↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/41

第27話「秋の夜長」

秋は、夜が長い。


静かな夜ほど、人は余計なことを考える。


玲奈は、死んでいる。

レオスは、少しずつ人間になっている。


そして四人は、何でもない毎日を「大事な時間」だと思い始めていた。


けれど――


「ずっと、一緒にいる」


その約束は、誰にも分からない未来に向けたものだった。


第27話「秋の夜長」


何も起きない夜ほど、

大切な何かが、静かに動き始める。

 秋が、深まった。


 夜が、長くなった。バイトの帰り道、もう暗かった。


「なあ、レオス」


「ん?」


「最近、夜、長くなってきたな」


「秋分を過ぎたから。日が、短くなってる」


「そっか。あたし、これ、毎年、感じてた気がするわ。生きてた時」


「感じてたんだ」


「うん。秋になると、なんか、気持ちが、落ち着く感じがして。夏の、騒がしさが、落ち着いて。なんか、一人になる感じが、した」


「今は?」


「今も、少し、そういう気持ちがする。でも、一人じゃないから、違うな」


「違うか」


「うん。去年、この時期、どこにいたか、覚えてる?」


「去年、この時期、君に、会う前だよ。宇宙に、いた」


「そっか。去年のこの時期、あたしは、山にいた」


「一年、経ったね」


「経ったな。早いな」


「早い?」


「早い。充実してると、早い。山にいた時、時間が、遅かった。何もないから」


「充実の逆は、時間が遅い」


「そうやな。あんた、今、時間、どう感じる?」


「……早い、気がする」


「珍しいな」


「うん。最近、早いと思う」


「それが、充実してる証拠やで」


「そうか」


「そうやで」


 よろずやの、帰り道。


 田村が、一緒に、歩いていた。


「あの、玲奈さん」


「ん?」


「この辺、心霊スポット、あるって、聞いたんですけど」


「ああ。あの山」


「怖くないですか」


「怖くないよ」


「なんで」


「そこに、いたから」


「え?」


「二十年、あの山に、いたから」


「……玲奈さんが?」


「うん。あたし、あそこの幽霊やったから」


「……そっすか」


「そっすか、って、驚かないの?」


「まあ、玲奈さん、宇宙人の体を借りてる幽霊やって、最初から、聞いてたから」


「そっか。慣れたんやな」


「慣れましたね。なんか、普通に、なってきました」


「普通、か。嬉しいな、そういうの」


「嬉しいですか」


「うん。普通、って、一番、ええことやと思うから」


「普通が、ええんですか」


「そう。特別なものより、普通のものの方が、続くから。普通の毎日が、続くのが、一番、ええねん」


「……なるほど」


「田村くん、バイト、続けてくれてるよね」


「はい。案外、楽しくて」


「よかった」


「最初、クレームつけに来た時、まさか、ここで、働くとは思わなかったですけど」


「縁やな」


「縁ですね」


「縁って、不思議やろ。怒って来たのに、今は、一緒に、歩いてるんやから」


「不思議ですよね」


「でも、そういうこと、あるよ。人生って」


「……玲奈さん、もう一回、人生、やってるんですよね」


「まあ、そうやな。変な感じやけど」


「変じゃないですよ。なんか、ええと思います」


「ありがとな」


 田村が、先に、曲がり角を、曲がって、行った。


「ええ子やな、田村くん」


「最初と、全然、違うね」


「玲奈の、おかげでしょ」


「あたしは、何も、してへんで」


「してるよ。君が、いることで、変わってる」


「……そうかな」


「そうだよ。データで見ても、君に、関わった人は、状態が、良くなってる」


「データで、見んでええって」


「でも、事実だよ」


「……ありがとな」


 家に、着いた。


 玲奈が、空を、見た。


 星が、出ていた。秋の、星。


「なあ、レオス」


「ん?」


「あたし、死んでるんやな」


「……うん」


「こうやって、歩いて、話して、ご飯食べて、仕事して。でも、死んでる」


「そうだね」


「変やな」


「変だね」


「でも、まあ、ええか」


「ええの?」


「うん。死んでても、今は、ここにいるから。それで、ええかな、って」


「……そっか」


「あんたと、一緒に、いられるから」


「……うん」


「あんたと、一緒に、いられる間は、ええわ」


 レオスは、何も、言えなかった。


 「あんたと、一緒に、いられる間は」。


 その言葉の、意味を、考えた。


 いられる間、は、有限だ。


 いつか、終わる。


 それが、怖かった。


「なあ、レオス」


「ん?」


「こういうこと、健太たちには、言えへんな。なんか、重くなるから」


「僕には、言えるの?」


「同じ体やから。重くならない」


「そうか」


「あんただから、言える」


 レオスは、その言葉を、記録した。


 あんただから、言える。


 その意味を、理解するのに、少し、時間がかかった。


 でも、理解した時、何かが、胸の中で、動いた気がした。


 名前のない、何かが。


---


(第28話へ続く)

