第14話「図書館」
みなさん、おおきに。
人間いうもんは、不思議なもんでしてな。
昨日まで気にもしてへんことが、
急に気になり出したら、
もう寝ても覚めても、そのことばっかり。
「あれ、どこ行ったんやろ」
「なんで、ああなったんやろ」
そんな経験、
ひとつやふたつ、
ありますやろ。
今回のお話は、
そんな「知りたい」という気持ちのお話です。
知るいうんは、
嬉しいことばかりやありません。
知らんほうが幸せやった、
そんなことも世の中にはあります。
それでも、人は、
知りたくなる。
それが人間なんでしょうな。
それでは、
『宇宙人、乗っ取られました。』
第14話
「図書館」
どうぞ。
図書館は、静かだった。
当然だった。図書館とは、そういう場所だ。
「……広い、な」
玲奈が、言った。
「図書館って、こんなに、広かったっけ」
「まあ、普通じゃないですか」
「昔、あんまり、来なかったから。本、そんなに、読まへんかったし」
「どんな本、読んでましたか」
「漫画は、読んでた。スラムダンクとか」
「あ、スラムダンク。知ってますよ、俺も」
「好き?」
「好きですよ。古いけど、面白くて」
「古い、って、言うな。あたしの時代のやつやぞ」
「あ、すみません。でも、今でも、面白いですよ、ほんまに」
「ほんまやろ。あれは、ええよな」
「どのキャラが、好きでしたか」
「流川」
「あ、王道」
「王道が、ええねん。美咲は?」
「うちは、宮城」
「あ、宮城、わかる。なんか、地に足ついてる感じで、ええよな」
「そう」
「健太は?」
「俺は、ゴリですね」
「ゴリ!」
「なんか、ゴリが、一番、好きで。チームのこと、考えてるじゃないですか。自分より、チームのことを」
「ゴリか。ええな、ゴリ」
「でも、流川も、わかります。ああいう、天才キャラ、やっぱり、かっこいいし」
「わかる。でも、天才って、なんか、近寄りがたいやん」
「そうですね。その点、宮城は、努力感、あるから」
「美咲と、同じ意見やな」
「俺、美咲さんと、趣味、合いますよ、意外と」
「意外と、って、言うな」
美咲が、ぼそっと、言った。
「すみません」
「まあ、合うのは、そうやけど」
「レオスは」
「データにはある。読んだことはない」
「読んでみ」
「図書館に、あるかな」
「あるやろ」
「……後で、探してみる」
「え、読む気、あるん?」
「せっかく、来たから。それに」
「それに?」
「スラムダンクが、なぜ、そんなに、みんなに、読まれているのか、データでは、わかるけど、体験として、わかりたい、気がして」
「あんた、そういうこと、言えるようになってきたな」
「そうかな」
「最初、来た頃は、もっと、データ、データ、って感じやったもん」
「……変わってきてるのかな、僕も」
「変わってるよ。ええ方向に」
「……まあ、いいんだけど」
「それは、変わってへんな」
「それは、変わらないよ」
健太が、受付に、行った。マイクロフィルムの、場所を、聞いてきた。
「二十年前の、新聞、マイクロフィルムで、見れるみたいです。案内してもらいました」
「マイクロフィルム」
レオスが、言った。
「フィルムに、縮小して、記録する、方式だね。古い技術だよ。デジタル化されてないの?」
「一部は、されてるみたいですけど、二十年前のは、されてないものも、あるみたいで」
「非効率だよ。全部、デジタル化すれば、検索が、楽なのに。フィルムで、一枚ずつ、見ていくの、時間が、かかる」
「まあ、そうなんですけど」
「予算の、問題、かな。それとも、人手の、問題か。どちらにしても、情報資源の、管理として、最適化されてない」
「あんた、図書館でも、文句言うんやな」
「文句じゃないよ。改善提案」
「改善提案は、図書館員に、言って」
「……まあ、いいんだけど」
マイクロフィルムの、機械の前に、座った。健太が、操作した。画面に、昔の、新聞が、映った。
「これで、どのくらい、探すの?」
「玲奈さんが、いなくなったのが、二十年前。季節、わかります?」
「夏、やったと思う。暑かった、記憶が、ある」
「じゃあ、夏の分から」
パラパラと、画面を、送った。日付が、変わっていく。二十年前の、夏。
「……あ」
健太が、止めた。
「見つけました」
小さな、記事だった。地方欄の、隅。
「『山中で、女性が、行方不明』」
みんなが、画面を、見た。
「読みますよ。『○○山付近で、三十代の、女性が、行方不明と、なっています。警察が、捜索を、行いましたが、発見には、至っていません。目撃情報を、お持ちの方は、最寄りの、警察署まで』」
それだけ、だった。
「……短い、な」
玲奈が、言った。
「短いですね」
「これだけ?」
「次の日の、新聞も、見てみます」
健太が、送った。次の日。その次の日。
続報は、なかった。
「……続報、ないね」
「ないですね」
「事故、って、書いてない」
「行方不明、として、しか、書いてないですね」
