第12話「噂」
毎度おおきに。
『宇宙人、乗っ取られました。』へようこそ。
少しずつ戻ってくる玲奈の記憶。
少しずつ近づいてくる、二十年前の真実。
今回は、常連の富田さんから語られる「あの日」の噂が、物語を少しだけ前へ進めます。
過去を知ることは、時に希望になり、時に怖さにもなります。
それでも玲奈は、一歩ずつ前へ進もうとします。
そして、そんな玲奈を見守るレオスの心にも、少しずつ変化が生まれ始めています。
それでは、第12話「噂」、どうぞ。
常連の、女性。
名前を、聞いた。
「富田さん、って、言います」
「富田さん。覚えました」
「よろしくね」
それから、富田さんは、週に、三回くらい、来るようになった。お茶を、買って、少し、話して、帰る。
来るたびに、少しずつ、話が、増えた。
「最近、テレビ、見てる?」
「スマホで、見たりしますよ。なんか、色々、見られるんで」
「そうね。私は、やっぱり、テレビで、見たいけど」
「テレビ、好きですか」
「昔から。昔は、テレビ、みんな、同じの、見てたでしょ。次の日、学校や職場で、同じ話題で、しゃべれてたじゃない」
「そうやな。あたしも、コンビニで、次の日、お客さんと、よく、その話、したわ」
「ね。今は、バラバラだから、なかなか、難しくて」
「それは、ちょっと、寂しいですね」
「寂しいのよ。まあ、便利に、なったから、仕方ないけど」
「変わったものと、変わらないもの、ありますよね」
「そうそう。ドリンクバーとか、変わらないじゃない」
「そうなんですよ。先週、ファミレス、行って、感動しました」
「ドリンクバーで、感動するの?」
「二十年ぶりやったから」
「そっか。まあ、あれは、変わらないわね」
今日も、来た。
「最近、どう」
「おかげさまで、バイトも、慣れてきました」
「そう。よかった。お客さんと、話してるの、見てたけど、うまいね」
「ありがとうございます。昔、やってたから」
「そうね。昔のこと、少し、思い出してる?」
「少しずつ。まだ、ぼんやりしてるとこ、多いけど」
富田さんが、少し、間を、置いた。
「あのね、一個、聞いていいかしら」
「どうぞ」
「あなたが、いなくなった時のこと。覚えてる?」
玲奈が、少し、止まった。
「覚えてへんです。気付いたら、山に、おって。何が、あったか、わからなくて」
「そう」
「富田さんは、何か、知ってますか。あの頃の、あたしのこと」
「私が、知ってることは、たいしたことじゃないけど」
「何でも、いいです」
富田さんが、少し、考えた。
「あなたが、来なくなった後。お店の人に、聞いたら、急に、辞めた、って。でも、その後、噂が、出てきて」
「噂」
「山で、事故があった、って。でも、詳しいことは、誰も、知らなくて。警察が、来た、っていう話も、聞いたけど」
「警察」
「うん。山に、入った、って。でも、その後、どうなったか、知らなくて。私も、その頃、引っ越したから」
玲奈は、黙った。
「……そっか」
「ごめんね。大したこと、言えなくて」
「いえ。ありがとうございます。教えてくれて」
「あなた、怖くない? 自分の、死のこと、調べるの」
「怖いかどうか、わからへん。でも、知りたい」
「そっか。そうね」
富田さんが、お茶を、受け取った。
「一つ、言っていいかしら」
「どうぞ」
「あなたが、どう、死んだかは、わからないけど。あなたが、生きてた時、あなたに、会えてよかった。それは、確かだから」
玲奈は、少し、黙った。
「……ありがとうございます」
「じゃあ、また」
富田さんが、出ていった。
店が、少し、静かになった。
レオスが、頭の中で、聞いた。
「玲奈」
「ん?」
「警察が、山に、入った、って」
「聞いた」
「……それ、気になる」
「気になるよな」
「普通の、事故なら、警察が、山に、入るほどじゃない、かもしれない」
「そうやな」
「行方不明として、捜索した、可能性も、あるけど。それ以外の、可能性も」
「それ以外って」
「……わからない。でも、何か、あったのかも」
玲奈は、しばらく、棚を、見ていた。
「レオス」
「ん?」
「あんた、何か、知ってる?」
レオスが、少し、間を、置いた。
「……何を」
「あたしの、死のこと」
「知らないよ。僕は、最近、地球に、来たばかりだから」
「そうやな」
「……何で、そう、思ったの」
「なんとなく。あんた、たまに、何か、知ってるのに、言わんでおこう、って感じが、するから」
