第13話「調べたい」
毎度、おおきに。
人間いうのは、不思議なもんでしてな。
「知らんほうが幸せや」なんて言いながら、気ぃ付いたら、調べてしまう。
押し入れの奥から、古いアルバムが出てきたら、「見たらあかん、見たらあかん」と思いながら、一枚だけ……いや、もう一枚だけ……。
気が付いたら、一時間。
「あれ、何しようとしてたんやったかな」。
そんな経験、ありませんか。
知らんままでおれたら、楽なこともあります。
せやけど、人間いうのは、知りたなる生き物なんでしょうな。
今日のお話も、そんな「知りたい」が、一歩前へ進めるお話でございます。
それでは、第13話「調べたい」。
どうぞ、ごゆっくり。
よろずやの、休憩時間。
バックヤードの、小さな、休憩スペース。四人が、座っていた。
健太が、缶コーヒーを、飲みながら、言った。
「玲奈さんの、死のこと、調べたいんですけど」
玲奈が、おにぎりを、食べながら、止まった。
「急やな」
「急じゃないんですよ。ずっと、思ってたんですけど」
「そっか。なんで」
「なんか、ほっとけなくて」
「ほっとけない、って」
「……うまく、言えないけど。玲奈さんが、自分の死のこと、わかってないのが、なんか、ずっと、気になってて。知りたいなら、手伝いたいな、って」
玲奈が、また、おにぎりを、食べた。
「……ありがとな」
「いえ。で、どうやって、調べたら、いいかな、と思って」
「富田さんに、聞いたら、警察が、山に、入った、って話が、あったやろ」
「そうですよね。だから、警察に、行けるんじゃないかな、って」
「警察に?」
「二十年前の、行方不明の、届け出とか、残ってるかもしれないし」
美咲が、ウーロン茶を、飲みながら、言った。
「行方不明届、って、時効とか、あるの?」
「調べてないけど」
「調べてから、言って」
「まあ、でも、調べてみたら、何か、わかるかもしれない、と思って」
「玲奈は、どう思うの」
美咲が、玲奈に、聞いた。
「知りたい、とは、思う。でも、そこまで、してもらうのが、なんか、悪い気がして」
「悪くないよ」
「でも」
「健太が、やりたいって、言うてるんやから、やらせてあげたら、いいんじゃないの」
「美咲、優しいな」
「優しくない。健太が、うじうじしてるのが、鬱陶しいから、早く、決めてほしいだけ」
「それは、優しくないな」
「そう」
レオスが、言った。
「警察に、行く前に、図書館に、行く方が、いいかもしれない」
「図書館?」
「昔の、新聞が、読める。二十年前の、地方欄に、何か、載ってるかもしれない。行方不明の、記事とか」
「あ、そうか」
「警察は、情報を、公開しないことが、多いから。最初は、図書館の方が、効率的だと、思う」
「レオス、詳しいな」
「調査員だから。情報収集の、手順は、わかる」
「なんか、頼もしいやん」
「頼もしくはないよ。合理的な、順番を、言っただけ」
「頼もしいって」
「……まあ、いいんだけど」
健太が、缶コーヒーを、一口、飲んだ。
「じゃあ、図書館、行こうか」
「次の、休みに、行きましょうか」
「うん。でも、玲奈さんが、嫌なら、別に」
「嫌じゃない。行こ」
「ほんまに?」
「うん。行こ。ありがとな、健太」
「いえ。なんか、こういうの、好きなんですよ。謎解き、みたいな」
「謎解き、好きなの?」
「好きですよ。昔から、推理ドラマ、よく見てたし」
「推理ドラマ。古畑任三郎みたいな?」
「古畑、好きですよ。再放送で、見てました」
「あれ、面白いよな。なんか、最初に、犯人が、わかってて。でも、古畑が、どうやって、追い詰めるか、見るやつ」
「そうそう。あのスタイル、好きで」
「美咲は、好きやった? 古畑」
「まあ、見てた」
「どのエピソードが、好きやった?」
「覚えてない」
「覚えてへんの」
「昔のことだから」
「あたしは、田村正和の回が、好きやったわ。古畑が、もうちょっとで、間違えるやつ。あ、それ、あんたら、わかる?」
「うーん、なんとなくは」
「あたしの時代のドラマやもんな」
「まあ、再放送で」
「再放送か。なんか、再放送、って聞くと、老いた感じするな」
「そんなことないですよ」
「でも、あたしが、リアルタイムで、見てたのが、再放送に、なってるんやもんな」
「まあ、二十年、経ってますから」
「そっか。そっかあ」
玲奈が、少し、遠くを、見た。
「でも、面白かったのは、変わらんよな。古畑は、今でも、面白いやろ」
「面白いですよ、今でも」
「ほな、ええか」
「ええですよ」
