第31話「クリスマス」
第31話「クリスマス」です。
今回は、玲奈にとって二十年ぶりのクリスマス。
これまでケーキを「売る側」だった玲奈が、
今回はみんなと一緒に「食べる側」になります。
宇宙人、幽霊、大学生二人。
普通なら絶対に揃わない四人のクリスマス。
そしてレオスが初めて、自分から「楽しかった」と口にします。
少しずつ変わっていくレオスと、
そんな彼を自然に受け入れていく玲奈たち。
今回も、四人らしいクリスマスを楽しんでください。
「クリスマス、どうする?」
玲奈が、言った。
「どうする、って」
「何か、しようよ。ケーキとか、食べよ」
「ケーキ、買ってきますか」
「買ってきて。いちごのやつ」
「いちごのショートケーキですね。わかりました」
健太が、ケーキを、買ってきた。
白いクリームに、いちご。小さな、クリスマスツリーの、飾りが、刺さっていた。
「わあ」
玲奈が、言った。
「かわいい」
「ですね」
「こういうの、毎年、あったよな。コンビニに」
「今も、ありますよ」
「変わらんなあ」
「変わらないものですね、ケーキは」
「ええことやな」
四人で、テーブルを、囲んだ。
「いただきます」
「いただきます」
レオスが、ケーキを、見た。
「この、白いクリーム、何でできてるの」
「生クリームですよ」
「生クリームって、何から」
「牛乳の、脂肪分を、泡立てたもの、ですね」
「牛乳から、こんな、白い固形物に、なるの?」
「なるんです」
「……面白いな、地球の食文化」
「面白いですか」
「うん。同じ原料から、全然違うものが、できる。チーズも、バターも、生クリームも、全部、牛乳から」
「そうですね」
「効率、いいな」
「ケーキ食べながら、効率の話しないで」
「……まあ、うまいよ」
「素直に、うまい、って言えたやん」
「うまいから、うまい、と言った」
「それでええ」
玲奈が、いちごを、食べた。
「うまい」
「うまいですよね、いちご」
「こんなに、うまかったっけ、いちご」
「うまいですよ。毎年、食べてます」
「毎年か。あたし、何年分か、食べてへんかったから」
「そうですね。二十年分」
「二十年分の、いちご。今日、全部、食べようかな」
「一個ずつですよ、さすがに」
「わかってる。でも、うまいな、って、思いながら食べたら、二十年分の気持ちに、なるかな、と思って」
「……なりますかね」
「なるかも。今日の、一個のいちごが、二十年分の、うまさやと思えば」
「……そう思えば、そうかもしれないですね」
玲奈が、もう一個、いちごを、食べた。
「なんか、思うんやけど」
「ん?」
「もし、生きてたら、こんな感じで、クリスマス、過ごしてたんかな」
「どんな感じで」
「みんなで、ケーキ食べて、わいわい言って」
「そうやったんじゃないですか、たぶん」
「そうかな。でも、こんなに、ええメンバーと、過ごせてたかどうかは、わからんな」
「ええメンバー、ですか」
「うん。宇宙人と、幽霊と、大学生二人で、クリスマス。こういうの、生きてたら、なかったやろな」
「まあ、確かに」
「だから、これは、これで、ええクリスマスやな」
「ですね」
「レオスは?」
「ん?」
「クリスマス、どう思う?」
「クリスマスの、概念は、データとして知ってるけど」
「初めて?」
「人間と、過ごすのは、初めて」
「どう?」
「……悪くない」
「また、悪くない」
「……ええと思う」
「ええと思う、って言えた」
「……うん。ええと思う」
「成長したな」
「してないよ」
「してるって」
「……まあ、いいんだけど」
美咲が、ケーキを、もう一切れ、取った。
「うち、甘いもの、好きじゃないけど」
「食べてるやん」
「クリスマスやから」
「クリスマスやったら、食べるんや」
「クリスマスは、特別やから」
「ええやん、それ。特別な日に、食べる理由ができる」
「そういうこと」
「美咲、ケーキ、うまい?」
「うまい」
「素直やん」
「クリスマスやから」
「クリスマスやったら、素直になるんや」
「なる」
「レオス、聞いた?」
「聞いた。クリスマスは、素直になる日らしい」
「らしいやなくて、なるねん」
「……そっか。じゃあ、僕も、素直に言う」
「何を?」
「……今日、楽しかった」
みんなが、黙った。
「言えた」
「……言えた」
「初めて、それ、自分から、言った気がする」
「……うん。言ってみたかった」
「クリスマスやから?」
「……クリスマスやから」
「ええやん、それ」
「……うん。ええと思う」
ケーキの、いちごが、一個、残っていた。
「誰が食べる?」
「玲奈さん」
「あたし?」
「二十年分やから」
「……ありがとな」
玲奈が、最後のいちごを、食べた。
