べたね」
「調べた。富田さんとも、仲良くなって」
「なったね」
「色々あったな、ほんまに」
「でも、来年も、続くよ」
「続くよな」
「続く」
「約束やで」
「……約束。来年も、一緒にいる」
「それで、十分や」
第32話「年越し準備」、いかがでしたでしょうか。
この一年を振り返る玲奈とレオス。
コンビニに行って、
住民票を取りに行って、
バイトを始めて、
夏祭りに行って、
カラオケに行って。
一つ一つは、
特別ではない出来事かもしれません。
でも、二十年間を山で過ごした玲奈にとっては、
どれも大切な時間だったのだと思います。
そしてレオスも、
いつの間にか「任務」だけではなく、
この場所での生活を考えるようになりました。
「来年も、一緒にいる」
それだけの約束が、
二人にとっては大きな意味を持っています。
一方で、玲奈にはまだ、
二十年前の死という問題が残っています。
大掃除をするように、
少しずつ過去を整理していく。
その先に何があるのか。
そして、レオスはいつまで地球にいられるのか。
来年は、
四人にとってどんな一年になるのでしょうか。
まずは、今年最後の日まで。
四人の時間を、
もう少し見届けていただければと思います。