 翌日。よろずやで。


 松本が、帳簿を、持ってきた。


「玲奈さん、見てもらえますか。先月の、収支」


「あたし、数字、あんまりわからんけど」


「大丈夫です。確認するのは、これが合ってるかどうか、だけなので」


「どういうこと」


「この数字を、店長に、渡す前に、玲奈さんに、一回、見てほしくて。店長、数字、わからないから。玲奈さんが、わかってたら、間違ってた時に、気づけると思って」


「あたし、店員やけどな」


「でも、責任感が、ありそうやから」


「……ありがとな」


「いえ」


「じゃあ、見方、教えて」


「はい。まず、ここが——」


 松本が、丁寧に、説明した。


 玲奈が、聞いた。


 レオスが、頭の中で、見ていた。


「……玲奈」


「ん?」


「松本、君を、信頼してるね」


「そうかな」


「そうだよ。責任のある仕事を、頼んでいる。それは、信頼の証拠だよ」


「でも、あたし、数字、わからんのに」


「数字じゃなくて、君を、信頼してる。そういうことだよ」


「……そっか」


「また、人が、君に、引き寄せられてる」


「引き寄せてへんよ」


「引き寄せてるよ。データで見ても」


「データで見んでええって」


「……でも、事実だよ」


 玲奈は、少し、黙った。


「なあ、レオス。あたし、ここに、いていいと思う?」


「どういう意味?」


「死んでるのに、バイトして、みんなと仲良くなって。それって、ええのかな、って、たまに思う」


「いいと思うよ」


「根拠は?」


「みんなが、喜んでるから。松本も、田村も、草野も、富田さんも、健太も、美咲も。君がいることで、状態が良くなってる。それが、根拠だよ」


「……データで見ると、ええんか」


「データで見ても、感情で見ても、ええと思う」


「感情でも、見れるようになったんやな」


「少しだけ」


「十分やで」


「……そっか」


「うん。そっか、やで」


「……まあ、いいんだけど」


「秋やな、今日も」


「そうだね」


「秋が終わったら、冬か」


「そうなるね」


「冬も、一緒にいような」


「……一緒にいる」


「来年の春も、一緒にいような」


「……いる」


「あんた、今日、即答やな」


「即答で、いいでしょ」


「ええよ。嬉しい」


「……嬉しいと思ってもらえると、僕も、何か、感じる」


「何を感じる?」


「……名前が、まだわからない。でも、悪くない感じ」


「それが、嬉しいってことやで、たぶん」


「……そうかもしれない」



 夜。こたつで。


「なあ、みんな」


 玲奈が、言った。


「ん?」


「最近、思うねんけど。こういう時間が、一番、ええな」


「こういう時間って?」


「こうやって、みんなで、こたつで、ご飯食べて、くだらない話して。何でもない時間」


「くだらない、か」


「くだらないけど、大事な時間。二十年、こういうのが、なかったから」


「今は、あるね」


「あるな。ありがたいわ」


「ありがたい、って、珍しいな、その言葉」


「珍しい?」


「なんか、玲奈さんらしくない、というか」


「そうかな。でも、ほんまに、そう思うから」


「……そっか」


 美咲が、言った。


「玲奈、一個、聞いていい?」


「なんでも」


「ここに、ずっと、いたい?」


「……いたい」


「いつまで、いられるかは、わからんけど」


「わからんけど、いたい」


「……そっか」


「美咲は?」


「あたしは?」


「うん。玲奈が、ここに、ずっといることを、どう思う?」


「……そうなってほしい、と思う」


「ほんまに?」


「ほんまに。あんたがいる方が、面白いから」


「面白い、か」


「面白いっていうか。まあ、そういうこと」


「美咲、素直やな」


「素直じゃない」


「素直やって」


「……まあ、ええわ」


 健太が、言った。


「俺も、ずっとここに、いてほしいです」


「健太、ありがとな」


「いえ。レオスさんは?」


「……ずっと、一緒にいる」


「そっか」


「即答やん」


「即答でいいでしょ」


「ええよ。嬉しいわ」


「嬉しいなら、よかった」


「あんた、本当に、変わったな」


「変わってない」


「変わってるって」


「……まあ、いいんだけど」


 四人が、笑った。


 秋の夜。こたつの温かさ。


 こういう夜が、ずっと続けばいい、とみんなが思った。


 声には出さなかったけど、全員が、思っていた。


第27話「秋の夜長」を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、物語の中でも少し珍しい「何も起きない回」でした。


玲奈が笑って、レオスが少し素直になって、健太や美咲、田村や松本とも自然に繋がっていく。


事件が起きなくても、物語はちゃんと進んでいます。


むしろ、こういう何気ない時間があるからこそ、この先に起こる出来事が意味を持つのだと思います。


「ずっと一緒にいよう」


この言葉を、四人は口にしました。


でも、この物語では――

「ずっと」が本当にずっとなのか。


そこだけは、まだ誰にも分かりません。


秋の夜長。


少しだけ、登場人物たちと一緒に、

何でもない時間を過ごしていただけたら嬉しいです。


次回も、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。