レオスが、言った。
「古畑任三郎って、何」
「刑事ドラマ」
「刑事、って、警察の人?」
「そう。でも、変わった、刑事で。犯人が、最初から、わかってるの」
「犯人が、わかってるのに、見るの?」
「どうやって、追い詰めるか、見るんやって」
「……それ、結末が、わかってるのに、見る意味、あるの」
「あるやって」
「でも、驚けないじゃない。犯人が、わかってるなら」
「驚かなくていいんやって。古畑が、どんな手で、きますか、って、楽しみに、見るの」
「……過程が、面白いから、見る、ということ?」
「そう」
「……それは、理解できるかも」
「珍しい」
「結末が、わかっていても、どうやって、そこに、至るか、が、面白い、という感覚は、調査にも、近い気がするから」
「あんた、うまいこと、まとめるな」
「まとめてないよ。素直に、思ったことを、言っただけ」
「それが、まとめるって、言うねん」
「……まあ、いいんだけど」
「あの、話、戻っていいですか」
健太が、言った。
「何の話」
「図書館の、話」
「あ。そっか。古畑に、行ってしもうてた」
「古畑、面白い話ですけどね。でも、図書館の、話、してたんで」
「そうやな。ごめん」
「いえ。で、次の、休みって、いつですか」
「明後日」
「じゃあ、明後日、図書館、行きましょうか」
「行こ」
「玲奈さん、ほんまに、大丈夫ですか。無理してない?」
「無理してへん。知りたい、ってのは、ほんまやから」
「そっか。じゃあ、一緒に、行きましょう」
「うん」
玲奈が、少し、遠くを、見た。
「なんか、やっと、動けそうな、気が、してきた」
「動けそう、って」
「ずっと、山に、おってん。二十年。動けなかった。今も、ちゃんと、動けてるかどうか、わからんけど。でも、なんか、前に、進んでる、気がする」
「進んでますよ。バイトも、してるし」
「そうやな。ガストも、行ったし」
「ガスト、は、どうでもいいですけど」
「どうでもよくない。大事やで、ガストは」
「まあ、大事ですかね」
「大事やって。ドリンクバーの、攻め方、教えてもらったし」
「俺、教えてましたっけ」
「玲奈が、自分で、開拓してたんですよ」
美咲が、言った。
「そっか。まあ、ええわ。どっちにしろ、前に、進んでる、気がする」
「進んでますよ、ちゃんと」
健太が、真顔で、言った。
「……ありがとな、健太」
「いえ」
休憩終了の、時間に、なった。
「じゃあ、次の、休みに、図書館」
「はい。俺、調べておきます。二十年前の、この辺で、行方不明の、事件があったかどうか」
「よろしくな、健太」
「任せてください」
健太が、立ち上がった。なんか、少し、背が、高く、見えた。気のせいかもしれなかった。でも、なんか、そう、見えた。
美咲が、玲奈に、小声で、言った。
「健太、楽しそうやな」
「楽しそうやな」
「謎解き、好きって、言うたよな」
「言うてた」
「……まあ、ええことや」
「うん、ええことや」
「なんか、健太、こういう時、頼りになるな」
「たまに、は」
「たまには、ね」
二人が、くすくす、笑った。
レオスは、二人の、会話を、聞いていた。
図書館。昔の、新聞。二十年前の、記録。
自分が、知っていること。
そこに、近づいていく。
怖い、という感覚が、また、あった。
でも、止めようとは、思わなかった。
玲奈が、知りたい、と言った。
健太が、手伝いたい、と言った。
美咲が、動いた。
だから、一緒に、行く。
それだけだった。
そして、もし、知ったとしても。
玲奈は、きっと、笑うだろう。今みたいに。
それは、まだ、わからないけど。
そうだったら、いいな、と思った。
そうだったら、いい、と思った、ことが、自分でも、驚いた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
調べ物いうのは、不思議なもんですな。
最初は「これだけ知りたい」と思うて始めたのに、一つ分かったら、また一つ知りたなる。
スーパーへ醤油だけ買いに行って、気が付いたら袋いっぱいになってるんと、よう似てます。
「今日はこれだけ」いうてたはずが、「これもいるな」「あ、これ安いやん」。
結局、予定よりようさん買うてしまう。
人間いうのは、寄り道しながら生きてるんでしょうな。
玲奈たちも、きっと寄り道しながら真実へ向かいます。
その寄り道も含めて、この四人らしい旅を楽しんでいただけたら幸いです。
ほな、また次のお話で、お会いしましょう。
おあとが、よろしいようで。