うまかった。
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(第32話へ続く)
ケーキを食べ終わった後。
「なあ、クリスマス、何か、したいことあった?」
健太が、聞いた。
「クリスマスに、したいこと?」
「うん。生きてた時、クリスマス、何してたんですか」
「えーと。コンビニで、働いてた。クリスマスって、コンビニ、忙しいから」
「そっか。働いてたんですね」
「うん。でも、好きやってん、クリスマスのシフト。みんな、ちょっと、嬉しそうな顔して、来てくれるから」
「嬉しそうな顔で、コンビニに来るんですか」
「そうやで。クリスマスケーキ買いに来る人とか、シャンパン買いに来る人とか。なんか、みんな、楽しそうで」
「そっか」
「今日は、こっち側やから。なんか、新鮮やわ」
「どっち側?」
「買う側。いつもは、売る側やったから」
「そっか。どっちが、楽しいですか」
「どっちも、ええな。売る方も、もらった笑顔が、嬉しかったし。買う方も、みんなと、一緒に食べれるのが、嬉しいし」
「玲奈さんは、どこでも、楽しめるんですね」
「そうかな」
「そうだと思います。どこにいても、楽しそうやから」
「あたし、楽しいことを、探すのが、好きやから」
「どこにでも、楽しいことがあるんですね」
「あるよ。探したら、どこでも、あるから」
美咲が、ウーロン茶を、飲みながら、言った。
「玲奈って、なんか、前向きやな」
「そうかな」
「そう。こんな状況で、こんなに、前向きになれるの、普通じゃないと思う」
「こんな状況って、幽霊やし、宇宙人と体共有してるし、ってこと?」
「そう」
「まあ、なるようにしかならんから」
「それが、言えるのが、すごいんやって」
「美咲、あんたも、前向きやで」
「うちは、前向きじゃない。現実的なだけ」
「現実的に、前向きでいられるのが、すごいねん」
「……そうかな」
「そうやって」
レオスが、言った。
「玲奈は、楽しいことを、探す、って言ってたけど」
「うん」
「それ、教えてもらえる?」
「楽しいことの、探し方?」
「うん。僕には、まだ、うまくできないから」
「あんた、楽しいこと、あるやん。スラムダンクとか、みそ汁とか、よろずやとか」
「あるけど、探し方が、わからなくて。気づいたら、楽しかった、っていう感じやから」
「それが、探し方やで」
「え?」
「気づいたら楽しかった、が、正解や。探そうと思って、探すんやなくて。やってみたら、楽しかった。それの、繰り返しや」
「やってみたら、楽しかった」
「そう。あんたも、やってるやん。スラムダンク、読んでみたら、楽しかった。みそ汁、飲んでみたら、うまかった。それが、楽しいことの、見つけ方や」
「……そっか」
「わかった?」
「……わかった気がする」
「ええやん。じゃあ、来年も、色々、やってみよ」
「うん。やってみる」
「約束やで」
「……約束」
その夜、こたつで。
「なあ」
玲奈が、言った。
「ん?」
「最近、毎日、ええな、って思いながら、寝てる」
「ええな、って?」
「今日も、ええ一日やった、って。そう思いながら、眠れるのが、ええなって」
「そっか」
「あんたは、そういうこと、思う?」
「……最近、少し、思う」
「何が、ええの?」
「……わからないけど。なんか、ある。ええな、っていう感覚が」
「それでええ。わからんでも、感じてたら、ええから」
「……うん」
「おやすみ、レオス」
「おやすみ」
翌朝、また、玲奈が、言った。
「なあ、レオス」
「ん?」
「今日も、ええ天気やな」
「そうだね」
「こういう日は、外、出たくなる」
「出よう」
「バイトあるけど」
「バイトの前に、少し」
「……行こう」
「あんた、最近、誘ったら、すぐ来るな」
「来てもいいでしょ」
「ええよ。嬉しいから」
「……そっか」
第31話「クリスマス」、いかがでしたでしょうか。
玲奈にとっては、二十年ぶりのクリスマス。
でも、二十年前とは違います。
今回は、一人ではありません。
ケーキがあって、
いちごがあって、
こたつがあって、
一緒に食べる人がいる。
そして何より、
「今日、楽しかった」と言ってくれるレオスがいる。
この物語を書き始めた頃のレオスなら、
「楽しい」という感覚そのものを
データとして分析していたかもしれません。
それが今では、
自分から「言ってみたかった」と言えるようになりました。
玲奈が言った、
「楽しいことを探すんやなくて、やってみたら楽しかった」
これは、レオスだけじゃなく、
この物語そのものにも通じる言葉なのかもしれません。
来年も、四人で。
そんな約束が、
何気なく交わされる夜でした。