レオスは、何も、言わなかった。
「気のせいかな」
「……気のせいだよ」
「そっか」
玲奈は、フェイスアップを、続けた。棚の、商品を、前に、引き出しながら。
レオスは、頭の中で、考えていた。
玲奈には、言っていない。
墜落する前に、調査データで、見たこと。この山の、記録。二十年前の、記録。
まだ、言えない、と思っていた。
なぜ、言えないのか、自分でも、はっきりとは、わからなかった。
玲奈が、傷つく、かもしれないから。
そう思っていた。でも、それだけじゃない、気も、した。
データとして、見た記録は、断片的だった。全部が、わかっているわけじゃない。だから、まだ、言えない。そういう、合理的な、理由も、あった。
でも、それだけでも、なかった。
もう少し、時間が、ほしかった。
この時間が、まだ、続いていてほしかった。
玲奈が、笑っていて。バイトをしていて。富田さんと、話していて。
そういう時間が、続いていてほしかった。
過去が、わかったら、何かが、変わるかもしれない。
それが、怖かった。
怖い、という感覚。それが、レオスの星には、なかった感覚だった。
なのに、今は、ある。
それは、合理的な、判断では、なかった。
「なあ、レオス」
「ん?」
「今日の、お昼、何食べよ」
「……弁当、買ってきたじゃないの」
「食べた」
「もう食べたの? 早くない?」
「お腹、すいてるんやもん」
「……玲奈って、よく食べるね」
「二十年分、食べてるから」
「二十年分、って、毎回、言うけど、計算が、合わないよ。二十年分、食べてたら、おかしいことに、なるよ、体が」
「理屈やなあ、あんたは」
「理屈じゃないよ。事実」
「ええねん。おいしいから、食べる。それだけ」
「……まあ、いいんだけど」
「お昼、何がいい?」
「なんでも」
「なんでも、って、言う人ほど、出したもの、文句言うんやけどな」
「文句、言わないよ、僕は」
「前に、カップラーメン、高いって、言ってたやん」
「それは、原価を、考えると、割に合わないという、指摘であって」
「文句やん」
「……まあ、今は、なんでも、いいよ」
「今は、そっちに、なるんや」
「……なるよ」
「ふふ。じゃあ、コンビニ、行ってくる。何か、買ってくる」
「行ってらっしゃい」
「あ、あんたも、行くやん。一緒の体やから」
「……そうだった」
「ほんまに、たまに、忘れるな、あんた」
「……忘れてないよ」
「忘れてるで」
「忘れてない。ただ、一瞬、玲奈が、別の人みたいに、感じただけ」
玲奈が、止まった。
「別の人みたいに?」
「……なんか、玲奈が、玲奈として、そこに、立ってる感じが、したから。一人で、立ってる感じが」
「でも、あたし、あんたの体やで」
「わかってる。でも、そう、感じた」
玲奈が、少し、黙った。
「……あんた、たまに、変なこと、言うな」
「変じゃないよ。事実を」
「でも、なんか、嬉しい。そう言ってもらえると」
「なんで」
「自分が、ちゃんと、おる感じがするから」
レオスは、何も、言わなかった。
玲奈が、笑った。
「行ってくるわ。おにぎり、何がいい」
「梅で、いいよ」
「それだけ?」
「……ツナマヨも」
「欲張るやん」
「玲奈が、聞いたんだよ」
「そうやな。買ってくる」
玲奈が、笑った。
レオスも、また、少し、笑った気がした。
店長が、レジの奥から、言った。
「二人、仲ええなあ」
「仲良くないですよ」
「仲ええよ。見てたら、わかる」
「そうですか」
「うん。ケンカしてる感じで、仲ええ、っていう、パターン」
「ケンカ、してないですよ」
「そうね。じゃあ、漫才?」
「漫才でも、ないですよ」
「まあ、どっちでも、いいか」
店長が、のんびりと、笑った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
今回は日常の空気を残しながらも、物語の核心へ少し踏み込んだ回になりました。
玲奈は真実を知ろうと前を向き、レオスは真実を知っているからこそ立ち止まっています。
同じ未来を見ているようで、見ている景色は少し違う。
そんな二人の距離感を書いていて、とても印象深い回になりました。
この先、玲奈の過去が少しずつ明らかになっていきます。
日常の温かさと、少しずつ近づく真実。
その両方を大切にしながら物語を進めていきますので、これからも『宇宙人、乗っ取られました。』をよろしくお願いいたします。
それでは、第13話でまたお会いしましょう。




