第25話「警察」
第25話「警察」。
玲奈の「死」を、初めて正面から調べる話です。
二十年前の行方不明事件。
事故だったのか。
それとも、誰かが関わっていたのか。
まだ、玲奈自身の記憶は戻っていません。
そんな中、健太が口にした「警察官になりたい」という言葉。
玲奈との出会いが、健太の未来まで動かし始めます。
そしてレオスもまた、少しずつ変わっていく。
「分析」では説明できないものを、
少しずつ覚え始めた宇宙人。
今回も、四人の日常の中に、
物語の核心へつながる小さな変化を入れています。
それでは、第25話「警察」をどうぞ。
「警察、行った方がいいと思う」
健太が、言った。
よろずやの、休憩室。四人で、昼ごはんを、食べていた。
「警察って、何で」
「玲奈さんの、死のこと。二十年前の、行方不明事件として、まだ、未解決やと思うから。今からでも、相談したら、何か、わかるかもしれない」
「でも、あたし、今、生きてる、わけやないしな」
「いや、そこが、難しいんですけど。でも、玲奈さんの死が、事故じゃないかもしれないなら、正式に、調べてもらった方が」
「難しいな」
美咲が、言った。
「警察に行くとして、何を、どう話すの。幽霊が、宇宙人の体を借りて、バイトしてます、二十年前に死にました、って」
「……そう言うと、確かに、難しいな」
「難しいどころじゃないでしょ」
「でも、玲奈さんの、行方不明届は、出てるはずやから。その続きとして、情報提供、みたいな形で」
「情報提供、か」
「うん。玲奈さんが、どこにいたか、知っている人間として、話を、聞かせることは、できるんじゃないかと」
レオスが、言った。
「健太の、発想は、合理的だよ」
「そうですかね」
「うん。ただ、リスクもある。玲奈の、現状を、どこかで、公的に、認識されることになるから。今の、生活が、変わる可能性が、ある」
「……そっか」
「玲奈は、どう思う?」
玲奈が、少し、黙った。
「知りたいとは、思う。でも、今の生活が、変わるのは、怖いな」
「怖い?」
「うん。今、みんなと、こうやって、いられるのが、好きやから。それが、変わるのが、怖い」
「変わらない、かもしれないよ」
「変わるかも、しれない」
「……そうだね。わからない」
四人が、少し、黙った。
「あの、一個、聞いていいですか」
健太が、玲奈に、言った。
「なんでも」
「玲奈さんって、自分の死が、事故じゃなかった、って思う?」
玲奈が、また、少し、黙った。
「……わからん。でも、何か、あった気がする。山で、声が、したって言ったやろ。知ってる声」
「うん」
「あれが、誰かの声やったとしたら。知ってる誰かの声やったとしたら。事故、じゃないかもしれん」
「……そうか」
「でも、確証は、ない。記憶が、あいまいやから」
「それを、確かめたい、ですよね」
「確かめたい。でも、確かめた後の、ことも、考えてしまう」
「確かめた後のこと?」
「うん。もし、誰かが、あたしを、ああいう目に、遭わせたとしたら。その人は、今も、どこかに、いるやろ。それを、知ることが、何につながるのか、わからなくて」
健太が、まっすぐに、玲奈を、見た。
「玲奈さん、俺、警察官に、なりたいと思ってます」
「え、急やな」
「いや、急じゃないんですよ。ずっと、考えてて。玲奈さんの話、聞いてる中で。誰かを、守れる人間に、なりたいと思って」
「健太」
「玲奈さんみたいな人を、ちゃんと、守れる仕組みが、あったら、よかった、と思って。二十年前、そういう人が、いたら、よかったな、って」
「……健太、あんた」
「ちゃんとした動機じゃない、かもしれないですけど」
「ちゃんとした動機やって」
「そうですか」
「そうやで。あたし、嬉しいわ」
「……ありがとうございます」
「ありがとは、こっちや」
美咲が、ウーロン茶を、一口、飲んだ。
「健太、珍しく、ちゃんとしたこと、言うたな」
「珍しく、って、つけますか」
「つける」
「……まあ、いいですよ」
「たまにはいい」
「たまに、か」
「たまにやろ」
「たまにです」
レオスが、言った。
「玲奈」
「ん?」
「警察の件、今すぐ、決めなくていいよ」
「うん」
「でも、健太が、動いてくれている。それは、覚えといて」
「覚えてる。ちゃんと、覚えてる」
「……よかった」
「レオス、あんた、今、優しいな」
「優しくない。状況を、整理しただけ」
「優しいって」
「……まあ、いいんだけど」
その日の、帰り道。
健太が、美咲に、言った。
「俺、本気で、考えてますよ。警察官」
「うん、知ってる」
「知ってたんですか」
「なんとなく。玲奈さんのこと、調べ始めた頃から、そっちに、向かってる気がしてた」
「……そうですか」
「健太、悪くないよ、それ」
「……ありがとうございます」
「お礼はいい。ちゃんと、考えて、動き」
「はい」
美咲が、少し、前を、見て、言った。
「玲奈が、幸せそうやから、よかったと思ってる。あたしは」
「美咲さん」
「それだけ」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいって」