「事故やったら、もうちょっと、大きく、書かれへんかな。なんで、こんなに、小さい、記事なんやろ」
レオスが、頭の中で、言った。
「玲奈」
「ん?」
「行方不明の、記事は、あった。でも、発見の、記事は、ない」
「そうやな」
「普通、行方不明に、なったら、発見されたか、されなかったか、記事に、なることが、多い。でも、ない」
「どういうこと」
「……わからない。でも、何か、事情が、あって、報道されなかったのか。または、発見されたけど、小さすぎて、見逃したか」
「もっと、探す?」
「探した方が、いいと思う」
健太が、また、送り始めた。秋。冬。その次の年。
何も、なかった。
「……ないですね」
「そっか」
玲奈は、画面を、見ていた。
自分の、行方不明の、記事。七行。たったの、七行。しかも、名前も、出ていなかった。
「名前、出てへんな」
「身元が、判明してなかったのかも。または、遺族が、希望したのか」
「そっか。遺族、いたんや、あたしにも」
「そうだよ。当たり前でしょ」
「当たり前やな。なんか、実感、なかったけど」
玲奈が、少し、黙った。
「親、おったんやな、あたしにも。心配、したやろな」
「……そうだね」
「でも、何も、わからんまま、やったんやろな。行方不明のまま」
「……うん」
「あたし、お母さんのこと、好きやったと思う。顔、思い出せへんけど。なんか、好きやった、気がする」
「……そっか」
「おばあちゃんも、いたし。あ、おばあちゃん、漬物、うまかってん。覚えてる。なんで、漬物、覚えてるんやろ」
「そういうもんじゃないですか」
健太が、言った。
「大事なことより、細かいことの方が、残ってたりするから、記憶って」
「そやな。なんで、漬物は、覚えてて、顔は、思い出せへんのやろ」
「……それが、記憶なんですよ」
「変な話やな」
「変ですけど、なんか、わかります」
部屋が、静かになった。
レオスは、何も、言わなかった。
美咲が、玲奈の、隣に、座った。何も、言わなかった。ただ、隣に、座った。
「あ。ごめん。湿っぽいの、なしや」
玲奈が、笑った。
「次、何、調べよか。他に、手がかり、あるかな」
「富田さんが、警察が、来た、って、言ってましたよね。だから、警察の、記録には、残ってるかもしれない」
「警察には、どうやって、聞くの」
「難しいよね。普通は、教えてもらえないし」
「……一つ、聞いていいですか」
健太が、玲奈に、言った。
「なんでも」
「玲奈さんの、苗字、思い出せませんか。名前と、生年月日が、わかったら、もっと、調べやすいんですけど」
「苗字、か。思い出せへん、な。なんか、ありふれた、苗字やった、気は、するけど」
「山田とか、田中とか」
「……山田、じゃない、と思う。でも、似た、感じの、苗字やった、気がする」
「田中は?」
「う、うーん。ちゃうかな。でも、自信ない」
「難しいですね」
「ほんまに。自分の苗字、わからん、って、変な話やけど」
「二十年は、長いですから」
「長いよな。じゃあ、今のところは、これだけか」
「今のところは。でも、前進しましたよ。行方不明の、記事が、あった。事故じゃなくて、行方不明、として、扱われてた。続報が、ない。この三つが、わかった」
「健太、ちゃんと、まとめるな」
「これくらいは」
「謎解き、好きやから?」
「好きやから」
玲奈が、笑った。
「ありがとな、みんな」
「別に」
美咲が、言った。
「なんで、来たの、美咲は」
「ついてきたかったから」
「理由は、それだけ?」
「それだけ」
「ええやん、それで」
「うん」
帰り道。図書館の、前。夕方の、光の中。
「レオス」
「ん?」
「何か、わかってきた気がする」
「少しだけ、ね」
「うん。少しだけ。でも、前より、わかった」
「そうだね」
「怖くないよ。思ってたより」
「……そう」
「あんたは?」
「僕は」
「怖い? 調べることが」
レオスは、少し、間を、置いた。
「……少し」
「正直やな」
「……うん」
「でも、一緒に、来てくれた」
「来たよ」
「ありがとな」
「……どういたしまして」
玲奈が、笑った。
レオスは、初めて、「どういたしまして」と、言った気がした。
そういう言葉を、使う日が、来るとは、思っていなかった。
最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
図書館いう場所は、
本を読む場所でもありますけど、
昔の時間を探しに行く場所でもあるんでしょうな。
新聞の片隅に、
たった七行。
たった七行やのに、
そこには、
誰かの人生が詰まってる。
玲奈は、
少しだけ前へ進みました。
でも、
まだ答えは見つかってへん。
せやけど、
一緒に探してくれる人がおる。
それだけで、
人は前へ歩けるんやと思います。
次回は、
また少し、
物語が動きます。
ほなまた、
次のお話でお会いしましょう。
おおきに。




