第19話「クレーム」
♪さてさて、お立ち合い。
今日も「宇宙人が幽霊に取り憑かれるコメディ小説」
**『第十九話 クレーム』**のお時間でございます。
世の中、生きておりますと、
文句の一つも言いたくなる日がございます。
腹が立つ日もある。
行き場のない気持ちを、
つい誰かへ向けてしまう日もある。
けれども――。
その怒りの向こう側に、
「助けて」が隠れていることも、
世の中には、ございます。
本日のお話は、
コンビニによろずやへ、
難癖つけにやって来た二人のお客。
ところが、帰る頃には、
なぜやら仕事まで決まってしまうという、
笑っていいのか、驚けばいいのか。
そんな、不思議な一席。
どうぞ最後まで、
ごゆるりと、お付き合い願います。
その日、最初の、難癖は、若者だった。
二十歳くらいの、男。フードを、かぶって、レジに、唐揚げを、ドンと、置いた。
「これ、ぬるいんやけど」
「あ、すみません。あたためますか」
「いや、最初から、ぬるいのが、おかしいやろ。出来たてちゃうんかい」
「うちの唐揚げ、人気やからな。回転速いはずやけど。ごめんな、これ、外れの時間やったかも」
「外れって、何やねん。金、払ってんねんぞ」
「そやな。お金、払ってくれてるもんな。ありがとな」
「……は?」
「いや、ほんまに。若い子が、うちの唐揚げ、選んでくれて。嬉しいなって」
「いや、文句、言うてんねんけど」
「うん。聞いてる聞いてる。でもな、温かいの、すぐ揚げるわ。三分、待てる?」
「……まあ、待てるけど」
「ありがと。あ、待ってる間、これどうぞ」
フランクフルトを、渡した。
「さっき、整理してたら、一個、余ってん。食べる?」
「……いる」
若者は、フランクフルトを、もぐもぐ食べながら、待っていた。
その様子を、健太と美咲が、棚の陰から、見ていた。
「……なあ、健太」
「うん」
「あいつ、クレームつけに来たんよな」
「うん。来た」
「なんで今、フランクフルト、もらって、待っとんの」
「わからん」
唐揚げが、揚がった。
「はい、お待たせ。熱いから、気いつけてな」
「……あの」
「ん?」
「さっきは、悪かった。バイト、クビになって、なんか、イライラしてて」
「あらら。それは、しんどいな」
「うん。次、見つからんし。親には、言えへんし」
「そっか」
玲奈が、少し、考えた。
「ちょっと、待っといて」
「え?」
玲奈が、バックヤードへ、歩いていった。
一分後、店長が、出てきた。
「あ、どうも」
店長が、若者に、言った。
「この子が、話してたよ。バイト、探してるって」
「え、いや、俺、クレームに来ただけで」
「まあ、座って」
店長が、椅子を、持ってきた。
「面接、する?」
「え、ちょっ、俺、そういうつもりじゃ——」
「君、唐揚げ、好き?」
「……好きですけど」
「うちの唐揚げ、どう思った? 本音で」
「……ぬるかったです」
「正直やね。ええと思うよ、それ」
「はあ」
「うちはね、正直な人が、来てくれたら、嬉しいの。で、君、今、どういう状況なの。バイト、クビになったって」
「……まあ、色々あって」
「色々って、何」
「あの、前の店で、SNSに、愚痴、書いたら、バレて」
「ふうん。愚痴、書きたいくらい、しんどかったんや」
「……まあ」
「そっか。うちは、愚痴、書いてもいいよ。ただ、店の名前は、書かんといて」
「……え」
「ストレス、溜まるの、わかるから。書くなとは、言えん。でも、名前だけは、困るから。それだけ」
「……はあ」
「来れる? 明日から」
「……え、採用ですか」
「採用」
「面接、三分くらいしか、してないですよ」
「十分や。君、ちゃんと、謝れるし、正直やし、うちの唐揚げ、ちゃんと、食べてくれてる。それで、十分や」
若者は、しばらく、黙っていた。
「……来ます」
「ええ、よかった。明日から、よろしくな」
店長が、バックヤードに、戻った。
若者が、呆然と、立っていた。
「……なんか、採用された」
「よかったやん」
玲奈が、笑った。
「よかった、って。俺、クレームに来ただけやのに」
「来てくれたから、ええねん。また、明日ね」
若者が、まだ、呆然としたまま、出ていった。
健太と美咲が、出てきた。
「……玲奈さん」
「ん?」
「今、何、起きました?」
「クレームの子が、採用された」
「なんで」
「しんどそうやったから」
「それだけで、採用されるんですか」