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(第26話へ続く)
その夜、健太のアパートに帰って。
「なあ、健太」
玲奈が、言った。
「はい」
「さっき、警察官になりたい、って言ってたやろ」
「はい」
「本気?」
「本気です」
「そっか。……なんか、急な感じがして、ちゃんと聞いてへんかったけど」
「急じゃないんですよ。ずっと、なんとなく、考えてて」
「ずっと?」
「玲奈さんに、会う前から、なんか、はっきりしない感じが、してたんです。将来のこと。何がしたいか、わからなくて。でも、玲奈さんの話、聞いてるうちに、なんか、守りたいな、って思って」
「守りたい、って、あたしを?」
「玲奈さんだけじゃなくて。玲奈さんみたいに、何か、ひどいことに、巻き込まれた人を、ちゃんと、調べてもらえる仕組みを、作る側に、いたい、って」
「健太、あんた」
「大げさかな」
「大げさじゃないよ」
「でも、試験、難しいですよね。勉強しなきゃいけないし」
「できるよ」
「そうですかね」
「できる。あたし、思うねんけど、健太みたいな人が、警察官になるべきやと思う」
「なんで」
「優しいから。でも、ちゃんと、怒れるから」
「俺、そんなに、怒れないですけど」
「でも、あたしのことで、怒ってくれてるやろ。心の中で」
「……そうかもしれないです」
「それで、十分や」
美咲が、横から、言った。
「健太、採用試験、いつから受けられるの」
「来年、四年生になってから、ですかね」
「じゃあ、今年中に、勉強始めな」
「そうですね」
「計画、立てて、動き。なんとなくじゃ、落ちるから」
「……美咲さん、応援してくれてるんですか」
「応援してない。現実的なことを、言ってるだけ」
「同じやろ」
「同じじゃない」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいって」
玲奈が、笑った。
「美咲、素直じゃないな」
「素直じゃない」
「でも、ええやん。美咲らしくて」
「……まあ」
レオスが、ぼそっと、言った。
「健太」
「はい」
「警察官、なれるよ」
「……根拠、ありますか」
「君は、玲奈のことを、ほっておけなかった。最初から。そういう人間が、人を守る仕事に、向いてないわけがない」
健太が、少し、黙った。
「……ありがとうございます」
「まあ、いいんだけど」
「レオスさんにまで、言ってもらえるとは、思わなかったです」
「データで、判断してるだけだよ」
「それでも、ありがとうございます」
「……どういたしまして」
また、朝になった。
よろずやへ、向かう道。
「なあ、レオス」
「ん?」
「昨日、健太が、警察官になりたいって言ったやろ」
「言ってたね」
「なんか、嬉しかったわ」
「なんで?」
「あたしのことが、きっかけやったから。あたしの死のことが、健太の将来を、動かしたって思うと、なんか、悪くないな、と思って」
「悪くない、か」
「うん。あたし、死んで、二十年、山にいて。何もなかったと思ってたけど。こうやって、誰かの、人生に、影響できてるなら、おってよかったな、と思う」
「……玲奈」
「ん?」
「君は、山にいる間も、誰かに、影響を与えてたよ」
「え?」
「富田さんが、来てくれてるやろ。二十年前の、玲奈のことを、覚えてて。玲奈を探してた」
「それは……」
「玲奈が、死んでからも、誰かの記憶の中に、いたんだよ。それは、影響を与えてたってことだと思う」
「……そっか」
「そうだよ。だから、山にいた二十年も、無駄じゃなかった。たぶん」
「たぶん、ってつくの?」
「……確証はないから。でも、そう思う」
「あんた、ええこと言うな」
「分析を——」
「ええこと言うって言ったら、ええことやって」
「……ありがとう」
「素直やん」
「朝だから」
「朝で素直になるの?」
「なるかもしれない。最近、朝と夜で、違う気がする」
「どう違う?」
「朝の方が、素直になれる気がする。夜は、色々、考えすぎるから」
「人間みたいやな」
「人間みたいかもしれない」
「成長やで」
「……まあ、いいんだけど」
第25話「警察」、いかがでしたでしょうか。
今回は、玲奈の二十年前の死について、
初めて「警察」という具体的な方向へ動き始めました。
そして健太が、自分の将来について、
「警察官になりたい」と決め始めます。
玲奈の過去が、ただ過去として終わるのではなく、
今を生きる人間の未来まで変えていく。
そこを今回の大きなテーマにしました。
一方で、レオスもかなり変わってきました。
最初は何でも「データ」で説明していたレオスが、
今では玲奈の言葉を受け止め、
自分なりの答えを返すようになっています。
「人間みたい」と言われることも、
少しずつ否定しなくなってきました。
玲奈の死の真相。
健太の未来。
そして、レオスの変化。
それぞれが、少しずつ一本の線につながり始めています。
次回からも、日常の中にある小さな違和感を大切にしながら、
物語を進めていきます。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第26話も、よろしくお願いします。