「店長が、ええ人やから」
「……まあ、そうですね」
昼過ぎ。
二人目が、来た。
中年の、男だった。スーツが、よれている。疲れた顔。レジに、おにぎりを、置いて、言った。
「このおにぎり、シール、剥がれかけとるやろ。こんなん、売り物か」
「あ、ほんまや。すみません」
その時、レオスが、口を、開いた。
「データによれば、シール剥がれは、製造から十二時間以上経過した商品に多く見られます。本商品の品質には問題ありません。ご指摘は——」
「な、なんやと」
「レオス、黙り」
玲奈が、止めた。
「すみません。こいつ、変わってて」
「変わってる、とは、何だ。事実を——」
「ええから、黙っとき」
玲奈が、男に、向き直った。
「お客さん、昔から、このへん、おられるんですか」
「ああ。もう、二十年、住んどる」
「えー、大先輩や。色々、教えてほしいわ」
「……おにぎりの話、しとったやろ」
「あ、そやそや。替えますね。あの、お客さん、顔、疲れてはりますね。お仕事、大変ですか」
「……まあ、な。最近、リストラだの、なんだの。家でも、会社でも、居場所が、なくてな」
「そっか」
玲奈が、少し、考えた。
「ちょっと、待っといて」
「え?」
また、バックヤードに、消えた。
一分後、店長が、また、出てきた。
健太と美咲が、また、棚の陰から、見ていた。
「……また、店長、出てきた」
「また、出てきたな」
「また、採用される流れ?」
「……なるんちゃうかな」
「なるな、絶対」
店長が、男に、言った。
「座って」
「え、なんで」
「まあ、座って」
男が、なぜか、座った。
「君、今、仕事、どういう状況なの」
「いや、俺、おにぎりのクレームに——」
「それは、聞いた。仕事は」
「……まあ、リストラで」
「そっか。何の、仕事してたの」
「経理です」
「経理か。数字、強いんや」
「まあ、そこそこ」
「うちね、経理、適当にやってて。数字、苦手で。ちょっと、困ってたんや」
「……はあ」
「手伝ってもらえる?。週に、二日くらいで、ええから」
「……え」
「給料、多くは、出せへんけど。居場所くらいには、なると思うよ」
男が、固まった。
「居場所、って、さっき、言ってたやろ」
「……聞いてたんですか」
「聞こえてたから」
男は、しばらく、黙っていた。
「……来ます」
「ええ、よかった。また、明日ね」
店長が、また、バックヤードに、戻った。
男が、呆然と、立っていた。
「……なんか、採用された」
「よかったやん」
「よかった、って。俺、クレームに来ただけやのに」
「来てくれたから、ええねん」
男が、出ていった。来た時より、ずっと、軽い、足取りで。
健太と美咲が、出てきた。
「……玲奈さん」
「ん?」
「また、採用されました」
「そやな」
「今日、よろずや、何人、増えたんですか」
「二人」
「なんで」
「しんどそうやったから」
「……まあ」
美咲が、少し、呆れた顔で、言った。
「いい店やな、ここ」
「やろ」
「うん。なんか、変な店やけど、いい店や」
レオスが、言った。
「玲奈」
「ん?」
「今日の対応は、非効率だったが」
「うん」
「結果として、人材が、二名、確保された。しかも、コスト、ほぼゼロで。経営的に、合理的だ」
「お。褒めてる?」
「分析を、述べた」
「褒めてるやん」
「……まあ、いいんだけど」
店長が、のんびりと、出てきた。
「今日、ええ出会い、あったな」
「ほんまですね」
「うちはね、人が、来るべき時に、来るんだよ。難癖つけて、来る人も、そう。来るべき時に、来てくれてる」
「深いですね」
「深くないよ。ただ、そう思ってるだけ」
店長が、また、奥に、消えた。
玲奈が、笑った。
「ええ店やな、ここ」
「さっき、美咲も、言ってましたよ」
「やろ」
♪これにて、
『第十九話 クレーム』、
まずは一段、お開きにいたします。
怒鳴る人にも、
怒鳴るだけの理由がある。
誰にも見えない荷物を、
背負って歩いている人がいる。
玲奈は、
その荷物を下ろさせることは出来ません。
けれど、
「おかえり」と言える場所を、
ひとつ増やすことは出来る。
それが、
この物語の「よろずや」でございます。
さて次回は、
どんな人が店の扉を開け、
どんな出会いが待っておりますことやら。
続きは、また次のお話にて。
ちょうど時間となりました。
またのお目通りを願い上げまして、
これにて、失礼つかまつります。




